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「青年革命家ゆたぼん」の成長になぜ感動するのか 父親からの"卒業"の物語が現在進行型で展開

東洋経済オンライン / 2024年9月19日 10時0分

アリーは、学校教育を否定し、ジャングルで生きた知識を学ぶことを推奨する。最初は、土地の開墾や家屋の建築といったインフラ整備が順調に進み、生活が軌道に乗るが、武装した集団が迷い込んできたことで理想郷の崩壊が始まる。

チャーリーは、最終的にアリーの独断が家族の命を危険にさらしていることに気付き、アリーの暴走による被害を最小限に抑える立場におかれることになる。後半は、アリーが自業自得といえるトラブルに巻き込まれ、事実上の「父殺し」が完了する流れになっている(映画では瀕死のアリーとそれを見守る家族を描いて終わるが、原作ではアリーの死後の再出発までが生々しく描かれる)。

初めて父親とは異なる生き方を選び、地獄のようなジャングルからの脱出を図るのだ。チャーリーは、父親を妄信し追従していたが、彼も過ちを犯す一人の人間に過ぎないということを発見したのである。これは通過儀礼の典型でもある。

現代は大人への「通過儀礼」がない時代だ

神話学者のジョーゼフ・キャンベルとジャーナリストのビル・モイヤーズの対談集『神話の力』(飛田茂雄訳、ハヤカワ文庫)で、現代の社会では、「少年」が「おとな」になるという明確な時点が存在しないことが議論に上り、「これは親たる者にとって大問題」と指摘した。

キャンベルは、自身の子ども時代について、実業家の父親から跡継ぎ候補として2カ月ほど一緒に仕事をし、「だめだ、とてもこの仕事はできない」と思ったことを振り返る。そして「人生にはそういうテスト期間がある。自力で飛び上がる前に、どうしても自分をテストしてみる必要があるんでしょう」と述べた(同上)。

通過儀礼は、江戸時代に庶民の間に広がった髪や眉を剃る「元服」が分かりやすいが、共同体の内部の人々が、誕生から死に至るまでの節目で、次なる段階に進んだことを公認する一連のプロセスを指す。通常、分離(以前の状態ではなくなる)→過渡(どっちつかずの状態)→統合(新しい状態)の3段階で構成される。

その場合、この「テスト期間」は、まさに通過儀礼でいうところの過渡にあたるだろう。父親と一緒になってアンチとの闘いに明け暮れていたゆたぼんにとって、この時期こそが「テスト期間」であったのかもしれない。

「テスト期間」についてのモイヤーズとキャンベルのやりとりを見てみよう。

モイヤーズ 昔は神話が、巣立ちの時を知るのを助けてくれたのですね。

キャンベル 神話は物事を公式化して見せてくれます。例えば神話は、ある決まった年齢になったらおまえもおとなになるのだ、と教える。その年齢はまあ標準的なものでしょうーーが、現実的には、個人個人で大きく違います。大器晩成型の人は、あるところまで来るのが他人に比べて遅い。自分がどのあたりにいるのかは、自分で感じるしかない。(同上)

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