80年代女子プロ描く「極悪女王」に思わず流れる涙 人間ドラマとゆりやん達の演技に引き込まれる
東洋経済オンライン / 2024年9月21日 10時0分
物語の前半は、正統派プロレスラーとしての成功に憧れながらもクビ寸前だったダンプ松本が悪役に転身するまでを、貧困家庭でDVを受けていた幼少期から描く。
そして後半では、スターへと駆け上がる長与千種、ライオネス飛鳥ら同期の仲間たちとの確執と闘い、友情のなかに生じる、さまざまな代償や葛藤を抱えながらダンプ松本がヒールとして成り上がっていく様を描く。
同時に、彼女の家族との衝突や、時間を重ねながら少しずつ変化していくその関係性にも踏み込み、ダンプ松本の激動の半生を立体的に映し出している。
80年代を熱狂させた女子プロ
本作が描くのは、自分の夢や目標のために一生懸命に生きる女性たちの姿だ。プロレスのアクションドラマのように思われがちだが、その裏にある人間ドラマが本筋になる。
テレビで毎週生中継されるプロレスは、80年代のエンターテインメントのメインストリームのひとつだった。そこで闘う選手たちは、子どもたちのスターであり、手に汗握る熱戦は大人たちも熱狂させた。
もちろん、当時もドラマや映画、舞台といった娯楽はある。それでも、生身の人間同士が激しくぶつかり合い、血と汗と涙と絶叫が飛び交うプロレスが生み出す熱気や、そこから伝わる気迫のようなものは、社会を熱狂させた。
ひと握りの才能が生き残るプロの世界。その裏には、プロレス試合の体のぶつかり合い以上に激しい、ヒリつくような女性同士の意地とプライドの衝突がある。そして、そこは実力だけの世界ではない。
プロレスは、興行として成功させなければ、団体が存続しない。そのために、テレビ放送には絶大な影響力がある。プロレスの成功に不可欠なのは、スポンサーやテレビ局であり、彼らが求めるのはスターの存在だ。
だからこそ、試合の勝ち負けには政治的な力関係が働くこともあり、選手たちの間にはさまざまな鬱屈や屈折も生まれる。そして、スターは時代とともに移り変わっていく。そこには激情の人間ドラマが渦巻いている。
嫉妬や苦悩、葛藤しかない舞台裏
当時のスターだったジャッキー佐藤を破って、団体のトップに立ったジャガー横田(水野絵梨奈)は、クラッシュ・ギャルズの人気が出てくると自身の立ち位置が危うくなる。団体がクラッシュ・ギャルズをフィーチャーしようとするなか、自分は「かませ犬ではない」と横田が反発するシーンがある。
また、もともと正統派のプロレスラーを目指していた松本香は、同期であり親友の長与千種と研鑽を積んできたが、松本はまったく芽が出ない一方、長与はスターとしてどんどん大きくなっていく。そんななか、ある出来事がきっかけになり、松本はヒールの道を突き進むことになる。
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