企業価値を50年間「略奪」してきた「真犯人」は誰か 「イノベーション衰退」「極端な所得格差」の要因
東洋経済オンライン / 2024年9月25日 11時0分
株式市場は「企業が資金を調達する場所」ではなく、「企業から資金を吸い上げる場所」と化し、持続不可能な「略奪的価値抽出」の仕組みが企業を滅ぼすと指摘する『略奪される企業価値:「株主価値最大化」がイノベーションを衰退させる』(ウィリアム・ラゾニック/ヤン-ソプ・シン著)がこのほど上梓された。本書のポイントを訳者の鈴木正徳氏が解説する。
株式市場は価値抽出の制度である
一般に、株式市場の機能は、企業に資金を供給することだとされている。しかし、アメリカをはじめとする一部の先進国では、企業による株式市場(を通じた株主)への資金供給が、株式市場による企業への資金供給を上回っている。
こうした企業による株主還元の最も有力な手段が、自社株買いである。『略奪される企業価値』の著者、ラゾニックとシンによれば、2018年1月時点でアメリカのS&P500種指数を構成する企業のうち、2008年から2017年まで10年にわたって上場していた466社は、純利益の52.6パーセントに相当する額を自社株買いに、40.6パーセントに相当する額を配当に費やした。
ラゾニックとシンは、強大な力を有する金融関係者が、自社株買いや配当といった株主への分配を通じて、価値創造プロセスに対する自らの貢献度をはるかに上回る価値を企業から抽出するプロセスを(本書の原題でもある)「略奪的価値抽出(Predatory Value Extraction)」と呼んでいる。
2人は、こうした価値創造と価値抽出の極端な不均衡が、アメリカのイノベーションを衰退させ、安定的かつ公平な経済成長を妨げ、ひいては現在の極端な所得格差を招いていると断言する。
略奪的価値抽出を生み出したのは、「内部留保と再投資」から「削減と分配」へという企業の資源配分体制の変化であった。「内部留保と再投資」の体制の下では、経営者が企業の資源配分を決定し、利益と人材を社内に留保することで、競争力のある製品を生み出す生産能力に再投資することが可能であった。
ところが、1970年代から1980年代にかけて、これは「削減と分配」の体制に移行し、経営者は従業員や投資を削減し、企業利益を株主に優先的に分配するようになったのである。
こうした企業の資源配分体制の移行を正当化し、略奪的価値抽出を可能にしたのが、同時期に、主にビジネススクールを通じて流布され、企業は株主のために経営されるべきであるとする、「株主価値最大化」のイデオロギーであった。ラゾニックとシンは、それに基づく現在の株式市場やコーポレートガバナンスのあり方を多面的かつ緻密に分析し、「株主価値最大化」のイデオロギーを徹底的に批判する。
革新的企業の理論
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