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「まるで立民」自民総裁選は政府丸抱え政策ばかり 「民間は疲弊し、国が先頭に立つ」状況なのか

東洋経済オンライン / 2024年9月25日 8時0分

(写真:Bloomberg)

9月23日に立憲民主党代表選挙が行われ、9月27日の自民党総裁選挙と同時期に開催され、それぞれの候補者が政策論議を繰り広げた。自民・立憲民主両党の候補者の声に耳を傾けてみると、こんなところが気になった。

公立学校の充実や給食の無料化、高等教育の奨学金の拡充に言及する候補者は、両党とも多い。教育、保育、医療、介護、福祉といった「公的セクター」で働く人の給料を上げるとも訴えている。そのためには、政府が主導して報酬や公定価格を上げることが必要だ――。

戦略分野の産業への投資を政府が主導して促進するという話も聞こえる。農業従事者を国営で育成すると唱える候補者もいる。

東京一極集中の是正は、両党の候補者ともこぞって提唱しているようにみえる。人が住む場所さえ国の政策で変えようとしているのだろうか。

まるで、「あれもこれも政府が面倒みます」といっているかのようである。

第2次安倍政権から強まった傾向

立憲民主党は、元来の政策志向からしてそう主張するのはまだしも、保守政党たる自民党までもが、政府の関与をことさら強調している。いみじくも、立憲民主党の泉健太代表が、「(自民党の)立憲民主党化がここまで進むのか」と述べたように。

民間は疲弊しており、政府が先頭に立ってこの国を動かさないと将来はないかのような勢いである。はたして、本当に民間が自律的に行動する力は残されていないのだろうか。

こうした傾向は、今に始まったことではない。第2次安倍晋三内閣以降の政策でその傾向が次第に強まっていった。

子ども子育て支援の強化、介護職員の処遇改善、幼児教育無償化、給付型奨学金制度の創設と、長期政権となった安倍内閣の間に、次々と実施されていった。

これらは、わが国の保守層が以前から実現を望んでいたものではない。むしろ、安倍内閣の政権維持のために支持層を保守からリベラルに広げる動きの一環だったとも解せる。

政府が民間に代わって丸抱えで関与するということは、まるで冷戦下の「社会主義国」を想起させる。ただでさえ、日本は、皮肉を込めて「世界で最も成功した社会主義国」と揶揄されたりしているだけに、前述のような両党の候補者の訴えは、政府がどんどん手を広げている印象につながる。

やめるにやめられない落とし穴

本稿で、「政府は政策的な関与をしてはならない」と言いたいわけではない。格差是正など、政府にしかできない施策はある。

しかし、政府が民間に代わって丸抱えで関与することと、政府は制度設計をするが最後は民間の自主的な行動に委ねることとは、似て非なるものである。

その違いを、候補者はわきまえていると信じたいが、政治に過剰に要求する圧力団体が悪乗りして、候補者が当選してその座に就くと引くに引けなくなってしまうことになるかもしれない。その術中にまんまとはまってその過保護な政策をやめるにやめられないなどということになりかねない。

選挙での得票目当てであったとしても、私が当選したら、あれもやります、これもやりますと言い過ぎると禍根を残す。これが杞憂であることを願うばかりである。

政府が民間に代わって丸抱えで関与しても、一時しのぎにしかならない。では、どうすればよいか。

公立学校の充実や高等教育への支援は、それはそれとして的確なテコ入れは必要だ。しかし、それは経済力に拠らず学力に応じて生徒の選択肢が広がる形での充実や支援が必要なのであって、指導力に欠ける教員を温存したり、定員割れをする学校の延命になるようなことになってはいけない。

教育、保育、医療、介護、福祉といった分野を、十把一絡げに「公的セクター」と呼ぶのは不適切だ。なぜなら、医療機関や介護事業者の多くは民間だし、私立学校や私立保育園も多くあるからである。

そこで働く人たちの多くは、公務員ではない。民間の経営主体の自主性を重んじつつ、より少ない国民負担でよりよい質のサービスが提供されるように政府が制度設計をすることが重要で、政府が頭ごなしに(民間の経営者を差し置いて)これらの分野の従事者の給与引き上げを図るべきではない。

人口減少に逆らう「底上げ」よりもすべきこと

東京一極集中の是正は、人々の居住地選択の自由を故意に歪めてまでして達成すべきものではない。そもそも日本の総人口はしばし減少傾向だから、その人口減少に逆らうほどに地域経済を無理に底上げすることを政府はすべきでない。

むしろ、各地域が民間の経営主体の自主性を重んじつつ身の丈に合った経済規模で持続可能にする方策を、全国一律でない形で実施することが求められる。

今後のあるべきわが国の進路は、「社会主義国化」ではない。多くの国民はそれを理解していると思うが、何かと近年では、民間は疲弊していて政府が丸抱えで関与することを求めているかのような節がある。

今こそ、政府の関与の適切な度合いと、民間活力の活かし方について、熟考すべき時だろう。

土居 丈朗:慶應義塾大学 経済学部教授

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