ル・コルビュジエ設計「美しい街」住民たちの苦難 エリートも住まう「緑豊かな都市」の見えざる敵
東洋経済オンライン / 2024年9月29日 11時0分
都市の生活の良い部分と、田園地帯での良い部分を併せ持つ「庭園都市」。ル・コルビュジエが設計したインドのチャンディガールという都市もまさに緑豊かな美しい「庭園都市」だ。しかし、この都市の「喘息・アレルギークリニック」で喘息と呼吸器アレルギー患者を数十年にわたり診療してきたミーヌ・シン医師の元には、アレルギー患者が殺到しているという。
一体、この「美しい街」で何が起こっているのか。元ジャーナリストで医療人類学者のテリーサ・マクフェイル氏が5年もの調査を経て上梓した『アレルギー:私たちの体は世界の激変についていけない』から、チャンディガールという都市の住民が抱える苦難について、一部抜粋・編集のうえ、お届けする。
ル・コルビュジエが設計した「理想郷的な都市」
私がシンに、彼女の地域で何がアレルギーの増加を促進していると思うかと尋ねると、地域環境とインドの生活様式、それぞれの変化による二重の問題を指摘した。全くもって、その事情はありとあらゆる場所で変わらない。違うのは細部だけだ。
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さらに南の、デリーやムンバイやチェンナイでは、どこもかしこもコンクリートで固められて混み合っており、汚染が更に多く、タバコの煙への曝露もより早くから始まるのだと、シンは説明する。
チャンディガールにも大気汚染はあるが、植物も多い─―それゆえ、飛散する花粉の量も多い。その理由の1つは、この都市がどのように設計されたかにあるという。
「この都市はゼロから作られたものです」とシンは説明する。
「インド独立後に建設された都市で、設計したのはル・コルビュジエです。ですから、たくさん木を植えたのですね」。
チャンディガールは「庭園都市」のモデルを使って建設された。これは、激しい工業化への応答として英国で発展したモデルだ。20世紀の始まりに、英国人の都市計画家、エベネザー・ハワードは、都会の生活の最良の部分と田園地帯での農耕生活の最良の部分とを結びつける理想郷的な都市を設計したがっていた。
その庭園都市と呼ばれる存在は、近代的な工場と窮屈な間に合わせの住宅が持つ醜悪さとみなされていたものに対抗すべく、より多くの緑地─―従って、より多くの植物─―を内包することとなる。
チャンディガールでは、エリートの支配階級が豊かな緑に囲まれた家々に住むようになった。街中の大小の通り沿いにも木々が植えられていく。人工的な丘が設計された。それらがもたらした総合的効果が「より緑の多い」都市だった。
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