上杉謙信を越後に縛り付けた「肩書」へのこだわり 「義の武将」は作られたイメージにすぎない
東洋経済オンライン / 2024年11月23日 9時20分
そのためにわざわざ謙信は軍を率いて、三国峠を越え、関東地方にやってきたのです。つまり、謙信は武田と北条の両者と同時に戦う、二正面作戦を行っていたと言えます。
関東管領としての権限を行使することで、謙信は北条攻めの際、北関東の武士たちを中心に兵を募ることができました。第4回の川中島の戦いの前年、謙信は関東へ遠征していますが、その際には関東の武将が集結し10万もの大軍になったと言われています。この軍勢でもって、北条氏の小田原城を取り囲みました。
とはいえ、関東の武将たちは完全に関東管領に恭順していたわけではありません。そのため、さすがの戦上手の謙信であっても小田原城をついに落とすことはありませんでした。
関東の武将たちも、関東管領の謙信が関東平定のために遠征してきたときは、謙信の側につき、また謙信が帰国すると、北条氏によい顔をするというような状態です。なかには佐野昌綱のように5回にわたって、裏切りと寝返りを繰り返した武将もいるほどでした。
結局、謙信は関東の平定もできなければ、北条氏というかつての秩序にはなかった存在を討つこともできなかったのです。その後、北条氏康とは和睦に至っていますから、謙信は関東平定の夢半ばで、現実路線を取らざるを得なくなったというわけです。
また、謙信自身がどのように考えていたかはさておいて、関東管領の肩書を持っていたところで、関東に領土を得ることはできませんでした。関東の武将たちが、関東管領と主従関係を結び、本質的に謙信の支配下に入るというわけではないのです。言うなれば、関東管領はあくまでも関東の武将の兄貴分的な存在に過ぎない。親分と子分というような主従関係ではないということです。
そもそも、世は下剋上の戦国時代です。もはや室町幕府の秩序や肩書は意味をなさない時代に突入していました。戦国の世に「肩書」を本当の意味でありがたがる武将はいなくなっていたのです。
「室町幕府」が示す秩序を信頼した上杉謙信
室町幕府が示す秩序の例で言えば、「天下」という言葉は、幕府がある京都を中心とした畿内の秩序の意味だという説があります。このように天下を室町幕府を中心とした限定的な意味で捉えることで、天下統一を目指した織田信長は、ただ単に上洛することを目指しただけであり、日本全国を統一しようとしたわけではないという指摘がされています。
近年、かつての天才的な戦国武将から、ごく一般的な戦国武将へと、信長のイメージを変えるような話にしばしば接しますが、私はそうではないと考えています。信長が打ち出した「天下布武」とは、やはり日本全国を武力でもって統一するという当時の戦国武将にとっては稀有なビジョンであり、室町幕府の秩序を前提とした畿内を指すのではないのです。
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