家族のケアを担う「まち」を作る北九州の挑戦 あるNPOの活動に若者たちが集まる理由
東洋経済オンライン / 2024年11月29日 13時30分
「ひとりににしない」という抱樸のような考え方をする人たちがいるのなら、自分が家族のすべてを背負わなくてもいいのだと気づいたそうだ。「急に肩の荷が軽くなった気がしました」とAさん。そしてAさん自身は抱樸に就職し、困難を抱える人たちの相談に当たっている。これが家族機能の社会化だと実感するという。
Aさんは、抱樸の互助会で行われる葬儀に参列するのが好きだそうだ。これまで抱樸は、誰でも参加可能な互助グループを作り、日常の交流を行い、仲間が亡くなったときには皆で看取り、葬儀を行ってきた。考えてみれば、これまでは葬儀こそが家族が中心になって行う、しかも人生に不可欠な営みだった。
Aさんは言う。「みんなで看取って、みんなで見送るというのが、筋が通っていると思います。私が知らない人の葬儀でも、担当した職員が、この人はこういういいところもあったけれど、こういう大変さもあったと涙ながらに語るのを見ると、心が温かくなります」。
その人のありのままの姿を語り、皆で悼む。それは素敵な見送り方に思える。
「なんちゃって家族っていいな」
Sさん(34)は、希望のまちのプロジェクトに携わっている職員の一人。やはり両親は不仲で、離婚をした。自分がそれぞれの面倒を見なければならないと思っていたそうだ。大学を卒業後、非正規の仕事を転々とした。うつ状態になっていた頃、居場所づくりの仕事に携わるようになった。
「私たちの世代は、空気を読むのが上手です。親を喜ばせなければいけないと思って生きている。正解をいつも探している。でも、活動の中で(ホームレス状態を経験したことのある)おっちゃんたちとしゃべっていると、自分は自分でいいのだなと感じます。他人だけど悪態をつきつつ心配し合っている姿に、『なんちゃって家族』っていいなと思います」
さらに次のように続ける。
「私たち20代、30代は、見通しのよい未来は描きにくい。希望のまちに関わることで、自分でも社会が変わるきっかけのお手伝いができるのではないかと期待感を持っている人が職員の中に多いように感じます」
奥田さんは、希望のまちプロジェクトのために、YouTubeやシンポジウムでこの活動に関心をもつ作家や思想家、精神科医、ミュージシャン、アーティストなどと討論を重ねてきた。それぞれのジャンルで社会のあり方を問いかけてきた人たちと語り合う。多様な立場の人たちが、このプロジェクトに触発される一方、相互に影響を与えている。
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