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「働きやすい菓子店」が投げかける日本の大問題 従業員は全員女性「ロミ・ユニ」がしていること

東洋経済オンライン / 2024年11月29日 13時0分

めずらしいのは社員、パートにかかわらず全従業員がいがらし代表と年1回、キャリア面談を行うこと。その話し合いの中で働き方を見直す人がいれば、立場を変える人もいる。管理する側は大変だが、できる限り求める働き方を受け入れているからこそ、ロミ・ユニは、女性が働き続けられる会社になっているのだ。

同店で働きたい人の面接も、いがらし代表が行う。大勢と会ってきた経験から、いがらし代表は、時代の変化と変わらなさの両方を体感しているという。

まず女性たちの認識が、大きく変わった。「今は基本、働くのは当たり前。子どもを育てながら、自分も成長したいと言うのですが、それは無理。子どもを産む前に自分の仕事が確立していないと、と思います。子育て中は自分のことなんて考えていられないから、と諭しているんです」。

いがらし代表自身が2010年に出産しており、自身の体験からも「子育てしながらの仕事は、時間の余裕もなくメンタル面も体力面もすごく大変。自分がどう働いて、どのような人生を送りたいか考えることが必要、と思います」と語る。

一方で、働き過ぎの抑制を求める社会の風潮は、職人の世界では必ずしも歓迎できないことも指摘する。

「経営者としてスタッフに求めるとパワハラになってしまいますが、本来職人の仕事は時間給で測れません。私自身もそうですが、特に働き始めてからの数年間、技術を習得するために働き詰めになったからこその今なんです」といがらし代表は力説する。

「みんなが時給で働き方を考えるようになった結果、職人は知識や技術をインプットして能力を伸ばす機会を失っている。材料代が上がっていますし、人件費も上がるこれからは、手仕事のお菓子は高級品になるか、商売として成り立たなくなると思います。フランスでは週35時間労働制が始まった2000年以降、お菓子の質も変わってきたし、手間や時間がかかるお菓子やプチフールなどはずいぶん少なくなったと思います」

「長時間労働で成り立つ世界」はどうなるか

長時間労働は、日本の大きな社会課題である。オフィスワーカーの労働時間が短くなれば、男性も子育てや家事に携われるようになり、少子化問題の改善につながるだろう。女性も仕事を続けやすくなり、2人目、3人目を望めるかもしれない。しかし、その考え方が通用しない世界もある。

賞味期限が短い菓子やパンを毎日作って販売するには、長時間労働が欠かせない。だからこそ、女性が定着するのは難しかったのだが、働き方改革が職人の世界に浸透すれば、今のように手間暇かけて作る菓子類は簡単に手に入らなくなるかもしれない。

ロミ・ユニの場合、イチゴのコンフィチュール「メルシー」が80g950円、フランス・ゲランドの塩を使った「キャラメル・ブルターニュ」80g1050円、イチゴとフランボワーズを組み合わせた「アニヴェルセール」80g950円など決して安くはない。「あと100円安かったら買えるのに」とお客から言われることあるというが、家庭で作るのと同じように手作りした場合、これが適正の価格だ。

いがらし代表の問いは、人が習得する技術の世界すべてに及ぶ。無理のない働き方をあらゆる業界に適用させ、大量生産の画一的な製品または庶民には手が届かない高級品の2択の世界を築くのか、それとも、長時間労働を残しつつ手仕事の製品に手が届く社会を選ぶのか。私たちは今その岐路に立っている。

阿古 真理:作家・生活史研究家

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