「このマンガがすごい!2025」から読み解く"異変" 刊行20年、ベストテンはどう変わってきたか?
東洋経済オンライン / 2024年12月11日 14時0分
多少なりともマンガに興味のある人なら(20年前の話なので年齢によるとは思うが)、ちゃんと読んだことはなくてもタイトルや作者名には見覚えある作品が多いのではないか。翌年以降も、それなりにメジャー感のある“構えの大きい作品”が多く選ばれている。
ところが、2012年版では[オトコ編]『ブラック・ジャック創作秘話』(作:宮﨑克・画:吉本浩二)、[オンナ編]『花のズボラ飯』(作:久住昌之・画:水沢悦子)が1位になった。前者は手塚治虫の仕事ぶりを関係者への取材をもとに綴ったドキュメンタリーで、後者は夫が単身赴任中の主婦のズボラで楽しい食卓を描いたグルメものだ。どちらも良作には違いないが、ややマニアックであり、描かれている世界は小さい。
この年(2011年)は言うまでもなく東日本大震災があった年で、[オトコ編]7位には震災後の日本社会の葛藤を記録した『あの日からのマンガ』(しりあがり寿)がランクインしている。圧倒的な自然の脅威と原発事故を目の当たりにし、逆に作家たちの意識が身の回りの小さな世界に向かった――というのはうがちすぎか。
以後、もちろん『約束のネバーランド』『SPY×FAMILY』『チェンソーマン』など、ジャンプ系の大ヒット作が1位を獲得した年もあるが、どちらかというと大作よりも小品、その年の瞬間最大風速的な話題作が選ばれるようになったのは事実である。そして、もうひとつの傾向として、新人あるいはそれに近い作家の初単行本や短編集が上位に入るようにもなってきた。
たとえば、穂積『式の前日』(2013年版[オンナ編]2位)、佐野菜見『坂本ですが?』(2014年版[オトコ編]2位)、大今良時『聲の形』(2015年版[オトコ編]1位)、阿部共実『ちーちゃんはちょっと足りない』(2015年版[オンナ編]1位)、小西明日翔『春の呪い』(2017年版[オンナ編]2位)、和山やま『夢中さ、きみに。』(2020年版[オンナ編]2位)、たらちねジョン『海が走るエンドロール』(2022年版[オンナ編]1位)、モクモクれん『光が死んだ夏』(2023年版[オトコ編]1位)など。
昨年(2024年版)に至っては、ベスト3のうち[オトコ編]2位の荒川弘『黄泉のツガイ』以外、ほぼ新人の初単行本で、[オトコ編]3位の坂上暁仁『神田ごくら町職人ばなし』、[オンナ編]1位の大白小蟹『うみべのストーブ 大白小蟹短編集』はいずれも単巻もののマニアックな作品だ。
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