ストレスどこへ? 独海軍「激レア艦」のストイックすぎる余暇と“奥の手”とは 准士官に聞く船上生活
乗りものニュース / 2024年9月23日 18時12分
2024年8月10日、日付変更線を越えて航行するフリゲート「バーデン=ヴュルテンベルク」(左)と補給艦「フランクフルト・アム・マイン」(画像:ドイツ海軍、(C)Bundeswehr/Julia Kelm)。
軍艦の乗組員らは、船上でどのような日常生活を送っているのでしょうか。7か月間にわたり同じメンバーで航海を続けるドイツ海軍の補給艦「フランクフルト・アム・マイン」は、“浮かれた設備”こそないものの、奥の手の娯楽があるといいます。同艦の准士官に話を聞きました。
7か月間帰れない補給艦の乗組員
ドイツ海軍のフリゲート「バーデン=ヴュルテンベルク」と補給艦「フランクフルト・アム・マイン」が2024年8月20日、東京国際クルーズターミナル(東京都江東区)に艦隊を組んで寄港しました。ドイツ海軍が「今年最も重要な海洋防衛外交の取り組み」と目しているインド太平洋方面派遣「IPD24」の一環で来航した艦隊です。
ドイツ海軍艦艇の東京寄港は、フリゲート「バイエルン」以来3年ぶりです。今回はさらに、全長149.5m、幅18.8m、排水量7316トンの「バーデン=ヴュルテンベルク」が、自らよりも一回り大きい海軍最大級の軍艦、全長174.0m、全幅24.0m、満載排水量2万200トンの「フランクフルト・アム・マイン」を伴って来航し、メディアを騒がせました。東京国際クルーズターミナルまで実物を見に行って、その巨大さに度肝を抜かれた人も多いかもしれません。
仲良く姿を現したレア艦2隻ですが、しかし、その乗組員の生活には両艦の間で大きな違いがありました。
「バーデン=ヴュルテンベルク」の乗組員は約180人(女性は約10%)ですが、航行中に乗組員のチームを随時入れ替えるクルー制を導入しています。このため、乗組員の労働環境改善とともに軍艦の稼働率を上げることが可能です。
一方、「フランクフルト・アム・マイン」の約200人の乗組員(女性15%)は、2024年5月7日にドイツ北部の軍港ヴィルヘルムスハーフェンを出てからIPD24の任務が完了するまで、7か月間にわたって基本的に同じメンバーで航行を続けています。
フリゲートよりも過酷な労働環境で勤務しているともいえる「フランクフルト・アム・マイン」の乗組員たちは、船上でどのような生活を送っているのでしょうか。その知られざる日常生活について、同艦の准士官・マティアスさんにインタビューしました。
余暇もストイックな船員たち
こんなに巨大な軍艦なのだから、7か月間も洋上で過ごすクルーたちのストレス緩和のために、カラオケ、ボーリング、プール、ヘアサロンなど、豪華客船並みに施設が充実しているのだろうと思ったのですが、大まじめなドイツの軍艦にそんな浮かれた施設は何一つありませんでした。あるのは、ジムのみ。
ジム設備も、いたってシンプル。ランニングマシンに、ボート漕ぎマシン、ダンベル、エアロマシン、サンドバックなど。洋上での缶詰生活にもかかわらず、さらに船内のローイングマシンでボートを漕ぐのかと、ストイックさに目を見張る、逆の意味での驚きはあれど、それ以外に驚くような豪華な設備は何もないのです。
しかも、有事には身を挺して戦わなくてはならないドイツ海軍兵たちは、男女関係なく、勤務中に運動をして体を鍛えることが義務になっています。業務で利用するジムなのに、「余暇は何をして過ごしているのですか」という問いに准士官から返ってきた答えの筆頭が「ジムで汗を流す」なのだから、あまりにも徹底した修行僧のような生活ぶりに言葉を失いました。
ちなみに、ジムの次に挙げられていたのは「読書」。どこまでもドイツ人らしい答えに感心させられますが、ストレス発散は本当にできているのか、他人事ながら多少、心配になります。
インド太平洋の平和のためにはるばるやって来たドイツ艦隊。何事にも実直なドイツ人の中でも粉骨砕身の努力を怠らない、鋼のメンタルの持ち主でないと、フランクフルト・アム・マインの船員は務まらないようです。
即席の星空映画館
そんな余暇も精励恪勤(せいれいかっきん)な「ドイツ人の中のドイツ人」というような「フランクフルト・アム・マイン」の水兵たちですが、安心してください。同艦には、大型軍艦ならではの奥の手の娯楽がありました。洋上の「星空映画館」です。
巨大な艦上には幅23m、長さ27m、テニスコート2面半ほどの、ヘリコプターも離着陸できる大きなデッキがあります。大海のど真ん中で、摩天楼も何もない漆黒の闇に包まれる中、そのデッキの上にスクリーンを立て、野外での映画上映会が催されるそうです。
直近では、日本寄港の2日前(8月18日)に警察学校でのドタバタ劇を描いた米ハリウッドのコメディ映画『ポリスアカデミー1』が上映され、映画館らしくポテトチップスと飲み物が提供されたそうです。日本のはるか沖で、真っ暗闇の中、日頃は粛々(しゅくしゅく)と業務をこなす海兵たちが『ポリスアカデミー1』を見ながらお腹を抱えて大笑いしたのかと思うと、なんだか一気に親しみが湧きます。
猛暑の東京で、炎天下でも背筋を伸ばして整列する姿が印象的だった「フランクフルト・アム・マイン」の乗組員ですが、日本を離れ沖合に出た後、どんな映画でストレスを発散したのか、気になるところです。
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