インフルエンザ、現行調査で初の流行なし 今シーズン激減したわけは?
ウェザーニュース / 2021年4月4日 7時45分
新型コロナウイルス感染症の緊急事態宣言は全都道府県で解除されたものの、感染者数は一向に減少する気配を見せていません。一方で例年多数の感染者を出しているインフルエンザについては2020年秋から2021年春にかけて、厚生労働省の推計で医療機関受診者数が約1万4000人と発表されました。
インフルエンザの患者数は「定点」と呼ばれる毎週全国約5000の医療機関から報告された数値をもとに、全国の患者数が推計されているものです。
例年のインフルエンザの感染者数は、国内で推定約1000万人いるといわれていますので、今シーズンは約1000分の1に。比較的患者数が少なかったとされる昨季でも約728万5000人とされていましたので、500分の1未満となる大幅な減少をみせました。
また、患者報告数が流行の目安とされる水準に達することなくシーズンを終えたのです。流行入りすることなくシーズンを終えるのは、今の方法で調査が始まった1999年以降で初めてだということです。
インフルエンザだけでなく、この冬は風邪をひく人も減少傾向にあるようです。ウェザーニュースでこの冬の風邪に関するアンケート調査を実施したところ、風邪をひいた回数が減ったと回答した人が62%で、増えた(2%)を大きく上回る結果となりました。
今年はどうしてインフルエンザが流行しなかったのでしょうか。インフルエンザ患者減少の理由について、感染症に詳しい横浜鶴見リハビリテーション病院(横浜市鶴見区)の吉田勝明院長に伺いました。
マスクや手洗いなどの新型コロナウイルス対策が奏功
「インフルエンザ患者が今季大幅に減少したことにはいくつかの理由が考えられますが、多くの人が新型コロナウイルスの感染予防でマスクや手洗いをしていることが、インフルエンザ患者を減らしているものと思われます。インフルエンザも新型コロナ同様に飛沫と接触で感染するので、コロナ対策がインフルエンザ予防策になっているのでしょう。
さらに2021年は3月以降の渡航制限によって海外との人的交流が減少したことが、インフルエンザ患者を減らしていると考えられます。流行が半年ずれる南半球や季節を問わず流行している熱帯・亜熱帯地域からの入国者が冬季のインフルエンザ流行に関与していると言われています。そういった人的交流の減少が流行を抑えていると思われます」(吉田院長)
今季は南半球のオーストラリアやニュージーランドでもインフルエンザの流行がなかったとされています。北半球と南半球の人的交流がインフルエンザの流行の一因だったのかもしれません。
「3つ目の理由は、早い時期から行われたインフルエンザのワクチン接種があげられます。新型コロナとの同時流行があり得ることから、ワクチン接種が啓発され、多くの人が接種したことでインフルエンザ患者が減っていると考えられます」(吉田院長)
インフルエンザ以外の感染症も大幅減少傾向に
2021年第9週(3月1~7日)の東京都のインフルエンザ患者発生状況をみても、わずか1人でした。都内419件の「定点」あたり0.00人となり、昨年同期の3.58人をこちらも大幅に下回る結果となりました。学級閉鎖などの集団発生も2020年の第52週(12月21~27日)に1件報告があったのみですので、今季は「流行」といえる状況は生じていないといえるようです。
インフルエンザだけでなく、今年は感染性胃腸炎や水痘(みずぼうそう)、手足口病、流行性角結膜炎といった感染症も減少しています。厚生労働省の2021年第9週調査によると、定点あたりの報告数は過去5年間の同時期に比べて感染性胃腸炎が-2.23、水痘が-3.57、手足口病が-1.81、流行性角結膜炎が-1.53に減少しています。
感染症患者の減少には、“ウイルス干渉”という仮説があげられることがあります。体内の細胞がウイルスに感染すると、他のウイルスに感染しにくくなるというものです。
「しかし、欧米ほどコロナ感染者が多くない日本で、新型コロナがインフルエンザなどのウイルス性感染症を駆逐できるのかは疑問で、明確な根拠も分かっていません。インフルエンザと新型コロナに同時感染した症例も報告されています。
コロナ感染を恐れて受診を控えているケースもあるのでしょうが、多くの人がマスク、手洗い、消毒液を使う習慣が感染症の流行を減らしているといえます」(吉田院長)
新型コロナは私たちの生活を大きく変えましたが、例年のインフルエンザ流行も変えたのかもしれません。しかし、感染症予防策はコロナに限らずおろそかにしてはいけません。マスクやこまめな手洗い、消毒液の使用などを今後も心がけていきましょう。
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