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地球温暖化のウソ? ホント?(13)気候変動問題の重要な視点!? 「気候正義」って、なに?

ウェザーニュース / 2024年11月24日 5時0分

ウェザーニュース

「気候正義」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。

気候の正義?なに、それ?どういうこと? 

そのように思う人が多そうですね。今回は「気候正義」とは何か、気候変動問題の専門家である江守正多さん(東京大学 未来ビジョン研究センター教授)の監修のもと、解説していきます。

Q1/「気候正義」が大切って、本当? そもそも「気候正義」って、なに?

◆A/気候変動問題における不公正を是正していくことです。

「気候正義」は英語の「climate justice」の訳語です。

「climate」は「気候」で、「justice」は「正義」と訳されることの多い単語なので、「climate justice」は「気候正義」という意味になります。

しかし、どこか違和感のある言葉にも思えます。「気候の正義」って、何だろう? と、今ひとつしっくりこないという人も多いのではないでしょうか。この点について、江守さんは次のように話します。

「気候正義は、気候変動問題における不公正さの是正を求める考え方や運動のことです。気候変動問題では、温室効果ガスを排出する先進国とほとんど排出しない途上国、現世代とこれから生まれる世代などを比べると、後者の人々は原因への責任が小さいにもかかわらず大きな被害を受けます。これを是正しようとする考え方や運動が気候正義です。

ただ、『climate justice』の訳語を『気候正義』とするのは違和感を抱く人も多いでしょう。

日本では『正義』の反対は『悪』と思われがちですが、英語の『justice』の反対は『injustice』(不正義)です。

英語圏での『正義』は、多くの人が納得して、不平や文句が出ないような、バランスのとれた状態を呼ぶのだと思います。

たとえば、裁判所などのシンボルによく用いられる『正義の女神(Goddess of Justice)』は剣とともに天秤(てんびん)を持っています。なぜ? と思う人もいますよね。『バランス』に関する理解がないと、『正義の女神』が天秤を持っていることは理解しにくいでしょうね」(江守さん)

「正義の女神」の像(著作者:Themis-jp)

「climate justice」の「justice」は別の訳語のほうがよいのでしょうか。

「『正義』という言葉を使う人に対して、日本人は『私は正しく、あなたは間違っている』といったような、ちょっと独善的な正しさをイメージする人が多い印象があります。気候変動問題に関心がないと『あなたは間違っている』と言われている気がしてしまい、反発する人もいるかもしれません。

むしろ、この『justice』は『fairness(公正)』に近いととらえると、日本人にも理解しやすいかもしれません。

たとえば『climate justice』を『気候正義』ではなく、『気候の公正さ』と訳して使ってみるのも一案だと思います。

ただ、訳語が『気候正義』であっても、『気候の公正さ』であっても、これは日本人も考えなくてはならない重要な問題を提起しています」(江守さん)

Q2/「気候正義」はどんな問題を正そうとしているの?

◆A/発展途上国の人やこれから生まれてくる人などの不利益をなくそうとしています。

「CO2(二酸化炭素)などの温室効果ガスの排出量が小さい人たちは、気候変動の原因に責任がほとんどない人たちということができます。

しかし、その責任のない人たちが気候変動で深刻な被害を受けることが、気候変動問題における最も大きな不正義の構造です。

これに該当するのは、国でいえば、発展途上国の人たちです。さらに、同じ国の中でも、貧困層、人種的マイノリティー、先住民族など、弱い立場の人たちです。

もう一つ、大きな問題は、将来世代の人たちです。気候変動がこのまま進むなら、後から生まれてくる人ほど深刻な被害を受けます。今の大人よりも、子供や若い人。そして、これから生まれてくる人が受ける被害はさらに大きいのです」(江守さん)

先進国の強い立場の人たちが大量の温室効果ガスを排出し、それが気候変動、地球温暖化の大きな原因となっています。そして、受ける被害は発展途上国の人など、弱者といわれる人のほうが大きい。これは弱者の人たちの人権を侵害しているともいえます。この不正義、不公正を正していこうとするのが「気候正義」の姿勢です。

Q3/「気候正義」の考えはどのように広がっていったの?

◆A/アイルランドの元大統領やグレタさんなどが重要な役割を果たしました。

「アメリカでは『環境正義』という考え方が1980年代から出てきたといわれます。有色人種や先住民などの弱者が環境問題の被害にあいやすいことが問題視されたのです。2000年代に入ると、環境正義から派生して『気候正義』の考え方が出てきました。

気候正義という言葉が広まるにあたっては、アイルランドの元大統領であるメアリー・ロビンソンさんやスウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリさんなどが重要な役割を果たしました」(江守さん)

Googleの検索件数を見ると、「climate justice」という言葉が世界で使われたのは、2009年10~12月に大きなピークがあります。

「これはデンマークのコペンハーゲンで開かれたCOP15(国連気候変動枠組条約第15回締約国会議)の機会にこの考え方が注目されたのではないかと想像されます。

2019年9月にもピークがあって、それ以降に『気候正義』の検索頻度が上がっているのは、グレタさんの呼びかけから始まったフライデーズ・フォー・フューチャー( Fridays For Future/未来のための金曜日)の影響が考えられます」(江守さん)

欧米諸国では、日本よりは「気候正義」という言葉や思考は広がっていると考えられます。

ただ、欧米諸国も含めて、気候変動問題にあまり関心のない人には知られていない言葉といえそうです。

Q4/「気候正義」をもっと広めるには、どうしたらいいの?

◆A/「人にされたくないことは人にもしない」という考えをまずは思い起こしましょう。

「気候正義」という言葉からは「自分だけがよければそれでいいの? そうではないでしょ」というメッセージが感じられます。

「気候変動問題を考えるときは、発展途上国の人やこれから生まれてくる人、さらには人間以外の動物や植物にも思いを巡らせてほしいですね。

たとえば仮に、近い将来、日本の国土が沈没するとか、日本という国が消滅するといったことが、科学的にわかったとします。そして、その原因は日本人にはなく、外国の人たちのせいだとします。もしそんなことが明らかになったら、日本人は当然、慌てふためいて、怒りもしますよね。

しかし、今、地球温暖化の影響によって、海面が上昇し、将来的には消滅の危機に陥る島国が実際にあります。その島国の人たちは地球温暖化に影響をほとんど与えてこなかったにもかかわらず、暮らしが脅かされ、国が消滅するという危機に向き合うんです。そうしたことに、ぜひ目を向けてほしいです。

孔子は『己の欲せざるところは人に施すなかれ』と言っていますが、多くの日本人にはこの考え方が自然にしみついているのではないかと思います。その延長で考えて頂いたら、『気候正義』はそんなに理解が難しいことではないはずです」(江守さん)

悪影響が出ている事柄の原因にほとんど関係がない人が、その悪影響を最も大きく受ける。素直に考えて、これはあってはならないことですね。

気候に関するこのありようを改めようとするのが「気候正義」です。広めていきたい考えであり、運動ではないでしょうか。

————————
ウェザーニュースでは、気象情報会社の立場から地球温暖化対策に取り組むとともに、さまざまな情報をわかりやすく解説し、皆さんと一緒に地球の未来を考えていきます。まずは気候変動について知るところから、一緒に取り組んでいきましょう。




監修/江守正多 東京大学 未来ビジョン研究センター 教授(@seitaemori)
「正義の女神」の像 https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Themis225.jpg

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