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韓国映画界はなぜ日本人作家の小説に注目しているのか? 日韓で違う「小説」のジャンル

wezzy / 2021年2月22日 8時0分

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 『シークレット・サンシャイン』(07年)のチョン・ドヨンや『私の頭の中の消しゴム』(04年)のチョン・ウソンといったトップスターに加え、『スウィンダラーズ』(17年)などで好演し“千の顔を持つ”とまで言われるペ・ソンウ、『王宮の夜鬼』(18年)の顔面凶器チョン・マンシク、『MINARI』(20年)の国民的女優ユン・ヨジョンといった、いい顔の名バイプレイヤーが激突! 彼らが大金の入った一個のバッグをめぐって、欲望をむき出しにした男女を演じているのが、韓国映画『藁にもすがる獣たち』(20年)である。

 この作品は初期タランティーノ作品ばりにバイオレンス描写がたっぷりで、さらに時間軸を交錯させたクライム・サスペンス。自国では昨年2月に公開されるやいなや、週末興行収入ランキング第1位を記録した。

 『藁にもすがる獣たち』の原作者は曽根圭介。第14回日本ホラー小説大賞短編賞を受賞した『鼻』(KADOKAWA)や、第53回江戸川乱歩賞を受賞した『沈底魚』(講談社)などで知られている小説家だが、意外にもこれまで日本で映像化されたことはない。

 そんな曽根圭介が2011年に発表した本作が韓国で映画化された。そこには、韓国社会と日本文学の関係性が大きく関係しているといえる。

池井戸潤『半沢直樹』シリーズは韓国でもベストセラー

 韓国の書店に足を踏み入れて一番驚かされることは、韓国語に翻訳された日本文学の多さとともに、日本の大型書店並みともいえる作家やジャンルの充実さだろう。

 それもそのはず。国別の翻訳文学書の数は、アメリカやイギリス、フランスなどのヨーロッパ諸国を大きく引き離し、堂々の第1位。18年には韓国で発刊された韓国人作家による小説を日本人作家の割合が上回るほどだ。

 翌19年に日本による対韓輸出規制強化を受け、日本製品の不買運動が起こっても、池井戸潤の『半沢直樹』(文藝春秋、講談社)シリーズがベストセラーになっている。

 なかでもいちばんの人気作家は、村上春樹と東野圭吾だろう。

 その人気ぶりは、村上の絵日記風エッセイ集『うずまき猫のみつけかた―村上朝日堂ジャーナル』(新潮社)に記された「小確幸(小さいけれど、確かな幸せ)」というワードが、「ソファッケン」として流行語になったほど。

 村上作品は近年にも、短編『納屋を焼く』(新潮社『螢・納屋を焼く・その他の短編』収録)が『バーニング 劇場版』(18年)として映画化されたばかりだ。

 一方、東野作品は『容疑者Xの献身』(文藝春秋)が『容疑者X天才数学者のアリバイ』(12年)として韓国でも映画化されている。

 ちなみに、『ナミヤ雑貨店の奇蹟』(KADOKAWA)は現在までに120万部を突破し(電子書籍版含む)、過去最高の売り上げを記録した日本小説になっている。韓国の人口は約5000万人である。この数字を見ると、どれほどのヒットか分かる。



 日本文学が愛されているいちばんの理由として挙げられるのは、韓国小説の特徴として、人間の生き方を問うシリアスなテーマが描かれることが多いことにある。つまり、サスペンスやミステリーなど、エンタメ系の作家や作品が極端に少ないのである。

 また、それに関連して、日本文学は恋愛や趣味を通した若者ならではの悩みや関心事などをテーマにした作品が多く、読者が主人公に感情移入しやすい。それだけに、日本文学が80年代から90年代にかけ、軍事独裁国家から民主主義国家へと、大きな変化を遂げた韓国社会における生活習慣の参考にもなった、と言われているのも頷けるところだ。

 一方、韓国では130万部を突破する社会現象を起こし、映画化もされた『82年生まれ、キム・ジヨン』(筑摩書房)を機に、日本人の韓国文学に対する捉え方も大きく変わってきた。『キム・ジヨン』は日本でも22万部を超えている。

 『キム・ジヨン』のチョ・ナムジュのほか、『アンダー、サンダー、テンダー』(クオン)や『フィフティ・ピープル』(亜紀書房)のチョン・セランなど、若い女性作家の作品に注目が集まる。

 しかし当初は若い女性が中心だった日本の読者層も、今や50代にまでに広がっており、今後はフェミニズム文学の枠を超えた大きなムーブメントが起こる予感もする。

 さて、オール讀物新人賞を受賞した平安寿子原作の短編を、チョン・ドヨンとハ・ジョンウ共演で映画化した『素晴らしい一日』(08年)など、韓国映画界では日本で映画化された原作のリメイクとしてではなく、韓国映画界によって初めて映像化される作品は少なくない。

 そんななか、『犯罪都市』(17年)、『悪人伝』(19年)の製作陣が、日本のプロデューサーより早く発掘した感もある『藁にもすがる獣たち』。

 本作がデビュー作となったキム・ヨンフン監督による意外な脚色に加え、ドヨンの究極の悪女っぷり、キャラクターにハマったウソンの無様な姿、実質上の主人公を演じるソンウの小市民感など、キャスティングの面白さも肝となっている。

 エンタメ性の高い日本文学と韓国映画のコラボレーションは、ますます面白くなっていく韓国映画界の武器のひとつといえるだろう。

(くれい響)

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