幼稚園や保育園の選び方で、子どもの学力に差が出る!(「幸せ力」の育て方 Vol.9)
Woman.excite / 2015年12月29日 4時15分
幼稚園卒の子どものほうが、保育園卒の子どもよりも学力テストの成績が高いのは本当か?
2010年7月、文部科学省の幼稚園課が気になる調査結果を公表しました。
「幼稚園卒の子どものほうが、保育園卒の子どもよりも、学力テストの成績が高い」というものです。
本当でしょうか? 本当だとしたら、なぜでしょうか?
この発表を受けて、発達心理学や保育学が専門の内田伸子先生が詳しい調査を行いました。
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親の経済格差が子どもの学力格差につながる?
文部科学省の発表に対し、一部で「学力格差は経済格差を反映している。保育園に通わせる家庭は低所得者が多いため、学力も低いのではないか」という意見が出されました。
そこで内田先生は、経済格差が子どもの発達や親子のコミュニケーションにどのような影響をもたらしているのか、日本、韓国、中国、ベトナム、モンゴルにて各国の3~5歳児3,000名を対象に調査しました。
「日本では、世帯所得が700万円以上を高所得、700万円未満を低所得とし、子どもの『読み書き能力』を比較しました。
その結果、文字を書く能力、読む能力のどちらにも、親の経済力による差はありませんでした」
子どもの教育に配慮している家庭の子どもは、語彙が豊富
「ただし、知能テストと相関が高い『絵画語彙検査』では、所得の高い家庭の子どものほうが成績が高いという結果になりました」
「絵画語彙検査」とは、絵を見せ、その絵が示す言葉を知っているか尋ねるテストです。
語彙の豊かさは知能と相関しているので、語彙の多い子ほど知能が高いと言われています。
「所得が高い家庭は子どもに習い事をさせていることが多いので、それが影響しているのではないかと思い、調べました。
すると、習い事をしている子のほうが、していない子より絵画語彙検査の得点が高いという結果がでました。
ただし、運動系の習い事をしている子と、学習系の習い事をしている子の間に成績の差はありませんでした」
ということは、習い事の内容が知能を高めているわけではないようです。
習い事によって、友だちや先生などとコミュニケーションを取る機会が増えるため、語彙も増えるのではないかと推察されます。
「自由保育」の幼稚園や保育園に通っている子どもは学力が高い
さらに、保育形態によって子どもの語彙得点に大きな差があることがわかりました。
「自由保育(※1)で、子ども中心の保育を行い、自由遊びの時間が長い幼稚園や保育園に通っている子どもの語彙得点が非常に高かったのです。
反対に、一斉保育(※2)で、小学校一年生の授業を先取りして準備教育を行っている幼稚園や保育園に通っている子どもは得点が低い結果となりました。
しかも、子どもの年齢が高くなるほどその差が開いていきました。
幼稚園か保育園かは、まったく関係がありませんでした。
韓国、ベトナム、モンゴルでの調査も同じ結果でした。
唯一、中国は保育園での一斉保育しかないので、比較ができませんでした」
(※1) 自由保育とは:自由遊びの時間が長く、子どもが主体となって自発的にやりたいことに取り組む、子ども中心の保育形態のこと。放任とは違い、子どもの自主性を尊重しつつも、幼児期に学んでほしい目標や狙いを達成できるよう保育士が誘導する。国立大学附属幼稚園や公立幼稚園や私立幼稚園の一部、社会福祉法人の保育所では子ども中心の保育であり、子どもたちは好きな遊びに主体的に取り組み保育者は援助者として子どもの学びに寄り添い、子どもが困っているとき助けてあげる「わき役」である。
(※2) 一斉保育とは:全員に同じこと(体育や音楽、お絵かきなど)をさせる、カリキュラム中心の保育形態のこと。小学1年生の準備教育や英会話などを取り入れ、体操選手をつくるということなどを教育目標にかかげる私立幼稚園や私立保育園の一部にみられる。
園種より保育形態が語彙力と関連する(内田・浜野,2012より)
「文部科学省の調査の対象となった国立大学付属幼稚園はすべて自由保育を行っています」
つまり、子どもの学力格差は幼稚園と保育園の違いによるものではなく、自由保育か一斉保育かの違いによるものだったのです。
保育形態の違いによって差が出てしまうのはなぜなのか、次回の記事で詳しくお伝えします。
(佐々木月子)
内田 伸子先生
十文字学園女子大学特任教授・お茶の水女子大学名誉教授・学術博士。
専門は発達心理学、認知心理学、保育学。国立教育政策研究所「幼児の論理的思考の発達調査プロジェクト会議」(主査)、最高裁「裁判員制度の有識者会議」(委員)、文化庁国語審議会委員なども務めるほか、NHK Eテレの「おかあさんといっしょ」の番組開発やコメンテーター、ベネッセの子どもチャレンジの監修、しまじろうパペットの開発、創造力知育玩具「エポンテ」(シャチハタ)の開発なども担当。著書は、『発達心理学―ことばの獲得と教育』(岩波書店)、『よくわかる乳幼児心理学』(ミネルヴァ書房)、『子育てに「もう遅い」はありません』(冨山房インターナショナル)など多数。
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