「この世界の片隅に」作画監督 松原秀典さん【第2回 ゆめを叶えた大人の子ども時代、ヒヨっ子ちゃずのイラストインタビュー】
Woman.excite / 2016年12月28日 21時30分
皆が憧れるステージで活躍する大人って、どんな子ども時代をすごしたのでしょうか? 夢を叶えた大人はどんな風に育てられたのか、人生まだまだヒヨっこのちゃずがインタビュー!
第2回はアニメーターの松原秀典さんにインタビューにいきました。松原さんは今話題の映画『この世界の片隅に』のキャラクターデザインと作画監督を担当された方。他にも『ああっ女神さまっ』『サクラ大戦』『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』等の作品も手がけられたベテランのアニメーター(キャラクターデザイナー、イラストレーター)さんです!
松原秀典 プロフィール。アニメーター、キャラクターデザイナー、イラストレーター 。【主な代表作】 『サクラ大戦』シリーズ 『ああっ女神さまっ』シリーズ テレビアニメ『巌窟王』 劇場用アニメーション『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序、破、Q』、劇場用アニメーション『この世界の片隅に』
アニメーター、キャラクターデザイナー、イラストレーター
1965年生まれ。富山県出身。株式会社カラー所属。
ガイナックスに入社後、『ふしぎの海のナディア』『新世紀エヴァンゲリオン』などに参加。『サクラ大戦』『ああっ女神さまっ』ではキャラクターデザイン、作画監督を務める。映画『とある飛空士への追憶』でもキャラクターデザインとして参加。『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズでは作画監督、デザインワークス、原画として参加。最近では映画『この世界の片隅に』でキャラクターデザイン、作画監督として参加している。
■『この世界の片隅に』は、見たら結婚したくなる作品!?
ちゃず─大ヒット中の『この世界の片隅に』。ヱヴァンゲリヲンなどとは全く違うテイストでご苦労はなかったですか?
松原─この作品が始まった当初、前にやっていたカッコいいアニメの絵柄が手に染み付いていたので、監督には「もうちょっと下手に描いてくれ」なんて言われたりしましたよ(笑)。僕自身、こういうやわらかい絵柄はあまりやったことがなかったので、少しテイストを合わせるのに苦労した部分もありました。
ちゃず─作画監督というのは、具体的にどういうお仕事になるんですか?
松原─ひと言で簡単に言ってしまえば、線画の段階での「全体の絵柄の統一」です。
ちゃず─私、すずちゃんの目が時々漫画的な表現になるところが好きです!
松原─あれのおかげで、この作品の世界観ができたようにも思います。原作の漫画でもそういう表現になっているのですが、あれを採用するかしないかで、作品の幅が変わったんじゃないかなと。あと僕がちょっと気をつけたのが、ご飯のシーン。子どもに「お箸をちゃんと持ちなさい」と教えている以上、ちゃんと絵でも表現しなくちゃなと。ちゃんと持ち替えるキャラクターと、適当にやっているキャラクターと、意識して描き分けています。子どもがいると、どうしてもそういうこと考えてしまいますよね。
いろんな方に、感覚的に想像させられる作品にはなったのかなと思っています。
ちゃず─場面場面で違ったタッチが入ってくるのも、すごく作用しているように拝見しました。
松原─原作のこうのさんが、ありとあらゆる実験的な描き方にチャレンジしてらっしゃったので。漫画自体は黒と白の線画なのですが、それに近いもの、それに代わるものとしてどんな表現があるかを監督は色々考えられたようです。
すずちゃんが絵を描いているシーンが結構あるのですが、「絵の中で絵を描いている」という二重構成なんですね。現実と虚構が両方とも絵だと境界が曖昧になってしまうので、ちょっと不思議な表現を監督は入れようとしたのかな、と。「この鳥は本当にいたのか?」と思えてくるようなところとか。
ちゃず─そういう曖昧さが想像力につながっているのかもしれませんね! すずちゃんの大人の女性っぽい表情も気になりました!
松原─二人きりの世界とパブリックな世界で見せる顔は皆違うよね。その感じを出そうとすると、表現が細かくなるのかもしれません。僕は作品の内容を管理する側で、アニメーターにシーンを割り当てる時に、「このシーンは女性のあの人に描いてもらおう!」なんて考えて割り振って。「どんなのを描いてくるかな?」なんてちょっとワクワクしたりもしています。
ちゃず─史実に関しては、忠実に再現をされたのですか?
松原─忠実というより忠実風、ですね。資料がカラーで残っていない以上、完璧というわけにはいかないので。地域や性格、職業なんかによっても、戦争の受け取り方は違っていただろうし。服などに関しては調べるだけ調べて、かといって何もかもリアルに描くのではなく、ふんわりと原作に合わせて描きました。
ちゃず─モンペにしていた着物も華やかでかわいかったです!
松原─昔の写真を見るとね、びっくりするくらい派手なんですよ。戦争前の女学生の服なんて、今の女子高生のスカートより短かったくらい。既製品の使い回しという意味では、派手な着物をモンペにしているので、生地は派手だったりもしてね。
ちゃず─どのくらいの期間、この作品に携わっていたのですか?
松原─監督たちは準備から完成まで6年かかったそうですが、僕は2年半くらい。作画に関しては、がっつり取り組んでいたのは1年半くらいで、その間は毎日描いていました。監督は「見たら結婚したくなるような作品」を目指していたらしいですよ(笑)。
■東京は海外のような場所だった!? 夢を叶えるまでの道
ちゃず─松原さんがこの仕事を始めたきっかけは?
松原─僕は富山出身なのですが、僕が若い頃は、東京は夜行で何時間もかけてやってくるような場所で、海外とあまり変わらないような感覚だったんです。でもアニメーションや漫画みたいな仕事は都会にしかないものだったので、やりたいとなると行くしかない。でもかなり遠い。だから夢だと思っていました。田舎で普通に暮らしていくための仕事も考えていました。
ちゃず─この職業に就くハードルを感じてらしたのですね…。
松原─はい、ものすごく。なので、一段クッションとして、まずはアニメ系の専門学校に行きました。そこからフリーのような形で、委託で仕事を始めて。
ちゃず─最初から社員ではなかったんですね? 大変じゃなかったですか?
松原─大体皆そうなんじゃないかな? 作品ごとに集められて、スタジオのなかに入るんだけど、その作品が終われば、また次の作品へ行く、という形です。腕が上がると色々と声がかかるようになって、あちこち移動するようになっていく。人のつながりで助けたり、助け合ったりしてきたという感じです。苦労とか頑張ったとかあんまりないですね。皆、頑張ってるじゃないですか。どんな仕事をやっていても、大抵の人は努力していると思うので。
作画監督、デザインワークス、原画として参加した、劇場用アニメーション映画『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』より引用 (c)カラー
■パパとしての日常
ちゃず─松原さんが育った家庭は? どんな子どもだったんですか?
松原─うちは放任に近かったです。親が離婚して、教育的な環境下にはなかったんですよ。上京も自分で決めました。コミュニケーションほぼゼロの家庭だったので、結果的に自分の好きにできる環境だった、というか。僕は堅実な性格なので、そういう状況でなかったら地元にいたと思うのですが、家庭という土台がなくなっていたので、だったら東京でも同じかなと思い。小さい頃にそろばんと習字を一瞬かじったくらいで塾にも大学にも行っていないので、自分の子供の習い事のことも正直よくわからないんですよね。
ちゃず─お子さんに絵を教えられることはあるのですか?
松原─まだしていないですね。英才教育をしたいとも全く思いませんが、一個だけ、英語が話せたらすごくいいな、というのはありますね。奥さんが話せる人で。話せるとどこでも行っちゃえるので、あれはうらやましいです。思うだけで、やらせてはいないのですが(笑)。
ちゃず─それもひとつの方法ですね! 最後に十年後へのお子さんへのメッセージをいただけますか?
松原─僕はもういい歳(51歳)ですが、上の子は5歳、下の子3歳なので、最低でも17年後までは頑張らなくちゃな、なんて思いますね。普通に育ってくれればいいし、それだけで十分有難いです。
ただ、今のところ子供たちのなかで、父親は家にいないことになっているだろうな、と。将来的にその影響出てきちゃうのかな…なんて思うと気にかかっています。でも正直、この仕事だと普通なんですよね。今作でもピーク時は半年間、2〜4日に1回しか家に帰れませんでした。朝バタバタするなかで一瞬、顔を見られるくらいで。子どもからすれば、僕は「たまに朝いるだけの人」で。どんな感じに見えているんだろうな…。
ちゃず─お休みは全然ないんですか!?
松原─普段はあるんですけどね。この半年間はなかったです。作品によっては追い込まれることも多々ある、という。本人はつらいと思ってないのですが、周りから見るとそう見えるかもしれません。少ないですが、休みのときは必ず家族と行動していますよ。
ちゃず─お子さんには、どんなふうに接しているんですか?
松原─その時その時をかみしめるような感じですかね(笑)。いつも一緒にいられるわけじゃないので、「抱っこ」と言われたら必ず抱っこしてあげるとか。すぐ大きくなっちゃうし、そのうち重くなったらできなくなっちゃうし。世のお母さんたちからも「小さいときは一瞬しかないから、もっとかわいがればよかった!」なんて証言をよく聞くじゃないですか。
会っている時間が短いせいか、僕の中ではまだ小さいイメージなんです。服を着せたり、ボタンを止めてあげたり、靴を履かせたり、奥さんからすれば「それはもう自分でできるのよ」ということでも、やってあげたいんですよね。あまり普段やっていないせいで、そういう小さな手伝いをやりたくて。「うざがられるまではやっていたいな〜」なんて思っています(笑)。
ちゃず─こうやってお父さん側の本音を聞かせていただけると、また違う視点が得られるな、と思ったインタビューでした。
© こうの史代・双葉社 / 「この世界の片隅に」製作委員会
帰り際には、照れつつも「一番大事にしているのは、奥さんと子どもが笑顔でいることです」という温かいひと言も。忙しい仕事のなかでも、ご家族の存在が何よりも支えになっている様子に感銘を受けつつ、そのあたりの思いが、きっと『この世界の片隅に』の世界観にも反映されているんだな…!なんて思った、ちゃずなのでした!
壁に飾られたポスターは、スタジオカラー最新作。BSプレミアム 2017年2月18日(土)午後8:00~8:45 前編 2017年2月25日(土)午後8:00~8:45 後編 放送予定の 『龍の歯医者』ポスター。
■ 『龍の歯医者』 ■スタッフ 監督:鶴巻和哉 原作・脚本:舞城王太郎 脚本:榎戸洋司 キャラクターデザイン:井関修一 制作統括・音響監督:庵野秀明 主題歌:「ぼくらが旅に出る理由」作詞・作曲:小沢健二 編曲:ナカムラヒロシ(i-dep) 歌:RINKU(Mistera Feo)■放送予定 BSプレミアム 2017年2月18日(土)午後8:00~8:45 前編 2017年2月25日(土)午後8:00~8:45 後編 ■キャスト 岸井野ノ子 : 清水 富美加 ベルナール・オクタビアス :岡本 信彦 悟堂ヨ世夫 :山寺 宏一 夏目柴名 :林原 めぐみ ©舞城王太郎,nihon animator mihonichi LLP. / NHK, NEP, Dwango, khara
(ちゃず)
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