「パパのお弁当は世界一」。3年間お弁当を作ったパパと娘のリアルな物語
Woman.excite / 2017年6月9日 13時0分
© 2017「パパのお弁当は世界一」製作委員会
“映画は時代を映す鏡”とはよく言われること。現代を描く映画において、今やスマホやメール、FacebookにLineといったソーシャル・メディアが登場しない作品はない。裏を返すともはや物語に欠かせないアイテムや元ネタになっているといっていい。
もはや現代劇に欠かせないソーシャル・メディアだが、6月10日(土)に公開を迎える『パパのお弁当は世界一』は、Twitterで8万人がリツイート、26万人がいいねをしたという実話をもとに、高校生の娘とその父の間でかわされた3年間のお弁当のやりとりというごくごく当たり前の日常が描かれている。
■“父親=思春期の娘に嫌われる存在”から“新しい父娘物語”へ
© 2017「パパのお弁当は世界一」製作委員会
私自身はTwitterもLINEもやらないので、このことに関してはまったく知らなかったが、多くの人が共感したことはしごく納得。さりげないお弁当のやりとりが、じつはかけがえのない親子の時間にもなる。そんなことを静かに教えてくれる1本になっている。
その上で、この映画をひと言で表するならば、“新しい父娘物語”といっていいかもしれない。何が新しいのかというと、父と娘の関係の在り方だ。
“年ごろの娘と父親”の関係をイメージしたとき、どんな光景を思い浮かべるだろう? おおよそが“わかりあえない二人”といった構図ではなかろうか(笑)。たとえば、なんとなく加齢臭を感じさせる父に対して、娘が“私の洋服とお父さんの下着一緒に洗わないで”みたいな、“父親=思春期の娘にもっとも嫌われる存在”といったシーンを思い浮かべるのではなかろうか。それを証拠に、そういったイメージがいまだにテレビドラマや映画でまかり通っている。
でも、本作の主人公である父親と娘のみどりの関係はかなり違う。ちょっと理想形すぎるようにも思うが、つかず離れずの絶妙の関係。ただ、これがいまの親子とも思える。
© 2017「パパのお弁当は世界一」製作委員会
離婚した父は、高校一年生のみどりのために弁当を毎日作ることを決心。これまで料理の経験はなし。当然、最初は弁当作りに四苦八苦する。一方、その父が作った、おおよそ女の子のサイズとはおもえないデカい器のお弁当を、みどりは拒まない。おそらくこれまでの映画やドラマだったら、この時点で娘はもっていくことを拒否していてひと悶着おきるのではないだろうか?
でも、みどりは持っていく。友人たちにパパが作った弁当と宣言して恐る恐る弁当箱を開く。ここもこれまでの映画やドラマなら、誰にも見せないというのがパターンではなかろうか?
初めての料理で作った父の卵焼きは、見た目最悪。食べると味もしょっぱくて最悪。でも、みどりは完食する。ここもこれまでの映画やドラマなら一口、口にしてあとは食べないのがオチだろう。
でも、みどりは違う。空になった弁当箱にメモを残す。正直な味のコメントを。そんな父とみどりのやりとりが彼女の高校生活が終わるまで続いていく。
この父と娘のやりとりが不思議なぐらいものめずらしい感じに映らない。不自然さがみじんも感じられない。いまどきの父と娘の関係ってこれがスタンダードなのでは? と、思えてくるから不思議。それこそ実話のもつリアリティの強さなのかもしれない。そういう意味で、本作はこれまでのステレオタイプの“父娘物語”のイメージを一新させる、まさにいまの時代を映した“父娘物語”といっていいかもしれない。
■サラリーマンパパの娘へのぎこちない愛情
© 2017「パパのお弁当は世界一」製作委員会
もうひとつ、とくに娘を持つ父親は感じるところが多い作品に違いない。そう思えるのはやはりキャストの力。父親を演じるのは、映画初出演で初主演となる「TOKYO No.1 SOUL SET」の渡辺俊美だが、その飾らない演技が素晴らしい。
だんだん料理の腕をあげていくところなど堂に入っていると思ったら、彼自身が実際に息子が高校生のとき、ずっと弁当を作り続けたという。さらには「461個の弁当は、親父と息子の男の約束。」という本も出していると知って、“どうりで”と納得。しがないサラリーマンパパの娘へのぎこちない愛情がにじみ出ていて、その想いを共有せずにはいられない。
■手作り弁当は、親と子をつなぐ愛情表現のツール
でも、個人的なことを言わせてもらうと、自分も娘を持つ身であるが、ここに登場する父親のようにお弁当を作り続けることができるかは、はなはだ疑問で心許ない。私自身もたまに娘にお弁当を作ることはあるが、手の込んだことはしない。あまりがんばった感を出すのも、娘に恩着せがましく感じさせるような気がして、極力、やりすぎないことにしている。まあ、ずぼらな性格ゆえのていのいい言い訳かもしれないが。
ただ、作品を見て思ったのは、親と子をつなぐひとつの愛情表現として、手作り弁当は年齢を問わず、いいツールになるかもしれないということ。そういう意味では、自分も作るときはもうちょっと力をいれようかなと思ったのは確か。まあ、もっとも実際に実行できるかは怪しいが…。
でも、子どもとの関係がぎくしゃくしたとき、お弁当を作って渡してみると、案外効果的かも。それまでのわだかまりがすっとなくなって、意外とわかりあえるかもしれない。本作を見ていると、手作り弁当には、親と子をつなぐそんな不思議な力があるような気がしてくる。娘のことがわからないと悩んでいるお父さんたち、一度、娘のために愛情弁当を作ってみてはいかがだろう?
あと、ひとつ触れておくと、最近のドラマや映画は親子で楽しめる作品が限られる。でも、本作はお父さん、お母さんから、小中高生の子どもたちまで一緒に安心して楽しめることを最後に付け加えておきたい。
監督:フカツマサカズ
出演:渡辺俊美(TOKYO No.1 SOUL SET)、武田玲奈、清原翔、田中光、ほか
公式サイト:papaben-movie.com
6月10日(土)ヒューマントラストシネマ渋谷にて公開
(水上賢治)
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