「母に苦しむ娘」たちが生きるために必要なものとは【母が重たい娘たち 第3回】
Woman.excite / 2018年6月27日 20時0分
母という存在がなぜ苦しいのか
前回、「実の母との関係が、苦しい」と思っている人が、その関係を抜け出す第1歩は、悲しいかな、「『母にわかって欲しい』という気持ちを捨てること」だと原宿カウンセリングセンター所長の信田さよ子先生に教えていただきました。
その「行き止まり感」を受け入れることができたら、次に打つべき手は? 現実的な対応策を伺いました。
■「母から逃げることを願う娘」は、たくさんいる
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「実家のある駅名や母の住む県名を聞いただけで冷や汗が出たり、動悸が早くなったりする女性。じつはたくさんいるのですよ」と、信田先生。
こんなふうに、「母から逃げる、離れることだけを考えている女性」というのは、普通にいるそうです。彼女たちは、そのことを誰にも話せません。なぜなら、聞いた人は娘であるその女性がヘンだと思うに決まっているからです。
「母と正面から一対一で相対することは無謀な行為」と、信田先生は言います。自分のことを、「愛情深い母」だと信じて疑わない母は、無敵です。その磁場に取り込まれた瞬間、今までがずっとそうだったように、娘は母に対して「イエス」しか言えなくなってしまうのです。
では、どう対処すれば良いのでしょうか?
■ポイント1:「とりあえず」で物理的距離をおく
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「まずは、逃げることも含めて物理的距離をおくことを考えましょう」(信田先生)。具体的には同居を解消する、転居先の住所を知らせずに時を稼ぐ、海外で暮らす、といった方法があります。
「その際のコツは、『いつまでこれを続けるか』といった先のことを考えないことです。これはDVの場合も同じなのですが、『とりあえず』が、とても重要です」(信田先生)。
まずは3日くらいが1週間になり、気がつけば半年経っていたということもあります。先々まで計画を立てると、けっして家を出ることはできないそうです。
■ポイント2:母に対して丁寧語を使う
諸事情から、物理的な距離をとれない人も、たくさんいるでしょう。そんな方たちに対して信田先生がカウンセリングで提案しているのは、「母親に対して、丁寧語を使いましょう」ということです。
何かを頼むときは、「やってよね」ではなく、「お願いします」。了解も「わかった」ではなく、「わかりました」。挨拶を欠かさないことも重要です。「ただいま」「お帰りなさい」「おやすみなさい」といった日常の挨拶を母に対して続けます。
「どうしたの? なんでそんな口調なの?」と母から聞かれても、けっして言い方を変えないようにします。そして、「『何でそんな他人行儀な言い方をするのよ』と責められたら、心の中で快哉を叫びましょう」(信田先生)。
距離をとるということは、他人行儀になることです。親しき仲にも礼儀あり。親子であっても他者性を維持するために、丁寧語を使い、日々の挨拶を続けます。
■ポイント3:仲間をつくる
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母からの「愛情」を「支配」と読み替える、いわば「母に対する意味の転換」は、一人で抱え込めるほどなま易しいものではありません。信頼できる人に話して聞いてもらうことが必要になります。
けれども、そんな知人をすぐに思い浮かべられる人の方が少ないかもしれませんよね。下手に話すと、「お母さんのことを、そんな風に言うなんて」と軽蔑のまなざしで見られるリスクもあります。
最近では、ネット上のブログやTwitterなどによって、世の中とつながることができるようになり、同じ思いの人との交流も可能になりました。ネット上であっても、同じ苦しみを経験した「仲間」の存在を感じられることは、どれほど心強いことでしょう。
信田先生は、「母との関係性が苦しい人たちに必要なのは、つながる人の数です」と、言います。「自分を強くする、信念をもつ、自分を好きになるといった自己完結的方法ではなく、『あなたの考えていること、語ることはよくわかる』と、否定せず言ってくれる仲間が何人いるかが何より重要なのです」(信田先生)
もちろん、ネット上のつながりも良いのですが、できれば「仲間」は姿が見えて声が聴ける方が、より望ましいそうです。「具体的な、生身の存在である仲間を得てもらいたいと切に思います」(信田先生) そんな仲間は家族とは別の、「母に苦しむ娘」たちが生きるために必要なコミュニティなのでしょう。
次回は、母に苦しむ娘の、「母からの本質的な脱却」について
信田先生に教えていただきます。
『母・娘・祖母が共存するために』(¥1,512(税込)/朝日新聞出版)
子育て中にママにこそ、読んで欲しい!
母娘問題の第一人者が書いたメルクマール(指標)
信田 さよ子さん
臨床心理士。原宿カウンセリングセンター所長。駒木野病院、嗜癖問題臨床研究所付属原宿相談室を経て1995年に原宿カウンセリングセンターを設立。アルコールなどさまざまな依存症、摂食障害、ドメスティック・バイオレンス(DV)、子どもの虐待などに悩む本人やその家族へのカウンセリングを行っている。著書に『母が重くてたまらない』(春秋社)、『アダルト・チルドレンという物語』(文春文庫)、『さよなら、お母さん』(春秋社)『タフラブという快刀』(梧桐書院)『母からの解放 娘たちの声は届くか』(ホーム社)など。
(楢戸ひかる)
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