育児ノイローゼになる前に…「子育てはだいたいで大丈夫」でいい理由
Woman.excite / 2020年5月17日 10時0分
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感染症により、休園・休校の長期化、不要不急な外出の自粛要請で、子育て中のママやパパの負担やストレスは一層倍増しているでしょう。
ちょっと気晴らしにお散歩やおでかけも難しい今、家の中でずっと子どもと相対していると、逃げ場がなくなって心が折れてしまいそうになることも。
「子どもはかわいいし、きちんと育てたいと思っている。でも…」と悩む親は少なくありません。育児ノイローゼ、産後うつなどにならないためにはどうしたらいいのでしょうか?
子育ての不安やイライラ、焦り、迷いを抱えるママやパパに向けて、内外出版社から新刊『小児科医ママが今伝えたいこと! 子育てはだいたいで大丈夫』が発売されました。著者は、小児科医で二人のママでもある、森戸やすみ先生。
育児に悩むママやパパへ向けたこの本では、これまで信じられてきた育児神話の“本当のところ”や、とくにママがつらく感じる原因、自分らしくラクになれる子育てのヒントなどが、小児科医の視点でわかりやすく解説されています。
●森戸やすみ(もりと・やすみ)先生
小児科専門医。
一般小児科、NICU(新生児特定集中治療室)などを経て、2020年6月1日、東京都台東区に『どうかん山こどもクリニック』を開業予定。『小児科医ママとパパのやさしい予防接種BOOK』(内外出版社)など著書多数。二子の母。
■育児のトラブル・悩みはすべてママのせい?
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たとえば、おでかけ先や公共の乗り物の中で、子どもがなかなか泣きやまない。わが子がほかの子とうまく遊べなくて、つい手が出てしまう。せっかく離乳食を作っても、あまり食べてくれない。
子育てではよくあることですが、そういう時になぜか決まって言われるのが「それって、愛情不足じゃない?」「もっと子どもには手をかけてあげないと」といった言葉です。
とくに、子どもを保育園や学童に預けながら働いているママの多くは、家族だけではなくママ友や会社の同僚、よく知らない人にまで、同じようなことを言われた経験があるのではないでしょうか。
実際、著者の森戸先生も、テーマパークで遊び疲れた娘さんが帰りの電車でグズったとき、たまたま乗り合わせた高齢のご婦人から「お母さん、もっと抱きしめてあげて」と諭された経験があるそうです。娘さんがグズったのは、森戸先生が抱きしめなかったからではなく、遊び疲れたからなのに。
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「それは本当に“親の愛情不足”が原因でしょうか?」と森戸先生は問いかけています。
育児で何か問題や困ったことが起こったとき、人はどうしてなのかと原因を求めたくなるもの。しかし、子どもはそれぞれ個性がありますから、どの子にも当てはまる育児の定石はなく、大人の理屈では理解できないことも多いでしょう。
一方、愛情というのも数値で測れるものではなく、親がどれほど子どもを愛しているかは目で確かめることはできません。そこで、「理解できない子どもの行動は、誰にも確かめられない親の愛情量に責任転嫁されているのではないか?」と、森戸先生は読み解きます。
たしかに、親の愛情不足が原因としてしまえば、言った本人は間違いだと反論される心配もなく、自分に責任がないことも遠回しに主張できます。親に責任を押し付けることで、理屈の通らないことが解決できたと自己満足もできるわけです。
しかし、子どもが泣いたりわめいたりすることと、親の愛情不足との因果関係は誰にもわかりません。子どもの数だけ個性もそれぞれで、グズってしまう原因もそれぞれ。それを、手っ取り早く原因を見つけたい大人が、こじつけているだけなのです。
ところが、「小児科医をはじめ子どもに関わる専門家の中にも愛情の多寡(たか)の話をする人がいるのですから残念なことです」と森戸先生。
たしかに、筆者もわが子を預けていた保育園の先生から同じようなことを言われたことがあったことを思い出しました。
こういった周囲の「なんでもかんでも親の愛情不足が原因」というプレッシャーから、育児で何か困ったとき、「ほかの親ほど自分は愛情をかけてあげられていないのではないか」「もっと私がちゃんと子どもを見ていれば」と、無意識のうちに自分を責めてしまう方は少なくないでしょう。
でも、それは周りからの勝手な押し付けであって、“親の愛情不足”と決めつけることは害でしかないと森戸先生は一刀両断。この言葉に、悪い夢からスッキリ目覚めたような清々しささえ感じます。
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■育児神話「根拠のないもの、気をつけたいもの」
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「子どもの問題は親の愛情不足が原因」と同じように、根拠なく信じられ続けている“育児神話”はたくさんあります。
本書で紹介されているだけでも、以下のものが挙げられます。
「3歳までは家で母親の手で育てることが子どもの精神的な発育に一番良い」というイギリスの精神医学者ジョン・ボウルビィによる戦争孤児を対象とした調査報告(1951年)が元となっている考え
●スマホ育児批判
かつてはテレビやビデオ、パソコン、今はスマホといったメディアを使って子守りをしたり、親自身が夢中になることで、親子関係や子どもの心身の発育が阻害されるという日本小児科医会の提言(『スマホに子守りをさせないで!』(※1)
●子どもの夜ふかし
子どもは夜9時までに寝ないと、成長ホルモンが分泌されないために発達が遅れ、しかもキレやすくなるというもの
●母乳信仰
ミルク(粉・液体)よりも母乳の方が優れていて、どんな状況においても絶対に母乳のみで育てる方が赤ちゃんのためには良いという考え
●離乳食を遅らせてアレルギー予防
離乳食の開始を遅らせ、なるべく母乳だけで長く育てた方が、食物アレルギーの発症を予防できるというもの
いずれも、日本で一般的に信仰されている“育児神話”です。おそらく多くのママやパパが、これらのほとんど、もしくは全部を正しいと信じ、厳守しながら育児をしているのではないでしょうか。
しかし、森戸先生はこれらに「すべてが根拠のあることなのでしょうか?」と疑問を投げかけています。
たとえば、「3歳児神話」。
精神医学者ジョン・ボウルビィが提唱していたのは、「子どもが育つ過程で、信頼できる大人との愛着関係を築くことが大事だ」ということ。それが、なぜか日本では「3歳まで母親の手によって育てられることが大事だ」にすり替わって信じられてきました。
この3歳児神話はすでに国内外では否定されている考え方で、1998年の「厚生白書(平成10年版)」(※2)では「少なくとも合理的な根拠は認められない」とされ、さらに「母親と子どもの過度の密着はむしろ弊害を生んでいる、との指摘も強い」とされています。
しかし、いまだにこの古い神話を信じている年配者は多く、「こんなに小さいのに保育園に行かせるなんて」「3歳までは家でお母さんが見た方がいい」といったことを言い、ママは根拠のない罪悪感を背負わされながら働くという事態がいまだに起こっているのです。
それは、ほかの育児神話にも当てはまることだと本書は伝えています。
たとえば、今のママはスマホから育児情報を得る機会が多く、小児科の予約をスマホでしたりお薬手帳のアプリを使ったりもします。スマホを使っているからといって育児をおろそかにしているわけではないし、息抜きにゲームをしたとしても一日中ではないのだから何も悪くないということ。
子どもの夜ふかしがよくないのはたしかだけれど、その理由の一つとされてきた「成長ホルモンは夜10時〜翌2時に分泌される」というのは、今では間違いだとわかっていること。夜9時に寝るべき、早く寝ないとキレやすくなるという説に根拠はないということ。
同様に、どんな状況でも母乳育児がいい、離乳食を遅らせたらアレルギーを予防できるという説も、間違っていることがいまでは明らかになっています。むしろ、離乳食に関しては、開始を遅らせることでかえってアレルギーのリスクが高くなることがわかっています。
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しかし、前述の「“親の愛情不足”ですべて片付ける問題」と同じように、小児科医や産婦人科医、看護師、保健師、保育園や幼稚園の先生といった普段から子どもと接している方でも、いまだにこれらの育児神話を唱える人は少なくありません。
そういった専門家でさえ信じているのですから、夫や両親、兄弟、ママ友、会社の同僚が不用意に育児神話を持ち出してくるのも納得です。
では、そんな古くさい育児神話とママはどう立ち向かえば良いのでしょうか?
■今だから夫婦・家族と子育てについて考えよう
ママが育児に不安を感じたり悩んだりするきっかけの一つに、ほかの人からの言葉かけがあります。たとえば「母乳なんでしょ?」「2人目は?」「こんな小さいのに連れ歩いて」「保育園に通わせるなんてかわいそう」など、挙げていけばきりがありません。
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子どもを生んでまず最初にびっくりするのは、こういった「余計なお世話」とも取れる不用意な言葉をかけてくる人が本当に多いことです。家族や友人ならまだしも、通りすがりの知らない年配者からも「今日は良いお天気ね」のノリで「私たちの頃はね…」と育児アドバイスが始まったりします。
また、そういった言葉はほとんどの場合、お父さんではなくお母さんにだけ向けられるのも不思議です。それは、暗に「子育てのメインは当然、母親」という育児神話の押し付けが見え隠れしているようです。
このようなママを悩ませる言葉や態度は、元をただせば前述した根拠のない育児神話がベースになっていることが多い印象です。森戸先生は、「そういった言葉はスルーしていい」と本書の「祖父母世代と親世代のギャップの埋め方とは」の章で解説しています。
スルーしていい理由として、次の2つが挙げられています。
- 祖父母世代が育児をしていた頃の常識が、いまでは非常識となっていることが多い
- 育児はとてもナイーブで個人的な体験のため、各家庭で事情が違う
大抵の場合、言葉をかけた側の問題ですが、相手が義両親や実両親の場合は、育児を手伝ってもらったり一生お付き合いを続けていく関係だからこそ、ことを荒立てられずにイライラ・モヤモヤしながら多くのお母さん、お父さんは我慢しているでしょう。
そういった相手の言葉は聞き流す、適度に反論して距離をとるなどして、それでも改善が見られないなら、「育児で大変な時に、無理して会わなくてもいい」と森戸先生はバッサリ。
育児の協力者は何も家族でなければいけないことはなく、幼稚園や保育園、保育ママ、ファミリーサポートなどの行政サービスを活用するなどで頼れる先をいくつも持っていた方が、子育てのストレスは軽減されることに気づかせてくれます。
そういったことを夫婦で話すことも大切だと本書では伝えています。「育児は母親のもの」といった育児神話によって、これまでずっと子育てにおいて部外者扱い、戦力外通告をされてきたパパ。
でも、いまはもうそんな考え方は古く、夫婦2人で子育てに関わっていく時代。パパも育児の当事者であり、同じ視点から、同じゴールに向かってどう子どもと関わっていくかを夫婦で話し合うことが、育児をもっとラクで楽しいものにしていくのでしょう。
そのためにも「父親も育児参加できるよう排除しないで後押しを」と社会全体の意識改革も必要だと訴えています。
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■子育てでつらい、不安になったときは
「子どもはかわいいし、初めてのことばかりで大変だけど、育児も毎日発見の連続で楽しい。でも、なぜかイライラ・モヤモヤしてしまうのはどうして…」
そんな風にママやパパが悩み、「自分がおかしいと感じているのに『それは、おかしい!』と声を上げられない周囲からの育児プレッシャーが原因」と本書で読み解いてくれた森戸先生。
そのほか、子どもの発達に関する疑問やお悩み、子育てメディアとの付き合い方、小児医療の正しい知識などを、小児科医として、また2人のお子さんのママとしての視点から、わかりやすく解説しています。
読後は、心の中のモヤモヤがすっきりと晴れわたり、「子育てはだいたいで大丈夫よね!」と育児にたずさわるすべての人に安心と勇気を与えてくれる一冊となっています。
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『小児科医ママが今伝えたいこと! 子育てはだいたいで大丈夫』
(内外出版社 森戸やすみ著 1540円(税込))
朝日新聞の医療サイト『アピタル』の連載「小児科医ママの大丈夫!子育て」をまとめ、大幅に加筆したた1冊。
●森戸やすみ先生
1971年東京生まれ、埼玉育ち。1996年私立大学医学部を卒業し、医師国家試験に合格。専門的な学術書と手に取りやすい気軽な本の中間に位置するようなものを作りたいと考えている。
(山本知美)
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