なぜ今、丸紅は「中東・造水プロジェクト」に取り組むのか
財界オンライン / 2022年6月9日 18時0分
サウジやUAEでの実績を積み重ねていくことが…
今年1月、中東・サウジアラビア南西部の紅海沿岸シュケイク地区で、新たな海水淡水化プラントの商業運転が始まった。
『シュケイク3造水プロジェクト』と呼ばれる今回のプロジェクト。プラントの造水容量は1日45万立方㍍、約200万人の飲料水を賄える計算。「逆浸透膜(RO膜)方式」(塩類等を含む水を、浸透圧現象を利用してRO膜に透過させる造水方式)の海水淡水化プラントとしては世界最大級である。
実はこのプラントの建設・保守・運転を担うのが、日本の総合商社である丸紅。水需要が高まるサウジで、25年間に渡り、現地の国営企業に造水・売水を行う予定だ。
「世界で人口増加が進み、気候変動対策もあって、世界の水ビジネスの市場規模は2020年の70兆円から2030年には110兆円規模になると言われている。人々の生活や経済活動に欠かせない水資源を有効活用しようという機運が高まっており、水需要が高まるサウジで安定的に安全な水を供給していきたい」
こう語るのは、丸紅環境インフラプロジェクト部環境インフラ第一チーム長の柴田俊次郎氏。
丸紅は1990年代後半のトルコでの下水処理場建設への融資を皮切りに、リビア、UAE(アラブ首長国連邦)、カタールと、中東地区で、上下水道設備の建設から上下水処理施設のBOT(建設・運営・譲渡)事業など、様々な水ビジネスを手掛けてきた。
現在、同社はチリやフィリピン、ポルトガルでも水ビジネスを手掛けており、これまで蓄積した幅広い知見を中東やアフリカなど、水資源の乏しい地域で活かそうとしている。
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商社で水専門の部署があるのは丸紅だけ
実は中東ビジネスで丸紅が存在感を増してきたのは、現社長の柿木真澄氏の貢献も大きい。当初は中近東でほとんど実績の無かった丸紅だが、柿木氏が関わったアブダビ(UAEの首都)の電力造水事業を受注することができ、カタールやオマーン、サウジといった周辺国で実績をあげていった。
それだけに、柿木氏本人にとっても今回のサウジの造水事業には個人的にも思い入れがあるのではないか。
3年前からサウジの首都・リヤド支店に勤務するプラント担当部長の松井正氏は「1960年代後半から当社はサウジに拠点を開設し、石油化学製品、繊維、建設機械鉄鋼などトレードやプラント建設などのビジネスを行っているが、ここ数年で民間投資を活用した電力や水の大型ビジネスの機会が急激に増加してきた」と語り、「中東での電力・水ビジネスは他商社に比べて当社は実績を積み上げ続けているが、それこそ柿木の貢献も大きい。今後も中東には各国で大型の入札案件が控えており、シュケイク3の受注はサウジやUAE他、中東諸国での今後の水事業の拡大の布石であり、更なる積み上げを狙う」という。
丸紅は今年4月から始まった新たな中期経営戦略の中で、「グリーンのトップランナー」を目指す考えを公表。今回の海水淡水化や上下水道の整備などの水事業は、再エネ開発や水素・アンモニアといった新エネルギーの開発と並ぶグリーン分野の注力事業の一つだ。
前述した柴田氏が所属する環境インフラプロジェクト部は水ビジネスを手掛ける部署で、水専門の部署があるのは商社では丸紅だけ。それくらい、同社にとって水ビジネスは重要な位置づけだと言っていい。
世界中の国々がウクライナ危機でエネルギーや食糧などの確保に追われる中、人の生活に欠かせない水の確保も大事。そこに丸紅が関わる意義がある。
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