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日本取引所グループ・清田瞭CEO「企業の稼ぐ力を上げるために必要な3つのこと」

財界オンライン / 2022年7月1日 18時0分

清田瞭・日本取引所グループ・グループCEO

2022年4月、東京証券取引所の新たな市場区分がスタートした。従来の4市場から「プライム」、「スタンダード」、「グロース」の3市場となった。日本取引所グループCEOの清田瞭氏は常々、日本企業の「稼ぐ力」をいかに高めるか?という問題意識を持って、様々な改革を進めてきた。求められるのは企業と株主の対話。市場再編に残された課題と、今後の日本企業の方向性とは。

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日本と欧米の金融政策の行方は?
 ─ 米国の金利引き上げ、ロシアのウクライナ侵攻などを受けて、日本経済、株価も影響を受けています。現状をどう見ていますか。

 清田 以前の株価の動きは、米国が1下げれば日本は2下げるということが多かったと思いますが、最近は米国が1下げても日本は0.5~0.7くらいしか下げないといった状況になっています。例えばニューヨークダウが1100ドル下げた日の翌日、日経平均が500円程度しか下落しなかったということもありました。

 ─ この要因をどう見ていますか。

 清田 日本経済は、長期間にわたって日本銀行が2%の物価上昇を目指して、量的緩和、低金利政策を続けてきました。その中で、海外でインフレが起きてきたわけですが、日本でも確かに物価は上がり始めています。

 ただ、2022年4月の企業物価指数の速報値は10.0%上昇したものの、消費者物価指数は2.1%と極めて落ち着いています。トータルとして、黒田総裁が10年間トライし続けてきた数字にはなってきていると。しかし、2を目指して2.1ですから、引き締めに転じる状況ではなく、黒田総裁は引き続き緩和を続けると言っています。

 対して、米国は今後複数回の利上げを実施して、量的緩和も縮小し始めるとアナウンスしています。中央銀行、政府として景気抑制策に取り組んでいる国と、引き続き量的緩和を継続する日本の政策の方向感の違いによって為替面では円安ドル高という影響を受けました。

 足元は1ドル=130円近辺で動いていますが、日本が低金利を継続し、米国は金利を引き上げるという政策の違いを織り込んだ水準になりつつあるのではないかと。そう考えると、日本は米国に比べて企業に対する金融面の引き締めの影響は、それほど起きないのではないかと見ています。

 ─ 株価もその動きを反映したものになっているということですね。

 清田 そうではないかと思います。やはり日本は低インフレ国であるがゆえに安定した経済運営が行われていますから、株価の面で言えば米国のようなショック症状的な動きは起きないのではないかと。動いたとしても米国の動きを映した動きでしかありませんから、日経平均が米国ほどの大きな値下がりをしていないのは、それが理由ではないかと思います。

 ─ 米国の株価の先行きをどう見ますか。

 清田 米国の株価については、今後のFRB(米連邦準備制度理事会)の金利引き上げのペースで、今後0.5%が2回、その後に少なくとも0.25%の利上げまでは十分に織り込まれています。

 0.75%という利上げ説もゼロではありませんが、米国の株価も概ね、FRBの引き締めスタンスを織り込んだ感じになってきていますから、今年度上期中は、ウクライナ問題で多少揺れることはあっても、大きな下落にはつながらないのではないかと思っています。

 ─ ロシアのウクライナ侵攻は世界の地政学、経済にとっても不透明感の元ですね。

 清田 そうですね。ただ、ロシアがこれ以上、非人道的な戦争を拡大することは、グローバルには徐々に難しくなってきています。東欧、北欧諸国のNATO(北大西洋条約機構)加盟に対して、様々牽制していますが、おそらくフィンランドやスウェーデンに軍事的な圧力をかけるだけの体力は、ロシアにはもう残っていないのではないでしょうか。

企業の「稼ぐ力」をいかに高めるか
 ─ これまでの日本経済において、企業の「稼ぐ力」が弱いというのが大きな課題でした。この解決に必要なことは?

 清田 おっしゃるように、日本企業の稼ぐ力が弱いこともあり、EPS(1株当たり純利益)が非常に低かった。すなわち、稼ぐ力であるROE(自己資本利益率)が1株当たりの平均で4~5%程度だったわけです。

 日本のROEが4~5%を長く続けてきた一方で、欧米はマーケット平均で10%から15%が当たり前という状況でした。安倍政権はそこに着目して、アベノミクスで企業の稼ぐ力を引き上げようとしました。

 その時の考え方は、日本企業の経営は非常に非効率的だと。すなわち、日本企業は持っている資本をいかに有効活用するかという観点が抜け落ちていると見たのです。

 ─ それがROEが低水準になっている要因だと。

 清田 ええ。日本企業が預かった資本を4~5%のリターンでしか運用できていないのに対し、欧米は2桁です。そこで、これを高めることが必要だということでした。ROEが5%の日本企業が15%に上がれば、日経平均は8000円から2万4000円と3倍になるはずだという考え方です。

 その考え方に基づいて14年に公表されたのが、一橋大学の伊藤邦雄氏が座長としてまとめた「伊藤レポート」です。この中では株主が期待するROEは最低8%だと書かれていました。

 その後、「伊藤レポート」の方向性でガバナンス改革が行われるようになりました。しかも、コーポレートガバナンスというものは、経営者に対して意識改革を求めていました。やはり企業経営は、株主から預かった資本をいかに効率的に事業で運用してリターンを上げ、そのリターンから様々な社会とのコミットメントを果たした上で、最後に残ったものがROEのいう全体の純利益だと。

 ─ それまでの日本企業にはなかなか根付いていない考え方でしたね。

 清田 そうですね。企業の稼ぐ力を上げるためには収益力を高めなければなりませんし、そのためには資本の質を高めなければなりません。資本生産性、つまり資本にはコストがかかっているのだという発想が、それまでの日本の経営者にはあまりありませんでした。

 これは私がいつも申し上げていることですが、企業は配当や自社株買いで株主に還元する前に社会、顧客、従業員に対するコミットメントを果たし、取引先との契約も全て履行し、それでも残った利益が純利益であり、そこから株主に配当や自社株買いで還元することが必要です。

 この考え方であるがゆえに、株主と経営者というのは、残った純利益の中からどれだけを投資に、どれだけを株主還元に回すかということも含めて、対話する必要があります。

 株主が何を望み、求めているのか。経営にどうして欲しいのか。「配当よりも成長をして欲しい」という株主が多くいる会社は成長を目指す必要があるでしょうし、経営が安定している電力やガスなどのように、成長よりも安定的な配当をお願いしたいという場合には、どういった経営がいいのかということについて、株主との建設的な対話を徹底することです。

 そうして経営者は自分の経営を、できる限りガバナンスが利いたものにする。ですから株主の側も経営者に対して、自分達の望みを常時伝えていくことが大事になります。

 ─ 企業と株主のコミュニケーションが大事になってきますね。

 清田 我々も、そうしたお互いのコミュニケーションが非常に重要になるということで、14年に「スチュワードシップ・コード」、15年に「コーポレートガバナンス・コード」を導入しました。スチュワードシップ・コードは投資家、コーポレートガバナンス・コードは経営者に対する行動原理をつくり、それに基づいて皆さんに投資や経営を判断していただきたいという主旨でした。

市場再編に残された「経過措置」という宿題
 ─ 22年4月に東京証券取引所の市場区分が「プライム」、「スタンダード」、「グロース」の3市場に再編されました。これまでの経緯を聞かせて下さい。

 清田 18年頃から方向性を固めて、19年には市場再編の具体的内容がほぼ固まりました。当時はまだ、市場の名称は決まっていませんでしたが、4つの市場を3つに再編するという考え方はありました。

「プライム」は日本を代表してグローバルに活躍する企業の集まり、「スタンダード」は日本企業として十分な流動性と信用力のある事業規模だけれども、グローバルにはそれほど展開していない企業のマーケット、「グロース」は高い成長が期待されると同時にリスクがあるマーケットにしようということで議論を進めてきました。約3年かけて準備を進めて、22年4月からスタートしたわけです。

 ─ 例えば以前の東証1部に上場していた企業が「プライム」の上場基準に達していないといった問題もありますね。

 清田 ええ。市場再編以前は、東証2部やマザーズから東証1部に指定替えする際には、時価総額40億円以上であればよかったわけです。市場再編前までは時価総額40億円で東証1部にしていて、4月になって「ダメです」というわけにはいかないという声は強くありました。

 そこで、東証1部上場企業で、プライムの上場基準に達していない企業があっても、希望すれば残ることができる経過措置というものを設けたわけです。ただし、希望する場合には新たな上場基準に適合するために計画書を出してもらうこととしました。これはスタンダードも同様です。

 その結果、東証1部で約2200社が上場していたのに対し、プライムは約1800社まで減りました。当初から新たな上場基準を適用した場合、約1500社まで減る予定でしたから、約300社が経過措置で残ったのです。

 ─ この約300社の上場維持の見通しは?

 清田 少し努力すれば達成できそうだという会社がある一方、中には「これは難しいのではないか」という会社もあり、やはりプロの方々から見たら「なぜ経過措置なんて入れるんだ」というご意見もあります。

 しかし、これだけ大きな市場構造の転換をする時に経過措置、すなわち激変に対する特例措置を設けずに問答無用で移行するというのは、いくら取引所がそうしたルールづくりの権限をいただいていたとしても、それはやるべきではない。

 これは有識者会議でも、そういったご意見が出て、今の措置にさせていただいたわけですが、市場再編をした後の最大の問題として解決しなければならない宿題は、この経過措置を今後どうしていくかという点です。

 ─ 上場基準をどうしていくかも大きな課題ですね。

 清田 ええ。今回、自らがいつ上場廃止のリスクを負うかわからない企業が多く出てくるわけです。上場基準にギリギリで達した場合、翌期には上場廃止基準に抵触する恐れがあります。

 階段をせっかく一段上がっても、一段下がったらもうアウトという感じです。すぐに上場廃止のことを心配しなければいけないというような上場はしたくないということで、ある程度企業規模が大きくなるのを待って上場するという考え方を持つ企業は多くなっています。

 これは私の希望的観測ですが、一定以上の事業規模になるまでの間、非上場時点で資本が調達できるようなマーケットが発達する必要がありますし、つくらなければならないと思っています。

 また今回、上場しても上場廃止の可能性があるという点は、有識者会議でも様々ご議論いただく必要がありますが、仮に上場廃止になった場合でも、そうした企業に対する受け皿市場というのも議論をする必要があると考えています。

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