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【モノを運ぶプロフェッショナル】 ダイフク・ 下代博の『コロナ禍でも生産を止めない物流システムを』

財界オンライン / 2021年7月20日 7時10分

ダイフク社長 下代 博

マテハン。正確には【マテリアルハンドリング】で、生産拠点や物流拠点でのモノの搬送・管理を行う業務。この領域で世界1の評価を受けているのがダイフク。このコロナ禍でも受注は多く、2021年3月期の増収増益で売上高は史上最高を記録。背景にはネット通販の伸びで、世界で物流センター投資が相次いでいること。そして人手不足を解決するための自動化ニーズの高まりがある。「ずっと物流の自動化を手がけてきたことで、物流センター建設の際に皆さんに声をかけていただいています」と社長の下代博氏。同社の好業績を支えるのは、この物流センターと半導体領域の2つ。5G(移動通信システム)や自動運転などで最先端半導体開発が進む中、半導体の生産工場での原材料や部材などの搬送で、ダイフクの物流システムが使われる。「われわれの機械が止まれば、半導体工場が止まってしまう。ですから、責任重大で、絶対に止めてはいけない」という使命を担う。世界的に半導体不足が言われる中、産業界の黒衣としての潜在力をどう掘り起こしていくか─。
本誌主幹
文=村田 博文

コロナ危機下、世界各地でいろいろな場面に遭遇

 コロナ危機下、社員の安心・安全をどう図るか──。これは経営上の最重要課題の1つ。ダイフクはグローバルに事業を展開しているから、世界各地でいろいろな事態に遭遇する。

 最先端半導体の開発で世界的に有力拠点の1つとされるイスラエルでは5月、同国政府とイスラム原理主義組織でガザ地区を支配するハマスとの間で戦闘が起こり、双方に犠牲者が出た。

 米国の半導体メーカーもイスラエルに生産拠点を構えるなど、世界の有力企業が同国に進出。ダイフクも半導体生産工場での搬送・管理システムを納入しているが、同国で仕事をしているのはダイフクの米子会社の社員。「いろいろな紛争が起きる中で、機器の据え付けなどの仕事をしていましたが、さいわい被害はありませんでした」と社長の下代博(げしろひろし)氏は話す。

 コロナ危機がパンデミック(世界的大流行)となった昨年初め、中国に進出している自動車会社に搬送・管理システムを納入するため、ダイフクの社員も多数中国にいた。

 中国では上海市と江蘇省の常熟市、蘇州市と3か所に現地法人の拠点を構え、その出先(分公司)は北京、天津、武漢、広州と各地に広がる。現地の社員を入れると約1000人の規模になり、日本人社員も約170人を数える。

 昨年1月、新型コロナウイルスによる肺炎が大きくクローズアップされ、武漢が都市封鎖されて、世界中に緊張感が走った。
 日本政府も直ちに対応し、政府チャーター便を同年1月に2便出して、日本人関係者を帰国させた。

「あの2便とも、われわれはお世話になっているんですよ。武漢にいた社員とパートナー会社さんを含めて20数名、30人近くが日本に帰ってきました。自動車関係とか、あとは液晶関係ですね。液晶パネル、テレビのフラットパネルディスプレー関係の大きな工場というのは今、ほとんど中国です」

 コロナ禍が発生した頃はちょうど中国の春節(旧暦の正月)。中国では最も重要とされる祝祭日で、国民も新暦の正月よりも盛大に祝う。

 この時期は、事業会社にとっては設備の点検、修理に当たるタイミング。「わたしどもも、日本と一緒で皆さんが休んでいる間にラインを新しくする。そういう関係でわれわれの人間も現地で作業の指揮をしたり、最後の調整の指示をしている途中で
した」と下代氏は語る。

 マテハン(マテリアルハンドリング)で世界首位のダイフクの事業活動は世界に広がる。
 売上全体の7割は海外であり、社員数約1万2000人の7割は外国籍。グローバルに事業活動を展開すると、こうした危機や地域紛争の影響を受ける場合も出てくる。

 マテハンの仕事は、取引先の生産拠点や物流拠点内での原材料、仕掛品、完成品全ての移動に関わる。そうした搬送、つまりモノの移動をいかに効率よく行うかがマテハンの最大課題。

 搬送コストや時間を最小限にすることで、その工場の運営コストも下がる。製造拠点や物流センターでマテハンの生産性が重要視されるユエンである。

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コロナ禍での増収増益を支える要因

 このコロナ危機下、ダイフクの2021年3月期の決算は増収増益となった。
 売上高は約4739億円(前年同期比6・8%増)、営業利益約445億6600万円(同10・0%増)、経常利益約458億4600万円(同11・9%増)、でROE(株主資本利益率)は13 ・2%(前年同期は12・4%)という内容。

 売上高は過去最大となった。利益面ではコロナ前の2018年度(19年3月期決算)が史上最高益。
 2018年度は、世界で『メモリバブル』が起きた年である。
 そして液晶も大きな需要のうねりが生まれた年。10・5世代で3㍍角ほどの画面サイズ65インチ、75インチといった大パネルの生産工場が中国を中心にどしどし作られた。

 こうした液晶大パネル工場には、清浄な環境が要求され、クリーンルーム内での搬送技術が不可欠。
 マテハン業界でも、このクリーンルーム技術を持っているのがダイフクということで、同社に受注が殺到。2018年度が史上最高益になった背景にこの「メモリバブル」と液晶ブームがあった。

 一時期、特殊要因があったということだが、同社の業績はここ数年、右肩上がりで推移。コロナ禍をものともせず、好業績をあげられる要因について、下代氏が語る。

「やはりeコマースが定着してきたということ、ネット通販ですね。コロナ禍で巣ごもり需要も出て、ネット通販で買うという消費行動も盛んになった。それで物流センターがたくさん建ちました。それと人手不足をどう解決するかという課題ですね」

 人手不足──。ことに物流の領域では人手不足は深刻な問題。
「人手不足の現象が起きている中で、これだけeコマースということになると、小さな単位で商品を集めて、パッケージして出荷するという作業に、普通なら人手がかかるところを、自動化でいこうと。人手不足で、人がいませんという中で、自動化というそのダブルですね。人手がかかるeコマースがどんどん伸びているのに、人手はどんどん少なくなる。そのダブルで、やはり自動化をしなければ仕事が成り立たないようになってきた」

 コロナ危機で人の生き方・働き方が変わり、消費行動も変わってきた。ポストコロナをにらんで、eコマースはますます盛んになり、モノの流れは国境を越えていく。

 世界で今、一番の勢いを感じるのは「北米です」という。
 北米の次は、中国を含めたアジアで、欧州については、「そこまでわれわれが手を広げる現状にはないですね」という下代氏の説明。
 アジアも今後の成長が十分に期待できる。

グローバル展開は地産地消で

「われわれが基本的に今、考えているのはその国に工場をつくって、その国で機器をつくり、お納めすると。もちろん心臓部とか、一部は日本から持ってまいりますけれども、日本と同じようなものが現地でつくれるということをキーにおいています。われわれの機器は大きなものですから。日本から持っていくというのは、非効率的ですからね」

 地産地消──。中国も先述のとおり、上海、常熟、蘇州を三大拠点に、天津、武漢、広州など各有力都市に開発・生産拠点を構える。現在、注力中のインドも最近、M&A(合併・買収)したところの工場に加えて、その横でさらに1つ工場を建設中。

「中国もインドでも地産地消を進めていく。インドで注文をいただいたものは、インドでつくってお納めしようと」

 日本も今、物流システムやマテハン機器の需要は高いが、人口減少が進み、今後を考えると、どうしても海外市場に期待するというのが現実的な選択。
 実際、同社の新工場建設が世界各国で相次ぐ。2019年度、2020年度と米国ではeコマース系の需要に応えるための新工場建設が続いている。

 旺盛な需要が続く中国では、自動車向けの常熟で新工場を増設。半導体、液晶関連の蘇州でも現在、新工場を建設中。 アジアでは、タイ工場も建設中だし、インドも先述のとおり、増設が進む。

 北米では、米国で空港関連のバゲージハンドリングの需要が伸び、いまミシガンで新工場建設が進む。

 航空分野は、コロナ危機で大打撃を受け、2020年は旅客需要がほぼ吹き飛んだ形。エアラインは巨額赤字で苦境に置かれている。それなのに、航空関連のマテハン需要が増えているのはどうしてか?

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アフターコロナを見据えて―世界は活発な投資を

「航空分野は昨年度も驚くなかれ、われわれの空港からの受注や売上は最高でした」と下代氏は語り、次のように続ける。
「というのは、コロナ危機だからといって、海外はそう簡単に空港建設を止めるとか、計画を延期するとかいうのは、基本的にないです。米国などは一部で大手エアライン専用のターミナルで1年、2年延期するというケースがあります。確かに航空業界は一時的に体力を消耗していますからね。しかし、国や州の空港公団などのターミナル計画や、老朽化した空港のリニューアルといったものはそれほど影響はありませんでした。というのはターミナル建設、整備の期間は3年、4年かかりますし、コロナで中止するということにはならないと思います」

 航空分野でいえば、旅客需要はワクチン接種の進展と関わってくる。接種率の高い米国などでは国内航空便の利用者も回復し始めている。

 昨年度の航空旅客数は世界で40億人。中長期視点で20年後には80億人に達するという見方もあるが、今後の人の移動をどう見るか?

「普通にいけば、航空の旅客数はまだ伸びると。このコロナ禍ということですが、旅行は戻ってくるし、人の動きも戻る。リモートワークで出来る仕事というのも十分分かったし、ビジネスにおける移動がどれ位になるのかは未知数ですけれども、人が会って話をしないといけないとか、人同士の直接的な交流というのもあると思っていますから、やがて結果は出てくると思います」

 人の移動、モノの移動を支えるマテハン業界のトップとして、つまり産業界の黒(くろこ)衣の立場から、「もう皆さん、それがニューノーマル(新常態)なのかどうかは分かりませんけれども、アフターコロナを捉えて、やはり手を打つなどして進んでおられるのだと思います」という現状認識を下代氏は示す。

常に最新のものを開発 そして顧客との約束を…

 ダイフクは1937年(昭和12年)5月、大阪市西淀川区に設立された機械メーカー・株式会社坂口機械製作所に淵源をさかのぼる。終戦から2年後の1947年に大福機工に社名を変更。
 その後、搬送機器メーカーとして、”初物”を次々と開発。1957年(昭和32年)、チェーンコンベアシステム1号機をトヨタ車体に納入。東洋工業(現マツダ)やいすゞ自動車、富士重工業(現SUBARU)と納入先が広がる。

 1965年(昭和40年)、国産初の無人搬送車『プロントウ』を開発。
 1977年(昭和52年)に洗車機の生産を開始。洗車機は同社の有力事業の1つになっている。
 そして、1993年には、世界初の無接触給電搬送システムを開発。その1号機をトヨタグループの関東自動車工業岩手工場に納入。また、FA(ファクトリー・オートメーション)の時代になると、例えばファナックのロボット活用で”無人で動
く工場”建設の手伝いをするなど、活躍の場が広がっていった。

 このように搬送システムづくりにおいて、日本で初めての自動走行や、初めての無人搬送車を開発し、世の中に送り込んできた歴史。
 物流システムで最新のものを開発し、リードしていく──。

「これからの時代を考えて、次はこういう時代になるから、こういう新しい物流システムをお客様に提案し、送り出していこうという気持ちはこれからもずっと大事にしていきたい」

 下代氏は”新しいものを開発する”というDNA(遺伝子)を大事にしたいと語る。

「トヨタ自動車さんに1959年、初めて元町工場に納入させていただいた自動車ラインのように決して生産を止めないと。ご迷惑をおかけすることもありますけれども、工場の稼働を守り続けると。そのためには、絶対に逃げない、絶対に約束を守る。そういったDNAというのは今も、ずっと続いていますから。そういう意味で、お客様からも信頼されるのだと。それは社員の生き甲斐になります」

 世の中にはいろいろな危機やリスクが存在する。過去もそうだったし、現在も存在し、これから先も自然災害や環境激変を含めて、危機は起こり得る。
 そうした状況に遭遇しても、顧客が抱える課題解決に向けて、先人たちがDNAとして残してくれている「『逃げない』、『諦めない』の精神を受け継いでいきたい」と下代氏は語る。

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半導体工場のマテハンが大きな収益源に

 ダイフクの収益源には、これまで述べてきた物流センターともう1つ、半導体分野がある。

半導体工場の搬送・管理システムづくりを請け負う仕事である。
 一見、物流センターと半導体工場とでは、かけ離れたものに見えるが、両者に共に不可欠なのがマテハン。モノを運ぶ機器と、保管やピッキングなど、いわゆるマテハンの技術やシステムである。

 デジタルトランスフォーメーション(革命)が世界規模で進む今、それを支える半導体産業の重要性がクローズアップ。最先端半導体を国家戦略として捉え直す動きも、米国はじめ各国で高まる。

 経済産業省も今年6月、半導体産業やデジタル産業を国家戦略として推進する『半導体・デジタル産業戦略』を取りまとめた。
 その中で、半導体は5G(第5世代移動通信技術)、AI(人工知能)、IoT(全てのモノがインターネットにつながる)、自動運転、ロボティックス、スマートシティづくりなどのデジタル社会を支える重要基盤とし、安全保障にも直結する死活的に重要な戦略技術──と同省は位置付けている。

 今、半導体の量産体制は回路線幅5ナノ㍍(ナノは10億分の1)という”超極小”の世界で進められている。半導体受託生産では、最大手の台湾・積体電路製造(TSMC)と韓国・サムスン電子などがシノギを削る。5ナノの生産が2020年に始まったかと思うと、米IBMは「2ナノを開発した」と発表するなど、競争が激しい。

 ナノスケールの小型化は経済競争や国家の安全保障に関わるという各国の問題意識である。

 今はロジック(演算)の半導体で5ナノの世界だが、この5ナノの工場運営をマテハンが支える。そのマテハンの役割は実にきめ細かく、寸分のミスも許されないような仕事の連続だ。半導体製造装置の中の”モノの移動”について、下代氏が語る。

”モノの移動”を担う使命感に…

「半導体の製造装置。ああいう四角い真っ白な箱の中は見えないですけれども、あそこにウェハーを何十枚と入れたカセット、FOUP(フープ)と呼ばれるカセットを供給する。そこからウェハーを1枚ずつ中で取り出して、それに印刷して、露
光しながらやっていく。そして次の工程に送る。そのためにまた、カセットに入れる」

 半導体製造に不可欠なクリーンルーム。半導体をつくるための原材料、部材をレールに乗ったビークル(台車)で天井搬送し、それを下ろしたり、また持ち上げたりという搬送システム。
 途中、一時貯蔵するためのストッカーに入れ、そこに窒素を注入して劣化を防ぐという作業も必要。

「大きな工場ですと、200㍍×400㍍位の規模。そうした工場は製造装置なども含めて、1・5兆円位の投資になる。そういう工場が3棟位建っているという所で、5ナノという最先端の半導体が生産されています」と下代氏。

 同社が担うのは搬送設備。
「ウェハーの入ったFOUP(カセット)を運ぶビークルという台車が工場内に1200台走っています。それこそ縦横無尽に、ですね」
 半導体の製造過程は実に複雑。前工程と後工程とに分けられ、前工程だけで約600工程。後工程を入れると800工程になるといわれる。1つの半導体製品が出来上がるまでには2か月から2か月半かかるといわれるのも、これだけ多くの工
程を抱えるからだ。

「半導体の製造装置は世界にも日本にもすばらしいメーカーさんがいて、世界トップの水準を行っていますけれども、半導体の装置がたくさん並んでいても、われわれの機械が止まってしまって、システムが止まれば、その半導体工場は止まるんです。ですから責任重大で、止めてはいけないと」

『ダイフクらしさ』の追求

 同社は物流システム・マテハン機器で世界1の座にある。
 米国の雑誌『Modern Materials Handling』は毎年、マテリアル・ハンドリング・システムのトップ20を選んでいるが、2020年度もダイフクはナンバーワンに選出された。

 7年連続のトップである。
 1位はダイフク(売上高約45億4000万米ドル)、2位は米国のデマティック(同32億2600万米ドル)、3位はドイツのシェーファー(売上高31億2000万米ドル)、以下4位はオランダのファンダランデ、5位は米国のハネウェルインテリグレーテッド、6位は日本の村田機械という順位。

 同社の強みは、その総合力にある。同じマテハンといっても、フォークリフトとか起重機とか、それぞれの専門分野で勝負するメーカーもある。
「はい、空港のバゲージシステム、乗客の皆さんの手荷物を運んだり、あるいは自動倉庫の搬送システムとか、運ぶもの、そして場所もシチュエーションも違ってきます。ただ、マテハンが必要という意味では一緒です。ですから、われわれは運んだり、一時ストックして保管したり、あるいはその商品をピッキングしたりとか、そういう『物』というものをこれからも詰めていきたい」
 問題から逃げない。諦めない─。

1937年(昭和12年)の創業から84年。先人たちが常に物流システムの最先端を追ってきたDNAを受け継ぎ、さらに強化しながら、「ダイフクらしさを追求していきたい」と下代氏。コロナ危機下での自分たちの使命の実践である。


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