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【アサヒグループホールディングス】勝木敦志社長「欧州や豪州ではプレミアム化が進む!」

財界オンライン / 2021年7月29日 7時0分

かつき・あつし
1960年北海道生まれ。84年青山学院大学経営学部卒業後、ニッカウヰスキー入社。ウイスキーの海外営業などを経験し、2002年にアサヒビール転籍。06年国際経営企画部長。11年にオセアニア酒類大手の買収を担当。14年豪州事業CEO、16年アサヒグループホールディングス執行役員を兼任。17年取締役兼執行役員、18年常務、20年専務兼CFOなどを経て、21年3月から現職。

3極体制でシナジー効果を

 ── コロナ禍での社長就任となりました。3月の就任から3カ月余が経ちましたが、自らの役割をどう考えますか。

 勝木 皆さんからはよく「大変な時期にトップに就任されましたね」と言われるのですが、皆さんにお答えしているのは「もう今が底です」。これから良くなる一方なので、今後はまさに「朝日(アサヒ)が昇る」という状況をつくっていきたいと。

 幸い当社は成長に向けたいろいろな準備を行ってきました。例えば、海外の展開や国内でのイノベーションの取り組みです。その中で社員に言っているのは、いろいろな形で経営の質を高めていこうということです。

 今までは日本、欧州、豪州と独自にそれぞれの事業を伸ばしていく方法をとってきました。しかし、去年、各地の統合が完了し、日本では日本統括本部を設置しました。私が本部長です。

 ── 今後は日・欧・豪の3事業をうまく組み合わせると。

 勝木 日・欧・豪の3極のプラットフォームがきちんと固まってきましたので、いよいよグローバル・シナジーを出していく体制になったということになります。各地の事業の質を高めると同時に、グローバルのプラットフォームでの成長を目指していこうと。これが当社の基本的な姿になると思います。

 そして、どうやって質を高めていくか。これには切り口がいくつかあると思います。まずは人材の育成や活用をグローバルで進め、ベストプラクティスを共有していく。コロナ禍で働き方が変わる中、来日せずとも日本のヘッドクオーターの仕事ができることも判ったので、デジタル技術を活用してグローバル単位で人を活用していきます。

 また、これまでは麦芽やホップの一部しか共同調達を行ってこなかったのですが、今後はこれをグローバルに進めていきたいと考えています。どのカテゴリーを共同調達するかを具体的に検討していきますが、原材料の面でシナジーを出していきたいと期待しているところです。

 ── できるところからやっていくということですね。

 勝木 はい。そしてもう1つがデジタルトランスフォーメーション(DX)です。国内では日本統括本部内にDX推進を担当する「バリュークリエーション室」を設けました。DXのポイントはデータです。

 このデータを扱うデータアナリティクスの担い手を育成するプログラムへの参加者を募集したところ、国内では想定を上回る500人以上の応募がありました。これは文系理系は関係ありません。今後、データを活用してビジネスを行うことは、あらゆる職種で求められてくると思います。ですから、当社もその部分については強化していくつもりです。

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事業で社会的課題を解決する

 ── コロナ危機でビール業界は大きな影響を受けました。

 勝木 ええ、私は「未来が早く来た」と思っています。消費の多様化や社会の変化はコロナがなかったら10年先だと思われていましたが、それがいま訪れている。1981年以降に生まれたミレニアル世代や90年代中盤以降に生まれたZ世代の方々は、エシカル消費や環境への影響に対する関心が高い。

 以前からこのことは判っていたことでしたが、それが社会全体に広がってきていると我々は強く意識しなければいけません。したがって、私もサステナビリティを経営にしっかり組み込んで、経営戦略そのものとして進めていこうよと社内に呼びかけています。これは海外も同じです。我々は事業を営む中で、社会課題を解決していかなければいけません。

 ── 事業そのものを社会課題の解決につなげるのですね。

 勝木 我々の収益の源泉が社会的課題の解決になるところまで進めていかないと、生き残っていけないと思います。

 ── 事例はありますか。

 勝木 はい。昨年、アサヒビールで「スマートドリンキング」宣言を行いました。酒類に含まれる純アルコールグラム量のホームページでの開示を今年3月から開始し、商品への表記も8月から順次行います。加えて、2025年までにアルコール度数3・5%以下の低アルコールやノンアルコールの商品を全体の20%に高めていきます。

 3月末にアルコール度数0・5%のビールテイスト飲料「アサヒ ビアリー」を、首都圏を中心とした1都9県で先行発売し、6月末からは全国発売を始めました。先行発売で非常に手応えが良く、足元でも全国から受注が好調に集まってきている状況です。これを手始めに、いろいろな商品を出していきます。

 お酒を飲める人、飲まない人、飲めるけど飲まない人と様々な人たちがいます。また、翌日の仕事を考えて控えるときもある。そうした様々な方々や状況における飲み方の選択肢を広げ、多様性を享受できる社会の実現を目指すのがスマートドリンキング宣言です。これには多くの共感を得ているところです。


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 ── 人々にとって酒類の価値はどんなものだと考えますか。

 勝木 やはり人に潤い、楽しさ、喜びをもたらしてくれるものだと思います。コロナ禍で人と人のつながりがより一層重要になってきました。そのつながりをつくるために、ハードルやバリアーを下げるという酒類の効能は今後も決して失われることはないと思っています。
 ── 業務用に強い「スーパードライ」が飲食店の営業自粛で影響を受けていますね。

 勝木 そうですね。昨年の業務用の売り上げは金額ベースで4割減になりました。当社のビール類のうち業務用構成比は19年に31%あり、昨年は21%でした。昨年、4割減少した売り上げを今年は1割戻す計画でしたが、足元の状況をみると、少し遅れているような状況です。

 グループ全体の業績としては、22年には19年レベルに戻すと言っています。ただ、国内酒類事業が19年のレベルにまで戻るには、さらに1年程度はかかるのではないかなと。業務用は19年の姿にそのまま戻ることはないと想定していないといけません。アクリル板の設置や消毒も当面は残るでしょう。外食の機会を消費者の方々にとって特別な機会にしていかねばなりません。

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ニッカウヰスキー最後の日

 ── 需要の創造はできるということですね。もともと勝木さんはニッカウヰスキー出身ですね。その志望動機とは。

 勝木 実家が酒屋だったものですから、お酒の知識はそれなりにありました。就職先もお酒のメーカーだなと思い、必死になって就職試験を受けたのです。その中で最初に内定の連絡をいただいたのがニッカでした。

 ── 勝木さん自身が北海道出身ですから、ニッカに対する親しみもあったでしょうね。

 勝木 北海道人として竹鶴政孝さんが創業したニッカは憧れの企業ですし、1972年に行われた札幌オリンピックで金メダルを獲ったニッカ所属のスキージャンプ選手・笠谷幸生さんの印象も凄く強かったですね。

 ── その後、アサヒグループの子会社になるということで、当時は不安を抱いていたと。

 勝木 はい。ニッカの最終日の2001年3月31日、同僚と飲みに行って「もう終わったな」と言って、濃い水割りを飲みながらさめざめと泣きました。「明日から目を伏せて廊下の端っこを歩くんだぞ」とか言いながらですね(笑)。でも実際はそんなことはありませんでした。プロパー社員と同じでしたね。

 実はアサヒビールは1990年くらいから中途採用を凄く増やしていました。ですから、当時の日本企業としては珍しいくらい、いわゆるダイバーシティ&インクルージョンが進んだ企業だったのです。特に、ニッカが完全子会社化されたとき、当時のアサヒビールの社長は「統合10カ条」の第1条に「社員を出身で差別することは許さない」と掲げていたのです。

 このことを後になってから知りました。こういう組織のトップの意思があって、組織の文化があって、我々を温かく迎え入れてくれたことに気づいて2度目の涙を流しましたね。

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海外ではプレミアム化が進む

 ── その原体験があるのですね。最後に、今後のグローバル展開を聞かせてください。

 勝木 当社の基本方針はスーパードライをはじめ、プレミアムブランドを世界の方々に楽しんでいただき、収益をグローバルで上げていくというものです。このプレミアム戦略には今でも自信を持っています。去年、欧州で業務用が壊滅的な状態になり、家庭用に需要がシフトしましたが、当社の家庭用の売上金額は16%アップしました。

 その内訳は販売数量が9%アップで、単価が7%アップです。これは単に我々が値上げしたのではなく、欧州全体でプレミアム化が進み、市場がスタンダードからプレミアム、そしてスーパープレミアムへとランクアップしていることが背景にあります。

 中でも家庭用におけるプレミアム化については、我々も想定していなかったので勇気を得ました。今後もプレミアム化が更に進んでいくと思っています。

 ── 価格が高くても、本物を求める傾向が強いのですね。

 勝木 はい。確実にそういう消費傾向が欧州では高まっていると思います。これは豪州でもそうです。また、このプレミアム化に寄与するもう1つの流れがあります。それがノンアルコールビールです。これはプレミアム価格帯でも展開できています。ノンアルの市場は欧州ではビール全体の6%くらいですが、30年には20%くらいになるだろうと予測を立てています。

 ── その中で日本の立ち位置はどのようになりますか。

 勝木 日本は非常に苦労しています。家庭用についても、お花見や花火大会、お祭りといったハレの日需要が大きな影響を受けています。当社のスーパードライは缶製品の8%くらいがハレの日需要です。

 実は去年、スーパードライの缶は5%減りました。ハレの日需要が直接ダメージになったということです。したがって、コロナ禍が終息していかないと、なかなか回復は難しいのかなというのが正直なところです。

 しかしながら4月に発売した「生ジョッキ缶」は予想を大きく上回る販売となりました。消費者の生ビールに対する渇望は凄く強いと感じます。それと生ジョッキ缶はSNSなどを使うデジタルネーティブ世代と言われる20代や30代の方々、女性にも非常に好評でした。SNSで「スーパードライっておいしいんだね」といった反応をいただいたのは狙い通りですね(笑)。

 スーパードライのユーザーは50代と60 代がメインで、20代や30代の方にはなかなか認知されていませんでした。しかし、生ジョッキ缶を手に取った若い方々にスーパードライが認知されたということは非常にありがたいことだと思っています。

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