特集2017年10月17日更新

既存のTVの枠を打ち破れるか 大人気のAbemaTV

元SMAPの稲垣吾郎、草なぎ剛、香取慎吾の3人が出演する番組を放送することで注目を浴びている「AbemaTV」。その基本情報や過去に話題になった番組、関係者の言葉などを紹介し、利用者が急増している背景を探ります。

目次

元SMAP3人の番組を放映決定

11月2日21時から「72時間ホンネテレビ」

9月8日をもってジャニーズ事務所を退所した元SMAPの稲垣吾郎、草なぎ剛、香取慎吾の3人が、11月2日よる9時から3日間に渡って放送されるAbemaTVの特別番組 「稲垣・草彅・香取3人でインターネットはじめます『72時間ホンネテレビ』」に出演する。
同番組では、インターネット番組初登場となる稲垣、草なぎ、香取の3人が退所後初めて共演。3人がTwitterを開始し、視聴者からリアルな質問にホンネで答えていくことに。

「3人のホンネをさらけだす3日間」

何しろ「ホンネテレビ」というネーミングからして刺激的。ここに「テレビではできないこと、前事務所ではできなかったことをやろう」という強烈な意志が表れています。
YouTubeの予告動画は、さらに強烈。「3人のホンネをすべてさらけだす3日間」「ありのままの3人と新たな歴史の一歩を共に踏み出そう」「ありのままの ありのままの笑顔に戻る3日間」というメッセージが添えられていました。

海老蔵、関根勤、キャイ~ンなども出演決定

さらなる大物ゲストも?

「72時間ホンネテレビ」では、歌舞伎俳優の市川海老蔵やタレントの関根勤、実業家の堀江貴文氏、ボクシング元世界王者の亀田興毅、お笑いコンビ・キャイ~ンらの出演が発表されていて、さらなる大物ゲストの出演も期待されています。

すでに市川海老蔵さんと堀江貴文さんのゲスト出演が決定したようですが、まだ「自由な立場のタレントが手を挙げている」というだけの段階。最終的には、大手芸能事務所のタレントが出演する可能性も十分ありうるでしょう。
すでに「さすがに中居(正広)くんは難しいでしょ」「いや、森(且行)くんならあるかも」「海外の大物アーティストが出演?」なんて声が飛び交うなど、当日まで盛り上がりそうです。

「3人を自宅に泊めてくれる方」など芸能人を公開募集中

番組では、昼夜ぶっ通しで生放送する3日間の中で、3人を自宅に泊めてくれたり、番組に生出演して一緒に当日の生放送を盛り上げてくれたりする芸能人を公開募集することも決定している。

この呼びかけを受けて、お笑いタレントの今田耕司や品川祐、タレントの菊地亜美、韓国の俳優チャン・グンソクなど、多くの芸能人が番組出演に名乗りを上げています。

ネットからは番組に対する期待の声

「3日間ひきこもり確定」「ネットで見られる日が遂に」

番組の発表に対して、ネットからは歓喜と期待の声があがっています。

ネット上では「Instagram、ブログ、YouTube、楽しみ過ぎます!11月2日が待ち遠しい」「3日間ひきこもり確定だけど、うれしい!」といった多くの歓喜の声が上がっている。
「『新しい地図』3人の初共演がネットなんてビックリ。本当に新しい」「ネットで見られる日が遂に」「生放送!しかも3日間!最高です」などのコメントともに、ファンからは「昨日スマステが終わって沈んでたけど、今日のAbema発表で一気に上昇。高低差ありすぎて耳キー…(自重)」「あまりの急展開すぎてついて行けない…世代なのかな?ツイッター覚えてばかりなのにあべま?…がんばります」と嬉しい悲鳴も上っている。

一方で不安の声も…

期待の声が多い一方で、「サーバー持つのか?」とAbemaTVに対して不安を抱く人も。そのワケは…

彼らを不安にさせているのは、今年5月に放送された番組『亀田興毅に勝ったら1000万』だ。
亀田3兄弟の長男で元世界3階級制覇王者の亀田興毅氏が一般人の挑戦者4人とボクシングで対戦するというこの企画はネット上で大きな反響を呼び、視聴数は1420万と同局史上最高を記録。
しかし、視聴者が殺到した影響で一時的にサーバーがダウンし、視聴できないという声もあがっていた。

「亀田超え」は確実か どこまで記録を伸ばせるかにも注目

「これまで同局の最多視聴者(アクセス)数は、今年5月7日に放送された『亀田興毅に勝ったら1000万円』の1420万でした。しかし今回はそれを超えることは確実ともいわれています。話題性抜群の3人が独立後初共演。ネット番組への出演も初ですからね。どこまで記録を伸ばせるかが注目です」(テレビ局関係者)

AbemaTVとは?

「元SMAP3人が出演」で知名度が急上昇

「どうやって見るの!?」の声殺到

前出の「亀田興毅に勝ったら1000万円」放送の際にも注目を集めたAbemaTVですが、今回の「ホンネテレビ」の発表でも飛躍的に知名度が上昇。このことで、「ホンネテレビ」に対して起きたネットの反響の中には、「どうやって見ることができるの?」「パソコンが必要なの?」「録画はできるの?」といった、AbemaTVに対する初歩的な疑問の声も目立っていたといいます。

本情報の第一報時に「AbemaTVの見方が分からない!」「どうやって見るの!?」「会員登録が必要なの?」「有料?」などの質問が殺到
「焦ってます。とりあえずどうしたら見れますか?」と尋ねるファンに「アプリをインストールすれば見れますよ!」「Fire TVがあればテレビでも見れます!」とほかのファンが教えるやりとり

自分が知らない動画配信サイトで気になる番組が放送されるとなれば、こういった素朴な疑問が浮上するのは当然です。
そこで、ここからはAbemaTVの基本的な情報を紹介していきます。

“無料で楽しめるインターネットテレビ局”として利用者急増中

AbemaTVとは“無料で楽しめるインターネットテレビ局”として展開する、新たな動画配信サービス。
オリジナルの生放送コンテンツや、ニュース、音楽、スポーツ、ドラマなど多彩な番組が楽しめる約25チャンネルを全て無料で提供し、2017年8月時点でダウンロード数が2000万を突破するなど、急速に利用者を伸ばしている。

この記事にあるように、AbemaTVは「無料で楽しめるインターネットテレビ局」のキャッチフレーズのとおり、無料で多くの番組(チャンネル)を楽しめる動画配信サービスのことです。「無料」という特徴のほかには、「登録は不要」「PCならアプリも不要(ブラウザで視聴可)」など、テレビを観るような感覚で気軽に利用できる点が売りとなっています。

2016年4月11日に本開局

サイバーエージェントとテレビ朝日が共同で展開

AbemaTVは、サイバーエージェントとテレビ朝日が共同で展開している事業で(出資比率は6:4)、事業会社は2015年4月に設立。16年3月1日に先行配信を開始し、同年4月に本開局を迎えたサービスです。

「Ameba」じゃなくて「Abema」のワケ

サイバーエージェントのネットサービスといえば、「アメーバブログ(アメブロ)」などでおなじみの「Ameba」で知られていますが、サービス開始前、すでに子供向けストリーミングテレビサービス「AmebaTV」(http://www.amebatv.com)がカナダに存在していて、「ameba.tv」というドメインも取得されていたことから、「AmebaTV」ではなく「AbemaTV」になったといいます。 また、サイバーエージェントの社長でAbemaTVの社長でもある藤田晋氏は本開局直後、自身のブログで以下のように述べています。

「AbemaTVは、なぜAmebaTVじゃないんですか?」
と何回も聞かれるのですが、正直言って、半分くらい後悔しています。
全く新しいものを創るつもりだったので、10年以上やってきたAmebaではなく新しさがほしたかったことと、Amebaの延長であることも伝えたかったことで、あと口コミ効果も狙って、キャラクターのAbemaくんの名前を使いました。
しかし、覚えにくい、発音しにくい、間違えやすいの3点セットで、正直自分でもたまに言い間違えてます。

開局から約1年4カ月で2000万ダウンロードを突破

「AbemaTV(アベマティーヴィー)」は、8月7日時点で累計2,000万ダウンロードを突破した。
2016年4月に本開局した同サービスは、3ヵ月間で500万ダウンロード、約半年後の11月に1,000万ダウンロード、1周年を間近に控えた2017年3月には1,500万ダウンロードを突破するなど急速に利用者を伸ばしてきた。そして今回、開局から約1年4ヵ月で2,000万ダウンロードを突破した。

「ニコニコ動画」から会員が流出?

ニコニコより高画質?

日本の動画配信のサイトといえばニコニコ動画を思い浮かべますが、有料会員が優先されるために生放送では一般会員が追い出されてしまったり、画質が低画質モードになってしまったりと、何かと不便を強いられてしまうことがあるといいます。

これに対し「AbemaTV」は、ユーザーの反応をみるとニコニコ生放送よりも画質が綺麗なようで、視聴者が多くても放送から追い出される心配もなく、月額960円で放送終了後の番組を視聴できる「プレミアムプラン」(一部、プレミアムプランで視聴できない番組もある)もあるため、「ニコニコとかいうクソゴミ画質で見なくてよくなるんやな」「ニコニコのプレミアム会員切ってAbemaの有料会員入ろうかな」と、「AbemaTV」への移行を検討する声も上がっているようだ。

AbemaTVはテレビのように「気軽に流し見」できる

下の記事は昨年12月の記事ですが、その時点で「勢いや実質的な利用状況においてはニコ動を超えつつある」とし、その要因について次のように語られています。

岡田 「AbemaTV」には複数のチャンネルがあり、視聴スタイルがテレビと一緒です。一方、「ニコ動」はコンテンツが用意してあり、それをユーザーが好きなときに再生できるというスタイルですね。

――仕組み的には、いつでも見られる「ニコ動」のほうが見やすい気もしますが。

岡田 それこそ、ネットなのにテレビのように「気軽に流し見」できるというのが「AbemaTV」の新しさであり、人気の要因なのかもしれません。今まで、そのような動画コンテンツは少なかったですから。

過去に注目を浴びた番組

AbemaTVの特徴には、制約が少ないインターネットテレビ局としての強みを生かしているという点もあり、時には既存の地上波テレビ局ではできないような挑戦的なオリジナル番組を世に送り出し、「AbemaTVの番組は尖っている」などと、たびたび注目を集めています。そんな、過去に放送された「尖っている」番組をいくつか紹介します。

「亀田興毅に勝ったら1000万円」

1420万を超える視聴数を記録

すでに上でも紹介している「亀田興毅に勝ったら1000万円」は、今年5月7日に放送され、現時点でのAbemaTV史上最多の視聴数記録を保持している番組です。
それゆえに、さまざまな騒動も話題になりました。

「同番組では、2000人以上の参加希望者の中から選ばれた、ホスト、ユーチューバー、高校教師、元暴走族総長の4名が、それぞれ亀田とボクシングで戦い、勝利すれば1000万円を獲得できるという企画を実施しました。その結果、亀田は最後まで戦い抜き、挑戦者は誰1人、賞金を得られないまま番組は終了しました」

1人目の試合開始時にサーバダウンで阿鼻叫喚

さまざまな前フリがあった後、20時前についに1人目・喧嘩無敗の最強ホストとの試合開始……というところでサーバダウン。
PCではサーバエラーの画面が表示され、スマホのアプリは止まってしまうといった具合に。
『Twitter』では「試合が見れない」と阿鼻叫喚ツイートが相次ぎ、公式アカウントには怨嗟の返信が殺到していた。

放送はYouTubeでも同時配信されていて、サーバダウンを受けて公式ツイッターや番組内ではYouTubeへの誘導が行われていました。この企画にはAbemaTVのユーザーを増やす狙いもあったのでしょうが、動画配信サイトとしてのライバルとも言えるYouTubeに誘導するという、何とも言えない状況になってしまったことも話題に。
さらに、「グローブとヘッドギアが亀田選手に有利だった」とネット上で指摘や検証がされたり、同時間帯に放送されていたMr.Childrenの番組もサーバダウンで視聴ができずにミスチルファンから批判が殺到したりといった騒ぎも起きました。
ただ、こういった騒ぎも含めてAbemaTVの名前と存在を世間に知らしめることに貢献した大型企画と言えそうです。

「藤井聡太四段 炎の七番勝負」

強豪棋士相手に6勝1敗 将棋界騒然の企画に

史上最年少の14歳2カ月でプロとなり、公式戦の新記録となる29連勝を達成して日本中にその名を轟かせた中学生棋士の藤井聡太四段が、若手からトップ棋士まで7人の強豪棋士たちを相手に七番勝負を繰り広げた企画。最強棋士のひとりで“将棋界の生ける伝説”とも呼ばれる羽生善治三冠(当時)にも勝利し、最終戦績6勝1敗という、誰もが予想もしなかった快挙を成し遂げ、「29連勝」の前に将棋ファンを驚かせました。

視聴数記録の歴代2位は藤井四段の対局

AbemaTVは今年2月に「将棋チャンネル」を開設し、「炎の七番勝負」をはじめ、公式タイトル戦や注目の対局などを無料で生中継。藤井四段が公式戦で連勝記録を次々に塗り変えていた時期は、藤井四段の対局も積極的に生中継を行っていました。

6月26日の『第30期竜王戦決勝トーナメント 増田康宏四段 対 藤井聡太四段』では、793.9万視聴を記録、さらに、30連勝をかけて行われた7月2日『第30期竜王戦決勝トーナメント 佐々木勇気六段 対 藤井聡太四段』では、将棋チャンネルとしては歴代1位、AbemaTVとしても歴代2位となる1242.5万視聴を記録。

なお将棋チャンネルでは、「炎の七番勝負」に続くオリジナル番組第2弾「若手VSトップ棋士 魂の七番勝負」が9月から放送されていて、現在こちらも注目を集めています。

「マジガチランキング」

大人の事情は一切無視! 地上波ではできない「リアル」ランキング番組

「マジガチランキング」は、“大人の事情”や“芸能事務所への忖度”といったことを一切無視したランキングバラエティ。毎回、空気を読まない「マジガチ」なランキングを紹介する人気番組でした。

同番組は、カンニング竹山がMCを務め、10代の男女に“マジガチ”で取ったアンケート結果を、“大人の事情”を無視して紹介していくバラエティー。
同番組はこれまで、10代男女に聞いた『整形していると思う芸能人』、『人気があるけど事務所の力だと思う芸能人』など、地上波では流せない街の声をランキング化して放送。オンエア後は毎回、SNSやネットニュースで話題になるほどの人気番組でした。

9月20日の放送をもって突然の“打ち切り”

「人気番組でした」と過去形なのは、すでに番組が終了しているからです。

「すっぴんがブサイクだと思う女性有名人」「整形していると思う芸能人」「人気があるけど事務所の力だと思う芸能人」など、地上波では放送できない街の声をランキング化するという過激な内容で人気を博していたバラエティ番組『マジガチランキング』(AbemaTV)が、9月20日の放送をもって突然の終了となった。

「すごいところから怒られた」事務所からの抗議があった?

番組終了の原因については…

最終回では冒頭、MCのカンニング竹山が「すごいところから怒られまして、番組打ち切ることになりました」と説明。終わらせなければスタッフのクビが飛ぶ、かなり深刻な状況に追い込まれていたという。

「すごいところから怒られた」については、「ジャニーズからの圧力」「広瀬すずの事務所からの抗議」「宗教団体の可能性」などの噂がささやかれています。

「坊主麻雀」

優勝賞金500万円…最下位はその場で坊主!

勝てば賞金500万円、最下位の敗者はその場で坊主という麻雀番組。AbemaTVの人気企画のひとつで、すでに第3弾まで放送されています。
第1弾ではお笑いコンビ「ペナルティ」のワッキー、第2弾では堀江貴文氏、そして第3弾も堀江氏が坊主に。第2弾では高須クリニック院長の高須克弥氏が500万円を持参して賞金総額1000万円となり、さらに高須院長が堀江氏から役満をもぎ取るという“伝説”も生み出して大きな話題になりました。

残り1時間半となった第6回戦は1位藤田、2位岡野、3位堀江貴文、4位高須という順位でスタート、親の高須に堀江が役満の大三元をメンゼンで振り込んでしまい、高須が1位、堀江がダントツ4位と大番狂わせに。めったに出ないアガり役に、解説・実況ブースも「生放送中に(メンゼンで大三元が)出るのを初めて見た」「さすがドリーマー高須だ!」と大盛り上がり。

AbemaTVの野望

最後に、AbemaTVが目指すところや今後の展望などを、「AbemaTVにムキになってます」と自ら話す藤田社長や取締役の小池政秀氏の言葉から探っていきます。

ターゲットは若者層

スマホ視聴が8割

下に紹介する記事は半年ほど前の記事ですが、この時点での視聴デバイスの割合について、小池氏は次のように明かしています。

――「AbemaTV」は、どんなデバイスで見られることが多いですか?

小池 スマホ、タブレット、パソコンのほか、テレビ(「Apple TV」「Fire TV」「Andoroid TV」「Chromecast」を利用)でも見られます。ざっくりですが、スマホ視聴が8割で、タブレットとパソコンが1割ずつ。テレビ対応は始まったばかりなので、これから伸びていくと思います。

「スマホで見る」を前提に番組制作

次は藤田社長の言葉です。

「たまに、『既存のテレビと同じでしょ』と言う方がいるんですけど、そこは、きちんと見てほしいですね。テレビと同じようなクオリティーで制作することを心掛けていますが、画面の構成は違います。テレビは華やかなセットにテロップも多いですが、スマホの小さい画面で同じことをやると、とても見にくい。スマホで見ることを前提にしながら、テレビに映しても遜色ないものを、オリジナルで考えています。制作現場もテレビのやり方を踏襲はしていません」

10~20代の若い世代がメインターゲット

AbemaTVのメインターゲットについて、再び小池氏(上写真)の言葉。

――スマホが8割なんですね。こんな小さい画面で番組を見るのか、と思ってしまいますが。

小池 30~40代の感覚では、確かに「こんなに小さな画面で」と思ってしまうのですが、10~20代の若い世代は「YouTube」をスマホで見ることに慣れています。そのあたりの感覚は、全然違うんですよね。そのため、「AbemaTV」はメインターゲットを若い世代に据えています。

徹底的に10代をターゲットにしたオリジナル番組も

――若い女性向けのオリジナル番組はありますか?

小池 2月から放送が始まった『オオカミくんには騙されない』というバラエティ番組ですね。
いわゆるリアリティーショーで、出演している女子高生や男の子は10代に人気のモデルたちです。
30代以上の方は、出演しているモデルたちも人狼ゲームのこともよくわからないかもしれませんが……。そういった点からも、徹底的に10代をターゲットにした番組です。

ちなみに、同じ恋愛リアリティーショーとして10月からは「今日、好きになりました」が放送されています。

「若者目線のメディアを手に取り戻す」という社会的意義よりも…

テレビや雑誌などの既存メディアが「シニア向け」になりつつある中で「ターゲットは若者層」とするAbemaTV。だからといって「若者目線のメディアを手に取り戻す」という社会的意義が先行しているわけではないと藤田社長は話します。

若者目線のメディアを手に取り戻す、という社会的意義もあるのではと訊くと、彼はこう答えた。
「僕はそんなに大上段に構えてビジネスを始めるタイプじゃないんです」
「取材でも、事業の社会的意義を聞かれることは少なくありません。もちろん、投資家や社員のなかにも、僕にそれを求める人がいます。でも僕は『世の中のために』が先行するタイプの経営者じゃありません。世の中にあるサービスの全てが社会的意義のために存在しているわけではないですよね。根っこにウソがあったら、人はついてきませんよ。それより僕は、自分も周囲も『これをやったら面白いんじゃない?』と盛り上がることをやりたいんです」

藤田社長「今は視聴習慣を作ることに注力」

「暇な時にAbemaTVを立ち上げる」習慣を広げたい

AbemaTVに「ムキになってます」と語る藤田社長が狙うのは、AbemaTVの視聴を「手癖」のレベルまでもっていくことだといいます。

「今は、視聴習慣を作ることに注力しています。分かりやすく言えば『手癖』です。家に帰るとまずテレビの電源をつけると言えば分かりやすいでしょうか。また『何曜日の何時になったら必ずこの番組を見る』という人もいると思います。これと同じようにまずは、暇なときに『AbemaTV』を立ち上げる、といった視聴習慣を広げたいんです」

「もっと毎日見てほしい」

「視聴習慣を作る」ことについては小池氏も同様のことを語っています。

――現在の「AbemaTV」の課題は、どこにあると思いますか?

小池 ユーザー数は当初の計画以上に増えていますが、欲をいえば、もっと毎日見てほしいですね。現状、週に何日かは視聴するというユーザーが大半ですが、テレビの場合は帰宅して「はー、疲れた」と電源を入れる習慣がついています。「AbemaTV」も、そのくらいまでいきたいですね。そのためには、ヒットコンテンツの制作や視聴の習慣化のための編成のスキルアップが課題です。

「尖っている」コンテンツ作りも視聴習慣につなげるため

先に紹介した「尖っている」番組も視聴習慣を作るための施策だと藤田社長。

「2017年のゴールデンウィークに『亀田興毅に勝ったら1000万円』の試合を、その後に将棋の藤井聡太四段の対局を配信して『AbemaTVのコンテンツは尖ってる』と注目が集まりました。オリジナル番組は、視聴習慣をつけるようなレギュラー番組か、尖ったコンテンツ、どちらかに絞って考えています。他では見られない『エッジの効いたもの』をつくる必要があるんです。中途半端なものは作りません」
バラエティ、音楽などジャンルは問わず、制作のキーワードは「AbemaTVならではの尖っている」番組を創ることだ。ここでしか見られないというコンテンツは視聴習慣につながる。

「年間200億円の赤字」

「広告宣伝費」を増やして認知度向上に注力

AbemaTVの親会社であるサイバーエージェントは、AbemaTVをマスメディアにすることを目標に社運を懸けて育成に励んでいて、番組制作費やコンテンツの拡充、広告宣伝費に多額の投資を行っています。
このことは、東洋経済オンラインが先月発表した「広告宣伝費を増やした会社ランキング」でサイバーエージェントの順位が急上昇していることからも見て取れます。

ネット業界から唯一、トップ10入りしたのがサイバーエージェント。昨年の27位から、今年は9位と順位を急上昇させている。
サイバーエージェントの直近本決算にあたる2016年9月期は、5年前と比べて190億円強の増加となる253億円を投入した。2016年4月にテレビ朝日との共同事業として開局したネット放送局「AbemaTV(アベマティービー)」の認知度向上に注力していることが主因だ。

「これだけの赤字を許容できる会社はほとんどないでしょう」

「200億円の先行投資」は「200億円の赤字」として多くのメディアでセンセーショナルに取り上げられていました。

17年9月期には200億円の先行投資を見込んでおり、本格的なマネタイズはそれ以降となる。
「技術的には同じことをやれる会社はほかにもあるかもしれませんが、これだけの赤字を許容できる会社はほとんどないでしょうね」と、藤田は言う。

視聴習慣を広げるための積極投資

巨額の先行投資は、「暇な時にAbemaTVを立ち上げる」といった視聴習慣を広げるための腰を据えた投資でもあるようです。

藤田氏は「大きなことをやろうと思ったら、ボロボロになりながらも不可能を可能にする覚悟を持つしかない」と言う。だから彼は、年間数百億円の赤字を計上しても、積極投資を止めない。

巨額と見られる投資額も「リスクをとれる範囲内」

「よく、投資額が話題になりますが、ちゃんと会社としてリスクをとれる範囲内でやっています。僕は起業時、何の事業をやるか決めずに会社を立ち上げました。このエピソードを知っている若い人が『僕も取りあえず起業しました!』と言ってくることがあるのですが、ただの冒険野郎じゃいけない。最低限、自分や一緒に始めた仲間が食べていくくらいはできる、というワーストのプランはありました。もちろんこれは『AbemaTV』でも同じです」

株式市場は先行投資に理解示す

4月27日に発表されたサイバーエージェントの2017年9月期第2四半期決算について伝える記事では、大幅減益でありながらも株式市場はAbemaTVへの投資に一定の理解を示している、としています。

2017年9月期に同事業で200億円の損失を見込む中、折り返し地点での損失額は想定の範囲内と言える。
決算発表を受けた28日の株価は4.37%高となる3460円まで買われている。既存事業の好調や「AbemaTV」のアプリダウンロード数の順調な推移が好感された。年初からの株価も13%上昇しており、先行投資による減益は織り込み済みである。

「無料で視聴」でも勝算はあるのか?

「楽観しています」マネタイズのノウハウに自信

アナリストなどからは、事業の先行きを不安視する声も聞こえてくる。巨額の先行投資に加え、利用者ペースの伸びに対する懸念がその理由だ。だが、そうした見方を藤田は一蹴する。
「われわれが無料で視聴しやすいものを作ったことに対して、面白く思わない人も中にはいます。でも、利用者数はスタート以来ずっと伸びていますし、そこは間違えないでいただきたいですね。不安は当然ありますが、ネット業界に長くいるゆえの勘所は押さえています」
ネット動画でもニッチな分野を狙わず、マスメディアになることを目指しているのは、「ネットは無料で見るスタイルが一番合っており、広告モデルで収益を成り立たせる」という前提があるからだ。会社設立以来取り組んできた広告事業に関しては、マネタイズに必要な視聴者数や売り方などのノウハウを、サイバーエージェントは十分に持っている、との自負がある。
「広告(広告主)を意識するというメディアの常識も、1回切り離したいんです。一方、ネット広告自体が伸びている背景があるからこそ、ユーザーさえ大きな規模になればきちんと収益は出せる、と楽観していますけどね」
楽観――。この言葉にこそ、彼の自信がみてとれる。

「数年後にはみんなが見てくれるメディアに」

そんな彼だから、当然、自分の事業も強く信じている。ネットに「AbemaTVって赤字なんでしょ?」と書かれても、それは今だけの話で、むしろ必要な投資。高いハードルは、いつか成功したあと高い参入障壁になる。そして、自分には実現できる、と。
だから藤田氏は、やっぱり『AbemaTV』の話をすると、顔をくしゃっとさせ、本当に楽しそうに話すのだ。
「『AbemaTV』は、数年後にはみんなが見てくれるメディアにするつもりでいますし、そうなってくれたらうれしいからやってます。やっぱり“多くの視聴者がいるメディア”って強いですよ。だからバラエティでもドラマでも、とにかく自分自身が見たいと思える番組をムキになって作っています。こうして、注目が集まる番組をどんどん創っていけば――」

私事で非常に恐縮ですが、数年前から「家に帰るとまずテレビの電源をつける」生活から「まずPCの電源を入れる」生活に移行していたため、今年始めにAbemaTVを初めて見て以降、PCを操作している間はずっとAbemaTVを“ながら見”しつつ、お風呂場などではスマホでアプリを立ち上げるという、“AbemaTV漬け”の生活習慣になっています。すっかり藤田社長の思惑にハマっているわけですね…。
さて閑話休題。「放送法の縛り」や「スポンサーや視聴者からのクレーム」を気にするあまり、自主規制や忖度にがんじがらめになって「怒られない番組作り」に終始し、「つまらなくなった」とされている地上波のテレビ局。これに対して、単純な面白さを追求し、デジタルネイティブ世代をターゲットにしたAbemaTVの勢いは、「元SMAP3人が出演」を契機にさらに加速しそうな気がします。
果たして藤田社長の目論見どおりに事が進むのか。今後のAbemaTVの行方も気になりますね。