特集2017年5月10日更新

どこに行く?自動運転の現在と未来

自動運転技術の開発が進み、当初より研究されている安全運転のサポート技術だけでなく、無人運転による宅配や消防活動など実用的なものの実証実験や試運転の実例が増えています。ここ最近における各企業の取り組みや製品技術をご紹介。また自動運転の発展と同時に考えなければいけない「自動運転だからこそ起こりうる事故」の問題点についてもクローズアップします。

近い将来に実現されそうな自動運転技術

今、自動車産業界のみならず、IT系の企業を巻き込む勢いで大きな注目を集めている「自動運転」。それだけに、多くの企業や研究機関で非常に多岐にわたる技術が開発されています。
その多くの自動運転技術の中から、「構想がある」「計画がある」「研究を進めている」といったものではなく、すでに実証実験や試運転などが実施されていて「すぐにでも実現されそう」もしくは「すでに実用化されている」自動運転を取り上げてみます。

荷物が一人でやってくる?“移動宅配ボックス”

ネット通販の拡大や再配達の増加、慢性的なドライバー不足など、宅配を取り巻く環境の厳しさを伝えるニュースが連日のように報じられています。その話題の中心ともいえ、先月末には27年ぶりとなる運賃値上げを発表したヤマト運輸が、DeNAと共同で「宅配×自動運転」の実現に向けた「ロボネコヤマト」プロジェクトの実験を進めています。

「ロボネコデリバリー」は、専用EV(電気自動車)に宅配ボックスを設置したもので、利用者が希望する時間帯・希望する場所で荷物を受け取ることのできるサービスだ。時間帯は10分刻みで指定でき、自宅以外に最寄りの駅や会社でも受け取り可能。荷物の到着3分前にはスマートフォンなどに自動音声で知らせてくれる。

走行距離280キロで事故ゼロの「ロボットシャトル」

ディー・エヌ・エー(DeNA)と横浜市は4月24日、自動運転社会を見据えた新しい地域交通のあり方を検討する「無人運転サービス・AIを用いた地域交通課題解決プロジェクト」を開始すると発表した。

このプロジェクト最初の取り組みとして自動運転バス「Robot Shuttle(ロボットシャトル)」の試乗イベントが先月開催されました。ロボシャトルは、これまでにも千葉県のイオンモール幕張新都心に隣接する公園や秋田県仙北市の田沢湖畔、九州大学伊都キャンパスなどで一般客を乗せて走行した実績があり、のべ約2600人が試乗を行い、総走行距離280キロで事故は1件も起きていないといいます。

実際に試乗した一般参加者に取材したところ、次のような感想を話した。「少しガタガタしたが、子どもたちは喜んでいた」(女性)、「音が静かで動物園にはぴったりだと思った」(女性)、「園内ではいいが、公道では静かすぎるのはちょっと怖い」(女性)、「高齢になったので車を手放す予定。自動運転は夢みたいだと思っていたが、本当に快適だった」(男性)。

ヤフーも自動運転に参入 コンセプト動画が「良作」

ソフトバンクグループのSBドライブ株式会社に対してヤフーが約5億円を出資し、「ヤフーも自動運転に参入」と話題になっています。

すでに3月20日から沖縄県南城市で実験を始めている。先進モビリティが開発した改造小型バスが実際に指定のルートをたどって住民の足となり、SBドライブのシステムが遠隔監視しながら検証を行っている。

ハートウォーミングなコンセプト動画

SBドライブ株式会社は開発中の自動運転バスのコンセプトムービー「バスがまた、通るようになったから」をネット上に公開している。これが見ていて非常に心和む良作なのだ。ストーリーはかつてバスが通っていた農村部、そこに再び自動運転のバスが運行することに。運行の再開とともに繋がる人と人の温かい触れ合いを描いている。

日産の“レベル3”自動運転車「Vmotion 2.0」

4月に開催された「上海モーターショー」で日産がコンセプトカー「Vmotion2.0」を公開しました。すでに1月に「デトロイトモーターショー」で公開されており、同ショーで「ベストイノベイティブユース オブ カラー グラフィック アンド マテリアル賞」を受賞したコンセプトカーです。

自動運転技術「日産インテリジェント・ドライビング 」を搭載し、2020年にSAE(米自動車技術会)が定める「レベル3」(緊急時のみ運転者が操作)の実用化を目指しています。
"

ベンツの半自動運転装置に驚き

直進区間では直進性が素晴らしいように、カーブ区間では上手なドライバーのように緩やかなアウトインアウトの弧をすーっと描くように曲がる。
(中略)
ほとんどオートで走っているのに、まるで自分が上手にクルマを走らせているような気にさせられた。

「感動的である」新型BMWの運転支援システム

自動運転ではないから、あくまでハンドルには手を添えておくのが基本である。だが、もしそれを無視していいのなら、高速道路のほとんどを、あぐらをかいたまま両手離しで走り切れそうなほどである。自動運転はすぐそこまできているのである。
新型5シリーズは、現状でもっと進んだ部分支援システムを搭載していると言っていいのかもしれない。
(中略)

『 感動的である。』

人が近づけない場所で消防活動

「放水砲ロボット」は、人が近づけない場所でも自動運転で走行し、無人で放水し、「ホース延長ロボット」は、最大300mの消防用ホースを自動運転で敷設して水を供給する機能を備えています。

「自動運転」より「無人運転」のほうが実用化に近い?

今回紹介した「自動運転」の多くが「無人運転」です。つまり、運転席に人間が座っていることが前提で運転をサポートする自動運転より、現時点では「無人運転」のほうが実用化に近い、もしくは企業が力を入れているとも捉えられます。
この点について、「自動運転と無人運転は目指すゴールが違う」と言及し、「無人運転が注目を集める理由」を解説する興味深いコラム記事がありましたので、このブロックの最後に紹介しておきます。

クローズアップされた「自動運転で事故」の問題点

「ブレーキ我慢して」で事故発生

昨年11月、前方の危険を検知して自動的にブレーキをかける運転支援機能「プロパイロットシステム」を搭載した日産「セレナ」に試乗した男性客が追突事故を起こしていたことが4月14日に明らかになりました。
このニュースでは、運転支援機能付きの車による公道での試乗事故が全国初だったのに加え、同乗した営業社員が「ブレーキを踏むのを我慢してください」と指示していた点が話題となりました。

メーカーの説明書には、「自動停止機能」は、雨が降って薄暗く、前の車が黒っぽい状況では作動しないことがあると記載してあり、事故当時は同じ状況だったという。ところが、同乗した自動車販売店の店員が「ブレーキを踏むのを我慢してください」と誤って指示をしたため、男性客はブレーキをかけなかったために事故が起きてしまった。

国交省「完全な自動運転ではありません!!」

この事故を受けて国土交通省は「現在実用化されている“自動運転”機能は、完全な自動運転ではありません!!」と注意を呼びかけました。

国交省は、プロパイロットシステムなど、現在実用化されている“自動運転”機能は、ドライバーが責任を持って安全運転を行うことを前提とした「運転支援技術」だと指摘。ドライバーに代わってクルマが自律的に安全運転を行う「完全な自動運転」ではないと強調している。

自動運転で事故が起きた際の責任の所在は?

「運転支援技術」でありながら「自動運転」のイメージが先走りしていて、「ドライバーが何もしなくてもいい」という誤解を招いているのでは、という点が以前から指摘されていましたが、上記の事故はそれが現実となったものといえます。
今回の注意喚起と同時に、国交省は「万が一事故が発生した場合には、原則として運転者がその責任を負うこととなります」と警告していて、自動運転で事故など起きた際の責任の問題もクローズアップされました。

自動運転を過信すると過失運転の罪も

事故では販売店の店長と同乗した営業社員は業務上過失致傷の容疑で、試乗した客は自動車運転死傷処罰法違反(過失運転致傷)の容疑で書類送検されました。
この点について「弁護士ドットコムニュース」にコメントを寄せた弁護士は、今回の事故を自動ブレーキを過信した「ひとりチキンレース」と名付けて、以下のように述べています。

現在市販されている自動ブレーキシステムは、決して完全なものではないですから、『ひとりチキンレース』のあげく人身事故を起こせば、過失運転致傷の罪に問われることは当然にも思われます。

また、この弁護士は「今回の事故は『人間は自動システムを過信しがちである』ことに警鐘を鳴らしている」として、「人間の性(さが)に配慮した設計思想が求められる」と問題提起しています。

自動システムへの過信から事故が起きた場合、過信した人間がその責任を問われることは当然です。しかし、自動システムを過信することが人間の性(さが)であるとすれば、システムを設計する側も、人間の性(さが)を前提とした設計をおこなう義務を負うといえます。

「過失がなくてもドライバーが責任を負うべき」は約3割

損害保険ジャパン日本興亜が4月10日に発表したアンケート調査「自動運転車の社会受容性および法的責任に関する意識調査」では、以下のような結果が出ています。

緊急時以外は自動走行する車における切り替え中の事故において、「ドライバーに過失がない場合であっても、ドライバーが責任を負うべき」という意見が全体の約3割を占め、年代が高いほどその傾向が見られた。

「不安」の3位は「事故の際の責任の所在」

自動運転車に対する「不安」については、「ドライバーの運転技量の低下」「運転支援・自動走行機能の誤作動」に加え、続く3位に「交通事故が生じた際の責任の所在があいまいになること」、5位には「交通事故が生じた際の原因究明が困難になること」があげられ、交通事故が発生した場合の処理に不安の声が多く見られる結果となっています。

「保険があれば自動運転車を利用したい」は75.4%

「緊急時以外は自動走行する車(ドライバーが運転席に座り、緊急時はドライバーが対応する)」の利用意向について聞くと、保険による補償があることを前提とすれば75.4%が「利用したい」と回答。保険による補償がない場合では27.7%だった。

自動運転車を怖がっている人は78%

アンケート調査結果の紹介ついでに、アメリカの調査ですが興味深い調査結果を紹介しておきます。

AAAが1000人の米国人を対象に実施した調査によると、米国人の78%は、自動運転車に乗るのが怖いと考えています。そして54%が、自分の運転中に近くに自動運転車がいてほしくないと答えています。

自動運転の当面の理想は「事故のない交通社会をサポートする技術」

ここまで自動運転による事故を取り上げてきましたが、そもそも自動運転の導入には「人為的ミスによる事故を減らす」という目的がある点を忘れてはなりません。また上記のアメリカの調査でも、自動運転車を怖がりながら「自分の車には何らかの自律機能がほしい」と答えた人は60%にのぼっています。

日本政府は自動運転に対する当面の理想を『事故のない交通社会をサポートする技術』と定義づけています。例えば、運転操作のミスは90%以上が人為的と言われていますが、自動運転技術を搭載したクルマが普及することで、ドライバーのミスによる事故の減少が期待できます。

上で紹介している記事では、交通コメンテーターの西村直人氏が「そもそも自動運転とは?」から「自動運転車普及への課題」「自動運転社会の実現に向けて大事なこと」に至るまで、自動運転の現在、過去、未来を語られています。簡潔にまとめられていますので、自動運転の理解のために一読をオススメします。


まだまだ解決すべき問題点は多々ありますが、上で挙げたような「人為的ミスによる事故の減少」、「運転手不足の解消」以外にも、人間の運転技術、特にブレーキが影響して発生する「渋滞の解消」、自動運転によりスムーズに駐車されることで生まれる「スペースの確保」など、自動運転車の普及による良い影響はまだまだ挙げられそうです。自動運転車がもたらす明るい未来に期待したいと思います。