特集2017年3月22日更新

宅配業界の厳しい状況

ヤマト運輸が運賃の値上げを発表しました。これは実に27年ぶりの決断でした。なぜ値上げに至ったのか?ネット通販隆盛の陰で、負担を増す一方だった宅配業者の現状をまとめました。

ヤマト、27年ぶりの値上げを決定

ヤマト運輸が宅配便の基本運賃を引き上げる方針と、日経新聞によって報じられました。消費増税時を除くと全面値上げは27年ぶり、今後アマゾンなどと交渉に入るとのこと。

下記は2014年12月の週刊ポストの記事。3年前から宅配システムの限界について論じられており、価格上昇の可能性も予測されていました。

「すでにアメリカは、私の感覚だとUPSなどは日本の3倍の宅配料金です。値上げが容易な寡占状況に加えて、ドライバーが圧倒的に不足している現状が続けば、1年以内に日本でも大幅な価格上昇が起きる可能性がある」

ヤマト運輸が7万6千人の社員を対象に未払い残業代を支払うと報道されました。支払い規模は数百億円ともいわれ、経営に大きな影響を及ぼすともささやかれています。運賃を値上げせざるを得ない厳しい状況であることとあわせると、まさにダブルパンチといったところでしょうか。

支払総額は数百億円規模となる可能性があるという。
今回の問題の直接の発端は、ヤマト運輸の横浜市内の支店が2016年8月、横浜北労働基準監督署から労働基準法違反で是正勧告を受けたこと。勧告は①社員が休憩時間を法定通り取得できていない②時間外労働に対する賃金が十分に支払われていない――という内容だ。
ヤマトHDの2017年3月期の連結営業利益は会社予想で580億円となっており、数百億円規模の支払いが生じた場合の影響は非常に大きなものとなる。ヤマトHDの株価は2017年3月6日に前日比102円安の2441円と4%を超える下落を記録した。
今回の問題は一時的に残業代を支払って終わる問題では無いと見られる。アマゾンジャパンなどのインターネット通販の拡大を受け、宅配便の取扱量は増加の一途をたどっている。

インターネット通販の拡大が、宅配量の増加の一因を担い、労働環境が悪化したとの見方もあるようです。

過酷な労働環境

労働時間の上限は年々短縮され、ドライバーも増えているのに、労働環境がなかなか改善されない現状があるようです。

ヤマトの労働組合は、会社との協定で労働時間の上限を決めており、上限は年々短縮されている。しかし、業務量は増える一方。サービス残業しないと、仕事が回らない状態だったという。
ヤマトの社員ドライバーは5年前から約4000人増えて、およそ6万人。しかし、荷物の増加に追いついているとは言いがたい。単純計算だが、この間、社員ドライバー1人当たりの宅急便の件数が年3000件以上増えているからだ。
30代の元セールスドライバー2人が労連に相談し、労基署に実態を申告していた。労連によると、荷物の取扱量が増え、2人は昼食時間をほとんど取れていなかった。また、タイムカードがあるにもかかわらず、配達時間を管理する携帯端末の稼働時間で労働時間が計算されていた。結果として、始業前の業務や、配達終了後に行なった翌日への引き継ぎ作業などの大部分が、労働時間としてカウントされていなかったという。
このうち1人は、辞めるまでの2年間でタイムカードと、端末上の労働時間で約600時間の差があった。また、2人ともタイムカード上で計算すると、残業時間が36協定で定めた時間を超えていた。

ネット通販が増えたため、宅配便の取り扱い個数が増加

運送業の労働時間は2368時間で、全産業平均より430時間も長い。心身に異常をきたすドライバーも少なくない。ネット通販が増えた頃から顕著になった。急伸する市場規模は13兆円で、さらに伸びている。ところが、宅配会社の経営は悪化している。ヤマト運輸は2年連続減益の見通しである。理由はボリュームディスカウントにある。通販が大量の荷物の発注を保証する代わりに、配送料を引き下げる契約だ。10年前と比べ、1個あたりの収入は1割以上減っている。

ドライバーの負担が増えたのは、ネット通販の取扱量が増加しているにもかかわらず、単価が下がっているというのが大きな原因のようです。

営業利益を見ると、今2017年3月期は2期連続の減益になる見込みだ。利益が大幅に悪化する理由は外形標準課税や社会保険料率の拡大など外部要因もあるが、インターネット通販の荷物が増え続けているという根本的な課題に行きつく。
ネット通販を利用する家庭が増える一方で、注文する商品は小型のモノが多く、受け取れる運賃は安くなるため採算が悪化するのだ。事実、宅急便の個数は増加している反面、単価は下がっている。まさに「EC豊作貧乏」とでも呼ぶべき状態に宅配便シェア4割超を握るヤマトでさえ耐えられなくなった構図だ。

「Amazonがなければ…」

「もともと現場はひどかったけど、アマゾンを始めて以降、秩序がなくなった感じです。朝の荷物は100個から130個に増えました。しかし、最も大変なのは夕方の荷物が増えたこと。夕方はほとんどアマゾンの荷物。最後の時間が決まっているので、夕方の荷物が増えるのは本当にきつい」
 昨年、ヤマトを辞めた2人のベテラン・ドライバーも「アマゾンがなければ、辞めなかっただろう」と口を揃えていた。
2016年3月期におけるヤマトの宅配便取扱量は17億3126万個で、前年比で6.7%の増加となっています。2017年3月期はさらに増えて18億個を超える見込みです。ヤマトに限らず、宅配便の取扱量は増加していますが、ヤマトの最大の競合である佐川急便が、アマゾンからの依頼を受け付けなくなったことから、ヤマトへの集中化が進んでいました。

Amazonと宅配業界の関係の遷移

Amazonが日本進出した2000年は、日通が配送を担当していた

2000年11月に日本へ上陸した「Amazon.co.jp」は、当初、日本通運がその物流を担っていた。当時は「1500円以上の買い物をすると送料無料になる」というシステム
そして、運賃のダンピングの大きなきっかけとなったのが、ネット通販最大手のアマゾンだ。
 アマゾンは日本に進出した00年当時、「1500円以上の買い物をすれば送料無料」という設定だった。その当時は、「物流センターの構内作業から宅配業務まで日本通運に業務を一括で委託していた」という。つまり、日本通運のペリカン便(現在の日本郵便のゆうパック)がアマゾンの商品の宅配を担い、その運賃は300円前後だったという。

2005年頃、運賃を大幅に下げた佐川急便が配送担当に

佐川急便が運賃を大幅に値引きし、Amazonの配送担当におさまったのがこの頃です。

日通に代わって、佐川急便がアマゾンの荷物を運びはじめたのは、2005年前後のこと。佐川急便が値引きした運賃を武器に日通から荷物を奪い取った
日本での業務拡大の目玉として「全品送料無料」を導入、2005年から、佐川急便が破格の運賃により業務を請け負い始めた。
 本来、佐川急便の運賃は関東地方内の最安料金で750円台、関東発北海道着であれば1100円台からであるものの、Amazonとの契約は「全国一律で250円台をわずかに上回る金額」だったという。

しかし、佐川急便にとっては、値下げした運賃が自らの首を絞める状況に…

〈アマゾンの荷物によって佐川急便の各営業所の収支が悪くなったばかりか、商業地区における午前中の配達率や時間帯サービス履行率、発送/到着事故発生率などの現場の業務水準を測る指標も悪化した。収支だけでなく、サービスレベルも悪くなったのだから、踏んだり蹴ったりの状態だった〉

2013年、佐川急便がAmazonから撤退

2012年から運賃の適正化を進めてきた佐川急便にとって、アマゾンとの値上げ交渉は避けて通れない難所だった。アマゾンとの交渉を担当した佐川急便の営業マンはこう話す。
「うちが当時、受け取っていた運賃が仮に270円だったとすれば、それを20円ほど上げてほしいという腹積もりで交渉に臨みました。けれど、アマゾンは、宅配便の運賃をさらに下げ、しかもメール便でも判取りをするようにと要求してきたのです。アマゾンの要求は度を越していました。いくら物量が多くてもうちはボランティア企業じゃない、ということでアマゾンとの取引は打ち切るという結論に達しました」
13年春に佐川急便はアマゾンの配送の大部分から撤退し、運賃の「適正化」、つまり値上げを進めていくこととなる。
 佐川急便の撤退後、アマゾンの荷物を運ぶことになったのがヤマト運輸だ。

佐川のAmazon撤退でヤマトにしわ寄せが

佐川急便が運賃の値上げに失敗し、撤退したため、ヤマト運輸の負担が大幅に増えることとなりました。

宅配便の取扱量増加はヤマトだけの話ではなく、市場全体としても同じだ。だが、2011年との比較を見ると、宅配便全体の増加量は17%にとどまっているので、ヤマトのシェアが大幅に拡大したことになる。その理由は、ヤマトの最大の競合である佐川急便(以下、佐川)が、アマゾンからの依頼を受け付けなくなったからである。
もちろんアマゾン側も宅配業界の人手不足事情はよく理解しており、お急ぎ便の配達については、SBSグループなど別の運送会社にも依頼するなど負荷の分散を図っている。だがヤマトは最大手であり、結果的にヤマトに多くのシワ寄せが行く形となった。
「佐川の場合、住宅地に配る宅配荷物の多くは、下請けの軽四トラックに一個百数十円で委託するので、なかなか儲けが出なかったのですが、ヤマトの場合、自社のドライバーが運べば、外注費が発生しないためアマゾンの仕事を引き受けることができたんです。その分、ヤマトのドライバーの負担は重くなるのですが」  
 つまり荷物増とサービス向上の裏で、ヤマト運輸のドライバーの負担が増し、疲弊しているという構図が見える。

解決策はあるのか?

運送会社の解決策

もちろん運送会社も手をこまねいているわけではありません。ヤマト運輸は3月17日、配達サービスの内容を変更することを発表しましたが、以前から色々な対策を講じています。

再配達の設定を見直し

ヤマト運輸は、4月から再配達の受付時間を短縮し、6月から時間帯区分を削減することを発表しました。

4月24日から再配達の受付時間を短縮するほか、6月から配達時間帯の指定枠を従来の6区分から5区分へと削減する。
配達時間帯の指定枠は、従来の6区分から「12時〜14時」と「20時〜21時」を廃止し、「19時〜21時」を新設した5区分となる。

チーム集配で業務効率アップ

会社も業務の効率化を目指し、近年は地域の主婦を2〜3時間だけパート社員として雇う「チーム集配」という方法に力を入れている。ドライバーと同乗させて、客先まで荷物を届けさせるのだ。

LINEと連携

ヤマト便ではLINEで日時指定ができるようになりました。
会話AIを活用し、LINE上でトークをするような感覚で荷物状況の確認、日時・場所の変更ができるように。実際の画面を見ると、本当に会話しているかのように気軽に変更ができるようです。

ユーザーに協力してもらえることで成り立つ解決策

宅配業界の大変さが報道されるにつけ、SNS等で「協力しよう」という意見も多数見受けられるようになり、一定の効果があがっているという声も。まずは再配達を減らす、ということがドライバーの負担を減らす第一歩のようですね。

コンビニやセンターで受け取る

コンビニや営業所で受け取るサービスは、ヤマト運輸だけではなく、佐川急便や日本郵便も行っています。

Myカレンダーサービス

ヤマト運輸が提供する「Myカレンダーサービス」が、「再配達を減らせそうだ」と話題になっている。
 荷物を受け取りやすい時間帯を曜日ごとにあらかじめ登録しておけば、その時間帯に優先的に配送してくれるサービスだ。

再配達率を減少させる宅配ボックス

再配達を減らすために効果的な、宅配ボックスに注目が集まっています。パナソニックが福井県で行った実証実験でも、多大な効果が得られたようです。

宅配ボックスを販売するパナソニックエコソリューションズと福井県あわら市の共同で、実証実験が行われた。福井県あわら市が進める「働く世帯応援プロジェクト」の一環として行われ、共働き世代を対象に、導入の影響を計測した。
実験期間は2016年11月から2017年3月31日までで、2017年2月24日に中間報告が発表されたのだが、その結果、再配達率(荷物総数に占める再配達の件数の割合)は49%から8%へ激減。宅配業者の労働時間は65.8時間削減されたという。
ネット通販が急成長して、通常の宅配便に加えてネット通販の商品の配達も激増しており、宅配業者の労使問題にも発展している。宅配業者自体も含めて、宅配専用のボックス開発がここ数年続いていた。パナソニックが宅配ボックスの新製品を発表した。4月3日に発売する。

宅配ボックスを自主的に製作する強者も

宅配ボックスに注目が集まる中、「自作した!」という人まで現れました。実際に設置するためには色々とクリアしなければいけない条件もあるようですので、作ってみたいという方はそちらもしっかり調べてから設置してくださいね。

こちらは、製作者「能登たわし」さんによる自作宅配便ボックスです。どうやら宅配業者が不在でもこの中に入れておいてねという仕組みのようです。ドライバーはこれを組み立て南京錠で鍵をかけて宅配完了というものです。一見これがドライバーの負担のようにも見えますが、またココに来て荷物を届けに来る負担を考えれば実にありがたいはずです。
配達業者が宅配ボックスに対応しているとは限らないため、一概におすすめすることはできませんが、対応している場合にはとても合理的な手段。マンションの共用スペースへの設置は問題となる可能性がありますが、一戸建ての住宅では自作宅配ボックスを検討してみるのもアリかもしれません。ただし、ボックスごと盗難されてしまっては元も子もないので、ワイヤーで固定するなどの工夫は必要かと思われます。

未来の解決策

自動運転での配達は現実的?

解決策としてよく言われるのが、ドローンの利用に代表される自動運転配達システムですが、果たして現実のものとなるのでしょうか?まだまだ実現となると遠い道のりのようです。

今回のドローン配達システムは、トラックの貨物部の上部からドローンが飛び立ち配達を行うというもの。さらにドローンは自律飛行で飛び、すでにトラックが移動した別の地点にまで帰着します。これは相当な配達の労力の軽減が期待される……のですが、2回目のテストでは失敗したりとまだまだ実用的ではないようです。

最近では、フォードが未来の無人宅配システムを提案したコンセプト動画も話題になりました。未来感があってわくわくしますね。すぐに実現できるレベルではなくても、まったく現実的ではない、というレベルでもないので、近い未来に期待が持てます。

注文を受けてから家庭に届けるまでまったく人間の気配がしないのを見て「どうせこんな未来はやってこない」なんて思う人もいるかもしれません。でも、バーコードで中身を管理してくれる冷蔵庫は家電メーカー各社がプロトタイプを公開しているし、最先端の物流倉庫はロボットとAIが支配するほぼ無人の世界だし、ドローンによる宅配サービスも各国で実証実験の段階に入っています。実現までの道のりがやや長そうなのは、個人宅まで荷物を届けてくれる末端を無人にする段ですが、フォードは2021年までに、相乗り可能な完全自動運転車を完成させたいとしています。

日本の社会に間違いなく欠かせない存在となっている宅配業。ただ、その便利さを当たり前のことと思わず、苦労している人がいるのを忘れてはいけないですね。さまざまな解決策も見出されているようなので、今後はそちらにも期待したいものです。