特集2017年3月13日更新

これぞ地元愛?面白すぎる「地方ディス漫画」&「地域間バトル本」

「県民性」に関するテレビ番組が人気なことでわかるように、長く都会で暮らしていても、生まれ育った故郷のことはいつまでも気になるし、身体に染み付いた地元の習慣や思考はなかなか忘れられないものです。そんな中、最近人気を博しているのが「地方ディス」漫画、そして「地域間バトル本」。作品の紹介とともに、なぜ地元ネタは面白いのか、専門家に聞いてきました。

「地方ディス漫画」とは?

要するに、「自虐的な地方あるあるネタ漫画」です。単なる地方あるあるネタではなく自虐があるからより笑いが生まれ、単なる地方ディスではなくそこに愛があるから共感を呼ぶのです。そんな「地方ディス漫画が2015年ころから人気を呼び始め、テレビ番組で紹介されるようになって一気にブームとなりました。そんな中、「地方ディス漫画」を集めたアンソロジーが発売されました。それが『この「地方ディス」マンガがひどい!』です。

作者魔夜峰央、清野とおる ほか
出版宝島社
単行本全1巻
発売日2016年3月17日

※巻数はこれから紹介するものも含め、特に断りのないかぎり2017年3月13日時点のものです。

 同書には、都道府県魅力度ランキング44位の埼玉県を題材にした『翔んで埼玉』や『埼玉最強伝説』をはじめ、45位の群馬県を題材にした『お前はまだグンマを知らない』など全9作品を収録。本当に面白い地方マンガのみを収録したアンソロジーマンガ集となっている。

それでは、同書に収録された作品を中心に、人気の「地方ディス漫画」を紹介します。

お前はまだグンマを知らない

ネットで「魔境グンマー」という言葉やコラ画像で、必要以上に未開の地であるとネタにされていたグンマ。そんな群馬県いやグンマをリアルに紹介した(?)のが同書。地元では「ワンピースの3倍売れてる」んだとか。以前からネットでは話題になっていましたが、先日、深夜番組でも紹介されて大反響を呼びました。さらになんと実写でドラマと映画化まで発表され、グンマブーム襲来の予感です。

作者井田ヒロト
出版新潮社
単行本1 ~ 7巻
発売日2014年3月8日

どんな内容?

 それが北隣の「群馬県」を舞台にしたマンガ『お前はまだグンマを知らない』(井田ヒロト著、新潮社)。“地球上に唯一残された秘境”群馬の高校に転校してきた高校生が、始業の際に「起立・“注目”・礼・着席」という群馬の風習を知らず糾弾されるなど、カルチャーショックを受ける様を描いた作品だ。

売上50万部以上!地元群馬ではワンピース以上の売上

 2月13日深夜放送の『月曜から夜ふかし』で群馬にスポットライトが当たった。まずはさっそく『お前はまだグンマを知らない』を紹介。同書は3年前から徐々に売上を伸ばし、群馬県前橋の紀伊國屋書店では、『ワンピース』(作:尾田栄一郎/集英社)の3倍も売れているのだという。群馬県を痛烈にディスった同書なのだが群馬県民からなぜか大人気。群馬県民の女子学生にその理由を聞いてみると「バカにされてるけど、面白いからいい。バカにされる以外に(群馬は)有名になる方法がないからいい」とのこと。

あのグンマ描写は本当なの?

 そして群馬名物“からっ風”の話題に。山に囲まれている地域ということから、時期によって看板を吹き飛ばすほどの強風が吹き荒れる群馬。そんな“からっ風”の中を自転車通学する女子学生の太ももはムキムキになっていると同書内では描写されているのだが、これもあながち嘘ではないらしい。群馬県民の女子学生からは「朝とか『風で遅れました』って遅刻する人がいる」「(ズボンに)太ももが入らない」なんて体験談も。
「印象的なのが、『群馬に向かうJR高崎線は籠原駅以降ドアが開かなくなる』という話。自動ではなくボタンを押して開閉するんです。私は当たり前のように感じていましたが、主人公が『降ろしてもらえない!』とパニックになっているのが面白かった(笑い)」

ネットでは以前から「未開の地グンマー」とネタにされていた群馬

 群馬のことはミャンマーに引っ掛けて「グンマー」と呼び、「未開の地」と馬鹿にする。夜中に街を歩いていて警官に職務質問された男が「どこから来たのか?」と聞かれて「群馬から」と答えると、「グンマーね。ビザは持ってるの?」と不法入国者扱いされる小咄がネット上では広く流布している。それ自体はネタとして広まったものだが、「グンマー」の呼称で群馬県をからかう傾向を象徴する事例だ。

この漫画の舞台は「グンマ」であり「グンマー」ではないのですが、それでも「本当かよ!」とツッッコミを入れたくなるような場面もなきにしもあらずですが、どうやら本当らしい。それが地元民からは共感を、地元民以外からは笑いを呼ぶんでしょうか。

なん実写化も!

 ネットを中心に「未開の地グンマー」「日本最後の秘境」「古代グンマー帝国」など独特のいじられ方で注目を浴びる群馬県を舞台にしたコミック「お前はまだグンマを知らない」が、日本テレビで3月6日よりドラマ化、さらには映画化されることが明らかになった。主演は、若手俳優の間宮祥太朗が務める。

こちらは、2014年時の作者へのインタビュー記事。当時から既に反響を呼んでいましたが、さすがに出版当初は難色を示されていたようですね。今やその当時からは想像もつかない「グンマ」ブームになりそうな勢いです。

――そもそもこのマンガを出すとき、出版社は難色を示したそうですが、具体的にどんな流れで始まることになったのでしょうか?

井田ヒロト(以下、井田) 流れはとにかく担当編集の折田さんが最初に、「いけますよ、描きましょう!」と言ってくれて。ただ、そこからもっと上の方々にプレゼンする段階で難色示されたんですよ。固有名詞もガンガン入ってくるマンガなので、いろいろ訴えられるかもしれない、問題になるかもしれない、と。それは理解もできるんですが、かと言って固有名詞を使わずに描くこともできないし、だったらもう描くだけ描くから、あとは折田さんが闘ってくれと。丸投げしました。

翔んで埼玉

ある意味「地方ディス漫画ブーム」の火付け役となった作品。作者は「パタリロ!」でおなじみの魔夜峰央先生。「埼玉県民にはそこらへんの草でも食わせておけ!」「ああ、いやだ、埼玉なんて言ってるだけで口が埼玉になるわ!」など、魔夜先生ならではの切れ味鋭すぎる埼玉ディスワードの数々。元々は1986年に刊行された短編集「やおい君の日常的でない生活 」の中に収録されていたのですが、2015年に深夜番組「月曜から夜ふかし」で紹介され、大反響。単行本として復刊。50万部を超える大ベストセラーとなりました。

作者魔夜峰央
出版宝島社
単行本全1巻
発売日2015年12月24日

どんな内容?

容姿端麗の主人公・麻実は、東京のセレブ学校へ転校するのだが、その学校は“埼玉ディス”のオンパレード。「埼玉から東京に行くには通行手形が必要」「病気になっても医務室は東京都民のもの」とされ、しまいには学校内で「埼玉狩り」が行われるほど。
 東京都民の生徒の言動もなかなかひどく、埼玉県民の生徒に対し「そこらへんの草でも食わせておけ! 埼玉県民ならそれで治る!」と言い捨てれば、「生まれも育ちも埼玉だなんて おおおぞましい」「ああいやだ! 埼玉なんて言ってるだけで口が埼玉になるわ!」と、ひたすら軽蔑。そんな東京都民がめちゃくちゃ埼玉県民を虐げるマンガ、それが『翔んで埼玉』だ。

ひどすぎる埼玉ディスの数々

「最近やっと電気が通うようになった、まだテレビは珍しい」
「県知事に年貢を納めている」
「埼玉から東京に行くには通行手形が必要」
「埼玉にタクシーはない、あるのは牛車か馬車のみ」
などなどは、まだ序の口。
「三越は東京都民の行く所だ! 埼玉県民は星友(せいゆう)へ行け!」
麗に学内を案内する役を買って出た女生徒は、
「だめよ!あんな物(Z組)なんて見ちゃ目がけがれるわ!」
「ああ、いやだ、埼玉なんて言ってるだけで口が埼玉になるわ!」
学校で急に腹痛を訴える生徒に、学園の自治会長は、
「医務室を利用できるのは東京都民だけだ 出て行け!」
「そこらへんの草でも食わせておけ! 埼玉県民ならそれで治る!」
草食うだけで治すって、ドラクエ並みの薬草の効能ですね。

こんなひどい内容なのに、地元民は大喜び?売上の3割が埼玉県人で、県知事や埼玉各市の市長から応援コメントが届く始末。

『パタリロ!』などの代表作で知られる漫画家・魔夜峰央氏が、埼玉在住時代に執筆した大迷作『翔んで埼玉』。2015年12月、宝島社より30年の時を越え復刊すると、なんと57万部突破のスマッシュヒット作品になり、「2016年のヒット商品」としても話題になっています。驚くべきが、読者の3割が埼玉県人、現職の埼玉県知事・各埼玉市長からも応援コメントをいただく事態にまで発展している

埼玉県民の「東京へのあこがれ」を具現化?

こちらは作者の魔夜峰央先生のインタビュー。先生は元々、埼玉は所沢に在住。その頃に感じた「東京へのあこがれ」「自虐的な県民性」に気づき、軽いノリで作品化した様子。ちなみにその後、横浜に引っ越してしまい、「地元民が描くならともかく、横浜市民が描いたら怒られる」と作品は中断中らしいです。

魔夜 そうなんですよ。私、4年間だけ埼玉の所沢に住んでいて、その時に特に何があったわけじゃないんですけども、埼玉県民って絶対に東京に憧れてるよねっていうのが感じられたんですよ。さっきの埼玉新聞の記者の方も埼玉に住んでるそうなんですけど、僕が「でも東京の赤坂に住んでみたいでしょ?」って聞いたら「はい」って言ってました(笑)。

パルコ所沢店とのコラボも

2015年に4月には、「新所沢パルコ」のリニューアルオープンの企画の一環として、「翔んで埼玉」とのコラボが実現しています。「東京都民のパルコが新所沢にあるわけないだろ!」

今回も、2016年4月28日(木)のグランドリニューアルを機に、「一緒に新所沢を盛り上げたい」と新所沢パルコからオファーをいただき、異例のコラボレーションが実現しました。
 “翔んで埼玉祭”と銘打ち、コラボレーションしたポスターや看板、交通広告、新聞広告まで実施。新所沢パルコでは、魔夜先生によるトークショー&サイン会、原画展などのイベントも行われ、記念撮影用パネルも作成、オリジナルふせんなども配布される大規模な企画となります。

ウヒョッ!東京都北区赤羽

こちらは、山田孝之主演で実写化されましたが、地方もの漫画として上記2作品に劣らない…どころかむしろ上かもしれません。奇天烈な地元ネタと強烈すぎる個性的な住民たちを描き、「赤羽ブーム」を巻き起こしました。

作者清野とおる
出版双葉社
単行本1 ~ 5巻
発売日2013年7月12日

どんな内容?

 3冊目は赤羽の歪んだ非日常を伝える衝撃の実話ドキュメント『ウヒョッ! 東京都北区赤羽』(清野とおる)。「勢いがまったく衰えていないのがすごい。赤羽という街の特殊性を思い知らされます。あっちの世界とこっちの世界の狭間にいて身を削っている清野さんにしか描けないマンガでしょう。普通じゃない人が起こす笑いの爆発力はもちろん、ルポタージュとしても面白いです」と勧める同作は、東京・赤羽で出会ったちょっと変わった人や普通じゃない店との衝撃的なエピソードをオールカラーで描いた完全実話のドキュメントマンガ。
 原因は『漫画アクション』(双葉社)にて連載中のエッセイ漫画『ウヒョッ! 東京都北区赤羽』の存在。デビュー後に連載を失い、板橋区の実家にいるのがいたたまれなくなった、という漫画家・清野とおる氏が隣町の北区赤羽に引っ越し、そこでのあまりにユニークな体験を漫画にしたのがそもそもの始まり。携帯サイトで「東京都北区赤羽」のタイトルで連載されている頃からカルト的な人気を得ていたらしいのだが、メジャー誌である『漫画アクション』に移ってからさらにブレイク。

地元ではクレームどころか「ワンピース」を上回る人気

こうして売上の引き合いに必ず出てくる「ワンピース」もすごいな、って思います。

そして相変わらず脱力系ながら妙に書き込みの細かいリアリティ溢れる絵柄に、作者の「赤羽愛」を感じずにいられない。素材が素材だけに、一歩間違えば住民からクレームがあってもおかしくない作品なのに、地元赤羽では『ONE PIECE』よりも売れている模様。地域住民もきっとその「赤羽愛」を敏感に察知してるんだろうなぁ、と。そういう意味では、凄く幸せな作品なのかもしれない。

山田孝之主演で実写化!

漫画の実写化に人気俳優の出演というのは今や珍しくなくなってきましたが、あの絵柄と山田孝之のギャップがすごすぎて話題に。そしてそれ以上に「山田孝之がこの漫画に影響を受けて赤羽に引っ越した」という衝撃に事実も。

挙げ句の果てにこの漫画に感銘を受けた俳優・山田孝之が赤羽に住み、その模様がドキュメンタリードラマ化される、という凄まじい状況に。この相乗効果で現在赤羽の知名度は上がる一方である。

実写化は原作がギャグ漫画にもかかわらず、山田孝之のドキュメンタリーになっているという、どこまでも異色作。

14年夏に役と自分を切り離すことができなくなった俳優・山田孝之が、漫画「ウヒョッ!東京都北区赤羽」(双葉社)と出合い、作者の清野とおるや赤羽の住人たちと交流しながら、自らの軸となるものを追い求めるドキュメンタリードラマ。

上記のインタビューで面白かったのが、あんなに作品に惚れ込んで引っ越しまでした山田孝之が、だんだん体調が悪くなっていくところ。人気俳優すら負担を感じる街、それが赤羽。

山下:綾野剛くんが出た8話辺りでだんだん山田くんに疲れが見えてくるんだよね(笑)。赤羽に住むことが相当負担になっているなあと。彼も人間なんだなあと。だって、あの山田孝之に吹き出物ができたんですよ!!(笑)。

作者も赤羽の住民のひとりだった…

漫画家としての活動に話が及ぶと、清野は、「(ドラマ化されたことについて)注目集まったのは山田孝之さんだけで、僕の単行本に数字もそんな跳ね返ってこなかったし」「部数に関しては嘘ついちゃいますよね、単行本の。累計で50万部って言ってますね。(実際には)20万部ですね」「面白くないですよ、僕なんてもう」「こんな生身じゃ何も僕できないし、気の利いたことも言えないし...お酒の力を借りなきゃ(できない)」と、人気漫画家らしからぬネガティブなコメントを連発した。

以上が地方ディス漫画の代表的な3作ですが、それ以外の地方ディス漫画・地方あるある漫画も紹介していきます。

地方は活性化するか否か

ウェブ漫画発で、発刊後様々なメディアで人気に火がついた作品。かわいい女子高生が地方自治体を斬りまくるギャップが魅力です。

作者こばやしたけし
出版学研プラス
単行本全1巻
発売日2015年10月20日
累計290万PV超えの人気WEBマンガ「地方は活性化するか否か」(http://minorikou.blog.jp/)の書籍版です。書籍化にあたり、WEB版の4コママンガをストーリー漫画に再構成し、地方都市の課題に鋭く切り込む書き下ろしコラムも各章に収録しています。発刊後、テレビ・新聞・ラジオ・WEBと様々なメディアに取り上げられ話題になっています。

都道府県民のオキテシリーズ

「地方あるある」を都道府県別に紹介するのがこのシリーズ。第1弾の「北海道民のオキテ」は、好評だったのか続編の「もっと!北海道民のオキテ」も刊行。その後沖縄、愛知、福岡とシリーズが続いています。

作者さとうまさ&もえ(原作)、たいら さおり(漫画)
出版KADOKAWA
単行本全1巻(別名の続編あり)
発売日2014年4月14日
「道民が気温を5度とか15度とかいうと、マイナス5度やマイナス15度のことを意味する」
「道民にとってマイナス5度ぐらいなら全然暖かい方」
 逆に、0度以上の気温の時にあえて「プラス5度」というらしいです。これは知っておかないと、命にかかわるレベルの文化の違いですね。
「道民はゴミ集積所にゴミを捨てることを『ゴミステーションにゴミを投げる』という」

47都道府県擬人化バトル よとしち!

日本の各地域の名前と特徴を持った生徒が通う四十七(よとしち)学園。この学園の生徒は47都道府県を擬人化した男女。学園の頂点につく「シュト」を倒すために、各地方が立ち上がる。シリアスではなく、互いの特産品や県民性を自慢し合うゆる~い展開。そんな中で「アニメイト仙台の下には魚屋がある」「派手婚と言われる愛知の結婚式の費用は実は平均以下」「石川はたいてい悪天候」など、自慢なんだか自虐なんだかよくわからないご当地ネタが飛び交います。

作者佐保
出版KADOKAWA
単行本全1巻
発売日2015年1月26日

こちらも面白い「地域間バトル」ベスト10

ここまで紹介してきた地方ディス漫画のほかに、近年では地方の題材にした書籍も人気を呼んでいます。その中のひとつ、「地域批評シリーズ」(マイクロマガジン社)の編集部長、高田泰治さんに地方特有の興味深い話についてうかがいました。

「地域批評シリーズ」は、地方や地域が抱える問題をその土地の歴史や文化、気風(県民性)などの分析を交えながら鋭い目線で切り込んでいく本で、東京23区を皮切りに各都道府県や政令指定都市をターゲットに批評を続け、現在76作品が刊行されている人気シリーズです。
高田さんは編集部長という立場でありながら、本の方向性を定めるために毎回自ら現地へ足を運び、当地の住民や行政関係者、地元有識者を対象に取材。地方のリアルな実態を肌で感じている編集者で、「面白い地方ネタ」をいくつも持っている人物です。
そんな高田さんがこれまで取材してきた中で印象に残っているネタを紹介してもらいました。

県を真っ二つ?終わりなき因縁バトル 「長野 vs 松本」

高田さん「地域間のバトルで最も印象に残っているのは長野県の長野市と松本市の対立です。歴史的背景は、善光寺がある門前町の長野と松本城を持つ城下町の松本という構図で、風俗街も抱えていた賑やかな門前町・長野に対して、秩序を守ることを良しとする城下町・松本の人たちは『下品』という印象を持っているようですね。松本は『長野県』という言葉に抵抗感が強くて『信州』という呼び方にこだわっていますし、1948年には国内で最後と言われている激しい分県運動も起こっています。
地域同士のいがみ合いは全国各地、いくつもありますが、多くは『こっちが上、あっちが下』という明確な格差があって、“上”は『そもそも相手にしていない』、“下”はただの嫉妬だったり諦めみたいな感情があるものですが、長野と松本は明確な格差がなく、両方が強くてどちらも『我々が中心』という気持ちが強いので決着がつきそうにない、という点が面白いところです」

“上から目線”が気に入らない!? 「津軽 vs 南部」(青森県)

高田さん「さきほど述べた格差という面では、青森県内の津軽地方と南部地方も印象に残っています。名前の通り、もともと津軽藩と南部藩で国が違うため言葉も文化も違う両地域には、地勢や気候の問題を背景に大きな格差があるんです。構図としては上から目線の津軽と口うるさい南部といった感じなんですが、これを紐解くと、肥沃な土地を持って農業の花形であるコメや青森の象徴ともいえるリンゴの栽培が盛んで“余裕がある”津軽に対して、今でこそ努力によってゴボウやニンニクが採れるようになったものの、もともと土地が貧しく“余裕がない”南部が噛み付いている、といった印象を受けました」

同じ県なのに興味がない!? 山形県の4地域分断

高田さん「明確に地域が分かれているのに対立がないという点で驚いたのは山形県です。県内は内陸部が置賜、村山、最上の3つと沿岸部の庄内という、計4つの地域に分かれています。まず出羽山地によって内陸部と沿岸部が隔絶されていて、さらに内陸部では盆地ごとに異なる生活圏が形成されています。地理的要因で分断されているわけです。それゆえに、強烈な地域間対立はない反面、そもそも地域間の交流もなければ、お互いによく知らないし興味もないという状態なんです。住民の『今でも国境がある』という言葉が印象に残っています」

北九州は“下品”で“危ない”!? 「福岡 vs 北九州」

高田さん「私が福岡県出身ということで、福岡市と北九州市についても紹介しておきたいですね。官営の八幡製鉄所を中心として工業を基軸に発展して先に政令指定都市になった北九州市と、近年の人口増が逆に“パンク寸前”と社会問題になりそうなほど現在進行形で発展している福岡市。もともと福岡市民が北九州に対して『下品』『汚い』『危ない』というイメージを持っていたのが対立の発端でしょうか。北九州の年配の方などはまだ対抗心が強いようですが、最近の若者たちはそうでもなく、福岡市に対して憧れすら抱いているようで、かつては考えられなかった北九州から福岡市への人口流入も起きているようです」

合併後もくすぶるライバル心 「浦和 vs 大宮」(さいたま市)

高田さん「地域批評シリーズは、いわゆる『平成の大合併』で起きたスッタモンダも頻繁に取り上げているんですが、その中で一番強烈だったのは、さいたま市の合併です。合併前の人口は浦和が49万人、大宮市が46万とほぼ互角で、県庁所在地で県政の中心地にして全国有数の文教都市でもある浦和、新幹線駅も抱え交通の要所にして県内最大の商業都市の大宮。互いに甲乙つけがたい“格”を持っていて、明治初期から県庁をめぐって争ってきた歴史もあります。多くの問題を乗り越えて合併はしたものの、浦和民と大宮民には、いまだに『こっちが中心』という思いがくすぶっているようです」

ワースト3…でも「こいつらだけには負けたくない!」 北関東3県バトル

高田さん「群馬、栃木、茨城の北関東3県は毎年発表されている都道府県魅力度ランキングでいつも最下位争いをしていて、最新のランキングでも45位群馬、46位栃木、47位茨城と、ワースト3は北関東3県で占めています。魅力度が低いということは地味ということ。このことで『地味な北関東出身です』と自虐的に自己紹介する北関東出身者は多いですが、これはあくまで対外的な話で、内輪(北関東他県)が相手となると謙虚さは鳴りを潜めて攻撃的になるようです。対外的にはどう思われてもいいけど『こいつらだけには負けたくない!』という強烈なライバル心をひしひしと感じます」

…と、高田さんには当初「ベスト5を…」とお願いしていたのですが、「どうしても絞りきれない」と“ベスト6”を紹介する形となりました。それでも「まだまだありますよ!」ということでお話をうかがいましたので、さらに4ネタを短めに紹介します。

ヨソから見ればただの“兄弟げんか”? 「長崎 vs 佐世保」

高田さん「どちらも港を中心とした街で、産業構造や街のつくりに似ている面が多い2都市。対抗心が強いようですが、部外者から見れば似た者同士、言うなれば『兄弟げんか』みたいなものです」

同じ県なのに格差がひどい? 「薩摩と大隅」(鹿児島県)

高田さん「最も『格差がひどい』と感じました。鹿児島県は『全部、薩摩が仕切っている』という感じがする一方で、大隅地方は産業面や鉄道といったインフラ面も乏しく、『見捨てられている?』という感じがしましたね」

取材で初めて耳にした富山県の“呉西”と“呉東”

高田さん「取材を進めていくうちに『え、境界があるの?』と驚きました。県のほぼ真ん中にある呉羽山(呉羽丘陵)を境に西側を呉西(ごせい)、東側を呉東(ごとう)と呼んでいて、文化や言葉が異なっているんです。通常こういった地理的に分断する山は、青森や山形のように高く険しいものですが、この呉羽山は最高地点でも150メートルに満たない山なので余計に驚きました」

熾烈なライバル関係も一方に陰りが…? 「高崎 vs 前橋」(群馬県)

高田さん「ともに人口30万人を超える都市で、人口と商業規模は高崎、県庁所在地は前橋という熾烈なライバル関係です。ただ、前橋に衰退の兆候が見えますので、いっそのこと合併すればいいのではないでしょうか…まぁ、揉めに揉めるでしょうけど(笑)」

面白い地方ネタの紹介は以上です。ちなみに、見出しの地域名の順番は特に意図したわけではないので、地元の方は怒らないでくださいね…。


取材の最後に、地方の題材にした漫画や書籍が人気となっている背景についても高田さんに聞いてみました。その際の高田さんの見解を、今回の特集の締めとさせていただきます。

高田さん「やはり『あるある!』『そうそう!』といった部分を面白く感じるのだと思います。本の売り上げの傾向からも『ヨソの地方のことを知りたい』ではなく、自分の住んでいる地域や出身地の話で共感したいという思いが働いているのでしょう。自分たちはどうであるかの確認、いわば『ステータスの確認』をしたいという欲求があるのではないでしょうか。それだけに、いい加減な作りの本では読者の共感は得られませんので、作り手としては『細部までこだわらないと』という思いで本づくりに取り組んでいます」