特集2017年10月10日更新

日本人の4年連続受賞なるか 2017年ノーベル賞

今年のノーベル賞の発表は10月2日の医学・生理学賞から始まり、9日の経済学賞で受賞者が出そろいました。期待されていた日本人の科学者の4年連続受賞はなりませんでしたが、各賞の受賞者を紹介するとともに、有力とされていた日本人候補者とその研究を紹介していきましょう。

ノーベル賞に関する最新ニュース

目の動きでパソコンに文字を入力していく嶋守恵之さん。目が疲れた時は、口にくわえたチューブを使って入力する=東京都北区の自宅で2017年11月16日午前11時54分、荒木涼子撮影

iPS細胞作製10年:難病患者、諦めぬ 待ち望む治療薬

毎日新聞 / 2017年11月21日 21時57分

ALS発症した元外務省職員の嶋守さん 「『10年計画で治ろう』と、妻が励ましてくれた」--。神経難病「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」を2008年に発症した元外務省職員の嶋守恵之(しまもり・しげゆき)さん(50)は、告知された当時をこう振り返る。 [全文を読む]

医学・生理学賞

「体内時計を制御する分子メカニズムの発見」の米国3氏に

これまで2年連続で日本の研究者が受賞してきたノーベル医学生理学賞でしたが、今年は米ブランダイス大のジェフリー・ホール名誉教授、マイケル・ロスバッシュ教授(写真)、ロックフェラー大のマイケル・ヤング教授に決まりました。授賞理由は「概日(がいじつ)リズムを制御する分子メカニズムの発見」になります。

人を含めた地球上のほとんどの生物は、太陽の動きに合わせて約24時間のリズムで活動する。3人は1984年、この体内時計をつかさどる遺伝子をショウジョウバエで発見し、その仕組みを分子レベルで解明した。

前述したように日本人の3年連続受賞も期待されていた同賞、今年も本庶佑教授が有力候補として名前が上がっていました。有力な候補者として名前が挙がっていた方々を紹介しておきます。

主な日本人の候補者

本庶佑 京都大学特別教授

本庶佑氏は昨年も候補者予想に名前が挙がり、今年は多くのメディアが「本命」と予想しています。
評価されているのは、免疫細胞の働きを抑制するタンパク質「PD-1」を発見し、画期的ながん治療薬として話題の「オプジーボ」の開発につなげ、がん免疫療法の発展に貢献した点です。オプジーボは、がん細胞によって活動を制御されていた免疫細胞のブレーキを解除し、免疫力を高めることによってがん細胞を攻撃する新しいタイプの抗がん剤として注目されています。

坂口志文 大阪大学特任教授

本庶氏と同じくらい多く名前が挙げられて期待されているのが、免疫が過剰に働くのを抑える「制御性T細胞」を発見した坂口志文氏です。
花粉症治療法として注目を集めている「舌下免疫療法」などとも関係し、研究が進めばアレルギーの予防・治療が可能になるかもしれないとして評価されています。

舌下免疫療法が根治につながる理由は、免疫細胞の一種である「制御性T細胞(通称・Tレグ)」の働きを活発にすることにある。Tレグは1995年に大阪大学の坂口志文教授が発見したもので、「世紀の発見」といわれている。

遠藤章 東京農工大学特別栄誉教授

世界的な医学賞の「ガードナー国際賞」を今年受賞した遠藤章氏も有力候補とされていて、毎年各メディアに取り上げられる日本科学未来館の予想でも名前が挙がっています。ガードナー賞は大隅氏や大村氏、iPS細胞を開発した山中伸弥氏など、過去のノーベル生理・医学賞受賞者も数多く受賞している賞ということもあり、ノーベル賞受賞の期待も高まっています。
遠藤氏は、コレステロールの血中濃度を下げる物質「スタチン」を発見し、世界中で推計4000万人が使っているという動脈硬化の治療薬の開発へとつなげました。

「コレステロールの増えすぎは健康に良くない」という話はかなり世間に浸透しつつありますね。しかし、遠藤博士は多くの人にとって「コレステロール?何それ?」という時代に、飽食や運動不足でいずれはコレステロールに悩む時代が来るだろうと予想し、血中コレステロールを低下させる薬「スタチン」の開発を始めました。

森和俊 京都大学教授

細胞生物学では「小胞体ストレス応答」の仕組みを解明した森和俊氏の名前も挙がっています。森氏は、ガードナー国際賞、ラスカー賞、トムソン・ロイター引用栄誉賞(現クラリベイト・アナリティクス引用栄誉賞)という、ノーベル賞受賞者予想でよく引き合いに出される賞の「三冠」を達成している点からも期待されています。
小胞体ストレス応答とは、細胞の中で作られる不良なタンパク質の蓄積を防ぐ仕組みのこと。このタンパク質の“品質管理”の仕組みが解明されたことで、パーキンソン病などの治療開発が期待されているといいます。

石野良純 九州大学教授

日本人以外に目を向けると、遺伝子組み換えよりも正確に遺伝子を操作できる「ゲノム編集」の開発でアメリカとフランスの女性科学者の受賞が有力視されていています。二人が開発した技術は「CRISPR/Cas9(クリスパー・キャスナイン)」と呼ばれ、その根底にあるクリスパーという遺伝子配列を発見したのは日本の石野良純氏です。
ノーベル賞は研究の第一発見者を評価する傾向にあるため、予想通り欧米の二人が受賞となれば、石野氏が共同受賞する可能性もあると指摘されています。

九州大学の石野良純教授らによって2013年に発見された細菌の免疫防御システムが「CRISPR/Cas9」である。この免疫防御システムを簡単に言ってしまうと、細菌は過去に侵入を許したウイルスを記録しており、再び侵入してきた際には過去の記録と照合して見つけ出し、入り込んでいるウイルスのDNAを切断して排除するという働きである。
切断された後にDNAは修復されるのだが、この切断箇所に人為的にDNAを挿入して一部DNA情報を書き換えることもできるのだ。必ず成功するとは限らず修復エラーも発生するのだが、この「CRISPR/Cas9」の発見によって、ゲノム編集技術が格段に進歩したのである。

物理学賞

大本命「重力波」検出の米3氏が受賞

2017年のノーベル物理学賞を受賞した ライナー・ウェイス氏、バリー・バリッシュ氏、キップ・ソーン氏。受賞理由は「LIGO(ライゴ)への決定的な貢献と重力波の検出」。米国を中心とした国際研究チーム「LIGO」において中心的な役割を担った3氏は、アインシュタイン博士が一般相対性理論で約100年前に存在を予言していたものの、これまで直接観測されることのなかった「重力波」を検出することに世界で初めて成功しました。
ノーベル物理学賞の受賞分野には法則性があるといわれていて、物性(物質の示す物理的性質)の分野と宇宙・素粒子分野が交互に受賞する傾向があります。近年を振り返ると、2013年は素粒子(ヒッグス粒子)、14年は物性(青色LED)、15年は素粒子(ニュートリノ振動)、16年は物性(トポロジカル相転移)ときていることから、今年は宇宙分野からの選出が有力とされていました。
そんな背景もあることから、昨年「世紀の発見」「アインシュタインの100年の宿題を解いた」として世界中を賑わせ、受賞は時間の問題といわれていた「重力波の検出」が選出されたのです。

質量を持った物体が動いたとき、周囲の時空(時間と空間)にゆがみが生じ、そのゆがみが光速でさざ波のように宇宙空間に伝わる現象。物理学者アインシュタインが1915~16年に完成させた「一般相対性理論」でその存在を予言した。宇宙の誕生直後に放出されたほか、重い天体同士が互いの周りを回る連星や、ブラックホールの合体などでも生じると考えられている。米国の「LIGO」のほか、欧州でも「VIRGO(バーゴ)」という検出装置が稼働中。日本でも東京大宇宙線研究所などが大型低温重力波望遠鏡「KAGRA(かぐら)」(岐阜県飛騨市)を建設し、2015年ノーベル物理学賞を受賞した梶田隆章・同所長らが検出を目指している。

LIGOには日本人研究者者も

ノーベル物理学賞を受賞した3氏が率いた国際研究チーム「LIGO」には、日本人の研究者、新井宏二氏も参加しています。重力波は、地球と太陽との距離、約1億5000万キロをわずか水素原子1個分変化させる程度の効果しかないため、検出装置にはわずかなぶれも許されません。新井氏は磁力などを使ってぶれを最小限に抑える制御方式を考案、検出に貢献しました。

アインシュタインの「最後の宿題」とも言われた重力波の観測に世界で初めて成功した「LIGO」には、日本人研究者も参加している。国立天文台(東京都)から8年前に米カリフォルニア工科大に移った新井宏二上席研究員(45)だ。ノーベル賞決定に「重力波の検出に直接携わり、受賞の一助になれたことを光栄に思う」と喜んだ。

日本は物性物理学の分野の層が厚いため、受賞分野の法則性が崩れなければ受賞は厳しい状況ではありましたが、日本人科学者の中にも以下のような有力候補がいました。

主な日本人の候補者

十倉好紀 東京大学卓越教授

理化学研究所創発物性科学研究センター長で、今年3月に東京大学初の「卓越教授」となった十倉好紀氏は、電子の特殊な性質を巧みに操って新素材開発に取り組み、磁石と誘電体の性質を併せ持つ「マルチフェロイック物質」を開発。この物質は電気と磁気の性質を併せ持つため、メモリーデバイスへの応用が期待されています。

細野秀雄 東京工業大学教授

リニア新幹線でもよく聞く「超電導」は、一部の物質をある温度まで冷やすと電気抵抗がゼロになる現象のことで、鉄は超電導との相性が悪いとされていました。細野秀雄氏はそんな従来の常識を覆し、鉄を主成分とした化合物(鉄系物質)でも“高温”で超電導になることを発見。鉄系物質は、それまで研究されてきた銅系物質より加工しやすいため、新たな国際競争の扉を開いたとして評価されています。

香取秀俊 東京大学教授

香取氏は300億年に1秒しかずれないという、超精密な「光格子時計」を発明しました。これは時間の単位である「秒」を定義するための「セシウム原子時計」が3000万年に1秒ほどの狂いだと言えば、その精度が文字通り桁違いだということがおわかりになるかと思います。この超精密な光格子時計を使うことにより「重力の大きさによって、時間の進む速さが変わる」という、アインシュタインの相対性理論の検証が可能になったのです。そしてその重力の大きさを測ることにより、様々な応用も期待できるのです。

光格子時計を使えば、そのわずかなズレが分かります。逆にいうと、光格子時計をいくつか用意してズレを調べれば、「高さや重力の違いを検出できる」ことになるのです。つまり、香取先生の研究により、時計は「正確な時を刻む道具」であると同時に「重力の大きさを測る超高感度センサー」の機能を得たのです。
それを利用すれば、地表面で重力を測るだけで、周囲より重い物質である地下鉱床を探査できるかもしれません。また、周囲の岩石よりも重いマグマの移動を観測することで、火山噴火の前兆を知ることができるかもしれません。

佐川眞人 インターメタリックス株式会社最高技術顧問

佐川眞人氏は、1982年に「史上最強の磁石」ネオジム磁石を発明。ネオジム磁石は30年以上「最強」の座に君臨し続けていて、この磁石のおかげで産業用ロボットが油圧から電動に切り替わったほか、ハードディスクの読み出し装置や電気自動車、風力発電などに幅広く応用され、「ネオジム磁石がなければ世界中の産業が成り立たなくなる」といわれるほどの発明です。なお佐川氏は、記事によっては化学賞の候補に挙げられています。

近藤淳 産業技術総合研究所名誉フェロー

通常、金属の電気抵抗は温度が下がるとともに減少していくものの、不純物を含む金属ではある温度から逆に抵抗が上昇します。これは「抵抗極小現象」と呼ばれ、上で少し紹介した超電導と並び、1930年代から長年にわたって物理学における未解決問題でした。そんな中、近藤淳氏は抵抗極小現象を量子力学の理論により解明。その功績から抵抗極小現象などを含めた抵抗極小物質が示す異常現象は「近藤効果」と呼ばれています。

化学賞

「クライオ電子顕微鏡法の開発」で欧米の3氏が受賞

2017年のノーベル化学賞を受賞した(左から)ジャック・デュボシェ氏、ヨアヒム・フランク氏、リチャード・ヘンダーソン氏。授賞理由は「生体分子の画像化を単純化し改善したクライオ電子顕微鏡法の開発」。この顕微鏡は、生物のたんぱく質などを急速に冷却することで、高解像度で観察できるというものです。

電子顕微鏡を使ったタンパク質の観察は、試料を真空中に置き、解像度を上げるため強い電子線を当てる必要があり、そのままの形で観測するのが難しかった。
デュボシェ氏は試料を包む水を急速に冷却することで、真空中でも水を蒸発させず、タンパク質など生体分子の構造を保ったまま観察できる技術を開発した。フランク、ヘンダーソン両氏による画像処理技術が加わり、急速に発展した。
クライオ電子顕微鏡によって詳しい構造の解明が進んだ分子には、細胞の膜に埋め込まれたタンパク質をはじめ、創薬分野などで重要なものが多い。ジカ熱を引き起こすウイルスもこの技術で可視化されたといい、授賞理由で同アカデミーは「この技術で生化学は新たな時代へと進んだ」と高く評価した。

化学賞は有機化学や生化学、分析化学、物質材料など分野が幅広く、また日本は有機化学分野に強いといった特徴もあってか、数多くの日本人研究者が有力候補として名前が挙がっていました。

主な日本人の候補者

宮坂力 桐蔭横浜大学特任教授

宮坂力氏は次世代太陽電池「ペロブスカイト太陽電池」を発明し、9月20日に発表された「クラリベイト・アナリティクス引用栄誉賞」(旧トムソン・ロイター引用栄誉賞)を受賞。この賞は近い将来にノーベル賞を受賞する可能性の高い研究者が選出されるもので、今年の22人中、日本人で唯一選ばれたということで期待が高まっています。

2002年よりノーベル賞に先駆けて毎年9月に発表するのが恒例となっており、これまでに43名が実際にノーベル賞を受賞している。
2017年は22名が受賞。日本からは化学分野で桐蔭横浜大学 医用工学部 特任教授の宮坂力氏が「効率的なエネルギー変換を達成するためのペロブスカイト材料の発見と応用」において受賞した。
「ペロブスカイト」とは特殊な結晶の構造のこと。宮坂氏は2009年、鉛などを含む有機化合物をペロブスカイト構造の結晶にして金属板などに塗ると、太陽電池ができることを発見した。ペロブスカイト太陽電池は弱い光でも発電できる一方、太陽光を電気に変える発電効率の低さに課題があった。しかし研究を積み重ねた結果、従来のシリコン系太陽電池に肩を並べる20%台まで上昇したという報告もあり、実用化が視野に入りつつある。

吉野彰 旭化成株式会社顧問

ノートパソコンやスマートフォンなどのバッテリーとして現在の日常生活に欠かせないリチウムイオン電池の開発に貢献。

神谷信夫 大阪市立大学教授

光合成研究で豊富な実績があり、岡山大学教授で中国籍の沈建仁氏と共同で、光を受けて水を分解するタンパク質複合体の構造を解明。

山本尚 中部大学教授

触媒の研究に取り組み、目的の物質を効率的に取り出せる「分子性酸触媒」を開発。有機化学分野で最も権威ある賞「ロジャー・アダムス賞」の今年の受賞者としても期待が高まっています。

向山光昭 東京大学名誉教授

長きに渡り独自の発想で有機合成化学の新しい合成方法を次々と開拓し、「日本の有機合成化学の父」などと称される日本の有機化学界の第一人者。有機物同士をつないでより複雑な有機物を作る「向山アルドール反応」を開発したことで有名です。

藤嶋昭 東京理科大学学長

水の中に浸した酸化チタンに光を当てると水が水素と酸素に分解する「光触媒反応」を発見。汚れがつきにくくなる性質を利用して建物の外壁や自動車のミラーなどに応用されています。

國武豊喜 九州大学特別主幹教授

水になじみやすい親水部分となじみにくい疎水部分が並ぶ二重構造の細胞膜を世界で初めて人工的に作成。細胞膜は構造が複雑で生体内でしか作れない、人工的に再現するのは不可能と思われていた中での快挙だということです。

柴崎正勝 東京大学名誉教授

炭素同士を結合する効率的な合成法を開発。

村井眞二 大阪大学名誉教授

効率よく切断するのは困難とされてきた炭素と水素の結合を切断して別の有機物とつなぐ実用的な合成法を開拓。

文学賞

長崎県出身の日系英国人、カズオ・イシグロ氏が受賞

今年のノーベル文学賞は長崎県出身の日系イギリス人作家、カズオ・イシグロ氏が受賞しました。受賞理由は「偉大な感情の力を持つ数々の作品において、世界と結び付く、われわれの幻想的感覚を深い奥底から見つけ出してきた」となっています。イシグロ氏は日本で生まれ、5歳で海洋学者の父らと英国に移住後、英国籍を取得しました。89年に発表した「日の名残り」で世界的な権威の文学賞である「ブッカー賞」を受賞しました。

イシグロさんは海洋学者の父の仕事のために5歳で家族とともに渡英、英国籍を取った。一貫して英語で執筆する。「日の名残り」(1989年)で英国文学界最高の権威であるブッカー賞を受賞。来日時の取材に対し「母がシャーロック・ホームズやアガサ・クリスティを日本語で読んでくれたのが英文学に接した最初です。私にとって日本は外国ですが、感情面では特別な国。もう一つのふるさとなのです」と話している。

ベストセラー「わたしを離さないで」が日本でドラマ化

2016年、英国で100万部を超える大ヒットとなった「わたしを離さないで」が世界で初めてTBS系でドラマ化されました。出演は主演の綾瀬はるかほか、三浦春馬、水川あさみなど。主演の綾瀬は、ドラマ化にあたり原作のイシグロ氏と対談を行っています。

イギリスでベストセラーとなった、カズオ・イシグロ原作の『わたしを離さないで』も注目作の一つです。2010年のイギリス映画版では、17歳の3人の男女の共同生活と青春が繊細かつ静かに描かれました。綾瀬はるかさん、三浦春馬さん、水川あさみさんというキャスティングも、美しくも残酷な設定にマッチしており、素敵な化学反応が見られそうです。
また、綾瀬がこの作品の持つメッセージ性について質問をすると、執筆過程の秘話を明かした上で、「人生は短いということを書きたかった。全ての人は死を迎える。その短い人生の中で避けられない死に直面したときに何が重要なのか、そういうテーマについて書きたいと思った」と告白。それを聞いた綾瀬はじっと受け止めて考え込むような様子を見せた。
物語の舞台は1970~90年代のイギリス。田園地帯にある寄宿学校「ヘールシャム」で育ったキャシー、その幼なじみのルースやトミーたちが成長する姿を描く作品だ。しかしそこには幼少期特有の、大人によって優しく安全に守られている感じがない。それはやがて驚くべき事実として提示されるのだが、それが何であるかはここでは秘密にしておく。この作品を読む人に彼らの運命を受け止め、考えてほしいからだ。その奇妙な設定について、作者のイシグロはNHK Eテレで放送された番組『カズオ・イシグロを探して』で「設定はメタファーとして選んだものだ。物語が展開するにつれ、人々に気づいてほしかったんだ。これが全ての人に当てはまる、人間の根幹を描く物語だということを」と語っている。

村上春樹は今年も受賞ならず

文学賞といえば、もはや例年の風物詩と化してきた「村上春樹氏の受賞なるか?」に今年も注目が集まっていました。今年も春樹ファンがゆかりの地・鳩森八幡神社に集まり発表を待ちましたが、残念ながら吉報とはなりませんでした。

ノーベル文学賞が発表された5日、村上春樹さん(68)の経営するジャズ喫茶があった、東京・千駄ケ谷の鳩森八幡神社では、発表までのカウントダウンイベントが行われた。“ハルキスト”(村上さんの熱心なファンのこと)やマスコミ約200人が集まり、スウェーデン王立科学アカデミーのインターネット中継を見ながら吉報を待った。
午後8時過ぎ、受賞を逃したことが伝えられると集まったファンの間からはため息が漏れた。

地域や言語の“持ち回り”の観点からいえば、2012年に中国の莫言氏が受賞したばかりというところで「日本人は当分苦しい」という意見もあり、06年にフランツ・カフカ賞を受賞して以来、毎年有力候補として名前が挙がってきた村上氏の“12度目の正直”はなりませんでした。

平和賞

NGO「核兵器廃絶国際キャンペーン」が受賞

今年のノーベル平和賞は、核兵器廃絶に取り組んできた国際的なNGOの連合体「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」が受賞しました。授賞理由として「核兵器の使用による破滅的な人道上の結果に注目を集めるための取り組みや、条約に基づいた核兵器の禁止実現に向けた画期的な努力」が評価されています。北朝鮮とアメリカの「ミサイル危機」が高まる中、改めて核廃絶への取り組みが注目されることになりそうです。

ICANは2007年に300を超えるNGOが協力してウィーン(Vienna)で正式に発足。以降、核廃絶のためにメンバーらは核拡散などに関する禁止条約の交渉推進を働き掛けるなど、たゆみない活動を続けてきた。
今年7月に国連(UN)で122か国の賛成により採択された核兵器禁止条約においても、ICANは中心的な役割を担った。しかし、米国、英国、フランス、ロシア、中国、インド、パキスタン、北朝鮮、イスラエルの核保有9か国は条約に関する交渉や投票には参加しなかった。

広島の被爆者らも受賞に喜び

受賞したICANが中心的な役割を担った今年7月の国連での核兵器禁止条約の採択において、日本の広島県原爆被害者団体協議会も協力。議長に核廃絶を求める約296万筆の署名を渡しています。

広島県原爆被害者団体協議会(県被団協)の箕牧智之副理事長(75)は、広島市中区の事務所でノーベル平和賞発表の中継映像を見守り、「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」の受賞が決まると深くうなずいた。「(ICANは)言ってみれば仲間同士。私たちと同じ核廃絶の運動に変わりない。素直に喜びたい」とほほ笑んだ。

1974年に「非核三原則」で受賞した佐藤栄作元首相以来、日本人受賞者が出ていない平和賞。今年は2014年から3年連続で候補になっていた「憲法九条を保持している日本国民」が候補から外れたため、日本人の受賞の可能性はほぼありませんでした。
世界に目を向けると、シリアやイスラム国、イラン核合意、難民などに関連した人物が予想されていました。

オスロ国際平和研究所のウーダル所長は1日までに、6日に発表されるノーベル平和賞で15年のイラン核交渉を合意に導いたイランのザリフ外相と欧州連合(EU)のモゲリーニ外交安全保障上級代表を受賞の最有力候補に挙げた。
フランシスコ・ローマ法王やドイツのメルケル首相、シリアの紛争地で救済活動を行う「シリア民間防衛隊(ホワイト・ヘルメッツ)」が賭け屋の予想で上位。
このほか、イラクの少数派ヤジディ教徒のナディア・ムラドさんも下馬評に上っている。

経済学賞

「行動経済学」に貢献したリチャード・セイラー氏が受賞

経済学賞は、経済学に心理学を応用した意思決定の分析を行う「行動経済学」に貢献した米シカゴ大のリチャード・セイラー教授が受賞しました。

スウェーデン王立科学アカデミー(Royal Swedish Academy of Sciences)は9日、2017年のノーベル経済学賞(Nobel Prize in Economics)を、米国出身のリチャード・セイラー(Richard Thaler)氏に授与すると発表した。経済学と心理学とを橋渡しする先駆的な研究が評価された。

心理学と経済学を融合

セイラー氏は、02年のノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマン氏らと並ぶ行動経済学の権威として知られる。従来の経済学では、人は利益を最大化するために合理的な計算に基づいて行動するという前提に立っていたが、行動経済学では、人の合理性の限界や好みの違いなど心理的な側面が影響するとの立場から分析する。

正式名称を「アルフレッド・ノーベル記念経済学スウェーデン国立銀行賞」といい、賞金はノーベル基金からではなくスウェーデン国立銀行から出されていることから、日本ではこの賞の賞金のみ課税対象になるというノーベル経済学賞。ただし、課税の心配は無用とばかりに、日本人受賞者は過去に1人も出ていません。
今年も米プリンストン大教授の清滝信宏氏が候補として挙がっていたものの、受賞は厳しいのではないかとの見方が伝えられていました。

日本人でノーベル経済学賞受賞を最有力視されるのが、米プリンストン大教授の清滝信宏氏(62)だ。経済への小さなショックが世界的な「生産性低下」の広がりにどうつながるかのモデルを描いたことなどで有名で、例年名前が挙がる“常連”でもある。
ただ、清滝氏に匹敵する業績の経済学者は米国人を中心に50人規模に達するともみられている。

近年の日本人ノーベル賞受賞者

過去5年の日本人受賞者を振り返ります。

2016年

医学・生理学賞 大隅良典氏

「オートファジー(自食作用)」の仕組みを解明。

2015年

物理学賞 梶田隆章氏

素粒子「ニュートリノ」の質量を実証。

医学・生理学賞 大村智氏

寄生虫やマラリアなど、寄生虫感染症の治療薬開発。

2012年

医学・生理学賞 山中伸弥氏

「iPS細胞(人工多能性幹細胞)」の作製。

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