特集2017年9月14日更新

騒音トラブル、待機児童…保育園をめぐる問題

「園児の声がうるさい」などと近隣住民が訴えることで保育施設の建設が中止・延期となるケースが全国各地で相次ぐなど、保育園をめぐる問題は日本の大きな社会問題となっています。その解決の糸口を探っていきましょう。

目次

繰り返される保育園の騒音トラブル

「園児の声うるさい」で保育園の開園延期

茂木健一郎氏や為末大氏らも意見を表明して物議

東京・武蔵野市は吉祥寺に開園予定だった保育園の「開園延期」を決定した。住民の反対があり、理解を得るには時間が必要と判断したためだという。
保育施設の新設にともなう住民トラブルは、近年たびたび問題になっている。今回の武蔵野市の件も、反対の理由のひとつが「園児の声」などと報じられたこともあって議論を呼び、インターネット上でも茂木健一郎氏や為末大氏らも意見を表明するなど、物議を醸している。

近隣住民に同情する声も

「子供ってお互い張り合って騒ぐからな それが日常になると近隣の住民はキツいよな」
「一度出来たらほとんど永久的に悩み続けることになる そら持ち家の奴は必死になるわ」
「住宅街の中に建てるのやめろよ 今までずっと問題になってるんだからわかるだろ」
このように、近隣住民に同情する声は少なくなく、「騒音施設なのは間違いないからな 防音壁の設置と、お迎えの路駐対策は義務付けるべき」と、具体的な対応方法に触れる書き込みもある。

こういった意見のほかにも、Twitterでは「なんでもデカい声で叫ぶような保育方法がおかしい。静かに暮らしてる人に迷惑かけるな」「『社会に必要なのだから我慢しろ』と言うが、我慢するのは言ってるお前じゃないんだが」といった意見や、「子供の頃に一度も周辺住民に迷惑をかけずに大人になった者だけが文句を言え」「子供はうるさくていい。元気な声聞くと自分も元気になれる」といった意見などなど、過激な意見も含め賛否両論が飛び交っています。

近年たびたび発生する保育園「騒音」問題 その論点とは

「吉祥寺」「保育園の開園反対」というキーワードで、「まだその話やってるの?」と感じた方も多いかもしれません。というのも、吉祥寺では昨年9月にも保育所開設をめぐってトラブルが起き、近隣住民の反対などから計画が撤回された、というニュースが世間を賑わしたからです。ただ、今回の件は昨年の事案とは別件なのです。
吉祥寺の件に限らず、近年「近隣住民の反対などで保育園開設を断念」という事例が全国各地で発生し、そのたびに今回と同じような論争が起きています。
そこで、ここからは法的な視点を中心に、保育園「騒音」問題の論点をいくつか取り上げてみます。

「社会に必要なのだから我慢しろ」は認められず

まず取り上げておきたいのが、今年2月に神戸地裁で出された判決です。
この訴訟では、神戸市の認可保育園の近くに住む男性が「子供の声がうるさい」として慰謝料と防音設備設置を求めたのに対し、地裁は「社会生活上、受忍すべき限度を超えているレベルとは認められない」として、男性の請求を棄却しました。
そして、「棄却された」こと自体も話題になりましたが、そのほかにも判決内容で注目された点がありました。

地裁において損害賠償などの請求は棄却されましたが、子どもの声だからといって基準が緩和されるわけではなく、我慢すべき限度を超えて騒音といえる場合には損害賠償請求などが認められ得ることを示唆する判決内容であったことも併せて話題となっています。

判決では、神戸市の児童福祉施策に寄与してきたという点で保育園の公益性・公共性を認める一方で、保育園に通う園児を持たない近隣住民は「直接その恩恵を享受しておらず、公益性・公共性をことさら重視して受忍限度を緩やかに設定することはできない」としています。
つまり、公共性を理由に特別に我慢を強いることは認めず、「保育園だからうるさいのは当然」という主張は通らないことを示唆する判決内容になっているわけです。このため、保育園事業者は開設にあたって騒音対策をとるなど、近隣住民に対してできる限り配慮をしておくことが必要となりそうです。

子供の声は「騒音」なのか

そもそも「子供の声は騒音にあたるの?」という疑問もわいてきますが、この点について騒音問題に詳しい山之内桂弁護士は次のように語っています。

「法規制の観点からいえば、『子どもの声』といえども、騒音にあたります」
騒音は、規制の緩い順に、(1)生活騒音(2)工場・事業場等の一般騒音(3)航空機・自動車・特殊機械等の特定騒音、の3つに区分できます。
子どもの声は、一般的な生活環境内では1番目の『生活騒音』、保育園内では2番目の『事業場騒音』にあたります。

訴えても「住民側の勝訴」は困難

つまり、子供の声も騒音として規制の対象となり得るということですが、同弁護士は住民側が訴えても勝てる見込みは小さいとしています。

「建築前の話し合い等がこじれた場合、住民側が裁判などの紛争調整機関を利用して、建築自体にストップをかけることは大変困難なものと予想されます。
また、運営が始まったあとも、騒音の迷惑度合いは、実際にそれに触れた人に特有のものです。裁判に持ち込んだとしても、客観的な立証が難しく、受忍限度(社会生活上我慢すべき限度)の壁を破って、住民側が勝訴や勝訴的和解を得ることはかなり困難であるのが実情です」

建設差し止めなどの裁判で勝利するのは難しいようですが、その前の話し合いや反対運動で事業者側が「断念」するパターンは多いようです。

裁判所の考えは「お互い様の精神で」

法律や裁判例は「ご近所同士の生活音はお互い様の精神で解決しましょう」という考えを基礎としているため、冒頭で触れた訴訟でも「騒音の違法性について社会生活上我慢すべき限度か否か」という基準で判断しています。

「中間的な解決を図るのが望ましい」

答えを出すのが非常に難しい保育園の騒音問題。この問題について、前出の山之内弁護士は次のように述べています。

二通りの考え方がありえます。
一つは、規制を緩和して、保育園を立地しやすくして、近隣住民に迷惑を受忍(≒我慢)してもらうことです。保育園などでの子ども(6歳未満)の声を規制から除外した東京都の条例や、乳幼児・児童用施設からの騒音を理由とする損害賠償請求を禁止したドイツの連邦法がその一例です。
もう一つは、地域住民の良好な住環境を重視し、保育園に対して、騒音防止低減措置や、駐車・駐輪場の設置義務を課して、さらに規制値を超える騒音がおよぶ可能性のある一定範囲の住民の同意を立地条件とすることです。

山之内弁護士は上記2つの考えを挙げつつ「中間的な解決を図るのが望ましい」とし、保育園の場合は「立地しやすくする環境整備をしたほうがよい」とも述べています。

法的視点以外でもさまざまな意見が

保育園の「騒音」については法的な論点だけでなく、「日本人の美徳とされてきた許容の精神はどうした?」といった倫理観、道徳観の話、果ては感情論に至るまで、実にさまざまな意見が入り乱れています。
そこで、法律的な観点から離れた意見も見ていきましょう。

子供の声を不快に感じる人の心理とは

心理学者の杉山崇・神奈川大学人間科学部教授は、「大人が子供に寛大になれない理由」を2つ挙げています。

一つは、私たち人間は「子どもの声を無視できない」ように作られていることです。
(中略)
言い換えれば、「何か他のことに集中したいのに子どもの声が気になって…」というのは本能レベルの人間らしさなのです。
二つ目の理由である「大人の余裕の無さ」です。
(中略)
実は今の時代は数百年来の日本人の生き方の大転換期なのです。
ムラ社会で「ムラ」や「イエ」に依存してきた日本人は近代化してからは「会社」に依存して生きてきました。しかし、グローバル化の中で競争が激しさをまず中で会社は従業員の生活を護る余裕を失いつつあります。
会社依存ではない新しい生き方の模索に必死で、みんな「忙しい」のです。その中で子どもの声が自分たちを煩わせるものに感じられているのでしょう。

記事の最後で杉山氏は、「忙しい大人たちの邪魔をしない」ことを子供に求める社会は「次世代の可能性を奪う」とし、日本の未来に懸念を抱いています。

近所に保育園「反対」は2割

では、杉山氏も指摘する「余裕のない大人」はどのくらいいるのでしょうか?

しらべぇ編集部が全国20〜60代の男女1,358名に「自宅近くに保育園ができること」について調査を実施したところ、全体の2割が「反対」と回答。

このグラフを見ると、若い世代ほど「反対」が多い傾向が見て取れます。若い人のほうが忙しくて、精神的な余裕がないのでしょうかね?

若い世代ほど子供に不寛容?

株式会社クリエイティブジャパンが実施した「幼稚園・保育園に関するアンケート」でも若い世代のほうが「うるさく感じる」割合が多いという結果に。また、このアンケートでは、幼稚園や保育園の新設に関して「住民の声」と「保育園開設」のどちらを優先すべきかについても聞いています。

『幼稚園や保育園の新設に関してどちらを優先すべきと思うか』を、5分以内にお住まいの方に伺いました。
この質問でも、若い世代のほうが“住民の声を優先すべき”(新設に後ろ向き)と考えている割合が高いという結果となりました。

「騒音と感じるのは本人の問題」引っ越すしかない?

次に紹介する記事では、人が「騒音」と感じるのは音を聞いた本人の主観によるところが大きいとし、また「人間は一度不快な騒音だと認識すると、その音に関して過剰に反応するようになる」といいます。そして、次のように記事を締めています。

騒音というのは、法律的には音の大きさで基準を決めるしかないが、日常生活の中で聞こえてくる音を騒音と感じるか否かは、"脳の感情の問題"なのだ。
(中略)
子どもの声を騒音と感じてしまったら、もはや引っ越すしか解決策はないだろう。たとえ保育園がどんな防音措置をとったとしても、人は無意識に騒音を探してしまうからだ。騒音と感じるのは本人の問題であって、子どもには罪はない...と思うのは筆者だけではないだろう。

裁判費用を防音設備にまわしてみては

「実家の向かいも保育園だった」という“ハイブリッド弁護士”仲岡しゅん氏は、保育園の騒音に関するお悩み相談に対して弁護士らしく法的問題を詳しく解説しつつ、最後に「子供の声も許容できない不寛容な世の中は大嫌い」とし、次のように回答しています。

仮に訴える場合、訴訟費用も弁護士費用もかかるのですから、むしろそのお金で防音設備をご自宅に整えたほうが、よっぽど建設的なんちゃいますか?子どものころに一度も泣いたことのない者だけ、子どもの泣き声を非難すべし。
わたくしだったら、そう思います。

「目の前にいる子供たちが国の未来を作っていく」という視点を

子育てに関する本を多数執筆している立石美津子氏は「躾として静かにさせるべき」との声に対して疑問を呈しつつ、次のように述べています。

苦情を言っている人も乳幼児期はあった訳で、泣いたり叫んだりしても地域住民が「子どもだから仕方ない」と受け入れてくれたからこそ、今があるのではないでしょうか。
世の中には子どもが居ない世帯、また子どもが嫌いな人、様々な人がいます。
でも感情の問題ではなく預け先の保育園が減り、あっても室内に閉じ込められて園庭で思い切り遊ばせてもらえない状況を見た若い世代が益々子どもを産まなくなったらこの国は一体、どうなってしまうのでしょう。
(中略)
“今、目の前にいる子ども達が自分達の国の未来を作っていく”という視点を持ってもらいたいと思います

こういう時こそ日本人の本領発揮では?

心理カウンセラーのつだつよし、氏は、子供と一緒に活動する際に気を付けている点として「子供のことだからといって、全員が許してくれると思うことは大間違い」である点と「伝え方」の2点を挙げています(詳しくは下の記事をお読みください)。
そして、最後をこう締めています。

昔と地域の環境が変わってきた今の時代、こういった問題は度々と出て来ると思います。
その都度、騒音レベルの数字だけで解決するのではなく、こういったときこそ、我々日本人の本領発揮ではないでしょうか?
譲り合い!相手の気持ちを先に汲む!
日本人が昔から得意なこの気質を柱に お互い歩み寄ってもらう事を期待しています。

「騒音」以外の保育園をめぐる問題

保育士不足

「激務で薄給」な保育士

保育園をめぐる問題で騒音問題以上にメディアで取り上げられているのが「保育士不足」です。
「不足」に陥っている原因のひとつは離職率が高いことにあります。そこで「なぜ退職してしまうのか?」について探るべく、保育業界専門の人材紹介事業を手がける女性活躍カンパニー株式会社が行った調査から「保育士の退職理由トップ5」を見てみると、次のようになっています。

1位 職場の人間関係
2位 給与が低い
3位 勤務時間が長い
4位 持ち帰り仕事が多い
5位 子供と上手に接することができないと感じた

これを見ると、1位はどんな職業でも上位にきそうな理由ですが、2位から4位は「朝早くから夜遅くまで働く」「激務のわりに薄給」という、世間一般の保育士のイメージを裏付ける結果となっています。

都内在住で手取り14万円

「薄給」の実態について、東京都内で親と同居しているという1年目の保育士は…

今の自分の収入は、手取りで約14万円です。
毎月残業が約5時間あり、月1回は土曜出勤があるのに、休日手当を含めても、たった14万円。
ボーナスは夏と冬にそれぞれ1か月分で、手取り年収はやっと200万円に届くくらいでした。
保育士の仕事内容の大変さや責任の重さを思うと、納得できない気持ちです。

事務仕事は夜に残業か持ち帰り…残業代はナシ

長時間勤務について、都内の保育士は…

勤務時間は7時~21時の中で8時間のシフト制です。
昼間はもちろん保育で動き回っているし、夕方から夜の時間にかけては保育士の人数が少ないので、子どもを見ながら保護者や電話対応をして終わります。
なので、事務仕事は子どもたちが全員帰った夜に残業して片づけるか、家に持ち帰ります。
私の勤務する園は、手書きの書きものや作りものが多いので、一つひとつとても時間がかかります。残業代は基本的に出ません。

9割の保育士が国や自治体の政策に否定的

保育士不足について、国や自治体も対策を講じていますが、当の保育士たちは不満を感じているようです。保育士向け求人情報サイトを運営する株式会社ネオキャリアのアンケート調査によると、9割の保育士が国や自治体の政策に否定的な意見を持っているという結果になっています。

「国や自治体の保育士不足に対する政策は、『ズレている、効果がない』と思いますか?」と質問したところ、「とてもそう思う」と答えた人は62.2%、「まあまあそう思う」と答えた人は30.8%でした。
実に9割以上の人が国や自治体の政策に否定的な意見を持っていることがわかりました。
具体的には「現場の声が届いていない」「役所の人は現場に来たことも保育士の声を聞いたことも無い」「公立と私立で給与が違い過ぎる」などの声が聞かれました。

魅力的でやりがいがある仕事なのに…

同アンケート調査の「保育士は魅力がある・やりがいがある」に94%の人がやりがいがあると答えている一方、国や自治体による保育現場の調査不足や理解不足、そしてやはり給与面に対する不満が強いようです。

「国や自治体の保育士不足に対する政策で、不満に思うことは何ですか?いくつでも選んでください(複数回答可)」という質問では「賃金アップの額が少なすぎる」(266件)がダントツでトップ。
さらに「まず現場をよく調査して理解してほしい」(223件)、「保育施設をやみくもに増やしても意味がないと思う」(211件)と続きます。

待機児童

3年連続増の2万6000人

騒音トラブルや保育士不足問題とも密接に関わり、それらの問題より頻繁に話題になる待機児童問題。少子高齢化などと並んで現在の日本が抱える最も大きな社会問題のひとつとも言えます。
その待機児童については、つい先日、最新の数値が厚生労働省より発表されました。

厚生労働省はこのほど、全国の待機児童の状況などをまとめた「保育所等関連状況取りまとめ」(2017年4月1日時点)を発表。待機児童数は前年比2,528人増の2万6,081人となった。待機児童のいる市区町村は、前年から34増加して420市区町村。最も多かったのは「世田谷区」(861人)だった。

待機児童が減らない理由

なぜ、待機児童問題は解決しないのか。まず挙げられる理由は共働き夫婦の増加だ。1986年の男女雇用機会均等法施行以降、経済状況の悪化やライフスタイルの変化などで、働く母親が急増した。
「保育園の定員も増えていますが、共働き世帯の子供の入所希望者がそれを上回る規模で増えています。(中略)」(待機児童の問題に詳しいジャーナリストの猪熊弘子さん)

国や自治体は保育園や幼稚園を増やそうとしていますが、施設を建設しようとすると騒音などを理由に近隣住民から反対され、施設を増やしても保育士のなり手がいない、といった具合に、これまで挙げてきた問題も絡みながら、なかなか成果をあげられていないのが現状です。
国が今年度末までを目標にしていた「待機児童ゼロ」の達成期限を3年後に先送りしたというニュースも記憶に新しいように、女性の社会進出が増えて待機児童はなかなか減らず、一方で効果的な対策が遅れ、問題は深刻化していると指摘されています。
次のブロックでは、この深刻な待機児童問題に挑んでいる自治体や人物を紹介していきます。

保育園問題の解決に挑む人や自治体

東京都世田谷区

「全国ワースト」の待機児童対策とは?

まずは、最新の発表でも待機児童数「全国ワースト」の烙印を押されることになった東京都の世田谷区。同区は都内でも屈指の住宅地として知られていて、少子化が騒がれる中、14歳以下の年少人口と出生数が増え続けているといいます。
しかし、保育園の整備を加速させたところ、3歳児以上の保育定員には空きが出るなど、状況は良くなってきているとのこと。次の課題となる2歳までの待機児童対策について、保坂展人区長は次のように語っています。

2歳までの保育に特化した小規模保育園の運営に対する助成が薄いのが現状で、厚生労働大臣にも要望しています。また、認可保育園の分園という形で低年齢児向けのところを作ることも考えています。
いくつか実験的な取り組みも行っています。例えば、成城学園前の駅前では、住友生命保険のビルに2歳児までの低年齢児向け認可保育園(分園)が開設されました。3歳以上の児童は、本園まで駅前からバスで送迎する仕組みです。

「土地・建物を募集」のポスターも

23区で最大の人口を抱え、土地や建物が不足している世田谷区は、国有地を借りたり、駐車場や古いアパートなどを壊して提供を受けたり、さらには「保育園ができる土地・建物を募集しています」というポスターを作るなどして土地を確保。周辺住民の反対の声については…

根強い反対運動が5ヶ所でありました。「住宅地の真ん中なので、土地の資産価値が下がる」との不安があったのです。騒音や交通の心配の声もありました。そのため、説明会を10回開くのは珍しくありませんでした。私自身も車座集会で話を聞きました。なかには誤解もありました。街は新しい世代の新陳代謝によって活性化していくわけですから、実際には資産価値は落ちないと思います。
反対運動が起きる原因を分析しますと、業者が反対運動を想像できず、説明会を開く前に、「保育園できます」と看板を立てていたのです。すると、住民が「聞いていない」となります。一方的に見える場合、反対運動が長期化しました。逆に住民の声を斟酌すれば、長期化しないのです。

このほか、保育士不足に対しては名古屋や大阪でも募集の説明会をしたり、経験年数不問で家賃補助をしたり、区で給与に1万円加算するなどの対策を講じていて、保育士不足で開けなかった保育園は今のところないといいます。

千葉県浦安市

「子育てがしやすい街」の対策とは?

「子育てがしやすい街」といわれる千葉県浦安市は、その評判のため子育て世代の転入者が多く、待機児童の数は千葉県内で3番目に多い165人。内田悦嗣市長によると、浦安はもともと「貧乏な街」で幼稚園も保育園も公立が多かったため、幼保一元化の「認定こども園」への移行がスムーズだったといいます。

保護者への経済的支援もしています。「認定こども園」の幼稚園部分だけの利用の場合、月5000円の負担です。30年間、月謝をあげていません。他の自治体でも同じ時期に通う第2子は半額、第3子以降は無料という制度はあります。しかし、浦安では、第1子が卒園して小学生や中学生になっても同じ対応です。子どもたちにお金をかけるというのが基本方針です。

保育士給与に月4万2500円の上乗せ

浦安市は、保育士不足への対策として以下のような処遇改善策をとっています。

昨年度から月額3万2500円、ボーナス時は4万円の上乗せをしています。千葉県もようやく重い腰を上げ、2万円を加算するうち、1万円は県の負担です。すでに市町村が独自に改善している場合は県が1万円上乗せ。浦安市の保育士には月額4万2500円が上乗せになります。
また、昨年度から家賃補助をしています。法人が借り上げる宿舎の場合、部屋1室あたり月額8万2000円を上限に、市が8分の7を補助しています。

保育士への待遇について内田市長は、浦安市に隣接して財政力と利便性を備える東京都への対抗を口にしていて、千葉県松戸市の本郷谷健次市長も保育士確保に関して東京都を意識した補助を行っているといいます。保育士の「奪い合い」は前出の保坂氏も言及していて、自治体間の争いになるほど保育士不足も深刻ということが伝わってきます。

柚木道義・衆議院議員

「イクメン議員」が考える保育園&子育て対策

続いては、超党派の「イクメン議員連盟」を立ち上げ、その共同座長を務める民進党の柚木道義・衆議院議員。自身も積極的に育児に関わってきた経験を持つ柚木議員は、待機児童問題解決のためには「困っている人が政策立案の責任者になるべき」とし、40代で国のリーダーになったノルウェーの若き首相の話を例に挙げています。

ノルウェーのストルテンベルグ首相(当時)と面会したことがあります。首相は2度、育児休業を取っていました。育休を取得したのは40代のときです。面会した当時は2人の大臣が育休中で、そのうち1人は厚労大臣でした。
1993年の、ノルウェーでの男性の育児休業取得率は4.1%でした。そこで、男性が育休を取るとその期間中は100%の給料補償をする「パパ・クォータ制度(父親割当制度)」を導入しました。すると、育休取得率は6年後の1999年には85%となりました。これは大げさではなく、ワークライフ・レボリューション、イクメン革命でした。

子育て予算拡充のための消費税10%

柚木議員は問題解決に向けた現実的な課題として、保育園と保育士の数を増やすための財源に言及。消費税増税にも触れています。

現状は8%のままで、待機児童問題の予算を先食いしています。しかし、消費税を持ち出すと選挙に負けます。国や国会議員が身を切る改革は必要ですが、負担増に見合った安心増があれば、国民が理解をしてくれるはずです。現状の8%では財政再建にしか回りません。10%で初めて子育て予算の拡充が実現できます。
(中略)
財源なくして政策なし。子育て支援を実現するための財源が必要です。「こども保険」や「教育国債」といったことも十分に議論すればいい。逃げることはなく現役世代が向き合って、解決策を示していく。それが未来への責任です。

金子恵美・衆議院議員

「公用車で保育所送迎」で物議の議員はどう考える?

公用車で我が子を保育所に送迎したことに対して賛否両論が沸き起こった自民党の金子恵美・衆議院議員は、自身の子供も待機児童になったことがあるとのこと。そんな現役子育てママ議員は、待機児童問題が全国一律ではない点を指摘しています。

待機児童問題は全国一律で同じことが起きているわけではありません。首都圏、東京の中でも、通勤の要所では待機児童が増えます。都市部では、保育園を開設できる場所が不足して頭を悩ませています。一方、地方では、保育園の定員割れが起きています。存続が危ういのです。保育園を失うと、その地域では保育できないことになり、余計に子どもが減ってしまいます。

「病児保育の充実にも取り組みたい」

金子議員も国会議員らしく子育て支援の財源として「こども保険」や消費税増税に言及。また、「男性にも育児に参加してほしい」としてイクメン議連にもエールを送っています。
そして、「病児保育」の充実にも意欲を示しています。

病児保育の充実にも取り組みたいと思います。私も毎朝、息子の熱を測ります。37.5度を超えてしまうと、本人がいかに元気でも保育園には預けられません。ファミリー・サポートや自治体の独自のサービスがありますが、保育園に行くまでのところで課題が生じると、その日の予定が狂ってしまいます。病児保育が要望される理由がよくわかります。必要性が肌感覚としてわかってきました。

今回、記事をまとめながら「なんでこんな社会になったんだ?」と考えていたら、まず騒音トラブルや待機児童は基本的に都市部に起きている問題であることから「人の都市部への一極集中」、続いて地方から都市部に出てきた若者によって「核家族化」が進み「祖父母も巻き込んだ子育てができず」、同時に「近所付き合いも減って地域で育てる環境もなく、寛容性も消失」、追い打ちで「景気の低迷による所得の減少」と「高齢化による労働者不足」で共働き世帯が増加…というふうに、日本が抱える多く問題が集約されて、保育園や子育ての問題として噴出しているのだなぁと思ったら、問題の根が深すぎて悲しくなってきました。
とはいえ、それらの深い根を解消していくのはもはや不可能でしょうから、保育士の待遇改善といった現実的な解決策を足がかりに、待機児童ゼロ、果ては子育て&出産しやすい社会を実現して、少子化問題も解消するような力強い政策を打ち出してほしいものです。