特集2017年12月30日更新

2017年を振り返る…海外重大ニュース

2017年は北朝鮮が核実験やミサイル発射を繰り返し強行。それに対し、第45代米大統領に就任したドナルド・トランプ氏も経済的・軍事的圧力で威嚇するなど、米朝間と日本や隣国に緊張が走りました。韓国でも文在寅政権が発足するなど、日本と関わりの深い国で大きな動きがあった1年でした。そんな2017年の海外重大ニュースをまとめています。

目次

北朝鮮、核・ミサイル開発加速

 北朝鮮はトランプ米政権発足後に核ミサイル開発を加速させ、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験を繰り返し、9月には6回目の核実験を強行した。11月には射程1万3000キロに及ぶとみられる新型ICBM「火星15」を高角度のロフテッド軌道で発射し、「米本土全域を攻撃できる」と主張した。米国は経済封鎖に加えて軍事的威嚇の強化で対抗、米朝間の緊張が高まった。
 8月と9月に発射した弾道ミサイルは、日本上空を越えて太平洋に落下した。政府は全国瞬時警報システム(Jアラート)を通じて、国民に避難を呼び掛けたほか、自衛隊は米空母などとの共同訓練を日本海などで行った。防衛省は対応能力強化に向け陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」を早期に導入する方針だ。

トランプ米政権発足、混乱続く

 昨年の米大統領選で既存政治に不信を抱く白人労働者の心を捉え、予想外の勝利を収めた共和党のドナルド・トランプ氏が1月20日、第45代米大統領に就任した。トランプ氏は就任演説で「米国第一主義」を宣言し、直後に環太平洋連携協定(TPP)からの離脱を指示。国際協調を掲げたオバマ前政権からの様変わりは世界に衝撃を与えた。
 トランプ氏は地球温暖化対策の国際枠組み脱退も表明。内政ではイスラム圏からの入国禁止や国境の壁建設を打ち出した。ただ、幹部の解任が相次ぎ、トランプ氏とティラーソン国務長官の不和も伝えられるなど、政権運営は不安定なまま。ロシアがトランプ陣営と共謀し大統領選に介入した疑惑はフリン前大統領補佐官の訴追に発展し、政権を揺るがし続けている。

中国、習近平氏「1強」確立

 5年に1度の中国共産党大会が10月に開かれ、習近平総書記(国家主席)の名を冠した指導理念「習近平の新時代の中国の特色ある社会主義思想」が党規約に明記された。習氏は2012年の政権発足以来、反腐敗闘争での政敵打倒、言論統制での異論排除という特異な政治手法で権力を固め、2期目を迎え「1強」を完全確立させた。
 習氏は党大会政治報告で、建国100周年を迎える今世紀半ばまでに「社会主義現代化強国」になると宣言。「建国」の毛沢東、「富国」のトウ小平を意識し、「強国」路線に基づく長期戦略を示した。人事では自身の後継者となり得る若手指導者を最高指導部・政治局常務委に入れず、慣例を破って長期政権で臨む意向を示した。常務委の下の政治局員にはかつての部下らを大量登用した。

IS、拠点陥落で事実上崩壊

 日本人を含む外国人人質殺害事件や欧米諸国での大規模テロを引き起こして国際社会を震撼(しんかん)させた過激派組織「イスラム国」(IS)は2017年、米軍主導の有志連合などの支援を受けた地元勢力の作戦によりイラクとシリアの大半で駆逐された。ISの2大活動拠点だったイラク北部モスルとシリア北部ラッカも陥落し、組織としては事実上崩壊した。
 ISは14年、イラクとシリアで急速に伸長した。指導者バグダディ容疑者はイスラム教の預言者ムハンマドの代理人「カリフ」と称し、一時は両国にまたがる広大な地域を支配する疑似国家を構築。恐怖支配体制を敷いた。異なる宗教・宗派や文化を敵視するISの過激思想は現在も拡散したままで、世界各地で共鳴者によるテロの脅威が続いている。

韓国大統領罷免、文在寅政権発足

 韓国の朴槿恵大統領(当時)の親友、崔順実氏による国政介入事件で、憲法裁判所は3月10日、世論に押される形で「容認できない重大な憲法、法律違反があった」として朴氏の弾劾を妥当と判断。史上初めて大統領が弾劾により罷免される事態となった。不訴追特権を失った朴氏は3月31日に収賄などの容疑で逮捕され、4月17日に起訴された。事件は2016年10月に発覚。同12月に国会が朴氏の弾劾訴追案を可決していた。
 17年5月9日の大統領選挙では、朴氏罷免を受けて保守勢力は低迷した。朴氏退陣を求めて繰り広げられた「ろうそく集会」を主導した革新勢力は「共に民主党」の文在寅候補を支持。文氏は「積弊(積もった弊害)清算」を訴えて勝利し、盧武鉉政権以来9年ぶりに革新政権が誕生した。

欧州テロ、選挙で右派伸長

 2015年にパリで起きた風刺週刊紙本社銃撃事件以降、欧州ではテロが続発。容疑者の中には難民申請者も含まれていたため、「反難民」「反イスラム」を掲げる右派政党が大政党に対する不満の受け皿となって支持を伸ばした。
 3月のオランダ下院選では、極右・自由党(PVV)が議席数を増やした。5月の仏大統領選では、極右政党・国民戦線(FN)のルペン党首が与党候補らを破って決選投票に進出。9月のドイツ連邦議会(下院)選では新興右派政党「ドイツのための選択肢」(AfD)が国政進出を果たした。10月のオーストリア国民議会(下院)選挙(総選挙)では、厳しい難民政策を掲げる保守系の国民党が第1党に躍進、第3党の極右野党・自由党と連立交渉を進めている。

マレーシア空港で金正男氏暗殺

 北朝鮮の故金正日朝鮮労働党総書記の長男で、金正恩党委員長の異母兄・金正男氏が2月13日、マレーシアのクアラルンプール国際空港で女2人から顔に液体を塗り付けられ殺害された。遺体からは化学兵器の神経剤VXが検出された。化学兵器を大量に保有し、正恩体制の正統性を脅かす恐れがある正男氏を敵視していた北朝鮮当局の関与が疑われた。
 逮捕・起訴されたベトナム、インドネシア国籍の実行犯2人は「いたずら動画への出演と思っていた」と無罪を主張。黒幕とみられる北朝鮮国籍容疑者への捜査協力要請を北朝鮮側は拒否し、マレーシアとの関係が悪化した。北朝鮮が事実上の人質としたマレーシア人9人と正男氏の遺体を交換する形で決着したが、事件の真相が解明される見通しは立っていない。

ミャンマーからロヒンギャ難民

 ミャンマー西部ラカイン州でイスラム系少数民族ロヒンギャの武装集団が8月25日、警察施設などを攻撃し、政府の治安部隊と本格的に衝突した。ロヒンギャの村では放火や性暴力が相次いで発生。隣国バングラデシュへ逃れたロヒンギャ難民は60万人以上に達した。国際的な関心が高まる中、9月の国連総会でロヒンギャ迫害を「民族浄化」と批判する声などが相次ぎ、ミャンマー政府への圧力が強まった。
 ミャンマーで多数派の仏教徒はロヒンギャを差別してきたが、1962年に始まった軍政時代にその傾向は強まった。民政移管後の現在も、政府はロヒンギャを「バングラデシュからの不法移民」と見なし、国民と認めていない。ロヒンギャは2012年にも仏教徒との衝突で、約200人が殺害された。

NYダウ、2万4000ドル突破

 ニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均の終値は11月30日、史上初めて2万4000ドルを突破した。トランプ米政権が1月に発足。政権の積極的な経済政策を期待した「トランプ相場」に市場は沸き立ち、1月に2万ドルの大台に乗って以降、1年を通じて最高値を繰り返し塗り替えた。米国や中国など主要各国の経済が軒並み好調を維持し、米企業で好決算が相次いだことも追い風となった。
 さらに、政権が11月、中央銀行に当たる連邦準備制度理事会(FRB)の次期議長に財務次官や投資ファンド共同経営者を歴任したパウエル理事を指名したことも株価を支えた。現執行部からの昇格により、イエレン議長(来年2月に退任)の経済政策が踏襲され、低金利環境がしばらく続くとの安心感が市場に広がった。

国連、核禁止条約採択

 核兵器の使用や保有、製造などを幅広く法的に禁止する「核兵器禁止条約」が7月、国連で122カ国の賛成を得て採択された。核兵器に絡む活動を違法化する条約が国連で採択されるのは初めて。12月には各国政府などに同条約への参加を促す活動を続けている国際的なNGOの連合体「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」がノーベル平和賞を受賞。ノルウェー・ノーベル賞委員会はICANが「核兵器禁止と廃絶への協力を各国に約束させる原動力となった」と評価した。
 核軍縮の停滞を背景に、非保有国の主導で交渉が進んだ条約は「核廃絶に向けた大きな機運」(田上富久長崎市長)と歓迎の声が上がる一方、核保有国や「核の傘」に入る日本は条約に参加しておらず、核軍縮実現に向けたハードルは高い。