特集2017年2月11日更新

将棋界揺るがすスマホ不正「濡れ衣」疑惑

昨年10月、突如として起きた「スマホ将棋不正疑惑」問題。タイトル経験もある名棋士にふりかかったこの疑惑に対し、連盟は出場停止の処分など下しましたがその後の調査で「証拠なし」つまりシロとされました。しかしその後も処分は撤回されず、一方で将棋連盟会長が辞任するなどゴタゴタが続いています。今、将棋界に何が起きているのか?経緯をまとめました。

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藤井フィーバーにわく将棋界だが…(写真:時事通信フォト)

将棋連盟とドワンゴにトラブル 「叡王戦」存続はどうなる?

NEWSポストセブン / 2017年8月21日 7時0分

 藤井聡太・四段(15)の快進撃に沸く将棋界。ところが、その裏で将棋連盟とスポンサーに決裂寸前の異常事態が起きていた。 [全文を読む]

疑惑の発生

2016年10月12日、三浦弘行九段の出場停止を発表

日本将棋連盟は10月12日、第29期竜王戦7番勝負で挑戦者の三浦弘行九段が出場しないと発表した。連盟発表では三浦九段が対局中にたびたび離席することが多く、スマートフォンなどの将棋ソフトを使っているのではという疑問の声が上がっていた。

三浦弘行九段はスマホなどのソフトの不正使用を否定。連盟は発表から数時間後に会見を開きます。

ここでは、三浦九段が対局中に将棋ソフトの不正利用を疑われかねない動きがあったと説明、複数の棋士からも彼の行動を疑問視する声があった事を公表している。

三浦九段は竜王戦の出場拒否と休場の意向を示しました。これに対し連盟は休場届の提出を求め、期限までにこの提出がなかったことから、三浦九段に12月31日までの出場停止処分を科しました。

このニュースは、海外のメディアでも報道されました。

三浦九段の「不自然な離席」については、渡辺竜王を含む複数の棋士から指摘があったようです。

コンピュータソフトを使った不正というのはチェスなどでも例があり、下記の例では不正を働いたと判断された棋士が大会追放処分を受けています。

また「将棋ソフトとの不自然な一致」も疑惑の根拠として語られていました。ただ、勝った試合では当然ながら結果的に良い手を打っているわけで、一致率のみで根拠とするには弱い、という意見もありました。

「対局中に頻繁に席を立つようになり、『三浦九段は将棋ソフトを見ているのではないか』という噂が流れ始めた。8月には全棋士に対して『対局中の離席を控えるように』との通知が出されたが、それは三浦九段への警告の意味が含まれていたと思う。実際に7月以降の主要な対局における三浦九段の指し手をある強豪ソフトで解析してみると、不自然なまでに指し手が一致していた」(連盟関係者)

江戸時代の棋士の棋譜が将棋ソフトのそれと一致した、とするネットの書き込み。

中にはTwitterで「1億%クロ」と断罪する棋士も(後に削除)

実は少し前からこの話は知っていた。将棋界の情報には疎い俺でもです。
さて、何書くか…。
とツイートし、いくつかツイートを続けた。その中には
ファンには酷な知らせと思うが、個人的にも1億%クロだと思っている
というものも。

10月18日、三浦九段が反論「「対局中にソフト使用一切ない」

また、三浦九段はPCの現物やスマホの画像も連盟に提出、身の潔白を証明しようとしていました。

しかし10月18日のNHKが放送した単独インタビューで、三浦九段は将棋連盟の調査を受けた際には、「決して不正はしていないので処分を受けるいわれはない」と述べている。そして「公平にしっかりと調べてほしい」とも訴えたという。

一方で竜王戦で対戦予定だった渡辺竜王は、前述の離席の多さやソフトとの一致率などから、「間違いなくクロ」と確信し調査を依頼したと「週刊文春」で報道されています。

またその後の報道で渡辺竜王は、「疑念がある棋士と指すつもりはない。タイトルを剥奪(はくだつ)されても構わない」と、強く対応を求めていたと明かされました。

また上記の文春報道の中で、渡辺竜王の依頼を受けた連盟理事や羽生三冠らトップ棋士が10月7日に集まり、会合が開かれたといいます。

さらに、遠隔操作ソフトの存在も知っていたとの記述も。下記は記事の中で遠隔操作の存在を教えたとされる三枚堂達也四段のツイート。

一方で報道を受けて、羽生三冠の「疑わしきは罰せず」との見解が、夫人のTwitterより発表されました。

10月21日、連盟は所属棋士に対して一連の問題について説明会を開催しました。竜王戦で三浦九段に代わって出場していた丸山九段は、連盟の説明に「疑問だらけ」と不満を表明したそうです。

三浦九段の反論2回目。遠隔操作ソフトの存在を知っていたと認めつつも、あくまでソフトの使用は否定しています。

12月26日、第三者調査委員会による調査の結果「シロ」

将棋の三浦弘行九段(42)が対局中に将棋ソフトを不正に使った疑いがあるなどとして日本将棋連盟から年内の出場停止処分を受けたことついて、同連盟が設けた第三者調査委員会は2016年12月26日、「不正行為に及んでいたと認めるに足りる証拠はない」とする調査結果を発表した。

次々と否定される「疑惑」

疑惑の発端となったのは、7月の久保九段との対戦での離席の多さ

疑惑の決め手となったのが、竜王戦挑戦のかかった久保利明九段との7月下旬の対局である。「約30分の離席があった」との久保九段の言葉を受けて、複数の連盟幹部が三浦九段を疑い始める。

ところが、この離席自体が調査の結果、否定されることに。

12月26日に公表した調査結果は「疑惑の発端となった『30分の離席』はそもそも存在しない」という驚愕のものだった。久保九段との対局では計2時間40分の離席があったが、重要な局面での離席は6分、3分、3分といずれも短かった。翌日の会見で谷川会長は「初動でしっかり確認しておけば」と悔しがるとともに、連盟の決定的な落ち度を認め、肩を落としながら謝罪した。島朗(しま・あきら)常務理事も「30分離席の確認ミスが痛恨」と眉をひそめた。

また、ソフトとの一致率についても「不正の証拠にならない」との結論に

「一致率」について、第三者委員会は「同一ソフト・同一局面・同一棋譜でも指し手の一致率には約20%の違いがある」「三浦九段よりも一致率が高い棋士も存在するが何ら問題視されていない」「検証の対象とした4局で、対局相手やトップ棋士に聞き取り調査をしたが、三浦九段の指し手に不自然さはない」とし、一致率の高さが不正の証拠とはならないと断定した。

スマホの使用履歴も「なし」との結論

三浦九段への謝罪、損害補償の検討も

「三浦九段につらい思いをさせたことを本当に申し訳なく思っている」
などと謝罪した。出場停止中に三浦九段が受けた損害の補償の検討や、自身を含む連盟執行部を減給処分とする方針も明らかにした。

執行部の減給処分の内容

「週刊文春」で渡辺明竜王「告発は後悔してません」

谷川浩司将棋連盟会長の兄、俊昭氏が会長ら執行部の辞任と引退を求める声を挙げました。

さらなる不手際。報告書の「改ざん疑惑」も

第三者調査委員による報告書をウェブにアップするも、微妙に内容が違う「ドラフト版」が存在することが判明。三浦九段への離席に関する記述がドラフト版と公開版で大きく違うなど、“改ざん”を疑われても仕方のない結果となりました。

・公開版(P11)
三浦棋士は、2016年7月26日、将棋会館で開催された第29期竜王戦決勝トーナメントにおいて、久保棋士と対戦し、勝利した13。この対局時、久保棋士は、三浦棋士が、夕食休憩後という終盤において、しかも自分の手番で午後6時41分から7時12分までの31分間も継続して離席したほか14、他にも離席が見られたことなどから強い不信感を抱いた。ただし、本件映像分析の結果では31分間にわたる離席という事実は認められない。

・ドラフト版(P11)
三浦棋士は、2016年7月26日、将棋会館で開催された第29期竜王戦決勝トーナメントにおいて、久保棋士と対戦し、勝利した13。この対局時、久保棋士は、三浦棋士が、夕食休憩後という終盤において、しかも自分の手番で午後6時41分から7時12分までの31分間も離席したり14、終盤はほぼ1手ごとに離席するなどその回数も極めて多かったという認識を持ち、そのことに強い不信感を抱いた。

1月18日、谷川会長が辞任

三浦九段が対局中にスマホを不正使用しているのではないかという疑惑に関して、将棋連盟は昨年10月、三浦九段の年内出場停止の処分を決めた。しかしその後、第三者調査委員会が「不正使用の証拠はない」とする調査結果を報告していた。

「体調不良による」辞任に不満も

将棋ファン、棋戦の協賛会社、三浦九段への誠意を示すために辞任すると言いながら、辞任を決めた一番の理由が「心身ともに不調」では、三浦九段をはじめとした多くの棋士は納得しないにちがいない。会見は会長の体調不良を理由にわずか15分、質疑応答はたったの5分だった。谷川会長が説明責任を果たしたとは、誰も思わなかったのではないか。

新会長は佐藤康光九段に

日本将棋連盟は2017年2月6日、臨時総会と理事会を開き、スマホ不正使用疑惑問題を受けて辞任した谷川浩司会長(54)の後任に佐藤康光9段(47)を選出した。任期は17年6月の通常総会まで。

理事の解任求める動きも

6日の新会長就任の記者会見は、予定より1時間遅れて5時に始まった。新理事選任は、拍手で賛成多数を確認し10分ほどで決まっている。それなのになぜ遅れたのか。
その理由は、総会で「三浦九段の処分について厳しい質問が棋士から出た」(青野照市専務理事・九段)からだけではない。総会前に28人の棋士から、今回辞任しなかった残り5人の常勤理事の解任を図る臨時総会開催の請求が出されたからだ。
将棋連盟の定款14条2項では、10分の1以上の棋士による請求で臨時総会を開催できることになっているという。28人はこの10分の1を超える人数だ。請求された臨時総会の議題は5つ。青野専務理事以下、5人の理事の解任である。

田丸九段による臨時総会の模様

窪田義行七段「島朗(前)常務理事曰く、『週刊文春誌は連盟の味方』」

大平武洋六段「ドラフト版とされるものは、手違い」

羽生夫人のツイート

 ツイッターは29日夜、19回連続で更新。羽生と疑惑をかけられた三浦弘行九段(42)との対局が来月13日に控えていることから「注目される対局を前に、誤解を解きたい事を手短にお話しします」と切り出した。記事内容について「秘密会合で主人が処分相談など真っ赤な嘘(うそ)」「主人をあたかも三浦先生告発の一員と誤解を受けるように名前を利用された」などと指摘した。

棋士の反応は

阿久津主税八段

佐藤慎一五段

三浦九段の師匠の西村九段「賠償1億でも」

「今後は将棋連盟による(三浦九段への)賠償の話が出てくるでしょう。これは高いですよ。1億円でもおかしくない」
 そう語るのは三浦九段の師匠である西村一義九段(75)だ。元将棋連盟専務理事でもある西村九段は、この問題が巨額の補償問題に発展すると断言した。

三浦九段の独占インタビュー

2月13日、三浦九段復帰戦

2月13日、三浦九段が復帰戦を行います。対戦相手は、羽生三冠。既に疑いは晴れたとは言え、周りの見る目も以前とは違うかもしれませんが、惑わされることなく、指してもらいたいものです。