特集2017年2月27日更新

都内タクシー初乗り400円台変更の影響

1月30日より東京都のタクシー初乗り運賃が410円~380円に引き下げられてから約1カ月が経ちました。実質、新運賃では約2キロまで引き下げ、約6.5キロ以上の運賃は引き上げになりましたが、タクシー業界の料金変更の狙いと、実際に1カ月経ってみての、タクシー運転手や利用者の反応を振り返ってみます。

タクシー業界の現状

長引く需要低迷

タクシー業界はリーマンショック以降に需要が低迷し、右肩下がりの傾向が続いています。国土交通省のデータからも国内輸送人数は年々減少しており、バブル期に約33億人を超えていた輸送人員は約16億人と半分以下に減っているのが現状です。

営業収入は凋落の一途だ。国土交通省のデータを見ても、営業収入(法人タクシー事業者)は2007年から右肩下がりで2014年には1兆6596億円に落ち込んだ。車両台数や輸送人員も右肩下がりなのは同様で、2015年度の輸送人員は14億2200万人で、10年間で3割も減っている。

減少していく利用者数

利用者減少の要因は初乗り運賃の値上げによるものでした。どうしても他の交通機関に比べ割高な印象が強いうえに、2007年の初乗り料金値上げや、消費税8%に対応した際の値上げなど、続く値上げにより乗車の敷居はより高いものとなりました。

率先して動いた日本交通の会長でもある川鍋氏は「この10年間で特別区・武三地区の利用者が年約3.5億人から約2.5億人へ3割減少したことが大きい」と危機感をあらわにする。
利用者数が激しく落ち込んだのは、2007年に初乗り運賃を660円から710円に値上げしたときだ。さらに2014年4月に消費税率が8%に引き上げられたことに伴い、初乗り運賃は730円まで上昇。乗車の敷居が上がり、利用者数は低迷したままだ。

進むドライバーの高齢化

実際にタクシーを利用していると感じることですが、高齢のドライバーが増えています。まずタクシー運転手の平均年収は低いことが若年層の人材の取り込みができていない要因です。かつ高齢者のほうも定年後も比較的継続しやすい仕事であるため、ますます平均年齢が高くなっています。

うちでは80代が2人いて、70歳以上が2割近くを占めますが、タクシーのドライバーは13日勤務しても、手取りが10万~20万円。“年金を受給しながら働く”というスタイルが定着している

「タクシー会社はどこも運転手不足。大手の場合、60歳から65歳が定年で、その後、嘱託や契約で続けられる最終定年は75歳。しかし、中小の場合は、長年、無事故無違反の優良ドライバーなら80歳過ぎても雇うところが多いので、定年後に大手から中小に移るドライバーは多い」(業界関係者)

結果的に高齢ドライバーの事故件数も増加しているという悪循環に陥っています。

警視庁がまとめたタクシー(ハイヤー含む)運転手の年齢別事故件数推移をみると、全体の事故件数が年々減少している一方で、70歳以上の運転者の事故率(約16%)は10年前の3倍となっている。
じつは、タクシー業界は高齢ドライバーに頼らざるを得ない構造的問題を抱えている。東京のタクシー運転手の平均年齢は法人約59歳、個人が約63歳で、年々上がっている。

賃金の低下

タクシー運転手の給与は歩合制が多く、月の売上げも30万~40万円ほどというケースも多いようです。さらに2002年に行われたタクシーの参入規制緩和によってタクシー台数が増加。走っているタクシーに対しての利用客数が減ってしまい、タクシー個々の収益が減少してしまっています。

規制緩和後やみくもにタクシー台数を増やす事業者が存在した。タクシーは収益率が低くても、走らせさえすれば収入を得ることができ、台数が多ければ乗り場の位置取りも有利という会社の判断がある。「鵜飼いの鵜」状態で、個々の運転手の収入は悪化するが、タクシー会社は儲かる。

タクシー初乗り料金の改定

改定前後の料金

改定前の運賃は、初乗り2.0キロまでを730円、以降は280メートルごとに90円だったのが、改定後は初乗り1.052キロまでを410円、以降は237メートルごとに80円へと変更しました。このため、利用距離にして1.7キロまでの運賃は値下げとなりますが、6.5キロ以上は値上がりすることになります。そのため“値下げ”ではなく、料金改定という意味合いのほうが強いといえます。

タクシー初乗り料金変更の狙い

今回の運賃改定の狙いは2つあります。1つ目は「ちょい乗り」需要に応えること。高齢者や主婦層、車離れしている若者などが近場への外出で気軽に利用できるようにし、利用客数の増加を狙います。

近距離利用者の利用増への期待

川鍋会長「改定理由の1つは人口構成の変化、少子高齢化がある。高齢者が増えて、移動に対する苦労が増えている。初乗り値下げは『ちょい乗り』需要を喚起できるのではないか。病院から駅、買い物など気軽に頻繁に乗っていただきたい。また、昨今は若い方があまりタクシーに乗らないが、いち公共交通機関として、お子様のいらっしゃる家庭の足としても使っていただければと思う」

訪日外国人の急増

もうひとつの理由は訪日外国人の増加です。観光の際に近距離での移動も多くなることから初乗り料金の値下げを行い、割高なイメージをなくすことで利用者数の増加を狙っています。

川鍋会長「2つ目は訪日外国人の増加だ。初乗りが2km(730円)というのは世界有数の長さで、結果として高額な印象を与えている。これを世界標準に近い価格までに引き下げる。410円は、ロンドン・ニューヨークに比べても十分リーズナブルに感じていただける運賃ではないか。1月30日の午前0時以降に出庫するタクシー車両から、初乗り料金が変わるが、新しいステッカーには初乗りが410円だと訪日外国人にもアピールできるように『First』の文字を追記した。730円から410円になっただけでも、だいぶ印象が違うのではないだろうか」

実際に利用者は?

16年8〜9月に都内4カ所で実施した実証実験の結果によると、日本人利用者の6割が「初乗り運賃が410円になれば利用回数が増える」と回答。外国人利用者は約8割が運賃について「安価」または「適当」と回答した。この結果からも、運賃改定の効果が見込めるという。

ライドシェアへの対抗

さらに付け加えるとすると、もうひとつ、世界で広がる「ライドシェア」への対応ともみられます。アメリカの「ウーバー」など一般の自動車に客を乗せて運ぶ“相乗り”の仲介を行う事業者の本格上陸の可能性があり、その対応も考えていかなければなりません。

タクシー業界の自己改革はこれで終わりそうもない。今後、米ウーバーなどライドシェア(相乗り)サービスが本格上陸する可能性もあり、対策を迫られているからだ。
今のところ日本では、京都府などの一部過疎地域での、ウーバーのシステムを利用したNPOによる送迎サービスなどに限られている。
ただ、海外ではライドシェアが着実に浸透しており、タクシー業界は次なる手を模索中だ。目的地までの交通事情にかかわらず乗車前に運賃を確定する「事前確定運賃」の導入などが検討されている。

デメリットはあるの?

それではデメリットはあるのでしょうか。初乗り料金が安くなるいっぽう、改定後の料金体系では約6.5キロ以上の距離では以内では安くなるものの、容易に想像できます。

6.5キロ以上は値上げとなる

歓迎する声ばかりとは限らない。
というのも、基本的に値下げの恩恵を受けられるのは2キロ以内の乗車で、それを超えると6.5キロまで値下げと値上げが混在。6.5キロ以上は確実に値上げとなるからだ。

経営側への影響

また、経営側にとっては新たな対応を迫られることによる費用負担と、短距離利用客の単価が減ることへの懸念があります。

杉並区を地盤とするコンドルタクシーグループの岩田寿社長は「メーター1つ改修するのにも約2万円かかる」と投資負担の重さを嘆く。
労働組合は今回の新運賃に反対を表明した。自交総連東京地連の川崎一則書記長は、ビジネスなどの長距離利用が少なく初乗り比率が高い下町のタクシー業者に不利な改定だと指摘する。「都心で客待ちをするように会社から指示されたという乗務員の声も上がってきている。タクシーが集中して供給過多になる懸念がある」(川崎氏)。
運転手にとっては短距離利用客の単価が減るため、「短距離利用者が乗車を嫌がられるのでは」という懸念がある。それに対しては、「短距離利用の回数が増えることで全体の売り上げがプラスになれば、運転手にも還元できる。大きな意義の浸透を図る」(川鍋会長)方針。各事業者で運転手や利用客の声を集めながら、接客サービスなどをフォローしていくという。

運転手への影響

近距離利用客の客単価が減ることになるため、売り上げを維持するために、乗客回数を増やさなければならず、ドライバーの負担が増えます。それによる接客態度の質低下などを懸念する声も。

一部の駅のように近距離利用者専用乗り場が設けられたタクシー乗り場でも、目的地が近すぎることを理由に乗車拒否された事例を聞く。初乗り運賃が安くなることで、状況の悪化を懸念する声もある。

タクシー初乗り料金変更の反応

利用者の声

近距離利用客にとっては値下げとなるため、喜びの声が上がっています。

初乗り料金が安くなったことへの喜びの声

「短い距離が素敵になった! タクシー410円最高です」 「都内のタクシー初乗り410円になったら撮影とか駅からスタジオまでガンガンタクシー使うわ」 「都内タクシー初乗り410円に値下げって神すぎるでしょ」 「東京のタクシーの初乗りが410円なら乗ってもいいかなって思う!」 「今日からタクシー初乗り安くなってるじゃん!近距離ですぐタクシー乗っちゃうマンとしてはすごく助かる!!」

と、さっそく歓迎の声が登場。

料金変更後のタクシー利用状況

1月30日よりタクシーの初乗り運賃が、2キロ730円から1.052キロ410円に改定されたが、タクシーの乗車率にどの程度の変化があるのだろうか。「東京都在住で、かつ月に1回以上タクシーを利用する人」に対し、「運賃改定後にタクシーを利用したか」を聞くと、56.1%で「乗車していない」が最多に。次いで、「乗車した」(36.6%)、「運賃改定について知らなかった」(7.3%)となった。 また、「今後もタクシーを積極的に利用していきたいと思うか」を聞くと、43.1%が「積極的に利用していきたいと思う」で最多となった。以降、「現時点ではまだわからない」(42.3%)、「積極的に利用していきたいとは思わない」(14.6%)となった。

しかし、もともと利用しない人には今後も積極的に利用したいという回答が少なく、ほとんど影響がないことや、ちょい乗りを越えてくると安さを感じないという声も。

●タクシーの運賃改定後の利用意向を利用頻度別にたずねたところ、東京都在住者で月に1回以上タクシーを利用する人は「積極的に利用したいと思う」が43.1%となったが、東京都在住者でほとんどタクシーを利用しない人の「積極的に利用したいと思う」割合はわずか3.7%と少ない。タクシー利用が習慣化していないため『ちょい乗り』で運賃が安くなった実感があまり得られないことから利用意向につながっていないのではないと考えられる 
「730円タクシーに乗ると、いつもワンメーターでは上野まで行けず、820円か910円はかかっていました。410円タクシーなら、せめてこれまでの初乗り料金ぐらいで着くかなと期待したのですが、結局変わらず。あまり安さは感じませんでした」(40代男性)

タクシー運転手の顔色を伺ってしまうという声も

また、近距離での利用だとタクシー運転手に嫌がられてしまうのではと、懸念する声も。

「今までのワンメーター以上に運転手さんに嫌な顔されない???」 「今の730円の初乗りでも駅で短距離の行先を言うと嫌な顔をする運転手が居るのに、そういうカルチャーが変わらない限り進んで短距離利用しようという客は増えないと思う」 「初乗りの距離で下りたら、運転手さんに露骨に嫌な顔されそう」(原文ママ)

タクシー運転手の声

利用者は増えても、乗車距離が短ければ載せる回数を増やさなければ目標が達成できず、労働負担が増えるという声も。

雷門や東京スカイツリーといった下町界隈の観光地を走る50代の運転手がボヤく。
「もともとこの辺りは、近場の駅やホテルまで送る外国人観光客も多く、回数をこなさなければ営業所から言われている水揚げ(売り上げ)目標は達成できません。
しかも、今回の初乗り値下げで2キロ以内のお客さんが増えたため、乗降客の多い駅に1時間並んでも570円の運賃なんてケースも増えてきました。このままでは生活が苦しくなってしまうので、駅待ちするのはやめようかと考えています」

実際に初乗り客が増えたという声もあり、本来中距離で見込まれていた客が近距離に遷移しているケースもあり、増えた労働負担の割に、売り上げ増加につながっていると実感していることは少ないようです。

「勝どき周辺のタワーマンションから東銀座駅まで行っていた客が、勝どき駅で降りるようになったね。メーターが上がるのを見越して『410円で止めて』なんて客もいるよ」(都内のタクシー運転手)
「いわゆる“流し”ではなく駅などにつけるようなタクシーは、30分ほどお客さんを待って410円の近距離の利用だったら、正直つらいと思います」(カリスマタクシードライバー・下田大気さん)

客を選り好みする運転手も…?

タクシー運転手がちょい乗り客を避けた結果、利用者が乗りたい時に乗れず不便を感じるのであれば本末転倒です。

「新しい運賃になって街中を流すようになっても、朝晩の忙しい時間帯にシルバーカートを引いた老人や、突然の大雨でビニール傘を買うよりも安いと“傘代わり”に乗ってくるようなビジネスマンは、できることなら避けたいのがホンネ。
明らかにちょい乗り客だと思ったら、道端で手を挙げていても見て見ぬフリをするタクシーが増えるかもしれませんね。これは乗車拒否でやってはいけないことなのですが……」(下町界隈を走る40代運転手)

今回のタクシー料金変更について、業界では値下げではなく「運賃の組み替え」としているようです。「ちょい乗り」需要は長期低落業界を救うでしょうか。今のところ近距離利用者以外にメリットはありませんし、タクシー運転手への負担増からのサービスの質低下、結果利用者が離れていくといった悪循環には至らないよう今後の改善にも期待したいものです。