特集2018年1月26日更新

卓球日本男子の次世代エース “怪物”張本智和

全日本卓球選手権の決勝が21日に行われ、張本智和が“絶対王者”水谷隼との対決を制して優勝し、男女通じての史上最年少記録を塗り替えました。卓球界の次世代エースとして東京五輪の金メダル候補に急浮上してきた14歳の“怪物”を特集します。

目次

全日本選手権で“絶対王者”を降し最年少優勝

1月21日に行われた全日本卓球選手権・男子シングルス決勝で、張本智和が当大会10度目の優勝を狙った水谷隼を4-2で降し、史上最年少の優勝を飾りました。

「今までで最高の瞬間だった」。2歳で初めて握ったラケット。約12年の卓球歴で、胸を張って言える。「今までで一、二を争ういいプレーだった」。14歳208日での戴冠は男子の水谷(17歳226日)、女子の平野(16歳283日)を上回り、男女通じて史上最年少。張本が歴史を塗り替え、日本一に駆け上がった。

決勝の相手はリオ五輪シングルス銅メダルの“絶対王者”水谷隼

五輪シングルスで男女通じて日本人初のメダリスト

水谷は、10代のころから日本の卓球界を引っ張ってきた「絶対王者」です。北京、ロンドン、リオデジャネイロと3つのオリンピックに日本代表として出場し、リオデジャネイロでは銅メダル(オリンピックシングルスで男女通じて日本人初のメダル)を獲得しました。

水谷は卓球日本一を決める全日本選手権においても、決勝進出は12回連続、優勝9回という成績で、まさに「絶対王者」と呼べる存在です。

張本・母「水谷は神様みたいな人」

水谷選手は智にとって神様みたいな人。5年生のときから卓球を教えてくださった方で、すごく大きな存在でした。

昨年の世界選手権では張本が水谷に勝利

昨年5月~6月に開催された世界選手権では、その「神様みたいな人」を4-1のスコアで破る大金星を挙げています。

ドイツ・デュッセルドルフで開催された世界卓球選手権のシングルス2回戦、張本選手はリオ五輪銅メダリストの水谷隼選手(27)を破る大金星を勝ち獲った。喜びをかみしめた彼は3、4回戦も圧倒。準々決勝で破れたが、史上最年少となる世界トップ8を達成した。

水谷に勝つ確率「今回は50%」 準決勝後から燃えていた張本

つまり決勝のカードは、昨年の一戦のリベンジとともに自身の最多優勝記録を更新する10回目の優勝を目指す水谷、男女通じて史上最年少での日本一を目指す張本、という注目の戦いとなっていたわけです。
この世紀の一戦に向けて、張本は「挑戦者の気持ちで戦う」と意気込んでいました。以下は準決勝後の張本のコメントです。

昨年6月の世界選手権では大金星。試合後には「前は(勝つ確率は)5パーセントくらいと思っていたが、今回は50パーセント。パフォーマンスがいい方が勝つ。1回勝っているが、挑戦者の気持ちで戦う」と、意気込みを示した。

積極的な攻め「今までで1番か2番になるようないいプレー」

試合後の張本のインタビュー

――史上最年少での日本一を達成した気持ちは?
「いままで卓球をやってきた中で最高の瞬間です」

――憧れの水谷を破っての優勝になった。
「相手の方が経験値は上ですが“もっともっと”と思い切って攻めることができた結果が勝ちに繋がったと思います」

――第1ゲームから攻めの姿勢を見せていた。
「準決勝までは消極的なプレーでしたが、決勝戦は失うものがないので思いっきりいきました。いままで卓球をやってきた中で1番か2番になるようないいプレーができました」

水谷「張本が来る前にたくさん優勝しておいてよかった」と脱帽

次々と繰り出される強烈なバックハンドに「世界でもトップレベル。世界ランク2位の樊振東選手より脅威だった」と頭を抱えた。
「世界選手権とは比べものにならない。数倍強い。同大会ではチャンスを感じたが、今日は自分の中で得点パターンを見いだせなかった」と脱帽した。「張本が来る前にたくさん優勝しておいてよかった」と冗談めかしつつ「今まで全日本で何回も決勝を戦ってきたが、今日が一番しんどかった」と大きく息を吐いた。

日本卓球界の次世代エース・張本智和とは

2003年6月27日、仙台市生まれの14歳

☆生まれとサイズ 2003年(平15)6月27日、宮城県仙台市生まれの14歳。伸びが止まりつつある身長は1メートル73、62キロ。
☆世界ランク 初登場は15年3月で307位。自己最高は18年1月の11位。

☆好きなバンド 日本の3人組ロックバンド「WANIMA」。

相手に挑む勇気を生む“魔法の言葉”「チョレイ」

張本といえば、昨年からその快進撃とともに、得点を挙げるごとに自らを鼓舞するために発する「チョレイ!」の雄叫びも話題となりました。この雄叫びは、父・宇(ゆう)さんとの“約束”でもあるといいます。

この天才少年は「とても恥ずかしがり屋で自分を出さない性格」だという。コーチでもある父は、「勝負に向かうときに大切なのは精神力。そのためには、まず自分から元気な声を出すこと」と指導した。「声を出すと、自然と元気が出る。自信も出るし積極的になれる。持っている力を出すことができる」という思いがあった。
幼い頃から、年齢やキャリアが格が上の選手と戦ってきた張本にとって、場の雰囲気に飲まれず、相手に挑む勇気を生む“魔法の言葉”が「チョレイ」なのだ。

卓球日本男子・倉嶋洋介監督「声を出して調子を上げるタイプ」

倉嶋監督は「あんまり声を出すなよ、疲れるから」と決勝の前にアドバイス。「はい」と真剣に聞いていた14歳だったが、試合が始まると関係なし。同監督は「声は出ちゃうんでしょうね。声を出して調子を上げるタイプだから」と話していた。

張本「緊張もほぐれるし、プラスのイメージしかない」

「チョレイ!」についてはネットなどで「うるさい」や「全然問題ない」と賛否が渦巻いているようですが、張本自身は雄叫びについて優勝直後に出演したテレビ番組内で前向きなコメントをしています。

張本は「試合中、自分が点を取っていれば疲れも何もないので、どんどん勢いで声出してます」と答えた。感情を表に出すことは「自分の緊張もほぐれますし、プレーにも影響があると思うので、プラスのイメージしかないと思います」と前向きだ。

エビぞりガッツポーズは「ハリバウアー」

エネルギッシュなエビぞりガッツポーズは「ハリバウアー」とも呼ばれる。
体を大きく反って叫ぶ姿が、フィギュアスケート・荒川静香さんの「イナバウアー」に似ていることから命名

ド派手なハリバウアーは連発していない?

今回の全日本選手権でも複数回飛び出した「ハリバウアー」ですが、膝をついて後頭部が床につきそうなぐらいのけぞるド派手なバージョンは、それほど連発するポーズではないようです。

クリスマスイブに開かれた2018世界選手権の日本代表最終選考会で見事、優勝。自らの力で代表入りを果たし、勝利の瞬間は1年ぶりにハリバウアーも飛び出す快勝となった。

上の記事の通り、昨年末に飛び出したド派手なハリバウアーは、2016年12月の世界ジュニア選手権以来のものだったようです。

好物は「鶏肉」と「メロン」

張本選手が好物の肉は鶏肉で、とくに唐揚げが出るとテンションが上がるそう。マヨネーズを付けて食べるのが好きだという。
「何も気にせずに食べられるなら何が食べたい?」と問いかけられると「メロンです」と即答。
誕生日には半玉のメロンを食べたという。好きなメロンは緑色のメロンで品種はわからないそうだ。アンデスメロンかマスクメロンだろうか。
昼食時にはフルーツが用意されており、毎日メロンのスライスを二皿大盛りでゲットするほどのメロン好き。

楽天イーグルスの大ファン

世界中に衝撃を与えたスーパー中学生は、宮城県仙台市の出身。実は「楽天イーグルスの大ファン」で「海外遠征時でもいつも速報を追いかけている」という。
始球式の大役決定には、「投げられることをとても幸せに思います。私の出身である仙台で、東北の皆さんに元気になってもらえるように全力投球します!ご声援をよろしくお願いします!」と球団を通じて喜びのコメント。

始球式終了後、自身のTwitterに喜び溢れる投稿がありました。

“卓球一家”でも「親子でスパルタ練習」ではない育ち方

もともと中国の卓球選手だったという母・凌さんと父・張本宇さん(47)。凌さんは元世界選手権代表で、宇さんも現・男子ジュニア日本代表コーチを務めている卓球エリートだ。
とても驚いたのですが、宇さんを取材した際に『小学校を卒業するまでは、一日2時間以上の練習をさせたことがなかった』と話していました。
幼少期から頭角を現していた息子を見て、宇さんはもっと練習させたほうがいいと思ったそうですが、凌さんが『勉強を頑張ってほしいから』とそれを許さなかったといいます。

母からの教え「常に謙虚であれ」

「私は智に『自慢するのはよくないことだ』と教えてきました。県大会で優勝しても『全国にはまだ強い子がいる』と言いましたし、日本一になっても『世界にはもっとすごい選手がいる』と言いました。本気で上を目指すなら、自慢している余裕なんてないんです。あの子もそれをわかっているようで、学校ではいっさい卓球のことは話しませんでした」

“智和”に込められた両親の想い

「“智和”という名前は、主人と2人で決めました。あの子は日本で生まれて、本当にいろんな日本の方に支えてもらいました。だから名前にある“平和の和”のとおり、これから世界に羽ばたいて日本と中国の架け橋になってくれたらうれしいですね」

急成長を続ける14歳 2017年からの軌跡

2017年シーズン 快進撃は世界選手権から

8月には史上最年少でワールドツアー初優勝

張本の快進撃は、前述のようにシングルス2回戦で水谷に勝利した勢いのまま史上最年少ベスト8にも入った世界選手権から始まりました。そして、続く8月には…

8月25日のチェコ・オープン男子シングルス決勝戦で、元世界ランキング1位の“ドイツ卓球界の英雄”ティモ・ボルを下し、史上最年少でのワールドツアー優勝を果たしたのだ。

若干の低迷期も…

だが、そこから先が厳しく、リオ五輪団体金メダルの許キン(シュー・シン、中国)や同五輪銅メダルのボル、オフチャロフ(ともにドイツ)ら世界の強豪相手にフルゲームで惜敗する悔しい試合が続き涙を飲んだ。

年末には「ブレークスルースター賞」を受賞

そして、クリスマスイブに開かれた2018世界選手権の日本代表最終選考会で優勝し、自らの力で代表入りを果たしています。

年末のグランドファイナルでは、初日の夜に開かれたスターアワードで、新人賞にあたるブレークスルースター賞を受賞する栄誉にも輝いている。

2018年シーズン 飛躍への鍵は“フォアハンドの強化”

成長期とあって、この1年で体が大きくなった張本はフィジカルを強化し、特に下半身が強くなってフットワークが良くなった。これにより動きに余裕ができ、「以前はブロックで返していたボールを、コースを突くカウンターや強い回転をかけたドライブで打ち返せるようになった」と張本は説明する。
しかし、状況によってはまだプレーが慎重になって足が止まり、体勢が崩れてミスが出ることがある。するとフォア側を狙われ劣勢に陥るため、いつでもしっかり足を動かし、コースもクロスへ思い切り引っ張れるフォアハンドの修得を進めている。

全日本選手権ジュニアの部では1ゲームも落とさず完全初V

世界選手権史上最年少8強、ワールドツアー史上最年少優勝とさらに実績を積み上げて臨んだ今年は、「自分が変なことさえしなければ優勝できる」と自信を見せ、初戦の3回戦から決勝の計6試合で1ゲームも落とさなかった。

国内外の卓球関係者による評価

“超攻撃的”卓球に関係者から衝撃の声

男子日本代表の倉嶋洋介監督も「プレーが水谷よりワンテンポ速い。新しい時代に突入した」とうなった。所属の総監督で日本協会の宮崎義仁強化本部長は「レシーブから全部攻める。中国をも倒せる卓球スタイル、金メダルを取れる卓球スタイルが確立されたと思う」と目を細めた。

前中国代表監督・劉国梁「張本は神童」

張本選手の素質には以前から気付いていたとし、「同じ年頃で同水準の選手は中国でも見つからない。とてもすばらしい。だが、中国の樊振東(ファン・ジェンドン、20歳)はもっとすごい。張本選手は神童だが、樊は天才だ」と話した。

そして2020年東京五輪へ

「金メダルを獲れるようにしたい」

20年東京五輪の卓球会場、東京体育館で6500人の大観衆は確かに黄金のポテンシャルを見た。日本のエースとして、TOKYOへ。「優勝できたので、もっと成長のスピードは速くなる。また、ここに戻ってきて、金メダルを獲れるようにしたい。ここからは自分の時代にしたい」。打倒中国、世界ランク1位、五輪金メダル。張本なら、どんな夢でも実現可能だ。