焦点:米支援遅れに乗じロシアが大攻勢、ウクライナに戦線崩壊の危機
ロイター / 2024年5月20日 18時59分
米政府は議会が4月に610億ドルの対ウクライナ包括支援を可決したことを受けて、同国への弾薬や武器の提供を急いでいると説明している。写真はウクライナのドネツク地域で1日撮影(2024年 ロイター/Valentyn Ogirenko)
Dan Peleschuk
[ドネツク(ウクライナ) 18日 ロイター] - 米政府は議会が4月に610億ドルの対ウクライナ包括支援を可決したことを受けて、同国への弾薬や武器の提供を急いでいると説明している。しかし、ロイターがウクライナ東部の最前線で取材した2つの砲兵部隊にはいずれも弾薬と武器がまだ増強されておらず、ロシア軍を食い止めるのに必要な量を大きく下回っていた。
ドネツク地方に展開する第148独立砲兵旅団と第43砲兵旅団の砲兵は、戦争初期にロシアに対して有効だった155ミリ弾を切望していた。
第148独立砲兵旅団の砲兵隊長によると、以前は米国から供与されたM777榴弾砲を1日に100発撃っていたが、今では10発に届かず「30発も撃てれば御の字だ」という。
勢いを盛り返したロシア軍は、兵士と武器の数でウクライナ軍を圧倒。この数カ月間に東部ドンバス地方全域、さらに先週は同国北東部の国境沿いで何度も攻撃を仕掛けており、ウクライナ戦争が転換点を迎えていることが浮き彫りになっている。
フィンランドを拠点とし、衛星画像やソーシャルメディアコンテンツの分析を行っているボランティア団体「ブラック・バード・グループ」のアナリストのパシ・パロイネン氏によると、ウクライナ軍は今年に入って、昨年の反転攻勢で奪い返した分を上回る領土をロシア軍に奪われている。
パロイネン氏によると、ロシア軍は昨年の6月1日から10月1日に414平方キロを失ったが、今年に入って654平方キロを奪い、5月2日以来では222平方キロを獲得している。
第93機械化旅団を率いるパブロ・パリサ大佐は、東部バフムトに近い要衝チャシブヤール付近で交戦しており、ロシアが東部のウクライナ戦線を突破すべく大規模な戦闘強化の備えを進めているとの見方を示した。
この見解は、ロシアはウクライナへの武器供給の遅れに乗じようとしており、この戦争は今後2カ月で重大な局面を迎えるとしたウクライナ軍司令官の先週の発言と符合する。
パリサ氏は「ウクライナ軍が厳しい局面を迎えるのは確実だ」と述べ、ロシアは今年末までにドンバスの工業地帯全体の占領を狙っているとの見方を示した。
<ロシアの進撃に脅える町>
ロシア軍は徐々にウクライナ侵略を拡大。重要な軍事拠点であるコスティアンティニウカ、ドルジュキーウカ、クラマトルスク、スラビャンスクなど東部の大都市を脅かしており、ドネツク地方に住む数十万人が恐怖にさらされている。
「私たちは今日だけを生きている。明日何か起きるか分からない」と話すのはコスティアンティニウカで暮らす教師のニーナ・シシマリエワ(31)さん。遠くでは大砲が鳴り響いていた。今年初め、ロシア軍の陣地は最短でも約20キロ離れていたが、今では14キロに迫った。
ロイターはこの2週間にウクライナ東部で兵士、指揮官、住民、避難ボランティアら10人以上を取材し、彼らの話からは深い不安が読み取れた。
ルハンスクとともにドンバス地域を構成するドネツク州の大部分は毎日砲撃を受けており、フィラシキン州知事によれば通常、砲撃や空爆は1日に少なくとも12回にのぼる。町では家屋や集合住宅、行政機関の廃墟化が当たり前の光景になっている。
<時間との闘い>
ウクライナ軍は東部、北部、南部でおよそ1000キロの前線を守っている。今年に入って最も激しい戦闘のいくつかは、コスティアンティニウカから12キロの地点にあるチャシブヤールを中心に起きている。チャシブヤール近郊や、さらに南のオチェレティネ周辺にまでロシア軍が進攻すれば、ウクライナ軍の兵站にとって重要な地域がロシア軍の手に落ちる。
コスティアンティニウカから西に通じる主要幹線道路はすでに脅威にさらされている。この道路が完全に断ち切られれば、クラマトルスク、スラビャンスクなどさらに北部の拠点が重要な補給路を失う。
ロンドンを拠点とするシンクタンクRUSIのジャック・ワトリング上級研究員は、ロシア軍はウクライナの防衛力に負担を掛けるため、前線の北部と南部で攻勢を強めると見ている。
ウクライナでは18日に徴兵強化の新法が発効する。だが、専門家や軍指揮官によると、新兵が前線に到着し、疲弊した部隊を補強するまでには数カ月かかる。ウクライナ軍兵士の多くによると、米国の弾薬や武器が全て前線に届くまで軍が持ちこたえたとしても、前途はなお厳しい。
ロシアがハリコフへの侵攻を開始した数時間後、第93機械化旅団のパリサ大佐は「長期戦にはより多くの資源が必要で、われわれは時間切れとなる可能性が高い」と吐露。ロシアに対してできるだけ早く重圧をかけることが重要だとした上で「敵の資源は、人的にせよ物的にせよ、われわれの比ではなく、極めて強大だ。だからこそ、長期戦はわれわれにとって不利だ」と述べた。
この記事に関連するニュース
-
ウクライナ各地の戦場に続々と出現する、ロシア軍「亀戦車」...防御力の弱さ露呈した「撃破」動画
ニューズウィーク日本版 / 2024年5月18日 15時35分
-
北東部ハリコフ州「激しい戦闘」迫る、ウクライナ軍総司令官が警告
ロイター / 2024年5月18日 0時34分
-
立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿
ニューズウィーク日本版 / 2024年5月15日 9時54分
-
ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「長距離攻撃」動画で示した超攻撃力(ウクライナ)
ニューズウィーク日本版 / 2024年5月11日 15時30分
-
爆音と人が死んでいく恐怖の中での生活しか知らない子どもたちに、ダンスを教えるウクライナ人女性「言葉では表現できない。だから踊る」という理由
集英社オンライン / 2024年5月11日 11時0分
ランキング
-
1日韓豪防衛相が初会合、背景に中国の脅威と米戦略の転換 日韓はフリゲート艦受注競争も
産経ニュース / 2024年6月2日 19時7分
-
2北朝鮮から韓国への「汚物風船」720個に、高官「正常な国家としては想像できない挑発」
読売新聞 / 2024年6月2日 19時2分
-
3北朝鮮が「汚物風船」の暫定的中止を発表、720個飛来した韓国の「報復措置着手」を受けて対応
読売新聞 / 2024年6月2日 23時1分
-
4新大統領にトマスドッティル氏=女性2人目―アイスランド
時事通信 / 2024年6月2日 18時9分
-
5バイデン氏の再選期待68%=外交では「不支持」が上回る―豪調査
時事通信 / 2024年6月2日 21時33分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください