警察だけができると思いきや…目の前で犯罪が起きたとき、あなたも犯人を「逮捕できる」って知っていますか?【元新聞記者が解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年5月20日 7時0分
毎日さまざまな事件が発生し、私たちも日頃から逮捕のニュースをよく目にしていますが、そもそも「逮捕」とは一体何なのでしょうか。実は、逮捕の形は一つだけではないというのです。本記事では、『三度のメシより事件が好きな元新聞記者が教える 事件報道の裏側』(東洋経済新報社)より、著者の三枝玄太郎氏が「逮捕」について解説します。
逮捕にはいくつも形がある
「〇〇署は×日、殺人未遂容疑で、東京都△△区〇〇の会社員、▽▽××容疑者を逮捕した」皆さんはこんなニュースを新聞やテレビやインターネットで日々、目にしていると思います。
では、いきなりですが質問です。逮捕とはいったいなんでしょうか? そんなこと簡単じゃないか。警察が容疑者に手錠をかけることでしょう、と思われるかもしれません。しかし、逮捕とは実はなかなか難しい定義があるのです。というのも、逮捕の〝形〞は一つだけではないからです。
憲法33条にこんな条文があります。
「何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、且つ理由となっている犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない」これは刑事訴訟法の元ネタにもなっている憲法の大事な条文です。平たく言えば、警察は通常、逮捕状がなければ、犯罪の嫌疑がある人物を逮捕することができないということです。
逮捕状とは、刑事ドラマでよく「おい、〇〇(容疑者の名前)、お前に逮捕状が出ている」なんて言って目の前に突き出す、あの紙ですね。
ある県で殺人事件があったとしましょう。警察が捜査を開始したところ、Aという人物が被害者の自宅周辺の防犯カメラに映っているのを見つけました。裏付け捜査を進めると、Aの指紋が現場から検出されます。「こいつで間違いない」。そう思っても警察はAを逮捕できません。逮捕状がないからです。
逮捕状とはAの氏名、住所、罪名(この場合は殺人罪ですね)、被疑事実の要旨などが書かれた紙で、これを司法官憲つまり裁判所(地方裁判所か簡易裁判所)に行って発布してもらわなくてはなりません。家宅捜索するときも同じで、裁判所から捜索令状を発布してもらわなくてはいけません。
逮捕状は俗に「フダ」とも呼ばれ、だいたい数時間から半日で発布されるようです。裁判所には当直の書記官が泊まり込んでいて、深夜・早朝でも対応してくれます。昼間は民事裁判や家事裁判などを担当している裁判官も、地方の県などの場合は泊まり込んで対応するそうです。
こう言うと、簡単に逮捕状が発布されるように思われるかもしれませんが、はねつけられることも結構あるようです。証拠が乏しい場合には、裁判官から「捜査が甘いな」と嫌みを言われると聞いたこともあります。
私自身、大阪地方裁判所で、明らかに刑事とおぼしき大柄な男性が「判事がフダを出さへんって言うてるんですわ!」と興奮した様子で電話しているのを目にしたこともあります。
ちなみに、逮捕状を示して逮捕することを「通常逮捕」といいます。メディアで報道される事件は、たいていがこの通常逮捕です。
あなたも「逮捕」ができる
ところで、先ほどの憲法33条の「何人も……令状によらなければ、逮捕されない」という一文をもう一度よく見てみてください。何か気づきませんか?
実はこの文には「誰に」という部分が抜けているのです。どういうことでしょうか。これは、今、この本を読んでいる皆さんも泥棒を逮捕することができるという意味なのです。
あなたはコンビニエンスストアで万引をする男を目撃してしまいました。男はそのまま出て行ってしまいそうです。警察を呼びたいところですが、あたりに交番はない……。そこで、持ち前の正義感を発揮し、店から出たところで男に声をかけます。男はびっくりした顔であなたを見ましたが、観念して「やりました」と言い、かばんに入れた商品を見せました。
この場合、犯罪を見つけたあなたが男を逮捕することができます。逮捕状は必要ありません。これが「現行犯逮捕」です。
警察官以外の人が逮捕しているので「常人逮捕」という言い方をすることもあります。現行犯逮捕は憲法では例外の扱いですが、実際には意外に多いのです。
1981年の「犯罪白書」におもしろい統計が載っています。警察庁が1979年1月から1980年6月までの間に全国で発生した金融機関強盗188件を調べたところ、検挙された128人の内訳は、警察官による現行犯逮捕が32.8%、一般人による現行犯逮捕が25.8%もあり、合わせて6割にも達しています。
話を万引犯に戻します。駆けつけたお巡りさんはニコニコ顔です。「ありがとうございます」「いえいえ……」「では、ちょっと署までご同行願えますか」「ちょっと待ってよ、なんで私が警察に⁉」刑事ドラマでは、署に同行されるのは犯人1人と相場が決まっています。しかし実は、泥棒を現行犯で捕まえて、お巡りさんに引き渡せば終わりではないのです。
私自身、ある年の大みそかの深夜、泥棒を捕まえたことがあります。妻が持っていたアタッシェケースを、通りかかったホームレス風の初老の男がつかんで持って行こうとしたのです。妻が悲鳴を上げたので、気づいた私が追いかけて捕まえました。110番で数分後に駆けつけたお巡りさんに手錠をかけられ、男はパトカーに乗せられていきました。
「いやあ、災難だった。さあ帰ろうか」そう思ったら、「ちょっと署まで来てください」。警察署に連れて行かれ、取調室に通され、たっぷり3時間ほどかけて刑事さんに事情を聞かれました。
これにはれっきとした理由があります。裁判が始まると、現行犯の場合でも、検察は裁判所に「現行犯人逮捕手続書」という書類を出さなければなりません。検察官はこの手続書に目を通してから公判に臨む必要があります。
手続書には逮捕について、そのとき、その場所の状況を詳細に書いておかなくてはなりません。そのため、逮捕した人間にもしっかりと事情聴取する必要があるのです。
三枝 玄太郎
※本記事は『三度のメシより事件が好きな元新聞記者が教える 事件報道の裏側』(東洋経済新報社)の一部を抜粋し、THE GOLD ONLINE編集部が本文を一部改変しております。
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