水とエタノールには溶けるが混合液には溶けない高分子の謎を分子研などが解明
マイナビニュース / 2024年5月20日 15時53分
分子科学研究所(分子研)、総合研究大学院大学(総研大)、高エネルギー加速器研究機構(KEK)の3者は5月17日、刺激応答性高分子「ポリイソプロピルアクリルアミド」(PNIPAM)が示す、純水と純メタノールのそれぞれには溶けるが、両者を混ぜたメタノール水溶液では溶けなくなるという「共貧性溶媒効果」のメカニズムを、軟X線吸収分光(XAS)計測とコンピュータシミュレーションを用いて解明したことを共同で発表した。
同成果は、分子研/総研大の長坂将成助教、KEK 物質構造科学研究所/総研大の足立純一講師、KEK 物質構造科学研究所の熊木文俊博士研究員、中国・浙江大学の望月建爾教授、同・Yifeng Yao大学院生らの共同研究チームによるもの。詳細は、「Physical Chemistry Chemical Physics」に掲載された。
共貧性溶媒効果の謎を解明する上で研究チームが重要と考察したのが、溶液中のPNIPAMと溶媒分子である水とメタノールの分子間相互作用がどのように変化するのかという点だという。それを確かめるため、今回の研究では、PNIPAMの「カルボニル基」(C=O基)の周囲の水とメタノールの様子がわかることから、酸素K吸収端の光エネルギーを選んで、メタノール水溶液中のPNIPAMのXAS計測を行ったとする。
実験では、まず純メタノールと純水に加え、メタノール水溶液でのPNIPAMの溶け方が調べられた。すると、純メタノールと純水では溶けているが、メタノールの割合が中間の濃度領域では、PNIPAMが溶けずに白濁した溶液になっていることが確かめられた。
また酸素K吸収端XASスペクトルでは、PNIPAMのC=Oπピーク(PNIPAMのC=O基の酸素原子の内殻電子(1s軌道)が、C=Oのπ軌道に励起する過程に対応)は、水やメタノールのピークよりも低エネルギー側にあるので、溶媒の寄与に埋もれることなく、そのピークを観測することが可能だ。そこで、PNIPAMのC=Oπピークのエネルギーシフトが、異なる割合のメタノール水溶液ごとに求められた。その結果、まずメタノールの割合が多い時には、C=Oπピークは水の割合が増えるほど、緩やかな高エネルギーシフトを示したとする。これは、PNIPAMのC=O基とメタノールの水素結合が、水の水素結合に置き換わることが表されているとした。それに対して純水では、C=Oπ*ピークが、純メタノールの時よりも大きく高エネルギー側にシフトしていることが判明したという。これは、巨視的には水とメタノールで同じように溶けて見えるPNIPAMだが、分子レベルでは異なった描像が示されていることが表されているとする。
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