シンガポールと陸前高田市から学ぶ、国境を超えた固い絆づくり
パラサポWEB / 2022年1月14日 15時15分
私達に多くの感動を与えてくれた東京2020大会では、参加国の選手たちとの交流などを地方自治体が担う「ホストタウン」という試みが導入された。残念ながら新型コロナウイルスの影響で、ほとんどのホストタウンが事前合宿の受け入れや、対象国との交流イベントを断念せざるを得なかった。しかし、そんな状況の中でも工夫を凝らし、大会終了後もその絆を深めている自治体がある。先日もシンガポールのホストタウンとなった陸前高田市で、あるイベントが行われた。その様子を同市の地域振興部観光交流課定住交流係の村上聡さんに伺った。
なぜシンガポールが? 東日本大震災を契機に繋がった国と町東日本大震災後、シンガポールや赤十字社などの協力を得て建設された「陸前高田市コミュニティホール」
陸前高田市はホストタウンになる前からシンガポールと交流があった。そのきっかけは2011年の東日本大震災だった。
「陸前高田市は市街地の全てが津波で流されてしまったため、震災後、市民や住民の方々がコミュニティ活動を行うときに集まる場所がありませんでした。そのことを震災の支援を申し出てくれていたシンガポール政府に話したところ、費用の一部を負担してくださったんです」
建設費用14億円のうち、半分の7億円をシンガポール政府と赤十字社が設立した基金が寄付。そうして出来上がったのが、「陸前高田市コミュニティホール」だ。その他にも、「夢アリーナたかた」という体育施設や市立図書館建設といったハード面、さらには大学に進学する高校生のための奨学金制度創設のサポートといったソフト面でも同国は手厚い支援をしてくれたという。
町が徐々に復興していった後も、シンガポールで開催されたワールドシティサミットというイベントに陸前高田市の戸羽太市長がゲストスピーカーとして登壇。同行した市の職員が現地の観光関係の人達に同市の魅力をアピールした。一方、陸前高田市ではシンガポールの魅力を伝えるフェアを開催するなどして交流を続けてきた。
「そのおかげで2016年以降はシンガポールからのツアー客が増えて、民泊を体験していただくなど民間レベルでの交流も続けてきたんです。ですから、ホストタウンの話を聞いたときはぜひシンガポールの選手団を受け入れたいということで申請をしました」(村上さん)
シンガポール政府公認のマーライオン像が、陸前高田市に!残念ながらコロナ禍の影響で、ホストタウンとして予定していたシンガポールの選手団を招いての市民交流などのイベントは開催することができなかった。しかし一方で、あるプランが企画されていた。
「シンガポールの皆さんにこれまでの感謝の意を示すため、そして交流をこれからも続けていきましょうという思いを伝えるために、シンガポールの象徴であるマーライオン像を、交流の拠点であるコミュニティホールの前に建てようという話になったんです。どうせ建てるならしっかり公認をもらいたいということで、2019年にシンガポール政府観光局に申請して無事に公認をいただきました」(村上さん)
そして、2021年12月4日にその除幕式とさらに親交を深めるためのイベント「シンガポールフェア」が開催された。このイベントには同市の市長や議長の他、在京シンガポール大使館のピーター・タン大使などが出席。台座を含めると高さ2.7メートルもあるマーライオン像の除幕式が行われた。
「このマーライオン像は日本で一番親しまれているシンガポールのマーライオン公園の像をモデルにしていて、自画自賛になりますが、とても出来がいいんです。大使もとても感動されていました」(村上さん)
市民からの評判もとても良く、除幕式は終始温かい雰囲気に包まれていたという。
市民を交えてのオンライン文化交流が大好評!オンラインでトークセッションに参加したシンガポールのパラリンピアンたち。乗馬のマクシミリアン・タン氏(写真右上)、水泳のソフィー・スーン氏(写真左下)、乗馬のジェマ ローズ ジェン・フー氏(写真右下)
除幕式のあとはコミュニティホールの中にあるその名もシンガポールホールに移動して、「シンガポールフェアin陸前高田」を開催。陸前高田市とシンガポールをオンラインで結び、シンガポールのパラリンピアンたちと「未来に向けて」というテーマのトークセッションを行うなどした。
祭りの映像をバックに「けんか七夕太鼓」を披露する気仙町けんか七夕保存会の皆さん「『けんか七夕太鼓』をはじめとして、イベントは盛りだくさんでした。陸前高田市では毎年8月7日に『うごく七夕まつり』と『けんか七夕まつり』という祭りが開催されます。『けんか七夕まつり』は豪華に飾り立てた山車同士をぶつけ合う雄壮なものですが、その時に披露される太鼓を気仙町けんか七夕保存会の方達に披露していただきました」(村上さん)
その他にも、シンガポールの文化体験の一環として、シンガポール料理の弁当を用意。参加した市民が持ち帰って自宅で同国の料理を堪能してもらったが、大変好評だったそうだ。
大盛況!国を超えて同世代の子どもたちがつながったスポーツ交流オンラインで会話をする宮古市立第二中学校の生徒たち(写真右)と、シンガポールのスポーツスクールの皆さん(写真左)
そしてもうひとつ、大変好評だったのが「シンガポールとの中学生オンライン交流」だ。参加したのは、日本側からは陸前高田市と宮古市の中学校で卓球部に所属する生徒たち。シンガポール側は、シンガポールスポーツスクールの生徒たちと、卓球世界選手権金メダリストでもあるコーチ、スン・ベイベイ氏。
通訳を通して生徒たちが相互に質問しあったり、ベイベイ氏から練習指導を受けたりするなど充実した内容だった。
「東京2020大会ではオリンピアンやパラリンピアンをお迎えしてスポーツを通した市民との交流イベントを計画していましたが、コロナの影響で出来なくなってしまいました。そこで今回、当初の予定だったスポーツを通した交流を行おうということでオンラインを利用した交流を実施しました」(村上さん)
日々卓球に情熱を注ぐ同世代の生徒達の交流は大変盛り上がったそうだ。そして世界選手権の金メダリストという一流の選手から直接指導を受けたことは、参加した日本の子どもたちにとってとても貴重な体験だったと村上さん。今後もこうしたイベントを続けていきたいと今回の手応えを語ってくれた。
村上さんは、東京2020大会でホストタウンになったことは陸前高田市にとって、とても大きな意義があったと考えているそうだ。
「ホストタウンになったことで、シンガポールとはどういう国なんだろうということを改めて調べて知るきっかけになりました。我々のような小さな町に一国の大使が来てイベントに出席していただけたことはとても光栄なことですし、共生社会の先進国であるシンガポールからは、これからもまだまだ学ばせていただくことがたくさんあります」(村上さん)
実は陸前高田市は、数年前から「ノーマライゼーションということばのいらないまちづくり」をキーワードに共生社会の構築を目指している。言語や宗教、文化が多様な多民族社会であるシンガポールとのつながりは、誰もが自分らしくいられる社会に近づく道しるべとなるだろう。震災から10年以上が経過した今も、国籍や民族、宗教や言語などを越えて深い絆で結ばれ、共に未来へ歩む姿は、私達が目指す共生社会の一面を示しているのかもしれない。
text by Kaori Hamanaka(Parasapo Lab)
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