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出る杭は無視される...「部下に主体性を求めない」上司の本音

PHPオンライン衆知 / 2024年5月16日 7時0分

上司と部下の関係性

昨今は企業で「主体的な人材」が重宝されると言われるが、組織論の第一人者である太田肇氏と、イノベーション論・モチベーション論に精通する金間大介氏は、上司は部下に対して「管理された主体性」しか求めていないという。部下を管理したい上司と消極的な部下のあいだで保たれる、奇妙な「均衡」とは――。

※本稿は、『Voice』(2024年4月号)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

聞き手:編集部(中西史也)

 

上司と部下との絶妙な「均衡」

――今回は組織論の第一人者である太田肇さんと、イノベーション論・モチベーション論に精通し、新著『静かに退職する若者たち:部下との1on1の前に知っておいてほしいこと』(PHP研究所)を書かれた金間大介さんに、いま多くの企業が頭を抱えている「若手社員の退職」や、「上司と部下のコミュニケーションの取り方」について議論いただければと思います。

【太田】金間先生は前作『先生、どうか皆の前でほめないで下さい:いい子症候群の若者たち』(東洋経済新報社)が評判だったので同書を拝読し、現在の若者の姿を勉強させていただいていました。今回の新著も楽しみにしていたんです。

【金間】ありがとうございます。光栄です。太田先生のご著書『何もしないほうが得な日本:社会に広がる「消極的利己主義」の構造』(PHP新書)で、自己利益と保身のために現状を変えないほうが得だとする意識を「消極的利己主義」と名付けられていますね。僕が提起する「いい子症候群」の概念と通底していて、ぜひお話ししたいと思っていました。

――金間さんは『静かに退職する若者たち』で、上司と部下の対話の機会である1on1ミーティングを題材にしながら、良い関係を築けていると思っていた若手社員が突然辞めていく問題を分析しています。太田さんは本書をご覧になって、どのような感想を抱きましたか。

【太田】本書では、部下に主体性を期待する上司や、失敗しないために正解を求める若手社員の姿が書かれていますね。そこで思ったのは、上司はじつは、活発に発言しない消極的な部下のほうが自分たちにとって都合が良いと考えているのではないかということです。

積極的に行動しない部下の姿を上司はぼやきがちですが、そのほうがコントロールはしやすい。だから部下を管理したい上司と消極的な部下のあいだで、絶妙な「均衡」が保たれているのではないかと思うわけです。

【金間】冒頭から、僕が最も訴えたい論点について指摘いただきました。経団連が発表した「高等教育に関するアンケート結果」(2018年)によると、企業が学生に求める資質は「主体性」が断トツです。でも僕はそこに違和感を抱いていて、じつはその主体性とは、太田先生がおっしゃったように「自分がコントロールできる範囲での主体性」なのでしょう。

【太田】ええ、「管理された主体性」とでも言いましょうか。それで上司と部下の均衡が保たれている、すなわち「ウィンウィン」なのです。

 

仕事のやる気を保てなければ環境を変えよ

――上司は部下に「管理された主体性」を求めるとのことですが、そこから逸脱した主体性とは具体的にどのような事例があるでしょうか。

【太田】極端なことを言えば、本当に自立した社員は「無能な上司はいらない」と考えるはずです。しかしこのような強い姿勢は、外資系企業ならともかく、JTC(ジャパニーズ・トラディショナル・カンパニー=伝統的な日本企業)では受け入れられないでしょう。

【金間】そうですね。若手社員が外部の取引先をフラットな目で見たときに、「この会社とは取引をやめたほうがいい」と感じることもあるはずです。彼ら彼女らは自社の利益に鑑みて合理的な判断をしているのですが、上司からすればそこまで口を出されると困るというのが本音です。

そんな上司の態度を若手社員は汲み取り、「管理された主体性」の枠から外れないように「均衡」を保っている。いまの若者たちは、上司の言うことにうまく合わせるコミュニケーション能力を備えていますから。

【太田】本音と建前の乖離は、家庭での親子関係でも見られます。親が外では「若者は積極的に世界に羽ばたくべきだ」と言うけれど、本心では子どもをなかなか手放したくない、とか。

【金間】まさにそれです。たとえば、ある大学が発展途上国への留学を卒業のための必須要件に設定したとしましょう。すると、表向きには賛同する人は多い。これからの日本にとって、そういった国々との付き合いは大切ですからね。ところが当の保護者はというと「うちの子を海外に行かせるなんて心配」と言います。

【太田】自分の身近な関係において大きな変化は起きてほしくないけれども、自らと距離のある部分では変わってほしいと考えているのでしょう。

【金間】会社で上司は部下に、管理できる範囲での主体性しか求めていない。一方で部長クラス以上になれば、会社の経営にとってイノベーションが必要であることも認識しているはずです。このジレンマを太田先生はどう考えていますか。

【太田】人は短期的な改善はできても、長期的な革新にはなかなか乗り出せないものです。だから私は、上司や部下個人の問題ではなく、「第三の力」が必要なのではないかと考えています。それがリーダーの資質なのか、仕組みなのか、外圧なのかは難しいところですが。

【金間】外圧がないと変わらないのは日本らしいですが、そうなるとジリ貧で選択肢が限られてきますから、僕はやはり内発的に変わる必要があると思うんです。

【太田】企業における社員個人のモチベーションで言うと、自らの意識の改善や会社の取り組みで仕事へのやる気が短期的に向上することはあるでしょう。

ただ私は、中長期的に見れば、仕事へのモチベーションが上がらない場合は転職や独立するしかないという立場です。業務自体が楽しくないなら出世や給与面に注力する選択肢もありますが、どれだけ頑張っても課長、部長止まりかもしれない。それだけでモチベーションを保つには限界があります。

【金間】環境が変わらなければモチベーションが上がらないとのご指摘、同感です。太田先生のご著書『何もしないほうが得な日本』のメッセージにもつながりますが、いまは「出る杭は打たれる」というよりも「出る杭は無視される」なんですよね。熱意をもって会社に新たな提案をしても、面倒くさいことはスルーされてしまう。そして仕事へのモチベーションは減退していく。「何もしないほうが得」なシステムを変える必要があります。

【太田】よく「出る杭は打たれても、出すぎた杭は打たれない」と言われますね。日本は同調的な社会ですが、突出しすぎた者は意外と受け入れられる気がします。

【金間】それは、会社でも学校でも「何もしないほうが得」な状況を変えるヒントになるかもしれません。周りが無視できなくなるくらい出すぎる人が、日本にもっと増えてほしいと思います。

 

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