1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 社会
  4. 政治

若者が盛り上がる話題は「投資と旅行」だけ…韓国に蔓延する「まともに働くのはバカ」という虚脱感

プレジデントオンライン / 2024年5月20日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/surasaki

韓国では20~30代の人たちは「2030」と呼ばれている。韓国生まれの作家シンシアリーさんは「彼らは投資が好きという共通点がある。その背景には『どれだけ頑張っても不公正な結果にしかならない』という考えがある」という――。

※本稿は、シンシアリー『Z世代の闇 物質主義に支配される韓国の若者たち』(扶桑社)の一部を再編集したものです。

■最重要キーワードは「自分中心」

彼ら2030は、どんな価値観を持っているのでしょうか。どんなアイデンティティを持っているのか、と書いたほうがいいでしょうか。自己同一性、アイデンティティ――なにを求めて、どんなスタンスで世界を、自分を見ているのか。なにかの分析を始めるなら、ここからでしょう。

いつものことですが、私の見解は韓国人の韓国論としては図抜けて変わり種ですので、ひとまず措いておきつつ、まずは韓国内で一般的に出てくる見解をいくつか紹介します。

まず「その1」に、「個人主義である」こと。他の国でも、若い世代に関して前の世代の人たちがなにかを分析するとき、ほぼ例外なく「個人主義が強い」とします。韓国も例外ではありません。論文や記事など多くの見解をまとめてみても、もっとも共通して語られるのが、「2030においてもっとも重要なキーワードは『自分中心』である」です。

■2030の共通の話題は「旅行と投資」

「自分を重視する個人主義傾向」、「社会や職場より自分を優先」などで表現されます。お金を使うにも、「自分向け」のものにこだわります。「面白さの追求」と表現されることもあります。

しかし、日本のようにいわゆるオタク文化が発展しているわけでもないし、学校生活も韓国では“絶対的な入試中心”になるので、部活などの経験もほとんどありません。多様ななにかを求めてはいるけど、家に引きこもってネットをやる以外には、有形無形の「インフラ」が足りないとでも言いましょうか。

その影響か、時間をつくって海外旅行することを、韓国の2030はすごく重視します。海外旅行から多様性の満足を得ようとしている、といったところです。というか、いまの韓国の2030が知り合いと会って話す内容は、「旅行と投資の話しかない」気もします。

こうした背景に加えて、もともと他人と比べられることを気にする国民性もあって、韓国社会には「海外旅行に行けないのはすごく賎しい」ことと認識する風潮があり、これは若い人たちの間でも同じです。ひょっとすると、彼らは韓国の外に出ることで自分が自分らしいということを表現できると思っているのかもしれません。本当は外国で「なにをどうしたいのか」が重要なのでしょうけれど、主客が転倒しているとでも言いましょうか。

■「楽しみは登山だけ」の60代よりは多様化

韓国の60代は、「趣味が登山しかない世代」と言われています。もともと登山好き民族(?)といってしまえばそれだけかもしれませんが、他に趣味生活がほとんどできなかった世代だし、強い反共(反・共産主義)・愛国中心教育を受けた世代なので、「国土愛」が無意識的に発露しているという見方もできます。

そうした60代に比べると、いまの韓国の2030の人たちの「楽しみ方」は画期的に多様化されたとも言えます。ですが、私が日本で暮らしているからでしょうか。自分の趣味や好みを求めるという側面では、まだまだ日本には遠く及ばないでいます。

別に観光に限った話ではありませんが、こう考えてみると、韓国人が憧れる世界が日本には存在するのかもしれません。最近、日本に来る外国人観光客たちは、「どうやってそんなところまで知っているのか」と不思議なくらい、日本の各地を楽しんでいます。これは、外国人観光客がソウルに集中している韓国との大きな差でもあります。

写真を撮る観光客
写真=iStock.com/Bill Chizek
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Bill Chizek

■日本は「それぞれの楽しみ」を満たせる

もう10年近く前から韓国では日本旅行が大ブームですが、特に若い人たちが求めるものは、数少ない巨大な観光地ではなく、多くの「それぞれの楽しみ」ではないでしょうか。こういうのもまた、日本の強みでもあります。私もそうした外国人観光客の一人だったので、よくわかります。最近はバスツアーなどで、1カ月に1回は日本各地を回っています。

少し話が逸れましたが、そもそも個人主義という指摘は、書き方によってポジティブにもネガティブにもなるでしょう。ただ、個人主義だろうと集団主義だろうと、過ぎれば問題になるのは同じこと。ある程度なら当然の権利意識が強くなっただけとも言えるし、多様な楽しみが見つけられるようになったとも言えるし、別に悪くはありません。他の国でも共通して現れている傾向です。

ちなみに、ここでいう「多様性」は人それぞれの多様さを意味するもので、民族や人種、宗教、性別、年齢などに対して差別的な表現を避け、社会を正していくとする「ポリティカル・コレクトネス」、いわゆるポリコレの話ではありません。部分的に重なる領域はあるかもしれませんが、韓国の2030のポリコレはちょっと他国とは違う面があり、これについては本書で詳しくお話します。

■「公正なのは投資だけ」と思っている

次に、韓国の2030のアイデンティティ「その2」として、「公正なのは投資だけ」という認識があります。これは、他国に比べてかなりユニークではないでしょうか。同じく青年世代の価値観に関する他国の分析からは、あまり見られない傾向です。たしかにお金の稼ぎ方が多様化されたとか、使い方が多様化されたとか、そんな話はよく聞きます。

生活に必要な資金、またはその目処が立ったら早めに仕事から離れる「FIRE」現象(人にもよりますが、相応の投資と自己資本が必要になります)とか、または極端に使い方を減らす人たちの話もニュースになったりします。逆に、欧米の一部地域では、明日のことはあまり考えずにクレジットカードを乱発する人たちもいると聞きます。

投資というか、生き方にはさまざまなものがあり、ドールを「娘」として本の原稿を書いている私のような元歯科医師もいたりして、ニュースになったりならなかったりしますが、それでも、青年関連で「公正なのは投資だけだと思っている」とする分析など、他国では聞いた記憶がありません。ひょっとすると、韓国特有の現象ではないでしょうか。

■お金を稼ぐ経済システムへの信頼が崩壊

この件、「個人的な見方は後にすると言っていたが、これこそ個人的な見解ではないのか」と思われるかもしれませんが、実は2021年5月に韓国の金融監督院(日本の金融庁のような機関)が出した公式レポートの内容です。同月28日の『毎日経済』紙などが記事にしています。

別に投資をしたければ、自分自身と周りに迷惑がかからない範囲内で自己責任でやればいいだけの話です。ですが、実はこの現象からは、二つの「信頼の崩壊」を見出だすことができます。

一つは、これがストレートに「投資が公正だ」という認識を示してはおらず、「他のものより“それでも”投資が公正だ」という認識である点。すなわち、お金を稼ぐという経済活動のすべてが「いくら頑張っても不公正な結果にしかならない」とする、経済システムへの信頼の崩壊です。

結構前にネットでバズったフレーズに、「働けば負けだと思って」というものがありますが、この場合、「まともに働けばバカだと思って」になります。

■熱心に働いてもお金持ちにはなれない

そして、もう一つは、その「稼ぎ」へのアクセス手段として伝統的に教えられてきた「教育システム」に対する信頼の崩壊です。どれだけ頑張って勉強しても不公正な結果にしかならないという考えが、2030の間で広がっているわけです。

見方にもよりますが、いわば「熱心に働けばお金持ちになれる」と「熱心に頑張ればお金持ちになれる」という二つの教えに対する信頼が崩壊しました。

仮に「お金持ちになれる」ではなく「立派な人になれる」としたなら、結果は少し変わっていたかもしれませんが、韓国というのは不思議なほど物質主義な考えが強く、そうした大人たちを見て育った子供もまた、物質的なものでなにもかもランク付けをする悪い癖があります。

あみだくじのそばに立つビジネスマン
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

■「教育による出世」は過去の話に

かなり以前から多くのメディア、『朝鮮日報』や『中央日報』などのメジャーな新聞社や地上波放送などが取り上げていますが、韓国では小学生の間で「階級論」や「言語暴力」(マイホームを持っていない子を「物乞い」とするなど)が広まっていることが問題となっています。

そのなかには、学校に皆勤する子を「海外旅行にも行けない皆勤物乞い(海外旅行に行く場合は通常、学校を休むことになるので)」と呼ぶという話もあります。こうした胸が苦しくなる話も、「まじめさ」という価値観が崩れている裏付けかもしれません。このように「韓国の青年たちは投資が好き」というのは、単純な投資熱の高まりという形では捉えきれません。

時代の流れでもあるとは思いますが、韓国で「教育による出世」が信頼されなくなったのは、個人的にかなりの衝撃です。私は1970年代に生まれた世代で、大学入試制度そのものが2回も変わるなど、これまで学校文化の変化を経験してきましたが、それでも韓国の学校が教える「出世のための方法」は不変でした。

すなわち、「ただただ、大学入試でいい大学に入れ」、それだけです。死ぬ気で勉強して「サが付く職業になれ」または「大企業に入れ」です。サが付く職業とは、医師、弁護士、検事など、韓国読みで「サ」で終わる職業のことです。最近は、その「サ」で終わる人たちも稼ぎがパッとしないので、「医師になれ」と「サムスン電子に入れ」だけにフレーズの種類も減りました。

■「サムスンに入れないの?」は禁句

ちなみに、韓国には旧正月の「ソル」と旧暦8月15日の「秋夕(チュソク)」など、いわゆる名節(ミョンジョル)に家族が親の家に集まって、先祖の墓参りをしたり、家庭で祭祀を捧げたりする風習が残っています。

最近はあまり見かけなくなりましたが、先祖の墓の前まで多くの料理を運んで、そこで先祖の墓で簡単な祭祀を捧げ、墓の前で料理を家族全員でニコニコしながら食べる――いま思えばかなりシュールな光景ですが、つい1990年代までそうした姿が珍しくはありませんでした。

シンシアリー『Z世代の闇 物質主義に支配される韓国の若者たち』(扶桑社)
シンシアリー『Z世代の闇 物質主義に支配される韓国の若者たち』(扶桑社)

そんな名節のとき、伝統的に「若い人がもっとも言われたくない言葉」の代表が、「サムスンに入れないの?」でした。いくつかのバリエーションがありますが、これを言われるくらいなら親族の縁を切る(祭祀など親族イベントに参加しない)という人も多かったと言われています。韓国は想像を超えた競争社会、特に「教育熱」という名の炎に包まれている社会だということです。

1970年代から、「亡国病」とどれだけ言われたことでしょう。テレビ、ラジオ、さらには子供用の新聞にまで、本当に多くのメディアがこの点を指摘しましたが、いまだに治る気配がありません。

そんななか、2030とされる若者たちが教育を信じなくなり、その結果、信じるようになったのが「投資だけは公正だ」という価値観とは……。まさしく「此は如何に」としか言いようがありません。価値観が変わったという言うべきか、それとも崩れたと言うべきか。

----------

シンシアリー(しんしありー)
著作家
1970年代、韓国生まれ、韓国育ち。歯科医院を休業し、2017年春より日本へ移住。アメリカの行政学者アレイン・アイルランドが1926年に発表した「The New Korea」に書かれた、韓国が声高に叫ぶ「人類史上最悪の植民地支配」とはおよそかけ離れた日韓併合の真実を世に知らしめるために始めた、韓国の反日思想への皮肉を綴った日記「シンシアリーのブログ」は1日10万PVを超え、日本人に愛読されている。著書に『韓国人による恥韓論』、『なぜ日本の「ご飯」は美味しいのか』、『人を楽にしてくれる国・日本』(以上、扶桑社新書)、『朴槿恵と亡国の民』、『今、韓国で起こっていること』(以上、扶桑社)など。

----------

(著作家 シンシアリー)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください