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「レコード大賞歌手」の彼女が選んだ意外なその後 1曲1000円で歌う、ゴールデン街の「流し」の生き様

東洋経済オンライン / 2024年5月9日 12時0分

「歓迎してくれるお客さんもたくさんいたけれど、嫌な顔をする人とか、全然こっちを向いてくれない人もいました。当時は投げ銭にしていたのですが、1円も出してくれない人もいたり。すごく勉強になりましたが、やっぱりガチの流しは難しいなと思いましたね」

飲み屋のつながりで新宿ゴールデン街の店主たちを紹介され、「こっちでもぜひ」と誘われた。やってみたものの、知り合いの店以外ではなかなか要領がつかめない。流しは入った店の空気を瞬時に読み取り、客たちの懐にすっと入り込む技術や、潔く引く判断も重要になるため、歌や演奏だけできても務まらない難しさがあるのだ。結局、数カ月で休止することに。

今に感謝して、「幸せ」って言えたら勝ち

それでも音楽の練習は欠かさず、ライブバーなどで月10本前後のライブをしながら、清掃の仕事をして生計を立てる日々。実はこのころ、Be-Bさんは偶然「家、ついて行ってイイですか?」というドキュメンタリー番組に出演し、当時の暮らしについて「超幸せ」と語っている。自分の望む音楽活動を、十分に実現できていたわけではなかったが、その裏にあった思いをこう明かす。

「今が幸せじゃないと思ったら、人生ヤバいでしょ。ケンカでボロボロにやられても、『今日はこのくらいにしといてやろう』って言うみたいに、どんな状況でも今生きてること、今あるものに感謝して、『幸せ』って言えたら勝ちなんじゃないかな」

そして2022年、久しぶりに新宿ゴールデン街の馴染みの店に立ち寄ったところ、居合わせた客が「前にハードロックを歌う女性の流しがいたらしいけど、どうしているんだろう?」と口にした。「ちょっと待って、それ私のことじゃん!」と驚いたBe-Bさん。聞くと、当時のゴールデン街には流しがいなくなっていたという。

文化であり伝統であり名物でもあった存在が消え、「何とか力になりたい」と思ったBe-Bさんは、この街でもう一度流しをすることを決めたのだった。ゴールデン街は独特の雰囲気があるが、今ではすっかり馴染んでいるという。

「ゴールデン街のお店の多くは、お客さんに対して『気に入ったら遊びにおいで。気に入らなければ来なくていいよ』という感じなんです。だから私も流しとして、自分を必要としてくれればいつでも行くし、そうでなければ仕方ないよね、という考えになりました。この街はすごくやりやすいですね」

流しという職業への誇り

芸能界への未練はまったくない。「何で流しなんかしてるの?」「レコ大歌手なのにもったいない」と言われることもあったが、「言わせておけばいいじゃん」と笑い飛ばせるほど、流しという職業を誇りに思い、毎日を楽しんでいる。幼少期から追い続けてきたミュージシャンとしての夢は、ここにあったのだ。
 
「こんばんはー! こないだはありがとうございました!」

深夜1時。馴染みの店のドアをBe-Bさんが開ける。居合わせたのは流しを見たことがない酔客ばかりで、「すげー、本物だ!」と歓迎ムードだ。店主が「せっかくだから歌ってもらおうよ」と振ると、客たちは熱心に曲を選び始める。

「あ、ドリンクも歓迎だからね!」とBe-Bさんがいたずらっぽく言うと、「何でも飲んで!」とすかさず返答が。ジンをあおり、リクエストされた曲に合わせてギターをチューニング。小さな酒場はコンサート会場になり、にわかに熱を帯びる。通行人たちも足を止め、物珍しそうにのぞき込んでいる。

ゴールデン街の夜は長い。Be-Bさんの今宵のステージも、まだまだ始まったばかりだ。

肥沼 和之:フリーライター・ジャーナリスト

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