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映画「ホテル・ルワンダ」の舞台に不法移民を送り込む…英国の計画に物議  安住できるか?大虐殺乗り越え「奇跡」の復興遂げた国の実情とは

47NEWS / 2024年3月8日 10時0分

移民らの宿泊施設「ホープ・ホステル」の部屋を案内するバキナ・イスマイルさん=1月16日、ルワンダの首都キガリ(中野智明氏撮影・共同)

 1994年の大虐殺を題材とした映画「ホテル・ルワンダ」で知られるルワンダ。アフリカ中部にある人口約1400万人の小さな国が今、世界の注目を集めている。庇護を求めて英国にたどり着いた不法移民を、6500キロも離れたルワンダに移送するという英政府の計画が物議を醸しているからだ。大虐殺を乗り越え、ルワンダは「アフリカの奇跡」とも呼ばれる復興を遂げた。政府関係者は「悲劇を経験したからこそ、希望を与える国になりたい」と受け入れ準備を進めるが、人権保護や移民支援体制を不安視する声もある。ルワンダは移民にとって「安住の地」となり得るのか。現地を訪れて、実情を探った。(共同通信ロンドン支局長 植田粧子)

 ▽「ボートを止める」

 英国はこれまで、アフリカや中東などから多くの移民や難民を受け入れてきた歴史がある。しかし近年、英仏海峡を小型ボートで渡って入国する不法移民が急増。2022年は前年の約1・6倍の約4万5千人を記録し、亡命申請者の数も8万9千人以上に達した。審査を待つ人々を収容する費用も膨らみ、負担を強いられる国民の間で反発が高まってきている。


英仏海峡に面したフランス北部カレー近郊の海岸にたたずむ移民ら=2023年8月(ロイター=共同)

 そこで英政府が打ち出したのが、ルワンダへの移送計画だ。2022年4月、当時のジョンソン首相(保守党)はルワンダ政府との協定を発表した。合意によると、移民らはルワンダに移送されて亡命申請の審査手続きをし、申請が認められれば原則、ルワンダ国内で定住することになる。ルワンダ政府が申請審査や社会統合への支援を担い、英政府がその費用などを負担する仕組みだ。


 保守党政権は「ボートを止める」とのスローガンを掲げ、不法移民に厳格な姿勢で臨む。ジョンソン氏は「ルワンダは世界で最も安全な国の一つだ。難民受け入れの実績もある」と訴えたが、移民を「国外追放」し、対応を丸投げするやり方に、難民支援団体などは「自国に送還される恐れがある」「非人道的だ」などと反発。計画中止を求めて提訴したが、英高等法院と上級審の控訴院はいずれも移送を認め、第1陣が6月14日夜に出発する予定だった。
 しかしその直前、欧州人権裁判所が、「難民認定を受けるための公平かつ効率的な手続きにアクセスできなくなる」とのUNHCRの懸念などを踏まえ、移送を差し止める仮処分を決定。これを受け、英政府は移送中止を余儀なくされた。


英国に亡命申請中の難民が宿泊している施設=2023年12月、英南部ポートランド(共同)

 ジョンソン氏退任後も方針に変更はなく、スナク現首相も計画を推し進める。しかし、2023年11月、英最高裁は「移民が母国に送還される危険がある」とし、計画は違法との判断を下した。
 国内の法律の壁にも直面したスナク氏は12月、ルワンダ政府との間で新たな条約を締結した。ルワンダが移民らの安全や支援を確保し、母国や安全ではない第三国に送還・移送しないよう保証することを柱とし、安全性への懸念を払拭する内容になっている。
 さらに、ルワンダは「安全な国」だと定義し、移送を阻む裁判所の命令や拘束力を回避できるような仕組みを盛り込んだ法案も提出。早期に成立させて計画を実行できるように急ぐ。

 ▽悲劇からの発展

 人権重視の欧州の価値観では「危険な国」との烙印を押されるルワンダの実情はどうなのか。そんな思いを胸に今年1月中旬、現地に赴いた。
 ルワンダは面積が四国の約1・4倍。多数派のフツ人と少数派のツチ人が長年対立し、1994年にフツ人主体の政府軍や民兵がツチ人やフツ人穏健派ら約80万人を虐殺した惨劇の歴史がある。1994年以降実権を握るカガメ大統領は民族和解を推進。外国投資の呼び込みにも取り組み、2022年の国内総生産(GDP)成長率は8・2%に達した。


高層ビルが立ち並ぶルワンダの首都キガリ=1月16日(中野智明氏撮影・共同)

 首都キガリには経済成長の象徴でもある高層ビルが立ち並ぶ。国際会議場や高級ホテルもあり、インターネットが利用できるカフェでは若い人たちが集っていた。道路はゴミがなく清潔で、国民も穏やかだ。生活は決して裕福とはいえず、発展途上の国であることは否定できないものの、30年前の惨劇からは想像がつかないほど穏やかな時間が流れていた。


英国からの移民の受け入れ先となる宿泊施設「ホープ・ホステル」=1月16日、ルワンダの首都キガリ(中野智明氏撮影・共同)

 英国からの移民の受け入れ先となる施設「ホープ・ホステル」は、キガリの高台に建つ。「ゲストとして来て、友達として帰ってください」。敷地の入り口には歓迎の看板が掲げられていた。
 ツインルームが50部屋あり、約100人を収容できる。吹き抜けの構造で日当たりがよく、イスラム教の礼拝室のほか、医務室やサッカー場なども備えている。「快適に過ごせるよう、万全の準備を整えている」。手入れや掃除の行き届いた施設を案内しながら、運営責任者のバキナ・イスマイルさんが胸を張った。維持費は英政府が支出しているという。


英国からの移民の受け入れ先となる施設「ホープ・ホステル」=1月16日、ルワンダ・キガリ(共同)

 ルワンダはこれまで、近隣のブルンジやコンゴ(旧ザイール)などから約13万人の難民を受け入れてきた。政府当局者らは、民族対立に伴う大虐殺の痛みが難民支援の根底にあると語る。
 2019年にはUNHCRなどと協力して人道支援メカニズムを立ち上げ、ルワンダ南東部ガショラの難民キャンプで、密航業者らが暗躍するリビアから移送されてきた難民の欧州への再定住支援にも取り組んでいる。
 UNHCRのグレース・アティムさんによると、キャンプには約700人が身を寄せ、1日3回の食事のほか、生活に必要な物資や現金などが支給される。難民認定の審査や再定住先の調整をUNHCRが担い、難民たちは審査や受け入れ先の決定を待つ間、語学や職業訓練などの支援も受けられる。


ルワンダ南東部ガショラの難民キャンプで銀行関連の手続きを待つ難民ら=1月17日(中野智明氏撮影・共同)

 「やっと安全を感じられる」。祖国エチオピアから逃れてきたイェシアレムさん(26)が生後8カ月の娘ソリヤナちゃんを抱きながらほほえんだ。エチオピアを出た後、スーダンで誘拐され、拘束先のリビアで倉庫に数カ月間も監禁されて「何度もレイプされた」という。夫とは離れ離れになり、定住希望先もどこにするかまだ何も決めていないが、「人生に希望を持てるようになった」とうれしそうに話した。


ルワンダ南東部ガショラの難民キャンプで、8カ月の娘を抱くイェシアレムさん=1月17日(中野智明氏撮影・共同)

 取材に訪れた日も、複数の難民たちがスーツケースや荷物を手にキャンプを旅立っていった。「カナダに向かうんだ」。1人の若い男性が晴れやかな表情で手を振り、ワゴン車に乗り込んだ。
 また大学では、2023年4月から戦闘が続くスーダンから逃れてきた医学生たちを受け入れ、学業継続の支援をしている。南部フイエにあるルワンダ大の医学部で学ぶアルワ・アブドゥラヒムさん(18)は「安心して勉強が続けられて幸せだ」と支援に感謝した。


戦闘が続くスーダンから逃れ、ルワンダ大の医学部で学業を続けるスーダンの医学生たち=1月18日、ルワンダ南部フイエ(中野智明氏撮影・共同)

 ▽責任転嫁…英国に厳しい目

 ルワンダ政府には、大虐殺という負のイメージを払拭し、難民問題に貢献する国を目指したいという思いがある。ただ、カガメ政権は野党弾圧などの強権的な側面も問題視される。移送計画を巡っても「自国に送還しない」との英政府との合意が守られない懸念がある。
 難民問題を担当するルワンダ緊急事態省のハビンシュティ次官は取材に対し「強制送還は絶対にない」と断言した。「ルワンダ国民は自らが難民となり、他国に支援された経験がある。だからこそ支援を進め、アフリカの中で難民問題の解決に貢献できる国になりたい」とも強調した。


難民受け入れに対するルワンダ国民の思いを語る緊急事態省のハビンシュティ次官=1月16日、キガリ(中野智明氏撮影・共同)

 だが、計画により苦境に追い込まれた人もいる。受け入れ先の宿泊施設には元々、大虐殺で家族や住居を失った人々が生活していたが、英国との計画合意に伴い退去を強いられた。居住者らにはルワンダ政府からわずかな生活支援金が支払われただけだという。
 UNHCRルワンダ事務所のリリー・カーライル報道官は、ルワンダ政府の努力を評価しつつも「包括的な支援策はあるが、資金や制度が不十分だ」と指摘する。難民たちの雇用の機会は乏しく、社会統合も容易ではない。先進国のような経済的な恩恵を受けられる状況ではないという。


取材に応じるUNHCRルワンダ事務所のリリー・カーライル報道官=1月19日、キガリ(中野智明氏撮影・共同)

 移民移送計画ついては、亡命申請者を保護するという「国際的な連帯と責任分担の基本原則」に反し、責任を他国に転嫁する英国の方針に一番の問題があるとして、厳しい目を向けた。亡命申請の審査手続きにUNHCRが関与せず、ルワンダ政府が独自で実施することも問題視した。


 ルワンダ南東部ガショラの難民キャンプで、昼食の配給を受ける難民ら=1月17日(中野智明氏撮影・共同)

 ▽英政権に内外から圧力

 スナク政権が計画の実現にこだわる理由の一つは、年内にも実施される見通しの総選挙だ。不法移民に反感を抱く保守派支持層にアピールしたいとの狙いがある。保守党は最大野党の労働党に支持率で大きくリードされ、下野が現実味を帯びている。
 ただ、実現に向けて成立を目指す法案を巡っては、保守党内でも意見が対立した。一部の強硬右派が「欧州人権裁を完全に無視できるよう、もっと厳しい内容に修正するべきだ」と主張する一方、穏健派は修正されれば法案には賛成しないと反発し、党内の亀裂の深さが露呈した。


ルワンダへの移民移送法案を可決した英下院=1月17日、ロンドン(英下院/英PA通信=共同)

 強硬派の圧力があったものの、英下院は2024年1月、賛成多数で法案を可決した。法案は上院で審議されている。世襲貴族や宗教貴族らにより構成される上院は、下院を通過した法案に超党派や良識者の立場から修正を加えることが任務で、上院の国際協定委員会からはルワンダの安全性が確証できるまで「議会は移送条約を批准しないように」との提言もなされた。審議には時間がかかりそうで、成立の時期は見通せない。

 追い打ちをかけるように、英紙オブザーバーが1月下旬、英内務省が昨年、迫害の恐れがあるとしてルワンダの野党支持者ら4人を難民認定していたと報じた。オブザーバーは、この難民認定について「ルワンダは安全だという政府の主張に疑問を投げかけるものだ」と指摘した。


英ロンドンの最高裁前でプラカードを持って抗議をする人=2023年11月(ゲッティ=共同)

 最初の協定締結から約2年となる中、ルワンダ側もいら立ちを見せ始めている。英メディアによると、英政府は昨年末までに計2億4000万ポンド(約450億円)をルワンダ政府に支払っているが、カガメ氏は今年1月、資金は受け入れが実現した時に使われるもので「移民が来なければ返すこともできる」と述べ、英側に早急な対応を迫った。

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