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「16歳でイスラム国(IS)の奴隷にされた」26歳女性が明かす6年半の絶望 「悪魔」の子どもも2人産まされ…クルド系少数派の悲劇

47NEWS / 2024年4月20日 10時30分

「イスラム国」(IS)に捕らわれた苛酷な体験を語るナジラさん=2023年4月、イラク北部クルド人自治区ドホーク郊外

 ナジラ・イスマイルさん(26)は、シリア国境に近いイラク北部シンジャール郊外の村で生まれ育った。足が速く、サッカーが得意で「男の子からも一目置かれる存在だった」という。クルド系少数派ヤジド教徒で、農家の10人家族。オクラやトマトを作り、収穫期は家族総出で手伝った。
 「決して豊かではないが、平和な楽しい日々を過ごしていた」
 しかし、その生活は10年前に一変する。過激組織「イスラム国」(IS)に村が襲われたのだ。ISの戦闘員は非道を繰り返し、16歳だったナジラさんは家族と引き離されて連れ去られた。待っていたのは絶望の日々。助け出されのたのは、6年半後だった。(共同通信=文・三井潔、写真・金子卓渡)


ISとの戦闘ががれきと化したイラク北部シンジャールの市街地=2023年4月


 ▽「改宗するか、死を選ぶか」
 2014年8月3日、黒い旗を手にした男たちが車で村に入ってきた。重武装した約20人。ISの戦闘員たちだ。ナジラさんの家族全員と住民、30人余りを1カ所に集め、リーダー格の長髪の男が銃を手に告げた。「われわれはこの地域を治めに来ただけだ。安心しろ」
 ナジラさんは震えながらじっと耳を傾けていた。
 「これから私たちはどうなってしまうのか」
 不安は的中した。ISはイスラム教スンニ派主体の組織。孔雀天使を崇めるヤジド教を「悪魔崇拝」と敵視していた。住民を男女に分け、戦闘員が銃を突きつけ男性たちを脅す。
 「改宗するか死を選ぶかだ」
 拒否した男性は銃殺されたり、みんなが見守る中で高い建物から突き落とされたりした。スンニ派の住民の中にはISの動きを歓迎する声もあったが、やがて「恐怖支配」に気付く。反抗する者はスンニ派でも公開処刑された。


 ▽戦地を転々、暴行の日々
 ナジラさんら若い女性はトラックに乗せられ、イラク第2の都市モスルに運ばれた。ISがこの2カ月前に「建国宣言」した主要拠点だ。モスルに着くと、大規模な施設に千人余りが詰め込まれていた。
 姉3人と同じ小部屋に幽閉され、ISの幹部が部屋に入ってきて性行為を求めた。ナジラさんらが拒むと、殴られた。
 「絶望し、谷底に突き落とされた思いだった」
 数日後、ナジラさんを含め人質約20人が郊外に連行され、再び監禁。そこへ地元イラクのISの男が来て、ナジラさんを連れ出した。
 男は「ハラフ・ハムダン」と名乗った。背が高く、やや太っている。20代という。ハラフには正妻もいた。
 「おまえは『戦利品』だ」。奴隷生活が始まった。


ISが2014年6月に「建国宣言」したイラク北部モスルにあるモスク=2023年4月

 その後は戦地を転々とした。正妻も一緒だった。ハラフは戦闘で留守がちだったが、戻ると、いつも野獣のような仕打ちをした。手を縛られ、抵抗できないまま何度も暴行された。
 涙を拭うことすらできず、「神よ。この非道から救って」と祈り続けるしかなかった。
 男の子と女の子を産まされた。「悪魔」の子を産んでしまったと思った。心の傷は今も消えない。
 ISはその後、米軍主導の攻撃で次第に追い詰められていった。2017年には両国の主要拠点を失い、19年には最高指導者バグダディが米軍の作戦で殺害された。
 2021年、年初の氷雨が降った日、ナジラさんはイラク国境に近いシリアの村にいた。ハラフが戦闘で不在になった時、クルド系武装組織に救出された。「奇跡だった。人生で最高の瞬間だった」。しかし、2人の子は置いてこざるを得なかった。


家族と合流し笑顔が戻ったナジラさん(中央)。一時、ISの人質となった妹アイシャさんや親族の男性とくつろぐ=2023年4月、イラク北部クルド人自治区ザホ

 ▽「今も悪夢に悩まされる」
 クルド系武装組織の「セーフハウス」に到着し、次姉と携帯電話で話すことができた。次姉はISの奴隷から逃れた後、カナダに移住していた。「自由になれた」と告げると、互いに涙で言葉に詰まった。
 再会した妹らとイラク北部クルド人自治区の難民キャンプでしばらく暮らしていた。最近、故郷の村に親族と戻ったが、破壊し尽くされた集落での生活は困難を極める。両親ら家族4人は今も行方不明だ。
 「ISに襲われる夢に今も悩まされる。あの非道は決して許せない」


ISが一時占拠したイラク北部シンジャールの大型ショッピングモール。激しい戦闘で破壊され、IS戦闘員の落書きもそのまま放置されていた=2023年4月

 地獄を味わったナジラさんだが、将来の夢がある。次姉がいるカナダにいつか移り、「医師の道を志したい」。奪われた青春を取り戻したい。学びたいし、恋もしたいと語る。
 ナジラさんの首には、父「サイード」と母「ガワズ」の名を刻んだ自作のネックレスが光っていた。怒りの中に祈りがあり、苦難の中に希望があった。


ISに捕らわれ、今も行方不明の父サイードさんと母ガワズさんの名を刻んだ、ナジラさん手づくりのネックレス

 ▽ヤジド、迫害の歴史
 ヤジド教の起源は不明で、ゾロアスターやキリスト、イスラム教の影響を受けたとされる。オスマン帝国時代やフセイン政権下でも迫害されてきた。信者はイラクだけで数十万人いる。
 ISに捕らわれたのはシンジャールを中心にした地域の約6400人。うち2700人弱は今も行方が分からない。戦闘で地域が破壊されため、難民キャンプで暮らしたり、海外へ移住したりしている。
 ヤジド教は貞節を重視し、他宗派との婚姻を認めない。ただ、ISの奴隷で生還した女性については、宗教指導者が「彼女たちは被害者」と救いの手を差し伸べるよう訴える声明を出し、信者の結束を呼びかけている。


ヤジド教徒の聖地ラリシュで催された祝祭に参加し、人質から解放された喜びを神に感謝するナジラさん(中央)と妹アムシャさん(左隣)=2023年4月、イラク北部クルド人自治区

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