NTT法の見直しはなぜ始まった? 競合各社が“猛反発”している理由とは【イチから解説】
オールアバウト / 2024年5月15日 21時50分
2024年4月18日に「改正NTT法」が成立しました。なぜいまNTT法の改正が必要なのか、KDDIやソフトバンクなどNTTグループの競合がなぜ改正に猛反対しているのか、NTT法を巡る動向について解説しましょう。
去る2024年4月17日に「日本電信電話株式会社等に関する法律の一部を改正する法律」、いわゆる「改正NTT法」が参議院本会議で可決され、成立することとなりました。
NTT法とはその名前の通り、日本電信電話(NTT)のあり方を決める法律。
前身が日本電信電話公社(電電公社)、要は国営の企業であるNTTは、現在も総務省が管轄する特殊法人という位置付けなので、NTT法によってさまざまな規定がなされています。
例えば「日本電信電話」という名前も、実はNTT法によって定められていたもの。今回NTT法が改正されるまで、NTTは企業名さえ自由に変えることができなかったのです。
そして注目されるのは、NTTが今回の法改正を前向きに受け止めているのに対し、KDDIやソフトバンク、楽天モバイルといった競合の通信会社が反対意見を表明していること。
実際2023年にはNTT法を巡って、NTTと競合との間で業界を二分する激しい議論が巻き起こっていました。
「防衛財源の確保」のために浮上したNTT法の見直し論
そもそもなぜ、いまNTT法を改正しようという話が浮上したのかといいますと、実は日本政府が防衛費を増やすため、いかに国民負担を増やすことなく財源を確保するかという、通信とは全く関係のない議論が発端となっています。その財源確保の手段として浮上したのが、政府が保有するNTT株を売却すること。
「政府および地方公共団体」がNTTの株式をおよそ3割保有していることから、これを売却して財源を確保しようとしたのですが、政府はNTT法によって、NTTの株式を3割以上保有することが求められています。
そこでNTT株を売却するため、政府与党の自由民主党内でNTT法を改正しようという議論が立ち上がったわけです。
法改正でNTTが取り払いたい「3つの制約」
これを機としてNTT法の見直しを訴えたのがNTTです。そもそもNTT法は、電電公社から民営化された1985年に定められた法律がベースとなっているもの。
その後NTTは、東日本電信電話・西日本電信電話(NTT東西)やNTTドコモなど複数の企業に分離・分割がなされたことから何度か法改正もなされているのですが、本質的な部分は40年以上前に定められた法律から大きく変わっていませんでした。
それが令和の現在になって事業上の制約となっている部分があるといいます。
研究開発の成果を開示しなければならない
1つ目が研究開発成果の開示義務です。NTTはNTT法で「研究開発した成果を他社に求められたら開示しなければならない」という義務を負っているのですが、そのことが事業上大きな制約を生んでいるというのです。例えば、海外企業などと共同研究をしたいと思っても「成果を開示されてもらっては困る」とオファーを断られてしまうケースが実際に起きている。
また海外企業からの開示要求にも応じなければならず、安全保障上の問題が生じる可能性がある。こうした懸念から、法改正が必要だと訴えていました。
取締役が「日本国籍を持つ人」に限られている
2つ目の制約が、取締役に就任できるのが日本国籍を持つ人に限られること。NTTグループは現在世界規模で事業展開をしており外国人も多く働いているのですが、法によって取締役に就任できないことからキャリアパスが限定されており、優秀な外国人社員を獲得できないという問題につながっていることから撤廃を求めていたのです。
「ユニバーサルサービス」の提供義務がある
そして3つ目の制約が「ユニバーサルサービス」の提供義務です。これは国民に必要な通信を、日本全国であまねく提供するというもの。NTT法によってNTT東西はユニバーサルサービスを維持しなければならず、過疎地で人口が少ないからといってサービスの提供を止めることができない義務を負っています。
現在その対象は主に固定電話なのですが、固定のネットワークは光回線が主流で、以前主流だったメタル回線は利用者が大幅に減少しています。
ところが、NTT東西はユニバーサルサービスの義務があるためそれを廃止できず、回線を維持するため毎年500億円規模の赤字が生じているとのだそう。
役目を終えつつあるメタル回線を廃止するためにも、NTT法で定められている固定電話のユニバーサルサービスの規定を変えたい訳です。
競合が問題視する理由は? ポイントはNTTの「特別な資産」にある
そして今回の改正NTT法では、NTTが社名を変えられることに加え、先に挙げた3つの制約のうち研究開発の開示義務と、外国人が取締役に就任できない規制が撤廃されることが決まりました。ですがKDDIやソフトバンク、楽天モバイルらは、改正NTT法が成立した直後に見解を表明し、その内容に猛反対している様子です。
といっても競合が反対する理由は改正NTT法自体ではなく、その「附則」にあります。
実はNTT法の改正は2段階に分けて進められる予定で、まずは競合からの反対意見が少ない、研究開発の開示義務などを急ぎ改正。
その後、競合から反対意見が多く出ているユニバーサルサービスなどの議論を進めた後、追加の改正案が国会に提出される予定となっています。
ですが改正NTT法附則の第四条には、「日本電信電話株式会社等に関する法律の廃止を含め」た検討を加え、「令和七年(2025年)に開会される国会の常会を目途」に改正案を提出すると記述されています。
競合各社はNTT法の廃止に猛反対しているのですが、にもかかわらず、政府がNTT法の廃止も含めた検討を、短い時間で進めようとしていることに強い危機感を抱いているのです。
なぜ競合各社がNTT法の廃止に反対しているのかというと、そこには現在NTT東西が保有・管理しており、競合側が「特別な資産」と呼ぶものの存在があります。
これは光などの固定ネットワークを敷設するのに必要な局舎や管路、電柱などのインフラを指しており、その多くはNTTが電電公社時代に国のお金を費やして整備されたもの。
その資産は現在の貨幣価値で40兆円に達し、民間企業での整備は難しいといいます。
NTTはそうした特別な資産を持つ巨大な企業だったことから政府主導で分離・分割が進められた経緯があり、NTT法でNTTやNTT東西の業務範囲などが明確に定められるなど、自由に統合できないようになっています。
ですがNTTは2020年に突如、NTT法などの影響を受けないNTTドコモを完全子会社化、競合からしてみれば再統合ととらえかねない動きを見せました。
それゆえNTT法がなし崩しに廃止されてしまえば、NTTグループが再統合して特別な資産を「独占」してしまうことを競合側は懸念している訳です。
通信各社の携帯電話ネットワークもNTT東西が全国に張り巡らせた光ファイバー網を使わなければ整備できず、特別な資産を持つNTTグループがそれを独占してしまうと競合各社はたちまち競争力を失ってしまうことから、競合側はNTTの統合を防いでいるNTT法の維持を求めているのです。
そこで現在総務省では、その特別な資産をどう扱うかに加え、やはり競合から反対の声が多いユニバーサルサービス制度の見直しなど、今後のNTT法改正に向けた議論が続けられています。
次の改正案が提出される見通しの2025年に向け、一連の議論でどのような結論が導き出されるかが注目されるところです。
(文:佐野 正弘(携帯電話・スマートフォンガイド))
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