ソニー「サイバーショット」はカメラのセオリーにとらわれないデジカメだった
ASCII.jp / 2023年9月25日 12時0分
◆ソニー製コンデジの礎「サイバーショット」
「サイバーショット」というネーミングで、ソニーのデジタルカメラの礎を築いた「DSC-F1」が登場したのは1996年。回転式のレンズは画期的で、見た目にもオシャレなコンパクトボディーというところまでは良かったのですが、当初は内蔵メモリーしかなくてパソコンに画像を転送するのにも一苦労。使い勝手としてはまだまだ実用には程遠いものでした。
デジタルカメラ用のメディアについても確立していなかった時代で、むしろ3.5インチフロッピーディスクに写真を記録するDigital Mavica (デジタルマビカ)のほうが、よっぽどPCと親和性が高かったように思います。 事実、日本ではそうでもなかったようですが、海外ではバカ売れしていました。
そのサイバーショット FシリーズもF2、F3とマイナーチェンジを繰り返して、1999年発売の「DSC-F55K」になって「メモリースティック」を採用。ようやくこのあたりで普通のデジタルスチルカメラの立ち位置にたどり着いたように思います。
◆独自規格のメモリースティックを記録メディアに採用
2000年前後から、カメラの記録メディアにはスマートメディアを採用するメーカーが多いなか、ソニーはいつものように独自路線を突っ走り、自社開発した「メモリースティック」だけをを採用しました。当初はそれだけソニーの独創性というか未来を切り開くであろう魅力があったので、僕たちソニーファンは何の疑いもなく「メモリースティック」を受け入れていました(世の中と乖離があることも知らずに)。その頃のソニーのカメラは斬新というか、出てくるモデルごとに強烈なインパクトがありましたからね。
1999年9月に発売した「DSC-F505K」は、見た目に巨大なレンズに小さな本体が合体したような、今で言う一眼カメラ風なデザインなのに、全身シルバーでサイバーかつスタイリッシュなボディーでした。型番にFと入っているとおり「DSC-F1」の流れを汲むモデルなので、よくよく見ると本体部分はFシリーズのボディーっぽくて、そこに超巨大な回転式のレンズがくっついている様相です。この回転レンズ機構は、上方向に90度、下方向に50度のアングル調整ができます。
本体の基本性能としては、有効211万画素、35mm換算で焦点距離38~190mm(F2.8~3.3)の5倍ズームレンズ。レンズ部分がデカすぎるので、フラッシュも操作系の物理ボタンの半分はレンズの方にあり、レンズのほうを左手で支えて小さいボディーのほうを回転させるというなんとも奇抜な撮影スタイルでした。しかも、金属パーツをふんだんに使った全身シルバーなボディーは、従来のカメラメーカーが出すカメラとは違って異彩を放っていました。名前のとおりサイバーな見た目が、カメラ経験値の浅かった自分の心をがっちり掴んで離しませんでした。
◆ソニーらしくコンパクトモデルや携帯連携モデルも登場
サイバーショットのラインナップには、ほかにもオーソドックスなスタイルのSシリーズ(DSC-S70/S50/S30)も登場しましたが、何よりもセンセーショナルだったのは、サイバーショット「DSC-P1」です。当時としては超小型で、かつスティックスタイルという個性的な横長のデザイン。型名の“P”は、「Pocket,Portable,Pleasure,Play」を意味する、ポケットサイズのボディーに、新しい遊び・楽しさを詰め込んだコンセプトだったのです。
金属素材を採用したシルバーボディーはひんやりとした手触りと堅牢性を兼ね備えてなんともスタイリッシュ。持ちにくそうなカタチながらも、意外とグリップしやすくて手になじむ軽くて小さなボディー。小さいからといって性能は妥協しておらず、当時としてはハイエンドの総画素数334万画素(有効324万画素)CCDや光学3倍ズーム、光学ファインダーも搭載していました。
「カラーiモード対応携帯電話」に画像を送れる“i-Jump”サービスや、「プレイステーション2」に画像を取り込める“ピクチャーパラダイス”に対応する自社連携も忘れていません。
メモリースティックもバッテリーも細長い形状を活かしたスタイルと、ズームレンズも体積を削減したり、基板実装面積を縮小したりといった小型化の努力の甲斐あって、高い性能をもたせたままコンパクト化に成功しました。高性能なカメラがポケットに入るほどのサイズになるなんて! さすが俺たちのソニーだぜ! とマニアは狂喜乱舞したのです。
実際のところ奥行きがたっぷりある結構な大きさで、ポケットには入るもののパツパツになるわ重さでひっぱられるわで、そこまですごいわけでもないのですが、小さいと思わせたもの勝ちというか。
ほかにもレンズとファインダーの光軸がズレていたり、フラッシュがレンズの真横にあるのはカメラとしてどうなのか? というツッコミもあったのですが、世の中に受け入れられて爆発的に売れることとなりました。
ただし、唯一の弱点がバッテリーの持ちで、正直あまり持たないというか、寒い冬になるとあっというまになくなってってしまって使い物にならないのです。予備のバッテリーを持っていても焼け石に水で、こんなの全然撮れないじゃないか! とかなりイライラした記憶があります。
◆小型軽量、自撮り、水中撮影などバリエーションが増えた
この「DSC-P1」が大ヒットしたからか、このあとには安価なモデル、軽量化したモデル、カラバリ展開など多種多様な派生モデルが生まれていきます。同じ横長スタイルはそのままに、ものすごく小さくなった「DSC-U10」が2002年に発売されます。こちらは本気で小さく、ポケットに入れられるほどのコンパクトさで、重さもたったの87g。ストラップで首からぶら下げても違和感がないほどにミニマム。有効130万画素でズームレンズもなく、単4電池で駆動というシンプルな構成で、記録メディアは当然メモリースティックでした。
ちょうど超小型PCであるVAIO U(PCG-U1)が世の中の話題をさらっていたこともあって、サイバーショットのUというネーミングだけで小さいやつね! と認識されていました。
背面の液晶はものすごく小さくて、性能も限定されていましたが、いつも身につけて日常を画像でメモする“ビジュアル・ブックマーク”するというコンセプトがまさにどツボでした。
その後、超コンパクトなUシリーズも、回転レンズ機構をもって自撮りできる「DSC-U50」や、水深1.5mまでの水中撮影ができる「DSC-U60」というバリエーション展開をしていくわけです。
カメラがアナログからデジタル化した時代。もともとソニーはビデオカメラに昔から携わっていたものの、フィルムから続くカメラメーカーとは歴史が異なります。これがいわゆる“家電屋のカメラ”と言われる所以なのですが、だからこそ今までのセオリーをやぶってアグレッシブなモデルを投入できたのだと思います。メモリースティックに固執し続けたことについては、今思えばしくじりの元だったかなと思いますけど。
自分も当時はメモリースティック大好きだったので、時代というのは振り返らないとわからないことは多いですね。
筆者紹介───君国泰将
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