メタ、アップルというより“来るべきグーグル”対抗? 「Horizon OS」戦略の狙い
ASCII.jp / 2024年4月25日 7時0分
4月23日、メタは同社のXRデバイスである「Meta Quest」と、そのOSやアプリケーションストアについて、大きな戦略変更を発表した。「アップル対抗」とも言われるが、その真意はどこにあるのだろうか?
メタのMixed Reality担当バイスプレジデントであるマーク・ラブキン氏にコメントをもらうこともできたので、その内容も含め、同社の狙いをもう少し深掘りしてみよう。
「オープン」というよりは「互換機」に近いハード戦略
今回の施策は「ハード」と「ソフト」に分けられる。
目立つのはハードに対する戦略変更だ。
同社はハードウェアとソフトの両方を独自開発し、ある種の垂直統合型のビジネスを展開してきた。OSのコア自体はAndroidだし、使用しているSoCはクアルコム製だが、SoCは同社向けにカスタマイズしたもので完全に同じものは他社提供されていないし、「Meta Quest」そのものはメタの製品だ。
今回同社は戦略を転換、同社プラットフォームを他社にも提供することにした。「オープン化」と報道されることが多いが、OSやソフトウェアスタックの全てをどう提供するのかははっきりしない。Androidベースといえど、メタが独自開発した要素やクアルコムと共同開発している部分も多々あるので、「どの企業でも自由に開発できる」わけではなさそうだ。少し懐かしい言葉だが「互換機の発売が可能になる」といった方が正しいかもしれない。
最初のパートナーとなるのは、レノボ、ASUS、そしてマイクロソフト。正確にはASUSはゲーミングブランドである「ROG(Republic of Games)」であり、マイクロソフトも「Xbox」ブランドでの対応となる。
これはどういうことなのか?
互換機戦略は「市場の幅を広げる」のが狙い
メタのMixed Reality担当バイスプレジデントであるマーク・ラブキン氏は日本で取材に応え、次のように説明している。
「世の中には色々なニーズがある。そこでパートナーの皆さんの専門的な知識や顧客層・市場を有効に活かし、層を拡大していきたい。例えばレノボであれば、企業やビジネス市場が中心になり、ROGブランドでは、ハードコアなゲームファンに特化したデバイスに期待している」
互換機的な戦略というと、多数の企業が生産することで低価格になっていくというイメージを持つかもしれない。だがおそらく、メタの戦略は違う。
ラブキン氏は自社デバイスの位置付けについて、「多くの方に選んでいただける、中央にあるようなデバイス」と説明している。要は、互換機戦略に入ったとしても、将来のMeta Questが基本的なデバイスとなることに変わりはない。
その点を考えると、メタのデバイスをベースとして、そこにデザインや性能、いくつかの機能などで差別化要素を加え、「市場の幅を広げる」のが各社製品の役割……ということになるだろう。
互換性や開発の手間を考えても、他社デバイスがSoCの選択レベルで違うものになる、と考えるのは難しい。XRデバイスではアップルなど一部の例外を除き、ほとんどのメーカーがクアルコムのSoCを採用している。それは、ソフトウェアなどの開発を含めて要素が揃っていることが大きい。Meta Questクラスのデバイスとなると、クアルコムと共同でさらにSoCにカスタマイズも加えていたりする。だからなおさら、メタの協力が重要になる。
なお、Xboxブランドのデバイスについてのコメントはラブキン氏からは出なかった。リリースの中にXbox向けのXRゲームを出す、というコメントがないことなどを考えると、場合によっては「Meta QuestのXbox向けカスタムデザインモデル」くらいに落ち着くのかもしれない。
ソフトウェアは「Windows的自由度」が基本戦略
では「ソフトウェア」はどうか?
今回の戦略に伴い、Meta Questが利用しているシステムソフトウェア(OS)には、改めて「Horizon OS」という名称が付けられた。Meta Questシリーズ自体が「Horizon OS搭載機」となり、他社からも「Horizon OS搭載製品」が出る……と考えればいいだろう。前述のように、まさに「互換機戦略」と言える。OSを含めたソフトウェアスタックをハードウェア・パートナーとなった各社に提供し、さらに若干のカスタマイズが施されるであろうと考えられるわけだ。
同時に、アプリケーションストアの再構築も実施される。
現在のMeta Quest上には、メインのストアである「Questストア」があり、テスト版アプリケーションを中心に、外部決済も許諾しつつアプリを配布する「App Lab」がある。PCと接続して使うなら、そこでのアプリはSteamなどの別プラットフォームを介して販売されてもいい。
少々複雑なので、これが「Horizonストア」に統合される。
これはどう考えればいいのか? ラブキン氏は「スマホのストアというよりは、Windowsのソフト配布形態に近い」と説明する。
シンプルにいえば「統合ストアを用意しつつ、自由度も許容する」ということだ。
現在のWindowsには「Microsoft Store」がある。スマホ的にシンプルにアプリを入手するには、Microsoft Storeがベストだ。一方で、自由にアプリをウェブなどから買うこともできる。Steamのようなストアビジネスもある。セキュリティのリスクはあるが、どの手法でもいいのがメリットだ。
現状も、Meta Questでは同じように色々な形でアプリを入手できる。そこは今後も変わらないが、ストア構造がシンプルになる、というのが基本戦略だろう。
Horizon OSは「空間を使ったソーシャルなOS」を目指す
その上で、Horizon OS自体の改良が続く。
ラブキン氏は、「Horizon OSは空間を使ったソーシャルなOS(Spatial Social OS)を目指す」と説明する。
現在のQuest用OSはアプリ実行環境」に近い。そこにアバターなどが組み込まれていて、メタバースとしての環境は別アプリ・別サービスだ。Horizon OSとしては、そこに「バーチャルな空間で友人と会う、過ごす」という環境を組み込んでいくことが、Horizon OSとしての特徴となっているのだ。その具体的な形は見えないが、流れはよくわかる。
また、一般的なAndroidアプリなどの「2Dアプリ」についても使えるが、そこに新たに提供される「空間アプリ対応フレームワーク」を使うと、2Dアプリの一部を3D化して「2.5Dアプリ」的な表現も可能になるという。
現状、Questの上にはAndroidの2Dアプリを扱うストアはないが、Horizon Storeではその部分も扱うことになるという。ただし現状同様、Google Play Storeがいきなり組み込まれるわけではない。ラブキン氏は「我々としては(グーグルの参加は)歓迎するが、判断はあくまで先方に依存する」と話す。
アップルというより「来るべきグーグル」対抗?
ではこれらの条件を考えたとき、メタと他のプラットフォームとの競争はどうなるだろうか?
現実問題として、当面大きな変化はないと考えている。
アップルは高品質な製品を作るが、明確なウォールド・ガーデンモデルであり、自由度はメタほど高くない。それは現状でも同じだが、Horizon OSとHorizonストアではそれがさらに明確になる。デバイスパートナーを広げるのも、1社でエコシステムを作るアップルに対し、より幅の広い顧客層にアピールすることで対抗する、という話だろう。
要はWindowsとMac、AndroidとiPhoneで起きていることが、XRデバイスでも再現されるわけだ。
ただ、違うのは、Androidに相当するプラットフォーマーが「もう1つ」出てくる可能性が高いことだ。グーグルはサムスンと共同でXRデバイスを開発中で、そこに新しいXRプラットフォームを構築する。OSのコアがAndroidであるという意味も含め、メタのやり方に近くなる。
グーグルがどれだけの味方をつけてプラットフォームを構築する気なのかは判然としない。ただ、スタートの段階で、何年もじっくりとビジネス環境を熟成させてきたメタほどの広がりを持てるのかは疑問がある。
だとすれば、メタが取りうる策は「グーグルよりも先に幅を広げる」こと。そう考えると、Horizon OSを軸とした施策は、アップルというよりもグーグルを意識したもののようにも思える。もっとも、初期に考えていたのはグーグル対策ではなく、PICOなどの中国系企業対策だったのかもしれないが。ただ、PICOなどは以前に比べてビジネス展開をスローダウンさせており、現実的な競合は「アップル」「グーグル」と考えていい。
グーグルはGoogle Play Storeを持っており、ここが最大の差別化点になる。メタにもストアを提供することになればおもしろいが、それはちょっと望めそうにない。この点は展開を注目しておきたい。
グーグルに懸念点があるとすれば「堪え性」だ。XRには何度も取り組んでいるが、サービスや製品展開に不調な点があるとすぐに止めてしまう。
XR業界は「まだ」絶好調ではなく、大きな収益を上げるまでにはまだ最低数年はかかる。メタは時間をかけ、ようやく、アメリカの若者を中心にユーザーベースを築きはじめた。アップルは初期にうまくいかなくても、「ここぞ」というジャンルでは粘り腰で改善を続けてシェア確保まで続ける。グーグルの次の展開は、粘り強く続けるものになるだろうか。
筆者紹介――西田 宗千佳
1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。取材・解説記事を中心に、主要新聞・ウェブ媒体などに寄稿する他、書籍も多数執筆。テレビ番組の監修なども手がける。主な著書に「生成AIの核心:「新しい知」といかに向き合うか」(NHK出版)、「メタバース×ビジネス革命 物質と時間から解放された世界での生存戦略」(SBクリエイティブ)、「ネットフリックスの時代」(講談社)、「ソニー復興の劇薬」(KADOKAWA)などがある。
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