ヤマハ「XJ400Z」用エンジンを搭載する、モリワキZEROの意外な素性 ~CLASSIC TT-F1を目指して(5)~
バイクのニュース / 2022年6月4日 11時0分
鈴鹿のパーツメーカー『OVERレーシングプロジェクツ』創始者である佐藤健正さんは、仲間と共にオリジナルマシン「OV-41」を製作し、海外のクラシックレース「TT-F1」進出を目指します。活動のきっかけとなったのは、モリワキZEROのレストアでした。
■「Works」が走らせたTT-F3レーサー
当記事では、オリジナルマシンの「OV-41」で、海外のクラシックTT-F1レース参戦を夢見る3人の男、車両製作を担当した『OVERレーシング』の佐藤健正さん、ライダーを務める『D;REX(ディーレックス)』の豊田浩史さん、そして発起人の寺嶋浩司さんの活動を数回にわたって紹介しています。
各部の様子を伺いながら、自らがレストアした「モリワキZERO」を走らせる佐藤さん。1976年にモリワキに入社した佐藤さんは、当初はライダーとしてさまざまなレースに参戦していた
これまで4回にわたって記したように、このプロジェクトのきっかけは、今から約4年前に寺嶋さんがヤフオク経由でボロボロのTT-F3レーサー、ヤマハ「XJ400Z」用エンジンを搭載する「モリワキZERO」を入手したことでした。そしてこういったレーサーのレストアは、一般的なショップでは敬遠されるのが通例ですが、寺嶋さんからの依頼を受けたOVERの佐藤さんは、即座に快諾したそうです。
その背景には、佐藤さんがモリワキ出身で(OVER創設前の1976年から1982年に在籍)、寺嶋さんの依頼を受ける前から、ヤフオクに出展されたこの車両をチェックしていたという事情があるのですが、よくよく話を聞いてみると、それ以外にもうひとつの理由が判明しました。
ホンダ「CBX400F」やカワサキ「Z400FX」系エンジンの「モリワキZERO」は他に存在するけれど、ヤマハ「XJ400Z」用エンジンを搭載するのは、世界で唯一、この車両だけだろう
佐藤「外観を見てもらえばわかるように、このZEROはレース&カスタムショップの草分けとして有名な、Works(ワークス)さんの所有車だったんです。モリワキにいた頃の私は、ワークスの創始者である真田哲道さんにいろいろな面でお世話になりましたし、マフラーは真田さんからの依頼で製作した当時のOVER製ですからね。これはもう、レストアは私がやるしかないと思いました」
寺嶋「ただし、佐藤さんの経歴やワークスとの関係を、当初の私はまったく知らなかったんです。今になって考えてみると、ワラにもすがる気持ちでmoto-JOY(モトジョイ:OVERグループのクラシックバイク部門)に相談を持ちかけたのは、運命だったような気がしますね(笑)」
■フレームは、スズキGS用だった
1975年に創業した『ワークス』は、日本のバイクシーンを語るうえでは欠かせないレーシングコンストラクター/カスタムショップです。残念ながら、創始者の真田哲道さんはすでに故人で、ショップは今から十数年前に閉店しましたが、1980年代から1990年代に多感な青春時代を過ごしたライダーなら、真田さんがモディファイを手がけた作品に、感銘を受けた記憶があるのではないでしょうか。
フレーム+スイングアームだけではなく、アッパー/シートカウルとアルミタンクもモリワキ製。ただし寺嶋さんが入手した時点では、アッパーカウルは他機種用に変更されていた
そんな真田さんは、造り手としてだけではなく、乗り手としての腕前も一流で、1970年代後半はモリワキのライダーとして活躍していました。その関係性を知っていれば、寺嶋さんが入手したZEROがワークスの所有車だったという事実は、素直に納得できるのですが、戦闘力では決して有利ではない、XJ400Z用エンジンを搭載していることは、意外にして不思議な気がします。
寺嶋「私もそう感じたので、いろいろ調べてみたんです。まず当時の事情から探ってみると、ワークスがこの車両で1984年のTT-F3に参戦していたことは間違いありませんでした。ネットで地道に検索したら、現役時代の写真が何枚か見つかりましたから。そしてフレームの素性に注目すると、ヘッドパイプの打刻はME GS 001で、これはモリワキエンジニアリングのスズキGS用1号車という意味でしょう。そして当時のモリワキが、どこからの依頼でこのフレームを作ったのかと言うと、おそらくヨシムラではないかと。1983年シーズン序盤のヨシムラは、GSX400EでTT-F3を戦っていましたからね」
ヘッドパイプに刻印されたフレームナンバーは「ME GS 001」。GSX400E用のはずだが、「X」は省略している。
モリワキの創設者である森脇護さんは、ヨシムラで修業を積んだ人物で、1973年に独立してからもヨシムラと協力関係を築いていました。そんな両社が本格的にタッグを組んだマシンと言えば、1983年の鈴鹿8耐に参戦したGSX1000が有名ですが、当時の資料を調べると、確かに、同時期のヨシムラがTT-F3で走らせたGSX400Eレーサーも、モリワキ製フレームを採用していたのです。
寺嶋「そのレーサーが、どうしてワークスに譲渡されて、どうしてエンジンをXJ400Z用に換装したのか。ここからはあくまでも私の推察ですが、まずワークスの真田さんは、モリワキだけではなく、ヨシムラとも仲が良かったようですから、車両の譲渡はごく普通に行なわれたのでしょう。一方のエンジン換装に関しては、もしかするとヤマハからの依頼を受けて、FZ400R用のレーシングキットパーツの先行開発をするためだったのではないか……? と、私は考えています。と言うのも、OVERでエンジンを分解してみたら、ハイコンプピストンやクロスミッションなど、量産仕様とは異なるパーツがたくさん入っていたんですよ。ちなみに、カムはヨシムラでした」
寺嶋さんが言う先行開発については、今となっては真偽の確かめようはないのですが、当時のヤマハが4サイクルロードレーサーの経験がほとんど無かったこと、真田さんが車両メーカーからも一目を置かれる人物だったことを考えると、その可能性は十分にあると思います。
■キャブレターと足まわりを刷新
生い立ちの説明が長くなりましたが、ここからはレストアの話です。長年に渡って不動状態だった「モリワキZERO」を再生するにあたって、すべての作業を担当した佐藤さんが、何か苦労したことはなかったのでしょうか。
XJ400Z用のエンジンは、できる範囲でのオーバーホールを実施。ボディの腐食が進んでいたミクニTMキャブレターは、最新のTMRに換装
佐藤「普段からいろいろな旧車に触れているせいか、そんなに苦労はしなかったですよ。と言っても、エンジン関連はほとんどの純正部品がメーカー欠品になっているので、ガスケットはワンオフで製作しましたし、他のヤマハ車から流用した部品もいくつかあります。また、クランクメタルの在庫が当社にあったのはラッキーでしたが、もともとのコンディションがそんなに悪くなかったので、細部をきっちり点検して問題がないパーツはそのまま使いました。ただし足まわりとキャブレターに関しては、1980年代の部品では走行に支障が出る可能性があるので、寺嶋さんと相談して、他機種用の純正部品や現代のアフターマーケットパーツを採用しています」
寺嶋「現代のアフターマーケットパーツを使うことに対して、旧車マニアの中には異論を述べる人がいるかもしれませんが、私自身は、当時のままの姿を維持することよりも、気持ちよく走れることを優先するタイプなので、ほとんど抵抗はなかったです。いずれにしても、レストアが完了した後に佐藤さんとZEROがサーキットを疾走する姿を見た時は、感無量という気分になりました」
こうした経緯を経て復活を遂げたZEROですが、これまで4回の記事で述べたように、残念ながら日本のクラシックレースでは、オリジナルフレーム車が参戦できるクラスはほとんどありません。
2019年9月に開催された「アストライド」には、モリワキの創始者である森脇護さん(左)と、モリワキとの契約を起点にしてトップライダーへの成長を遂げた宮城光さん(中央)がスペシャルゲストとして来場。右はOVERの佐藤さん
とは言え、OVERレーシング/moto-JOYが主催するサーキット走行会「ASTRIDE(アストライド)」では、今回紹介したZEROに加えて、「OV-40」や「OV-41」を走行することがあるので、当記事を読んでこのプロジェクトに興味を抱いた方は、ぜひとも同社のウェブサイトをチェックして、会場の鈴鹿ツインサーキットに足を運んでみてください。
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