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「原動力は怒りだったけど今は共感。 昔の自分と同じように悩んでいる 若い世代のためにドラマを作りたい」

CREA WEB / 2024年5月1日 7時0分


テレビ東京の祖父江里奈さん。

 配信プラットフォームが活況を呈し、テレビの観られ方が大幅に変わりつつある今、番組のつくり方にもこれまでとは違う潮流が勃興しています。その変化の中で女性ディレクター/プロデューサーは、どのような矜持を持って自分が面白いと思うものを生み出しているのか。その仕事論やテレビ愛を聞く連載です。

 今回は、テレビ東京開局60周年特別企画ドラマスペシャル『生きとし生けるもの』のプロデューサーである、テレビ東京の祖父江里奈さんにお話をお伺いしました。


「私はうまく環境を乗りこなし、生き残ってしまった側の人間」


テレビ東京の祖父江里奈さん。

――『モヤモヤさまぁ〜ず』や『YOUは何しに日本へ?』など人気バラエティ番組でディレクターを務められた後、2018年にドラマ室へ異動されてプロデューサーに。毎年、異動希望を出していたそうですね。

 そうですね。もともとドラマがやりたくてテレビ業界を志したんですが、テレビ東京は1年目からドラマ室にはいけないんです。「まずはバラエティで修行を積みなさい」と配属されて、うっかり10年経ってしまってました。

――なぜドラマにそれほどの思い入れが? 子どもの頃からの憧れだったんでしょうか。

 最初にテレビに憧れたのは、幼少期に観た『アメリカ横断ウルトラクイズ』(日本テレビ系)がきっかけでした。あれが忘れられなくて、「あんなエンターテインメントをつくりたい」って。その後、高校で演劇部に入り、大学でも演劇や映画のサークルに入ったことで、大きく「エンターテインメント」という括りだったところからドラマや映画など物語を紡ぐものに興味が絞られていきましたね。

――学生時代にはご自身で演劇の脚本を書き、舞台にも立っていたそうですが、その方面に進もうとは思わなかったですか?

 そこはやっぱり、最初に憧れたテレビが根底にあったんですよ。そこはブレませんでした。単純に、テレビマンってかっこいいじゃないですか(笑)。『美女か野獣』(フジテレビ系/2003年)や『ラヂオの時間』(1997年)のような、業界モノの作品を観て憧れるミーハーな思いは少なからずありましたね。

――入社前、テレビ局で働く女性にはどんなイメージがありましたか?

 私が就職活動をしていた頃は「テレビ業界=男社会」といわれていたので、そんな中で負けずに頑張っている女の人は強くてかっこいいイメージでした。実際に入ってみたら、これはテレビ東京だからなのかバラエティーだったからなのか、男女の差はあんまり感じませんでした。AD時代は男女関係なくボロ雑巾になるまで働かされたので(笑)。

 ただ、男の人ばかりの環境で「女の子だから」とちょっとかわいがられたという意味で精神的に楽だった部分があったかもしれないです。追い詰められて辞めていくのはむしろ、男の人のほうが多いと思う。もちろんセクハラみたいなこともなくはなかったし、それが嫌で辞めていった子もいるから「全然大丈夫でした」とは言えませんが……。なんというか、私はそういう環境をうまく乗りこなしてこれてしまった、生き延びてしまった側の人間だなと思っています。

「自分の初期衝動は、他の誰かの初期衝動でもある」


テレビ東京の祖父江里奈さん。

――ドラマ好きの間で祖父江さんの名前が知られるきっかけになった『来世ではちゃんとします』(2020年/シーズン1)をはじめ、『38歳バツイチ独身女がマッチングアプリをやってみた結果日記』(同)、『生きるとか死ぬとか父親とか』(2021年)など、女性の生き方をテーマにした作品を多く手がけられていると思います。ただ、過去のインタビューを拝読すると「自分の初期衝動で作れるドラマはひと通り作った気はしている」とおっしゃっていますよね。この感覚は今もありますか?

 2年くらい「私は何をつくればいいのだろう……?」って迷走している感覚はありますね。でも最近「私の初期衝動は多分、ほかの誰かの初期衝動でもあるんだな」とわかってきたんですよ。

――どういうことでしょう。

 ここでいう初期衝動って、そのときの自分が興味があることだったと思います。これまでは、自分の半径5メートルくらいの世界で今の自分自身が興味のあることでドラマをつくらなきゃいけないという変な固定観念があったんです。でもそうじゃないかもしれない、と。

 私自身は経験や年齢を重ねて、そんなに恋に悩むことはなくなってきました。怒りの感情も薄くなってきた。でも私がかつて悩んだり怒ったりしていたのとまったく同じことにぶち当たっている若い世代はいるはずじゃないですか。そういう人たちのためにドラマをつくることはできる。今となっては「何をあんなに悩んでいたんだろう」と思うことでも、それを描かないという選択肢はないなと思ってます。

――なるほど。それは年齢と立場も変わってきたからこそ思うことですよね。2022年からは「ドラマ24」枠のチーフプロデューサーになられて、後輩や若手を育てることを意識する機会は増えたのではないでしょうか。

 後輩の企画はわりと見てますね。たとえば『シガテラ』(2023年)では後輩の吉川(肇)が初めてプロデューサーを務めたので、いろいろアドバイスもしました。テレビ東京のドラマ室は良くも悪くも放任主義なので、仕事の仕方をあんまり教えてもらえないんですよ。別のところで経験を積んだ人がやってくる部署であって、ゼロから叩き上げで育てられるわけではないので。

――冒頭で「テレ東は1年目からドラマ室にはいけない」とおっしゃっていましたね。

 私自身、34歳で異動してきて、かなり戸惑いました。年齢的にも丁稚みたいなことは今さらやらせてもらえなくて、でもプロデューサーの仕事とはなんなのかはわからない。芸能事務所にキャスティング依頼の連絡をするのも初めてなら脚本家との脚本打ちも初めてで、どう立ち振舞ったらいいのか、大事にしなきゃいけないことは何なのか、何もわかってないわけですよ。だから先輩の濱谷(晃一)や阿部(真士)、当時の部長だった浅野(太)などにいろんなことを聞きまくってました。後輩もきっと同じことで悩むに違いないと思ったので、そこは結構気を配るようにしています。

――それは作品に対する考え方と通じる部分がありそうです。自分と同じ道を歩む後続のために、という。

 そうかもしれません。もうちょっと生きやすくなるように、せめて障害を少しどかしておいてあげるくらいはできるんじゃないかな、と思ってますね。

――ただ、悩ましい面もあるのではないでしょうか。自分も手を動かしてやりたいことがあるのに、管理職としてリソースを割かなければいけない。会社員の普遍的な悩みではありますが、テレビ業界の人はクリエイティブなことをしたくて入社しているわけで、そこの折り合いをつけるのはなおのこと難しそうです。

 それはもう本当にその通りです。基本的には自分のドラマのことしかやりたくないですよ(笑)。まさか自分が管理職のような仕事をするなんて思ってなかったし、異動して4年でチーフは速すぎますからね……。でもまぁ仕方ないですよね。会社の人事だし、サラリーマンだし。私はわりと人が好きな性格で、先輩には恩義を感じるし後輩もかわいいし、置かれた場所で咲けてしまうタイプなのでなんとかなってます。「会社員としてクリエイティブをやるからには、会社員としての醍醐味も一応味わっておくか」って気持ちでいます。

――仕事の幅という意味では、深夜枠であるドラマ24だけでなく、GW放送の『生きとし生けるもの』のような特番ドラマを担当されることもあります。廣木隆一監督で脚本が北川悦吏子さん、妻夫木聡さんと渡辺謙さんのW主演で音楽は大友良英さんとビッグネームが並ぶ大作です。こういった、普段とは違う現場を経験することで得られるものはありますか?

「ドラマはいろんな人の手によってつくられていくのだな」としみじみ感じて、謙虚になりますね。『生きとし生けるもの』でいうと、もともと「テレビ東京開局60周年で何か書いてほしい」と北川悦吏子さんにお願いしたところから始まっているんです。北川さんがやってくださることになったから妻夫木さんや渡辺謙さんが出てくださることになったり、廣木監督が引き受けてくださったから大友さんに音楽をやっていただけることになったり。社内でも、60周年という冠に向けてプロモーション部や営業部、編成部などいろんな人たちが総動員で盛り上げてくれています。

 あらためて、プロデューサー1人では何もつくれないんだということを実感しました。頑張っていろんな人にお願いして加わってもらって座組を整えることが最大の仕事なんだな、と。


©テレビ東京

――では逆に、プロデューサーとして最も達成感を覚えるのはどんなときなんでしょう。

 それは間違いなく視聴者の方から感想をいただいたり、「あのドラマ、観てました」って言われたりしたときです。やっぱり“届ける”ことがこの仕事をする上で最大のモチベーションなんですよ。だから「届いていたんだ」とわかった瞬間がいちばんうれしい。どんなに仕上がりが良くても、それだけでは自己満足の世界じゃないですか。作品が世に出て、どう観られるかが重要だと思っています。

「ドラマは女性が好きなものを躊躇なく作れるジャンル」

――この連載でたまにしている質問なのですが、これまでのテレビ業界では、バラエティの著名なプロデューサーは男性が多く、ドラマは女性のプロデューサーが活躍するケースが多かったように思います。両方を経験された立場として、なぜそこに差異が生まれるのだと思いますか?

 ここからはあくまで私の考えですが、多分、日本のバラエティはまだまだ男性的な感性のほうがつくりやすいし、そのほうがウケるんだと思います。言い方がすごく難しいけど、それはおそらく笑いというものが多少の加虐性を含むからなんじゃないかと思っていて。バラエティにはまだ、いじるという笑いの取り方が残っていますよね。それは見る側としては女性も楽しめるんですよ。でも自分の手でつくるとなると一歩躊躇いを感じるんだと思います。

 最近も『家、ついて行ってイイですか?』の収録にお邪魔したときに、VTRを観ながら感じました。素人さんの家に行って、すごく変わっていて面白い方だったんですけど、「面白がっていいのかな」って気持ちが私の中に常にあって。それはその人の人生をいじっているわけで、自分がディレクターだったら「失礼なんじゃないか」と心配になっちゃうと思う。そこで失礼だとわかりながらもガンガン攻めてツッコんでいける感性は、やっぱり男性のほうが強いんじゃないでしょうか。

――非常に納得がいきます。

 一方で、ドラマは女性が好きなものをドーンとつくれるんです。もちろん男性向け・女性向けと区切るのが難しい作品もありますけど、ラブコメだったりBLだったり、あきらかに女性向けにつくられている作品は多い。だから女性のつくり手が活躍しやすいんじゃないでしょうか。そこで男性が「女性はこういうのが好きだから、こういう企画が当たるでしょ」みたいに雑な認識で何か言ってきても「それは違います」と言えるんですよね。ドラマの世界で、内容面に関して男性の意見がゴリゴリ通ることはあんまりないように感じます。

――そんな中にあって、今テレビのつくり手として注目している女性はいますか?

 俄然、うちの会社の本間(かなみ)ですね。本間はすごいですよ。いろいろなことに対してずっと怒ってるんです。「『折り合いをつける』って言葉、知ってる?」って聞きたくなるぐらい、あらゆることに折り合いをつける気がない。でもそれは本当にクリエイティブの原動力として重要だと思います。私自身はすぐ懐柔されちゃったり懐柔しようとしたりしてしまうんですけど、本間はずっと尖っていてずっと怒っていてとても不器用で、それが作品づくりに生きているんですよね。

――たしかに、この連載でインタビューした際に「負の感情がエネルギーになることが多い」とおっしゃっていました。それでいうなら、今の祖父江さんはどんな感情が原動力なんでしょう?

 かつては私も怒りが原動力だったけれど、今は共感だと思います。自分の中にあるものを表現したときに、「私もそうだ」と思ってくれる人を見つけたい。「こんなことで悩んでるんですけど、これって私だけじゃないよね?」というメッセージを込めているつもりですね。

 それで解決しなくていいんですよ。共有できればいい。さっき話したような、過去の自分の思いや経験から、今同じようなことに直面している若い誰かのために作品をつくりたいというのも同じことですね。やっぱり年齢やキャリアと共に考え方は変わっていくんだな、と実感しています。

祖父江里奈

岐阜県出身。2008年テレビ東京入社。ドラマプロデューサー。『来世ではちゃんとします』シリーズ、『生きるとか死ぬとか父親とか』など担当作多数。蟹とチョコレートが大好き。

文=斎藤 岬
撮影=平松市聖

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