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EC時代にスクロールとベルーナだけ好調 生き残るカタログ通販、死ぬカタログ通販

ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2023年8月7日 21時55分

業界トップの収益力を誇るスクロール

今回は、カタログ通販の現状と将来のシナリオ、そして、私からの提言を行いたい。今回、カタログ通販を選んだのは、優勝劣敗が激しい市場だからだ。例えば、私が2016年から約6年、戦略コンサル支援と社外取締役をやっていたスクロールの2023年3月期決算は、売上が810億円で営業利益が61億円、売上高営業利益率は7.6%ある。ベルーナの売上は圧倒的で23年3月期で2123億円もあるが営業利益は112億円で、売上高営業利益率は5.3%とスクロールと比べ見劣りする。次に千趣会だ。上場カタログ通販大手として有名企業であるが、こちらはかなり深刻で22年12月期の売上は589億円で、営業損失が▲81億円もある。この3社が三大大手カタログ通販だが、私は彼らと深く絡んでいるため、また、上場企業ということもあり、あくまでも一般論として総括することをお許し頂きたい。

Liudmila Chernetska/istock
Liudmila Chernetska/istock

カタログ通販の歴史と市場環境の急変

 カタログ通販のビジネスを理解するには、その歴史と課題を明らかにする必要がある。カタログ通販というのは、まだECが一般化する前に、個配といって自宅に商品を運んでくれる、または、誰かの家にまとめて配達して、みなで仕訳する「共同配送」というのが、一般的だった。当時は、リアル店舗で買うしかオプションがなかった一方、店数そのものは多くなかったので、自宅まで運んでくれるという利便性をカタログ通販企業が幅広くカバレッジするかたちで提供していたわけだ。

 例えば、カタログ通販企業といえばその代表的な企業にニッセンがある。ニッセンはアドバンテッジ パートナーズの傘下に入り再建を目指すも、現在はセブン&アイ・ホールディングスの傘下に入っている。このニッセン、昔の消費者が持つイメージは「安かろう、品質はまあまあ」というポジショニングだった。

 また、「セシール」といえば下着であった。当時の女性は人前で下着を買うなど、大和撫子として恥ずかしく黒いビニールにつつまれた下着を「セシールさん」に頼むというのが、ポジショニングだったのである。さらに、ランドセルのムトウ。これが、これからのEC事業にSPAでの算入を試み、名前を「スクロール」に変える。私は、当時の堀田守会長を心から尊敬しているのだが、このCIだけは失敗だったと思っている。上記の通り三大カタログ通販でもっとも収益力が高い企業は「スクロール」だということをいま、一体何人の人が知っているのだろうかということだ。

  いずれにせよ、スクロールは生協市場で事業を展開。化粧品会社などを次々と買収し、また、60歳以上のシニア市場に最も早く進出したのも同社である。これらの戦略はいうまでもなく、会長に頼まれ私が創ったものだが、当時の株価をみて頂ければ分かるが3倍近く上がっている。

 次に「千趣会」である。この会社は大阪の名門企業で、神戸大卒や同志社、関西学院大卒など高学歴の人間が集う大阪の名門企業である。同社は、いわゆる総合通販で、子供服がもっとも強く存在感をだしており、家具、雑貨まで幅広くカタログ通販を行ってきた。今、三大カタログ通販企業で、最もダメージを受けているのは同社だ。

RFM分析が通用しなくなった理由
とスクロールの成功要因

業界トップの収益力を誇るスクロール
業界トップの収益力を誇るスクロール

 カタログ通販企業には、独特のKPIがある。それは、RFMという顧客管理手法だ。上記の通り、使用用途と会社名がうまくわかれているため、祖母から母へ、そして娘へという形でカタログ通販のビジネスは繋がってくる。したがって、「顧客開拓」という概念が存在しないのだ。むしろ、自動的に入ってくる顧客の誰にカタログをおくれば、最も費用(紙代)とパフォーマンス(購買)がよいのかという管理手法を軸にしているわけだ。

 ちなみに、RFMというのは、Recency, Frequency, Monetaryの略で、「最も最近に買った人」、「もっとも購買頻度が高い人」「もっともお金を使った人」のレスポンスレート、つまり、カタログを送って購買してくれる確率が高いか、を算出するわけだ。

 しかし、このRFMには決定的な欠陥がある。これは、顧客をどんどん減少させてゆくという点である。

 今、顧客は有象無象のEC通販に囲まれ、能動的に顧客開拓をしていかないといけない。いまだにRFM分析をしていたら、どんどん顧客を絞り込み、最後は固定費を割って、企業は死んでゆくことになる。私は、ダメコンサルがRFMを提唱し、そのジェットコースターのような売上の減少を止める術もなく、効率は上がるが事業として存続しないほど売上が小さくなっていくことを幾度も経験した。

 今でも、カタログ通販は「RFM」で顧客選別をしている、というべきか、せざるをえない。それほど「カタログ」にはコストがかかっており、これをばらまけば逆にコスト倒れに陥ってゆく。

 したがって、カタログ通販に絶対必要なのはマーケティングであり、Acquisition(顧客の獲得)という概念だ。ちなみに、スクロール時代に、F1層から60歳アッパーのシニアをブレークイーブンを超えるだけの投資をおこない、大赤字を計上したことがある。これは、Amazonが創業時赤字にもかかわらず、M&Aを次々と繰り返しAcquisitionを行っていたのと同じ戦略だ。

 スクロールの株価は我々の戦略通り大きく上がり、シニアマーケット向けの事業は今ではドル箱になっている。

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売上1位ベルーナの独自性と苦境に立つ千趣会

売上最大手のベルーナ
売上最大手のベルーナ

 次にベルーナだ。この企業の戦略は非常におもしろい。「通販=安もの」という当時の常識の中で、百貨店商材(現在、50代〜60代が中心購買層)向けに、通販企業としては比較的高価な価格をつけ、また、カタログも1つの商品で1ページをほとんど使っていた。通販企業の主要KPIであるページ効率(1ページがどのぐらいの売上を生み出したか)を無視し、イメージを前面に押し出す贅沢な仕様となっている。このあたりの、バランスが非常に上手だなと感じるのと同時に、おそらく、相当腕の立つマーケターがいて、Acquisitionをうまくやっているのだろうと思う。ただ、利益率がスクロールよりも3割低く収益性ではまだ伸びしろがある。この価格をどれだけ維持できるかが問題だろう。

  そして、千趣会だ。この企業は在庫過多で一時はREVIC という半官半民のファンドの傘下にはいり再建を行った。本社売却がキャッシュフローに大きく寄与し、オペレーションも驚くほど綺麗になり奇跡のV次回復を行った。しかし、喜びも束の間、栄養ドリンクがきれたごとく、「あっという間にもとにもどった」ようだ。ぜひ、IR資料をよくみてもらいたい。同社はブライダル事業を投資ファンドのCLSAに売却した。

 したがって、22年12月期のPLは千趣会のビジネスそのものである。PLを見ると、まず販管費が361億円。これに対して、BS上のキャッシュと売掛金を合わせると約110億円。在庫が68億円強で、通販の場合約2倍が売上となるため137億円となり、キャッシュ・売掛金と合算すると247億円となり固定費をまかなえないことになる。キャッシュ、売掛金のところに未収入金約51億円を全額入れたとしても161億円で、総額では298億円、やはり販管費をまかえない。

 というのは、一般的なアパレルの在庫回転率は年間2.5回転なのでキャッシュフローを読み間違えると、かなり危険になる。同社は、赤字の原因をシステムトラブルと述べているが、赤字は恒常的に続いておりワンタイムではないことも分かる。さらに、気になるのが外部出店費用が増加していることだ。これは、自社で業務ができないためSPAから苦肉の策で売上を優先する場合に発生する。上記は、あくまでもざっと見た初期仮説であることをお断りしたい。同社は、金融機関との間に総額100億円のコミットメントライン契約を締結して運転資金は十分に確保しており、人事組織も手をつけるということなので、きっとこの難局を乗り切ってくれるだろうと願うばかりだ。

 知っている人は知っていると思うが、私の第2作、ベストセラーになった「生き残るアパレル死ぬアパレル」の冒頭のメッセージは同社の取締役(当時)に書いていただいたものだ。それだけに、私は千趣会に対して熱い思い入れがある。

どう生き残るか?カタログ通販の将来戦略

ECの時代、カタログ通販はどう生き残るか?(recep-bg/istock)
ECの時代、カタログ通販はどう生き残るか?(recep-bg/istock)

 これまでの考察をまとめれば、カタログ通販の業界ではスクロールがもっともよいポジショニングにあるということになる。これは、ひとえに堀田会長と当時の役員、そして、私のタッグが非常にうまく機能したからだ。同社の高収益の秘密、そして、今後についてのコメントは控えさせていただきたい。同社から離れて6年以上経つとはいえ、いまだに同社の内状はよく分かっているからだ。

 しかし、スクロール含め世の中は、徐々にデジタルシフトしており、いわゆる「カタログビジネス」の生き残りは難しい。ここで、ファッションカタログ通販企業のDoCLASSE(カタログ名も同名) について述べたい。 DoCLASSEの場合、社長の林恵子氏がランズエンドというカジュアルウェア通販の米国最大手の日本支社長、ビクトリアズシークレットなどを経験し、通販のイロハをよく知っているスーパーマーケターなのだ。そして、私が再三、述べているAcquisitionについては、リアル店舗を出店することで認知度を高め継続購入に繋げている。CPA(顧客獲得コスト)といえば、すぐに「インフルエンサー」 x SNS」という人間ほど、何も分かっていないマーケターなのだ。このAcquisitionこそ、カタログ通販の最大の課題であり、判を押したように「デジタルシフト」などと言っている企業の将来は暗い。

 私は通販業界においていくどもEC化にチャレンジしたが、二つの理由で失敗してきた。一つは、ECの世界はAmazon、楽天、ZOZOTOWNなど競合がひしめき合うレッドオーシャンだ。そこに、なんの差別化武装もせずに入り込めば、即死するにきまっているのだ。また、いままでやってきたRFMという、顧客を絞り込むデッド(反応しない顧客)を増やす手法に体が慣れた組織は、在庫管理から顧客管理までの一連のバリューチェーンをいかに設計するかという未来像が見えていない。それは、一見盤石な経営に見えるスクロールも同じだ。

 一方、デジタルシフトを急ぎ、レッドオーシャンにいきなり入り込む企業も少なくない。通販市場はまだ数年は存在しえるもので、パッシブなカタログ好きの顧客も一定量存在する。その市場規模は3000億円とも7000億円ともいわれ、今述べた3社を合算してもなお余るほどだ。こうした科学的考察をきちんと行って、段階的なトランジションを行うことがカタログ通販の生き残り施策と言える。

 最後に、コンサルタントに毎年数千万円を払い続けたスクロールが収益力ではトップで、コンサルフィーを人件費と混同し「高すぎる」と自社だけに固執している企業は総じて失敗していることをよく考えていただきたい。また、コンサルを高い金で雇うなら、会社のブランドで選ぶのでなく実力で選ぶべきだ。どことはいわないが、間違ったコンサルの食い物になっている会社を何社もみてきた。カタログ通販は、この変化の大きい時代、自前主義から抜け出し外部からの知を利用すべきである。それは、上記の数字をみてもハッキリとした証明になっている。

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プロフィール

河合 拓(経営コンサルタント)

株式会社FRI & Company ltd..代表(2023年8月1日に社名を河合拓コンサルティング株式会社より変更)Arthur D Little, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナーなど、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。最近ではAI企業、金管楽器メーカー、中国企業などのスタートアップ企業のIPO支援などアパレル産業以外にクライアントは広がっている。座右の銘は生涯現役。現在は慈悲で大学院で経営学の、独学で英語の学び直しを行っている。
著作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送サテライトTV」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議にたびたび出席し産業政策を提出。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言
筆者へのコンタクト
https://takukawai.com/contact/index.html

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