ユニクロの脱「一括大量生産」が、さらなる勝ち組に向かわせるワケ
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2024年2月5日 20時59分
ファーストリテイリングの2024年8月期第1四半期決算は、グローバルブランド事業以外はすべて増収増益となり予想通り、圧倒的な強さを見せつけた。定量的な部分は同社の決算報告動画で極めて分かりやすく説明されているので、私は同社の「圧倒的な強さ」の背景にあるメカニズムについて分析してみたい。
なぜ、ファーストリテイリングだけが
一人勝ちができるのか
ファーストリテイリングの、特に「ユニクロ事業」についていつも感じているのは、同社の「他の競合を寄せ付けないほどの圧倒的な競争力」である。その中でも、同社の競争力の源は、素人が見てもその違いがわかるほどの圧倒的なコスパ(コスト対パフォーマンス)である。
ユニクロは、もはや日本人の人民服といってもよいほど、「服の価格基準値」をつくってしまった。私もセレクトショップでイタリア製の服を好んで買っていたが、最近ではユニクロのデザインがよくなってきたということもあり、私のクローゼットの中のユニクロ比率は増える一方である。
私は前号で、「女性は服が大好きだ」と述べたが、極めて感覚的な意見を言えば、おそらく日本人の80%から90%ぐらいは、現在、あまりファッション性の高い服は求めていないのではないかと感じている。もともと奇抜なファッションは、若者を中心にして広がっていくのだが、いまその役割を担うべきZ世代が経済的な理由や将来不安を抱えるなか、高額な衣料品を買うことは無駄だと感じ、貯金や投資などに金を回す。
見方を変えれば、成熟経済下では人はファッションモデルのような格好をせず、慎ましやかに自分を飾ることなく、かといって、耐久性のしっかりした機能素材を使うわけだ。
やや誘導尋問的かもしれないが、このように考えると、今の日本の、そして、先進国の大多数の国民にとって「ユニクロ」は、時代感覚がピッタリなのである。もちろん、いつの時代にも奇抜なファッションに身をつつんだり、高額衣料品に手を出す殿上人のような人もいるが、割合は年々減ってきているように思う。特に日本人は他人とあまりに違うファッションをして、目立つのを嫌うためざっと周りを見渡して「平均的な服=ユニクロ」となって、「ユニクロで買っておけば間違いない」となっているわけだ。
圧倒的コスパを実現する「原価の高さ」
だから値引きせず売れて儲かる
忘れてはいけないのは、ユニクロの持つ「圧倒的なコスパ」である。今、お買い物はインターネットを使ってボーダーレスである。海外のウェブサイトに英語でアクセスすれば、直接日本にまで配送してくれるブランドも多くなってきた。
そうなると、百貨店を中心に服作りをおこなってきた「中価格帯」と呼ばれる日本のアパレルは極めて中途半端な立ち位置になる。ユニクロは、商社を使わず、例えばヒートテックのような定番商品はVMI(Vendor Management Inventory)といって、ユニクロが発注書を切らなくても規定在庫水準点を下回れば工場が自答的に補充する仕組みを採用している。30年も変わらず、何階層にも及ぶサプライチェーンで、しかも、ほとんど意味をなしていないデジタル投資をしているようなサプライチェーンから生まれるプロダクトでは相手にならないほどコスト競争力が違ってくる。
さらに、これは、前号、前々号で明かしたことだが、損益分岐点を下げなくてもプロパー消化率をあげればコストが倍になったとしても、高い粗利率を実現することができるのだ。日本の「中価格帯アパレル」は、商品はプロパー価格では売れず、セールで売って利益がでることを前提に値付けをしている。そのため、ユニクロのようにプロパー消化率が80%を超え(ZARAも80%を超えているといわれている。今、勝ち組のプロパー消化率は80%だ)れば、消費者から見た「コスパ」は何倍も変わってくる。
例えば、ユニクロの梳毛イタリアン・メリノウールの定価は1500円以下だ。これが、日本のSCで売られている商品になると、8-9000円となりもはやその差は歴然としている。さらに最近の若者はアクリルとウールの違いさえわからないので、アクリルという超低価格繊維をつかって5000円でSC売られている商品と、ユニクロのウール100%の商品を比較するのだ。
この圧倒的コスパと、成熟経済下における「装い、服のポジション」が、ユニクロの「ライフウエア」とマッチしているのである。だから、日本の中価格帯アパレルが、ユニクロからお客を奪われるのを本気で防ごうと思えば、ユニクロよりもさらに流通を短縮化した「D2C戦略」しかない。商社を外し、工場ダイレクト出荷で、プロパー消化率80%を前提に原価率を50%近くまで引き上げるのである。ここまでしなければ勝負にならない。だが、この戦略は手順を間違えると一気に会社を破綻させるほどの劇薬であるため、なかなか実行に移すことはできないだろう。これが、ユニクロだけが一人プレイができる構造的背景だ。
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初期発注70%、追加発注30%の分割発注の狙い
ファーストリテイリングの岡崎健CFOは決算説明動画で、「Stop & Go」という言葉を使い、これまでの工場起点の大量発注、大量販売から、初期発注70%、追加発注30%の分割発注をSKUレベルまで浸透させると述べていた。MBAの教科書を読めば、いわゆるコストリーダーシップ・ポジションは、大量生産をするから規模の経済が効いて価格が安くなると説くが、アパレルビジネスは全く違う。需要にそぐわず大量生産してしまえば、不良在庫の山とな離、期末の評価損計上で原価が上がるか特損で落とすことになる。ここが、一般消費財のなかでアパレルが難しいところであり、多くの人が失敗するところだ。
ユニクロはかつて、「豊富な資金力」とライトオフ期間の長い「ベーシック衣料」の掛け合わせで大量生産を行って価格を安くしてきた。しかし、ここまで世界中で販売するとなると、もはや四季という概念さえなくなってくるし、24年8月期第1四半期では、「常夏の東南アジアの国における秋対応で悩ましい部分がある」といった趣旨のコメントも聞かれた。
このように、極めて複雑化したMDを、昔のように数十社の協力工場で生産するのは現実的ではないということなのだろう。また、あるリージョンでこの商品がもっと欲しいと言えば、こちらでは在庫が残るから、といったこともあちこちで起きているに違いない。
そこで、彼らは、「70:30」と「Stop and Go」、つまり、MDを機動的に止めたり追加したりして欠品と評価損対象の余剰在庫を極小化することを進めており、それがうまく行き始めた、ということのようだ。同社のMDは、過去、しまむらやZARAと幾度も比較され、やれ回転率が悪い、とお決まりの文句で素人評論家に酷評されていたが、彼らは研究開発型生産とトレンド対応型生産の違いさえ分かっていない。
ユニクロがやろうとしているのは、あくまでも十二分な研究開発期間を保ったまま、無駄な時間を削り、新たに浮上してきた機会損失を埋めようということなのである。岡崎CFOは、まだまだSKUレベルでは合格点ではないと述べていたが、中国、米国など、過去なかなか売上を伸ばせなかったエリアで2ケタ増を達成していること。また、この円安の中で、(説明会では為替リスクのスポット対応を、そのStop and goでどのように切り抜けたのか曖昧だったが)コスト増を切り抜けたようだ。3兆円企業も目前に迫ってきた同社が、「さらにSKU単位で管理」とはなんとも恐ろしい話だ。
仮に、ユニクロのような巨大戦艦がZARAのようなスピードを持ち始めたら、それこそ恐れるものはないだろう。
さて、ユニクロの強さの秘密をまとめよう
- ユニクロのブランドポジションが停滞した先進国世界経済と急成長している途上国経済のニーズに合っていること。
- すべてにおいて合理的なサプライチェーンを組み立て、国際価格をつけていること
- MDに柔軟性をもたせ、巨大組織をエリア制で輪切りにし柔軟性をもたせたこと
の3つである。そして、特筆すべきは、これら3つが有機的にすべて連携し、それらがそれぞれを押し上げる構造になっているということだ。今期売上3兆円を超える見通しで、いよいよ世界一の売上が迫ってきた。
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プロフィール
株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。
著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「
筆者へのコンタクト
https://takukawai.com/contact/
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