孤独の中で生きてきた高齢の同性愛者が初めて経験する出会いと別れのドキュメント「94歳のゲイ」 吉川元基監督に聞く
映画.com / 2024年4月19日 10時0分
吉川監督にとっても、親以上に年の離れた長谷さんはどのような存在だったのだろうか。
「私や取材班に対してもいつも丁寧で、非常に心優しい方です。長年文学を通じて自分自身を表現されているので、自分の言葉を非常に多く持っている方。しかし、同性愛者同士の交流については、自分からは何もアクションを起こせなかったと。そういった孤独、人とつながりたい欲望をすべて文学に昇華させていたのだと思います。50代、60代の頃の長谷さんと出会っていたら、今とは全く違う人だったのかもしれないな、と思ったりもします」
今までドキュメンタリーとして語られることが少なかった、高齢者のLGBTQを描く映画としての見せ方、構成で気を配ったこと、受け取ってほしいメッセージをこう語る。
「高齢者のLGBTQを扱うということで、深刻で暗くなりすぎないように心がけました。長谷さんという人物が非常に明るく、チャーミングなので、なによりもそこを自然な形で出したいなと思いました。そして、取材した『薔薇族』の伊藤文学さん、梅田さん、ボーンさんも優しく明るい方々なので、それぞれの人物像をきちんと出そうと心がけました。
今は、世界のいろんな街でパレードが行われたり、LGBTQを尊重する機運が高まっています。個人の性的指向を公にする人々も増えてきましたが、社会が急に変わったわけではなく、長谷さんのように差別や偏見にさらされながらも、耐え続けたり、時に伊藤文学さんのように、立ち向かった人たちがいて、今の社会が作り上げられたことを知っていただきたいです」
長谷さんの生きざま、吉川監督の眼差しを通し、暗闇の中でもがいていたとしても、光が見えてくる時が必ずある……観る者にそんな希望も与えてくれる傑作ドキュメンタリーだ。
映画は4月20日から、ポレポレ東中野ほか全国順次公開。公開初日に合わせ、長谷さんは人生で初めて東京を訪れ、舞台挨拶に登壇する予定だ。また、劇場販売用パンフレットには、長谷さんの詩が掲載されている。
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