物価の状況を示す指数「CPI」・「PPI」。何が違うの?
ファイナンシャルフィールド / 2022年9月26日 11時30分
今回からは、ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)分析を行う上で、よく出てくる経済指標などについてお伝えしていきたいと思います。いわば、投資におけるファンダメンタルズ上の登場人物の話です。 投資の実践では、この登場人物がどのように振る舞うかでトレンドが変化します。登場人物が実際の相場に及ぼす影響について、個別にポイントを押さえながら解説していきます。 ※この記事は2022年7月29日時点の情報を基に執筆しています。
消費者物価指数(CPI)とは
インフレが取りざたされている今のような投資環境では、やはり「物価」に関する指標の説明から始めた方がいいように思うので、代表的な物価指数を取り上げていきます。
物価に関する代表的な指数といえば、まずは消費者物価指数(CPI:Consumer Price Index)が挙げられるでしょう。
Consumerは消費者と訳されますが、言葉の理解としては最終消費者における物価指数という意味です。簡単にいうと、私たち消費者がモノやサービスを購入する際に支払うお金(物価)が、どのように推移しているかを示したものが消費者物価指数(以下、CPI)です。
投資初心者においても米国株投資を行っている人は多い印象があるので、今回は登場人物が出てくる舞台をアメリカと前提します。
アメリカのCPIは非常に有名な経済指標であるため、証券会社などで準備している経済指標カレンダーなどでは重要度が高く、3つ星や5つ星でその重要性が示されることが多いようです。個人的には「インベスティング・ドットコム」というサイトの経済指標カレンダーで確認しています。
2022年7月に発表された同年6月のCPIは、前年同月比9.1%と、5月の8.6%を大きく上回り、コンセンサス予想の8.8%を超える水準が示されました。このような結果を見て直感的に感じることは、おそらく「物価が大きく上昇している」ということでしょう。
現在の金融引き締め政策の目的は物価の上昇を抑えることにあるので、金利を引き上げてもなかなか物価の上昇が収まっていないという受け止め方は正しいといえます。また、CPIだけでなく経済指標が発表される際、投資初心者のうちは前回と今回の実績に目が行きやすいと思います。
今回の場合、7月に発表された6月のCPIが5月の数値よりも高かったので、物価の上昇がなかなか止まらないのだろうと判断しがちです。これはこれで間違いではありませんが、実をいうと株式市場が反応するのはそこではなく、むしろ、コンセンサス予想と今回の結果との比較です。
コンセンサス予想はアナリストたちの事前予測値で、マーケットではすでにこの値を織り込みながら相場と向き合っています。そのため、コンセンサス予想よりも結果が高く出るか、低く出るかをマーケットはより重視します。そして、現在のような局面ではCPIがコンセンサス予想よりも高く出れば株価は下落、低く出れば株価は上昇と判断されやすくなります。
これは単純に、インフレのピークが過ぎて景気が悪くなることで、連邦準備制度理事会(FRB)が再び金融緩和政策に転じる時期が早まるとマーケットが捉えるからです(この理屈については過去の記事で説明していますので、興味があればそちらをご覧いただければと思います)。
一方で懸念点もあり、すでにアメリカ経済が景気後退局面に入っているとマーケットが捉えている場合、インフレのピークアウトは本格的な景気後退の予兆と判断されるかもしれません。このようなケースでは、逆に株式が売られる可能性はあります。
今のところは前者の可能性が高いと思われますが、その判断にはCPIの項目のうち、どの分野の物価上昇が目立っているかを確認する必要があります。
2022年6月のCPIでは原油や食料品の価格が高く、他の経済指標も併せて見ると消費の勢いが鈍っている反面、雇用統計において失業率が低水準をキープしているため、大幅かつ本格的な景気後退にまでは至っていないとマーケットは判断しているようです。
投資初心者のうちは、ここまで多角的に中身を理解するのは難しいかもしれませんが、ニュースなどでCPIのような注目度の高い経済指標が出てきたら、どのような解説がされているか確認してみてください。
生産者物価指数(PPI)とは
物価に関する指標のうち、CPIの次に重要な指数は生産者物価指数(PPI:Producer Price Index)です。
ここでProducerは生産者と訳されますが、生産者に関連する物価指数という意味です。分かりやすくいうと、企業がモノを作るために仕入れる際の値段の推移を示しているのが生産者物価指数(以下、PPI)です。別の言い方をすると卸売価格の推移となり、日本では「卸売物価指数」という名前で発表されます。
前述のCPIが経済の川下である最終消費者目線の物価指数であるのに対し、PPIは経済の川上である企業目線の物価指数と捉えると、より理解が深まるように思います。
PPIについてもアメリカの状況を確認しますが、2022年7月に発表された同年6月のPPIは、前年同月比11.3%で、5月の10.8%を大きく上回りましたが、コンセンサス予想では10.7%と前回の結果よりも低い値でした。
マーケットはPPIの結果をどのように受け止めるのかというと、CPI同様、「物価の上昇が収まっていない」と判断します。ここでのポイントは、コンセンサス予想が前回の結果よりも低くなっていたにもかかわらず、今回の結果が大幅に上回っていたことで、その衝撃は大きいといえます。これを投資の世界では「サプライズ」といいます。
2022年6月のCPIと同じく衝撃が大きかったので、株式市場ではサプライズと受け止められ、アメリカを代表する株価指数であるS&P500は寄り付き(マーケットのオープン時)安値で取引が開始されました。
CPIとPPI、どちらが先に動くのか
前述したとおり、CPIは消費者目線の物価指数、PPIは企業目線の物価指数で、いずれも相場の循環(サイクル)の中で投資判断につなげていきます(以前の記事で金融相場と業績相場という相場循環について言及していますので、関心がある場合はそちらをご確認ください)。
株式投資では相場循環に沿って投資を行うことになりますが、相場循環の中にCPIやPPIの状況も含まれます。例えば、金融相場においては景気が回復し、拡大していく過程で物価が上昇していきますが、CPIとPPIのうち、どちらが先に上昇していくかというとPPIが先です。
これは、企業物価に大きく影響を与える燃料価格や原材料価格が真っ先に上がっていくからです。そしてしばらくすると、CPIが上昇していきます。CPIは最終消費者が支払う物価であるため、CPIが上昇することは価格転嫁が進んでいることを意味します。
この点は非常に重要で、物価上昇の経路が分かれば、反対に物価下落の経路も分かります。つまり、物価の下落局面では通常、PPIが下がり、その後でCPIが下がっていくという経路をたどります。そのため、CPIやPPIを見る際は前年同月比でなく、単純に前月比で比較し、目先の物価動向の勢いを探ります。
投資初心者にとっては、そこまで確認するのは細か過ぎるように思うので詳しくは割愛しますが、物価指数にはこのような性質があるということは理解しておきましょう。
まとめ
経済指標ひとつを取っても、探れば探るほど奥が深いことが分かるかと思いますが、投資初心者のうちは経済指標の種類や基本的な意味、相場循環においてそのデータがマーケットにどのように受け止められるかなど、まずは基礎的な知識を知っておく方が投資を行う上では重要でしょう。
次回は、国内でも話題となることが多い物価の上昇について、円安も含めて簡単に見ていきたいと思います。
出典
インベスティング・ドットコム
執筆者:重定賢治
ファイナンシャル・プランナー(CFP)
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